乱歩世界の美女たち Page 30 前へ 目次へ 次へ
和田登志子
「蜘蛛男」(昭和4〜5年、「講談倶楽部」連載)



 東京市内のよく似た顔立ちの四十九人の美女が、十一月二日の夜までに蜘蛛男の手に落ちた。その中には、仏語教育で有名なお嬢様学校・E女学校四年級の美少女・和田登志子も含まれていた。
彼女らを暗い部屋から引き出したのは、
顔面半分が赤く焼けただれ、醜い出っ歯のすべてに金冠をした園田大造であった。彼の正体こそ、なんと稀代の殺人鬼・蜘蛛男その人であった。蜘蛛男は、娘達の悲鳴に負けぬ大声でどなりながら、絶え間なき鞭打を続けて、裸女の一人一人を、それぞれ適当な場所へ追い詰める。鞭の音、肉塊の乱舞、悲鳴の交響楽、むき出した神楽獅子の金歯の輝き、さもさも心地よげな悪魔の高笑い。かくてパノラマ館の別世界に、藍と虹のだんだら染めの光のもとに、生きた人間の真の地獄絵が描き出されていった。

【あらすじ】
里見芳枝(Page28)、里見絹枝、富士洋子(Page29)と一人ずつ毒牙にかけていた蜘蛛男であるが、仕事がうまくいかないのにイラついたのか、それともビョーキが進んだのか、まとめて49人娘達を捕らえて始末することにした。まず、明智の追求を逃れるため、顔面半分を硫酸で焼いて、総金冠の出っ歯をつけた。おかげでかえって目立ってしまったが、そんなことにはおかまいなしに、鶴見遊園パノラマ館を設置、その初日に毒ガスで皆殺しにした娘達の死体を満天下の見世物にしようとした。登志子以下49名の美女の命は風前の灯であった。・・・しかし、蜘蛛男の犯罪を察知した明智小五郎は、なんと、カツラをかぶり顔に白粉をぬりたくり、裸の女の人形に化けて、パノラマ館に潜入していたのだった(そこまでするか?)。こうして(ある意味では)変態同士の争いがパノラマ館の毒々しい舞台を前に繰り広げられたのであった!

【49人の美女の謎】
蜘蛛男が自作パノラマ館に集めたの美女は49人である。「11月3日までに49人をなんとしてでも集めなければならない」とほとんど強迫観念に取りつかれているが、この「49人」は何を意味するのであろうか?今は亡き蜘蛛男に聞いてみよう。

野崎三郎:ちょっと気になることがあるのでお尋ねしたいのですが・・・。
蜘蛛男:やぁ、久しぶりだね。質問とは何だね?
野崎三郎:49という数字に何か意味があったのですか?
蜘蛛男:ふふふっ。49とは仏教で人が死んで成仏するまでの日数なのだ。49人を殺すことによって大願成就、わしは晴れて成仏できる筈だったのだ。
野崎三郎:でも、その前に芳枝さんや絹枝さん、それに富士洋子さんも殺していますよ。
蜘蛛男:ふふふっ、バレたか。実は49+3=52人という数字が重要なのだ。これはトランプの枚数に相当するのだ。わしはカード遊びが好きだからなぁ。
野崎三郎:ちゃかさないでください。
蜘蛛男:君は東海道五十三次というのを知っているだろう。あれは52の宿に泊まり、最後の53番目の京都で「上がり」という意味じゃ。
野崎五郎:本当ですかぁ?
蜘蛛男:うん。もともとは、仏典の「華厳経」の中で、善財童子が仏道を52人の智者に聞いて回ったが、納得できず、最後に会った普賢菩薩に教えてもらうことができた、という話から52+1という数は重要なのだ。53人目の普賢菩薩がわしか、明智かはここでは言わないがな。トランプでいえば53枚目はジョーカーだし。
野崎三郎:でもあなたは芳枝さんを殺す前に三人ほど殺しているという噂もありますよ。
蜘蛛男:死体を公開しようとしたのが52人ということだ。相変わらず細かい男だな。そんなことだから絹枝をわしに取られてしまたのだ。
野崎三郎:うぅ、ぐすんぐすん(泣き出す)
蜘蛛男:ついでだが、11月3日は明治大帝の誕生日だ。大正時代になってから11月3日の天長節はなくなってしまっていたが、昭和初期に「明治節」として復活させようという右翼の力が強まっていたのだ。それに対する批判という気持ちも無かったとは言えんな。そうそう、21世紀になっても「文化の日」と名前を変えて生き残るそうだ。

(2001・2・18掲載)