キャプテンKenの謎(2) Back Index Next
『キャプテンKen』

 謎3:キャプテンKenの父親は誰か?

 単行本版では最後に星野マモルが、水上ケンに「父親はぼくじゃダメかい?」とプロポーズする場面で終わっている。これではキャプテンKenの父親はマモルで決まりである。
 しかし、
連載版ではそんなセリフはなかった

 さらに未来のシーンでも水上ケンは『水上ケン』と病院で呼ばれているのだ。苗字が変わっていない!(夫が死んで苗字を結婚前に戻したということも考えられるが)。
 実際、Kenは水上ケンに似ているが、星野マモルには全然似ていないし、本人同士もまったく意識していない。
 つまり、キャプテンKenの父親が星野マモル、という有力な証拠はない。

 マモルが父親でないとしたら、誰がキャプテンKen(水上ケンジ)の父親なのか?
 ここで、手塚自身が、キャプテンKenの元ネタとなったと証言している小説を見てみよう。
 それは、キャプテンKen連載の半年前に発売された『SFマガジン』創刊3号に掲載された、
ハインラインの『輪廻の蛇』である。

『輪廻の蛇』ストーリー
 孤児院の前に捨てられていたジェーンはやがて美しい娘に成長した。
 ある日、彼女の前に流れ者があらわれ、二人は恋に落ちる。
 ジェーンが女の子を生んだ直後、流れ者は彼女の前から姿を消し、赤ん坊も行方不明となった。

 失意の中、病気になったジェーンは、特殊な治療を受けて奇跡的に回復した。
 治療の副作用でジェーンは男性化してしまった。
 酒びたりのジェーンは、酒場のバーテンダーからタイムマインの話を聞く。
 彼女を裏切った流れ者に復讐するため、ジェーンはバーテンダーと共にタイムマシンに乗った。
 過去で、ジェーン(男性化している)は美しい娘に一目ぼれする。
 彼女に子供が生まれると、バーテンダーは、ジェーンを連れて未来へ戻ると共に、娘の生んだ女の子を過去にさかのぼって孤児院の前に捨てた。

 現代に戻ったジェーン(男)は悲しみにくれながら、やがてバーテンダーとして生活を始めた。
 バーテンダーの前にジェーンという名の男が現れた・・・・。

 究極のタイムパラドックスをテーマにした名作である。

 しかし、手塚がこの作品からインスピレーションを受けたのは、過去にさかのぼって自分(母親)を助ける、ということだけだろうか?
 それだけのテーマの小説は『輪廻の蛇』以前にも発表されており、その後も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように広く親しまれている。
 わたしは、手塚が『輪廻の蛇』から受けた衝撃は、違うところにあると考える。
 それは、『自分とセックスして自分を生ませる』という点ではないだろうか。

 皆さんは、手塚作品の多くの主人公が、母親への強い思慕の念を持ちながら父親へは冷淡、または憎悪を抱いていることに気づいているであろう(『ブラックジャック』など)。
 母親への究極の愛は、母との一体化、そして父に代わって母に子供を生ませることではないだろうか。もともとハインライン作品にも、女性化して親友の子供を生むという倒錯した愛を表現する作品は少なくない(『悪徳なんかこわくない』など)。ハインラインのそうした影の部分に手塚が惹かれた可能性は十分あると思われる。
 
 母と自分との一体化が必要なら、
水上ケンはキャプテンKenにそっくりでなければならない。
 さらに、
第9回でキャプテンKenが星野家の二階の水上ケンの部屋へ忍び込む場面は、
水上ケンのもとへ夜這いするキャプテンKenという妄想を具現化したシーンといえるだろう。きっとケガの治療後の疲れで死んだように眠っていた水上ケンは息子が自分に何をしたのか気づかなかったのだろう。そして翌日、Kenのポケットから落ちる女もののハンカチ!愛を交わした記念品にこっそりKenが持ち出したのではないだろうか?

 以上をまとめると、
(1)キャプテンKenは水上ケンの息子
(2)キャプテンKenの父親はキャプテンKen
 キャプテンKenと水上ケンは一心同体だから
(3)キャプテンKenの母親もキャプテンKen

 つまり、『キャプテンKen』とは、究極の
母子相姦と自己愛をあらわした作品ととることもできるのだ。
 作品のもつ妖しいエロティシズムの魅力はここに発っしていると思われる。



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