乱歩世界の美女たち Page 31 前へ 目次へ 次へ
伊東美耶子
「ペテン師と空気男」(昭和34年)



それは降霊術の行われた夜だった。
わたしたちはテーブルの前に坐って、霊の現れるのを待っていた。すると、夜光塗料の塗った本や、ベル、ラッパ、メガホンなどがひとりでに踊り出したのだ。最後には、客たちの頭を越して、うしろの壁ぎわに、
まっさおな人間の顔が現れた。長い髪の毛が額にたれ、全体にボーッと青く光った、実にきみの悪い顔なのだ。

しかし、くらやみの中で、わたしは美耶子と隣りあって、からだをくっつけて腰かけたのである。
密着している部分が、だんだん暖かくなり、しまいには火のように熱くなって汗ばんできた。彼女が身動きするたびに、一つ一つの筋肉の動きがハッキリわかった。敏感な彼女が、そういう動きによって、わたしが何を感じるかがわからない筈はないと思った。こうして、わたしの美耶子への愛情は、月日とともに育てられてきたのである。

【あらすじ】
 凡人の中の凡人、もっともダメな人間で、「空気男」というあだなをつけられた男がいた。彼は凡人ではあったが、風変わりなこと、異常なことを探しもとめ、仕事もせずに無為な生活を続けていた。そんな空気男が偶然出会ったのが、メフィストのような男、伊東錬太郎であった。彼の芸術的な「プラクティカル・ジョーク」に心酔した空気男は、彼rの家に出入りするうちに、次第に伊東の妻、美耶子に惹かれていった。それが伊東が仕掛けた恐るべき「プラクティカル・ジョーク」であるとも知らずに・・・。

 ラストは
、「シベリア超特急」顔負けの二転三転のどんでん返しとなる(悪い意味でも)。乱歩末期の長編
。それなりに面白い。

【伊東美耶子の印象】
二十七歳の人妻。
「一重まぶたの切れ長の美しい目、目と目のあいだが人並みよりは広くて、かっこうのいい鼻の頭が、やや上向きかげんで、上くちびるがひどく短くかわいらしかった。肌は小麦色にスベスベしていた」
と、容貌は
どこかで会ったような・・・・。たぶん乱歩の好みなのだろう。
性格は
「りこうで、人ざわりが柔らかで、そのくせ、はすっぱなところもあった」
そして、これが重要なのだが、
「彼女の美貌にも、性格にも『なぞ』があった。わたしがほれていたせいだろうと思う。
ほれると、女はいつも『なぞ』になるものだ
う〜ん、なるほど!付き合いが長くなったり、結婚してしまって、女に『なぞ』がなくなったときは愛がさめたとき、ということですな。ふんふん。

おまけとして「空気男」はどのくらい不細工かというと・・・
「われながらあいそのつきるぶおとこ。下駄のように四角な顔。あごの骨がいやに出っ張っている。まゆはくっきりしないボウボウ眉毛。目は細いひとかわ目。鼻は普通だが口が大きく、唇が厚い。背はずんぐりむっくり」
自虐的なまでの描写。ここまで描かなくてもよさそうなものだが、乱歩も自分の容姿に劣等感を抱いていたらしいので、説得力のある文になっている(<本当か?)。

(2001・2・19掲載)