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玉村妙子
「魔術師」<2> (昭和5〜6年、「講談倶楽部」連載)

明智の活躍によって『魔術師』奥村源蔵は自ら命を失い、玉村宝石店に久しぶりに明るい生活が戻った。 しかし、その二か月後に宝石店主、玉村善太郎の死体が、桜の花びらにうずもれ、首に蛇を巻きつけられて発見されたのだ。 『魔術師』は生きている!! 恐怖におののく玉村妙子は、信頼する明智小五郎の事務所を訪れた。 「もう犯人はわかっています」という明智の言葉に、妙子は不思議そうな顔をして明智の隣に腰かけた。
彼女は、さも無邪気らしく、明智の膝に手をかけて、その上によりかかるようにからだをくねらせて、下から明智の顔を見あげるのだ。明智は、ピッタリと密着した相手の膝の、すべっこい暖かみを感じた。彼自身の膝の上で、グリグリとうごく相手の指先を感じた。そして、わが顔の真下にある彼女の唇から立ちのぼるなまめかしい薫りを呼吸した。
ああ、なんという大胆な令嬢であろう。
明智は極度の困惑を感じた。 妙子さんは美しいのだ。彼女のからだはなまめかしいのだ。そして、その愛すべき生きものが今彼の膝の上に、身を投げかけているのだ。彼は心の底から湧き上がってくる身震いを、どうすることもできなかった。 恐ろしいのだ。 なんとも形容しがたい恐怖だ。
(江戸川乱歩「魔術師」より)
妙子の目をみつめながら、明智は聞いた。
「あなたは犯人が憎くありませんか、お父さんを殺した敵を一と目見てやりたいとは思いませんか」
【あらすじ】
「蜘蛛男」事件を解決したばかりの明智小五郎は休養先のホテルで大宝石店の令嬢・玉村妙子と恋におちる。しかしその玉村家にかかわる人々は、謎の復讐鬼の手によって一人、また一人と残虐な手段で命を奪われていくのである。玉村二郎の恋人、花園洋子もまた魔術師の手に落ちた(Page 2)。明智は魔術師と必死の戦いの中で、はからずも賊の娘、文代に心を引かれていくのであった。明智をめぐる二人の美女がたどる数奇な運命の結末は?
【玉村妙子の印象】
文代と同じ年(事件の前年、女学校を卒業しているから19才ぐらい)。たぶん、乱歩作品中でもトップクラスの美女。「妙子さんは美しかった。文代びいきの明智の眼にも、顔かたちの美しさでは、妙子さんの方が数段まさって見えることを否定できなかった」という記述がある。ただし、文代にも共通するが、「美しい」以外に容貌の具体的描写がほとんどないのが寂しい。
【チャイナドレスのこと】
妙子が明智を訪問したときには「肉体の線があらわに見えるような、絹の春服を身にまとい」とある。岩田専太郎画伯の挿絵では洋装+コートでよくわからない。・・・というわけで、チャイナ服にした。実はわたしたちが良く知っているワンピース・スリットつきチャイナ服(チーパオ)が完成したのは1933年(昭和8年)〜5年(昭和10年)のことであり、「魔術師」連載時には上下に分かれたチャイナ服(清朝風)しか出回っていなかった筈である。ワンピース型は蒋介石がデザインしたという説もある。誰が考えたにしても経済的(使う布の量が極めて少ない)かつ、女性を魅力的に見せる服である。
(2000・12・16掲載)