設計と監理〜建築設計事務所の役割

 設計施工の一貫請負
    越中(富山)の棟梁・清水喜助が、江戸で始めた清水組が現在の清水建設となったように、
    棟梁の名のついた建設会社が数多くあります。当時の棟梁は建設現場の最高責任者で
    あり、かつ建築の設計者であり、職人の監督でもありました。棟梁を中心とした職人集団が、
    設計から建築工事までを一貫で行っていたのです。現在も棟梁が率いた組織を起源とする
    建設会社には、設計を担当する建築士と建築工事を担当する施工技術者とがともに在籍し、
    設計から施工までを一貫で請け負う伝統的な業務形態を守っています。また戸建住宅の分
    野で大きなシェアをもつ住宅メーカーも、設計・施工を一貫して行う体制をとっています

 設計施工の問題
    このような歴史的背景もあって、我が国では設計と施工を同じ会社が行うことが多分にあり
    ますが、この設計施工一貫の業務形態は、世界的には珍しいものです。設計者と施工者が
    同じだと、第三者的な立場で不具合や施工ミスをチェックすることができないと考えられるか
    らです。設計する会社と施工する会社を別々にする業務形態は、日本でも公共建築の工事
    に取り入れられています。市民の税金で建てる建築に間違いや事故があってはならないの
    で、施工業者は第三者的な立場の別の会社(設計事務所)や発注者(自治体)から工事の内
    容を監理(チェック)されることになります。          

 耐震強度偽装事件と設計施  
    では設計施工一貫で建てた建築には、不具合や施工ミスがあるのか? 建設会社や住宅
  メーカーには資格を持つ建築士がおり、監理(チェック)を専門とする社員がいるので信用で
  きなくはありませんが、第三者的な独立した立場でのチェックがきちんと出来るか、となると
  疑問の余地が残ります。また施工業者が出資して設計事務所を作ったり、特定の設計事務
  所と密接に結びついたりして、あたかも別会社が監理しているように装うケースも珍しくあり
  ません。先般の耐震強度偽装は、施工業者傘下の設計事務所がおこした事件であり、施工
  業者と設計者の癒着が不正の温床であることが指摘されています。

 設計施工の問題点・戸建住宅の場合  
    戸建住宅の場合、第三者によるチェックがさらに困難になります。というのは、多くの建築主
    が工務店あるいは住宅メーカーに設計施工一貫で請け負わせるのがコストダウンにつなが
    る、と考えているからです。また施工業者の方も、昔ながらの業務形態そのままに、棟梁
    (現在では工務店の社長)が設計と施工を一貫で請け負うものだという認識が一般的です。
    戸建住宅をあつかう施工業者には、資格のある建築士がいないことがあるので、役所の確
    認申請に必要な図面だけを下請けの設計事務所に作成させ、その名義を借りて第三者が
    監理(チェック)していると見せかけることが日常的に行われていました。最終的に帳尻が合
    えばよいと考える施工業者は、請負金額から逆算して採算のとれる見積書を作成します。
    見積項目のほとんどが「一式」で計上された、仕様や単価がはっきりしない不明瞭なもので
    す。またごく普通の住宅なら、詳細な図面がなくても、それなりに完成させることもできます。
    大手メーカーによる住宅でも、最小限の図面と大雑把な見積書での工事が見受けられます。
    建築工事のもとになる詳しい図面がなく、工事価格の根拠がはっきりしないのでは、悪意が
    なくても施工ミスが起きやすいし、手抜き工事をする悪質な業者がいてもチェック機能が働き
    ません。建築主の希望とは違う家になってしまったという例も多く、コストダウンどころか多くの
    トラブルを抱えるケースもあります

 設計事務所の役割  
    設計事務所の最も重要な役割は、隅々まで検討を加えた設計図を作成することにあります。
    施工業者から独立した立場でしっかりと設計監理をし、建物を完成させるためには、詳細な
    図面が必要だからです。また施工業者の見積書とは別に、設計図面を元に積み上げた数量
    から積算を行い、適正なコストを把握しておかなければ、図面と異なる施工をされても指摘で
    きません。詳細な図面を正確に描き、その図面をもとに確かなコストを算出して工事価格の根
    拠を明らかにしたうえで、設計事務所が第三者の立場で施工者を監理する。設計事務所のも
    つ能力を最大限に利用していただくことが、建築の品質を確保し、建築主・発注者の利益を守
    ることにつながります。