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相川珠子
「妖蟲」(昭和8〜9年、「キング」連載)

白タイルの洗い場に、すっくと立ちあがった十八歳の処女の肉体は、何に比べるものもなく美しかった。からだじゅうに縞を作った湯の河が、桃色の曲線をツルツルと、戯れるように滑り落ち、それを柔らかい電燈の光が、楽しげに愛撫していた。珠子は大きな姿見の前に立つと、わが裸身に見入りながら、手や足をいろいろに動かしてみた。彼女は真っ赤になりながら、あるかなきかの小声で、われとわが名を呼びかけつつ、じっと乳房を抱きしめて、鏡の影に甘えるような微笑を送ってみたりもした。その時、彼女はふと、眼の隅に、何かしら異様なものを感じた。
(見ちゃいけない。見ちゃいけない。きっと、きっと、あいつが覗いているのだ)
だが、見まいとすればするほど、心とは離れ離れに、眼だけが、恐ろしい力で、その方へ向いていくのを、どうすることもできなかった。彼女は見た。大きな青メガネをかけて、濃い口ひげをはやして、鳥打帽をまぶかにかぶった、あの顔。連続美女殺人鬼の不気味な顔が!
【あらすじ】
大学生の相川守は妹の家庭教師である殿村京子と共に、殺人の相談をする男たちを目撃する。男たちの話の内容に興味をもった守は、ある空家で「青メガネをかけて口ひげをつけた」謎の男が女優春川月子を惨殺するのを覗き見した。次の日、警察の事情聴取を終えて家へ向かう守の前に、青メガネの男が現れ、守の妹・相川珠子が彼らの次の餌食であることを告げた。その日から珠子のまわりに不気味な青メガネの男の影が出現するようになった。守の依頼を受けた私立探偵・三笠竜介は可憐な相川珠子を妖蟲の魔の手から守ることができるか?続きは「桜井品子」で。
【作品の印象】
煙突から飛び出た女の脚、下水道の中の女の首、ショーウィンドーに飾られた死体・・・などなど、「盲獣」には及ばないが猟奇の匂いがプンプンする。三笠探偵まで罪もない猫の首を切ってしまったりする。少年探偵ものの「鉄塔の怪人」の原作にもなっており、人の大きさの巨大サソリまで登場するサービスの良さ。それなのに、話題にのぼりにくい作品なのはなぜだろう?
【相川珠子の印象】
もうすぐ女学校を卒業する18才。某雑誌で「ミス・トウキョウ美人女学生コンテスト」で女王に選ばれ、本人もまんざらではない様子。風呂場のシーンでもわかるようにかなり自己陶酔タイプである。お嬢様なので作品中で何回も失神する。風呂場で失神したときには、発見した兄貴は「体に傷がないか」と言いながら、珠子の裸の身体をひっくりかえして眺め回している。書生までも見に来ているのに・・・(早く何か着せてやれよ)。
*絵では、怪人「青メガネとヒゲの男」がただのノゾキのおっさん(なんだかマリオに似てるぞ)に見えるが、そこは乱歩作品。ただのスケベおやじではない。実は風呂場のまわりには塀があって乗り越えることはできない。そこが謎なのであるが・・・やっぱりただのスケベおやじにしか見えないか・・・。
(2001・1・21掲載)