大鳥峡の現状

〜養豚場によって破壊されつつある自然環境〜

 

Reported by GEM 6/March/2000 


目次

はじめに

1. 大隅町と大鳥峡の概要

2. 畜産基地・養豚場の建設

3. 町の対応

4. 推測される理由1

5. 推測される理由2

おわりに


はじめに

破壊された環境を元に戻すことは、困難を極めます。しかし完全に破壊されきってはいない場所も、たくさんあるのです。鹿児島県大隅町にある大鳥峡は、かつては美しい渓谷でした。ところが現在の大鳥峡には異臭・悪臭がただよい、水の透明さは失われ、魚が住めなくなり、ハーブなどが徐々に少なくなっています。明らかに壊れつつ、失われつつある自然環境がここにはありました。

しかし、まだ手遅れではありません。断固とした対策を町ぐるみで行なえば、大鳥峡に蛍が舞う日が訪れるのです。少しでも多くの人々が、大鳥峡を訪れ、そのすばらしい自然の造形を楽しめる日が来ることを願って、このレポートを書くのです。


1. 大隅町と大鳥峡の概要

鹿児島県大隈半島は、広大な杉(8,700ha)林と田畑(3,319ha)が広がるのどかな農村地帯です。大隈半島の中ほどにある大隈町は、人口14,456人(1998年3月現在)、岩川町、月野村、恒吉村が合併してできた町です。町のほぼ中央部には、弥五郎どんという高さ15メートルの銅像が立っています。

ここ大隈町には、美しい渓谷があることで知られています。町の観光マップにも大きく紹介されている、それが大鳥峡なのです。

ootori2.jpg (185027 バイト) ootori14.jpg (194365 バイト)  bridge.jpg (226672 バイト) ootori12.jpg (211379 バイト)

溶岩が形作った奇妙なくぼみをもった岩の合間を縫って清流が走ります。野鳥やタヌキ、イノシシが餌を求めて水辺に集まり、せりやクレソンなどのハーブが茂みをなしています。

ootori30.jpg (162452 バイト) ootori31.jpg (145021 バイト) kureson.jpg (249503 バイト)

大鳥峡はその昔、吉田大明一圓という延暦寺の僧侶が、一人山にこもって修行をした場所でもありました。吉田大明一圓は、月野岩屋観音に長谷式十一面観音石仏や善光寺式三尊などを彫りました。

yagura.jpg (207624 バイト) sekibutu.jpg (125990 バイト) dragon.jpg (197726 バイト)

そのような、自然の神秘があふれるところ・・・熊本県の菊地渓谷に勝るとも劣らない、自然の芸術が訪れるものの目を楽しませ、心を豊かにする・・・キャンプ場やそうめん流しで団欒の一時を楽しむ・・・そういう場所の「はず」でした。


2. 畜産基地・養豚場の建設

大鳥峡に影が差したのは、1980年(昭和55年)のことです。大鳥峡の上流に大規模な畜産基地を作る計画が立ち上がったのです。ウルグァイ・ラウンド関連農業農村整備緊急特別対策という物々しいお題目の元に、反対者の主張を受け付けず、いくつもの養豚場が建設されました。

pig.jpg (235666 バイト) pig4.jpg (157176 バイト) pig3.jpg (70720 バイト)

そして大鳥峡は変わりました。清流は濁り泡立ち、そして異臭を放ちはじめたのです。大隅町はこれみよがしな看板を何箇所かに設置し、養豚場の糞尿はキチンと処理されているということをアピールしています。しかし、そのようなあがきも、大鳥峡に1歩足を踏み入れたらわかるのです。何が真実なのか。

ootori27.jpg (121509 バイト) awa1.jpg (139900 バイト) awa2.jpg (118672 バイト)

大鳥峡には豊富な涌き水がいたるところから湧き出しています。そのわずかなくぼみに、これ見よがしな生命の息吹が。その透き通った清らかな水が、本流のにごった流れに飲みこまれて行きます。そこは、生命の営みを拒絶する世界・・・。

ootori35.jpg (174624 バイト)


3. 町の対応

大隅町の基本理念は「弥五郎の国大隈」―生きがいとやすらぎのある町― =ドンパワーの沸きたつ町=」というものです。町の構想理念は次の4つ。

・人と自然が共生する生活環境づくり
・地域の特性を生かした産業づくり
・健やかでやすらぎのあるまちづくり
・文化と歴史のただようまちづくり

このようなすばらしい構想を持ちながら、なぜ大鳥峡の現状を生んでしまったのでしょうか。大鳥峡の悪臭について、大隅町観光協会に問い合わせたところ次のような返答を頂きました。

