乱歩世界の美女たち Page 5  前へ 目次へ 次へ
川波美与子
「影男」 (昭和30年、「面白倶楽部」連載)



全身黒ずくめで川波家の庭に忍び込んだ影男は、庭に掘られた穴に首から下を埋められていた川波美与子を助け出した。成金の川波良斎は若く美しい妻の美与子への狂った嫉妬心から、彼女を
全裸にして庭に生き埋めにしたのである。なかば死んだように力なく抱きかかえられた美与子を見て、影男は川波良斎を脅迫すると同時に彼女をヘビのように陰湿な夫の手から解放する方法を考えついた。

【あらすじ】
「もはや戦後ではない」昭和30年に、ありあまる知恵と財力を駆使し、大悪人からは非情に金をまきあげ、弱い者には夢を与える謎の青年がいた。モラルの低下した戦後の社会の裏で自由きままに知的犯罪を繰り返す彼は「影男」と呼ぶにふさわしかった。成金の川波良斎のお手伝いから手にいれた情報で、良斎の若い妻、美与子の危機を知った影男は、ある夜、川波家に忍び込んだ。しかし、その時まで影男は、「ヘビのように執念深い」良斎の真の恐ろしさを知らなかった。こうして、影男と良斎、そして影男を追いつづけていた明智小五郎の三つ巴の知力を尽くした戦いが開始されたのだ。

【作品の印象】
乱歩の成人もの末期の作品であり、明智小五郎は以降、少年探偵団シリーズ以外には登場していない。
酒びたりの元軍人華やかなキャバレー金粉ショーなどが登場し、当時の風俗を知る上でも興味深い作品である。過去の作品のテーマの焼き直しと言えないこともないが、最後まで破綻なく展開するストーリーは乱歩の円熟味を感じさせる。とくに主人公の影男は猟奇心とそれを実行するだけの知恵と財力をもち、その行動には読者の共感を容易に得ることができるだろう。それに対し、杓子定規の行動しかしない明智に往年の魅力はない。

【川波美与子の印象】
24,5才の「ゾッとするほど美しい」人妻である。そんな彼女がなぜ成金のヘビ男と結婚したかは不明であるが、たぶん戦後の混乱期に親のため家のためとか、それなりの理由があったのであろう。影男に助けられた美与子はやがて恋人と共に良斎の手から逃げ回るのであるが、この恋人(篠田)に生活力があるようには見えず、彼女が幸福になるとは影男も考えていないのは少し哀れである。

* 土から掘り出された美与子は土まみれになって汚い筈だが、それでは絵になりにくいので「影男が身体をきれに拭いてくれた」と考えてほしい。
* 原作では「月も星も見えない」夜。でも、満月を描きたかったので・・・。
* 原作では美与子の髪はカールしている。

(2000・10・8掲載)