乱歩世界の美女たち Page 6 前へ 目次へ 次へ
水木蘭子
「盲獣」 (昭和6〜7年、「朝日」連載)



浅草レビューの大スターである水木蘭子を彼女の恋人の名前を騙って誘拐した盲獣は、蘭子を女体オブジェで満たされた広大な部屋に閉じ込めた。女性のあらゆる部分が異なる素材で作られたそのオブジェは、触れることで今まで味わったことのない感覚を知ることができるのである。女体山脈の中を逃げ惑う蘭子は、恐るべき盲獣が彼女の臭いをたよりに迫ってくることを知って半狂乱になった。。


【あらすじ】
盲目の殺人鬼「盲獣」の第一の犠牲者はレビューのスター水木蘭子。盲獣の趣味をたっぷり味わせられた彼女は、バラバラにされたあげく、
七色の風船に縛りつけられ浅草の空を飛んだり、雪だるまの中に入れられたり、見世物「蜘蛛娘」の首となったり、牛肉屠殺業者の桶の中で見つかったり・・・と死後も魂の休まる暇はない。次の犠牲者は30才前後の豊満な未亡人。バラバラにされた死体は海水浴場に首と脚を出して埋められる。三番目の贄は24歳の有閑マダム。彼女の遺体は、「死骸風呂」、「芋虫ごーろごろ」、「鎌倉ハム大安売り」といった、言葉に出すのもおぞましい目にあわされる。最後の犠牲者は筋肉逞しい海女たちであった。こうして猟奇の限りを尽くした盲獣は殺した女達の女体彫刻を完成させた後に自らの命を絶ったのである。なんというストーリー!

【作品の印象】
本格推理を始め芸術的にも優れた作品を書いた乱歩であるが、この作品だけを読むと「エロ・グロ・ナンセンス」作家と言われても反論のしようがない。後で読み直した
乱歩でさえも「吐き気がした」と告白しているくらいである。満州事変の戦火が上海へ飛び火し、いよいよ暗い時代へ突入しつつある時、漠然とした不安を抱く大衆が刹那的な生き方に憧れるのも無理もないことであろう。とにかく乱歩の異色作である。
そういえば、緑魔子主演の劇場版の巨大な女体部屋もなかなか印象深かった。

【水木蘭子の印象】
この作品では脂ぎった女性ばかり登場する。蘭子は30才前後でレズ相手を連れて歩くが、男性の恋人もいる。触覚の快感を知った後はその世界へのめり込み、やがて盲獣にあきられて殺されてしまう。オタク道まっしぐらの男性がガレキで埋まった自分の部屋を恋人に見せて、無理やり同じ趣味の世界へ引きずり込むのに似ているが、その場合は同好のカップルとして末永く仲良く暮らせるだろう。盲獣が危険なのは、そんな同好の彼女を手に入れても満足できないことにあるのだろうか。

* 絵を描いているうちに、瓜畑秘密研究所に迷い込んだルリルリを連想してしまった。
「この部屋、いや・・・」

(2000・10・15掲載)