乱歩世界の美女たち Page 12 前へ 目次へ 次へ
南 京子
「偉大なる夢」 (昭和18〜19年、「日の出」連載)



日本が世界を相手に始めた戦争は三年目を迎えていた。工学博士・五十嵐東三の設計した超高速爆撃機は、ニューヨーク、ワシントン、そしてロンドンを一気に廃墟にすることができる秘密兵器だった。博士の息子
、五十嵐新一は、南助手の妹・京子に、彼の「偉大なる夢」を語った。

「京子さん、あなたには見えませんか、あのすばらしい爆撃機の大編隊が、空の果てを飛んでいるのです。そして、今から数時間後には米国の大都会を一瞬にして廃墟と化するのです」


しかし、
一年後に廃墟となったのは東京の街であり、犠牲者の中には入院中の新一の最愛の母親も含まれていた。爆撃の中、看護婦を指揮して必死の活躍を続ける京子のもとにすべてを失い呆然とした新一が現れた。

【あらすじ】
戦局を一気に打開する高速爆撃機の設計者、五十嵐博士が米国のスパイに襲われた!長野の温泉にある某貴族の別荘で設計を続ける科学者たちを襲う間諜F3号の正体は?望月憲兵少佐が、ルーズベルト大統領の指令に従って神出鬼没の活動をするスパイを追い詰める。

【作品の印象】
戦争中の異色作。悪の組織のボスは「エフ、エフ、エフ」と不気味な笑いをもらすルーズベルト大統領。小児麻痺の後遺症に苦しむ大統領を笑いものにするのはちょっといただけない。憲兵が正義の味方、というのも現代の基準から言うと、う〜ん、と困ってしまう。卑怯な手(スパイ、サボタージュ、流言飛語、病院船襲撃、病院爆撃)を使わないと、米国は日本に勝つことができない、という描写も違和感を感じさせる。しかし、当時の日本人の多くがこの小説を読んで奇異に感じなかった、ということが実は一番恐い。
一応推理小説の形式をとっている(犯人は意外な人物だし・・・)。

【南京子の印象】
紺がすりにモンペ姿が凛々しい。時局が時局だから色っぽい場面など書けるわけがない(乱歩だけでなく「源氏物語」でさえ不倫を奨励するという理由から発禁になった時代)。色っぽいシーンを無理して探すと・・・、飛行機の設計がうまくいくように滝の水を浴びる京子を新一が覗き見るという場面(↓)があった。

滝つせは黒髪を乱し、肩をうち、白衣の膚を伝い流れ、はじき飛んで、もうもうたる水煙となり、
神秘なるおとめの姿をこうごうしくぼかしていた。
(江戸川乱歩「偉大なる夢」より)


【決戦ファッション】
パーマは昭和14年頃からほぼ禁止状態になり、かわりにロール巻き、のちの「決戦型」髪型が推奨される(図の京子の髪型)。口紅と白粉は禁止ではないが「目立たぬように」。もちろん男子は昭和14年頃から丸刈りが主流。

モンペは、昔から田舎にあった「もんぺい」を兵庫の工場が新型作業用ズボンとして昭和10年に発売したもの。昭和15年頃より各地の女学校で制服となったが、その理由は、「
レイプされる率が着物やスカートの場合より少ない」から(どうやって調べた?)。男子はカーキー色、女子は紺色が「常識」の、色気のない時代である。男子の国民服は昭和16年から使われその後義務化した。

【爆撃機のこと】
五十嵐博士の高速爆撃機は東京-ニューヨークを5時間で飛行できる。原理は詳しく描かれていないが、低空ではレシプロで高空でロケットエンジンを使用し、かつ可変翼である。結局そんなものは夢物語となり、代わりに日本を爆撃したのはレシプロ時代末期の傑作機B29であった。残念ながら3Dデータが手に入らなかったので図で飛んでいるのはB17Dである。夜の空をサーチライトに照らされてジュラルミンの照りかえりを見せるB29はそれなりに日本人に感動をもたらしたようで、横山光輝は「B29を見たときの畏怖感から、鉄人28号のネーミングを考えついた」と語っている。

僕は巨大なB29が目を圧して迫まってくるのを見た。銀色の機体は、地上の火炎を受けて、酔っぱらいの巨人の顔のように、まっ赤に染まっていた。・・・・・・。火災による爆風と、竜巻きと、黒けむりの中を、超低空に乱舞する赤面巨大機は、この世の終わりの恐ろしさでもあったが、一方では言語に絶する美観でもあった。凄絶だった。荘厳でさえあった。
(江戸川乱歩「防空壕」より)


* 図の問題点(^-^;)
1.モンペといえば防空頭巾(図では略)。 2.新一の国民服のポケットも図では略。

(2000・11・5掲載)