担当者:「大鳥峡の近くに牧場があり、その臭いが風向きによって大鳥峡に流れ込んできています。」

筆者:「水の臭いではないのですか?」

担当者:「はい、水の臭いではありません。」

大隅町観光協会の答えでは、悪臭の原因は牧場の牛であり、水がにおっているのではない、ということでした。

次に大隅町役場に電話をしてみました。最初に電話を取られた方は次のように言われました。

担当:「大鳥峡の近くには畜産基地がありまして、牛を飼っています。そこの臭いが流れてくるようです」

最初の方は担当者ではないということで、担当が替わり、次のような返答を頂きました。

担当者:「大鳥峡の近くには畜産基地があり、肉牛を飼育したり養豚場があります。牛の糞尿は、土地還元という形で完全に処理されており、豚については処理施設で処理をしていますが、完全に処理されていないかもしれません。上流部には養豚農家があるので、そこから汚水が出ているのかもしれません。」

筆者:「大鳥峡に汚水が流れ込んでいるということですか?」

担当者:「いいえ、そういうわけではないのですが。」

以上のように、町としての対応はやや明瞭さを欠いていました。役場の職員は養豚場についての話もしてくれましたが、正直、訪ねられていることについて困惑しているような印象を受けました。大隅町観光協会では、明らかに回答に誤りがあります。あるいは絶好の観光場所であると宣伝はしているのに、実際にはあまり地元の人は訪れない場所なのかもしれません。そして、牧場があるということを強調していました。たしかに大鳥峡の上流部に牧場を確認しました。

しかし、役場の担当者の言葉を借りれば、牧場からでる糞尿は土地還元されているという話なので、悪臭の原因が牛であるとは考えにくいと思われます。


4. 推測される理由1

なぜ、これほどの自然を無視し得たのでしょうか。養豚場では市場価値が高い黒豚をブロイラーで飼育しており、儲かっているといいます。それによって職を得、金銭を得て生活している人々がいる。そういう現実の一面を見てもなお疑問が残るのです。なぜ、それが大鳥峡の上流部につくられたのでしょうか?大鳥峡は今そこにしかありえません。養豚場は他にも建設可能な場所があったはずです。

taki.jpg (214586 バイト)

この滝の上には養豚場があり、雨が降るとそこから汚水を流すのだと地元の人が教えてくれました。沖縄県では、山頂にある養豚場からもっと露骨に汚水を川に流しており、環境の破壊が進んでいます。1993年に沖縄県庁を訪問し、インタビューしたときには「ダムに豚の糞尿が大量に流れ込み、ダムからの放水ができなくなった」という解説を聞きました。つまりそこに川があるということは、排水の便がよいということなのです。


5. 推測される理由2

悲しいことですが、日本では、自然環境という意識が薄いという現実があります。人口100万人を超える沖縄県でさえ、美しいビーチはホテルなどのプライベートビーチで、普通の海岸には下水がそのまま流れ込んで異臭を放っていたり、ゴミだらけだったりします。田舎といわれるような中山間部の小さな町や村、過疎が進んでいるような地域などはなおさらです。

裏山はゴミ箱とでもいうかのように、山の斜面にゴミが散乱してるところもあります。田や畑でもうもうと黒煙と異臭を上げて物を燃やしている光景にも出くわします。周囲を囲む美しい山林や川、それらはあまりにも普通の存在であって、意識すべきものでも、守るべきものでもないのです。それは、自分らがそこにいるのと同じように、そこに「いる」存在だからなのでしょうか。

gomi1.jpg (174147 バイト) gomi2.jpg (138894 バイト) gomi3.jpg (133770 バイト)

あるいは、それが田舎だから目立っているに過ぎないのかもしれません。都会のゴミはそれがあっても違和感がさほどありません。しかしゴミが豊かな自然の中にあると、嫌がおうもなく目立ってしまう。都会に住む人も田舎に住む人も、互いに自然環境を意識し、それを守ろう・維持しようという「意思」をもたねばならないと思うのです。

そのような環境意識の弱さが大鳥峡を守りきれなかったことにつながったのではないでしょうか。この美しい自然の造形を見てください。そして、糞尿の汚水の悪臭を重ねて想像してみてください。筆者は調査を続ける間中「おしいな」「なぜ?」という言葉が何度も何度も口をついて出てきました。

ootori34.jpg (179178 バイト) ootori4.jpg (182400 バイト) ootori9.jpg (174355 バイト) kikkou.jpg (225344 バイト)


おわりに

大鳥峡は、まだ完全に死に絶えたわけではありません。養豚場から汚水が染み出しているにせよ、流されているにせよ、それを完全に食いとめて自然の浄化作用を待てば、大鳥峡は復活するでしょう。川の水はよみがえり、多くの生命を育むでしょう。その時、本当に大鳥峡は、大隅町の人が誇りに思えるすばらしい峡谷になるのです。

そういう日が来ることを、心のそこから願ってやみません。