提言1
県は、子どもを巡る現状を認識し、関係機関と連携して、子どもを権利侵害から救済する「子どもの権利救済機関」を設置するべきである。 |
救済機関は、子どもの権利擁護の視点に立って、公平・中立で専門的な、行政から独立した第三者機関とするものとする。 |
救済機関は、相談、調査、調整援助、勧告、意見表明及び公表等を行う機能を持つものとする。 |
提言4
救済機関には、子どもの権利擁護委員(仮称)、調査専門員及び相談員を設置するものとする。 |
提言5
救済機関は、これらの機能を十分発揮できるよう条例により設置するものとする。 |
提言6
救済機関は、その活動を実効あるものとするため、県民の理解と協力、他機関との連携、市町村との連携に留意するものとする。 |
目 次
はじめに
1 子どもの権利侵害と権利擁護の現状
(1)子どもの権利侵害の現状
(2)子どもの権利侵害の背景
(3)子どもの権利についての基本的考え方
(4)子どもの権利擁護に関する現行制度と取組み
2 子どもの権利擁護の動向
3 子どもの権利救済機関の必要性
(1)子どもの権利救済機関の設置
(2)救済機関の必要性
4 子どもの権利擁護システム
(1)救済機関の役割
(2)救済機関に求められる機能
(3)条例による救済機関の設置
(4)県の機関又は県の機関以外の者に対する調査方法
(5)公立学校に対し調査等を行う場合の運用
(6)救済の対象と範囲
5 救済機関の組織・運営
(1)組織のあり方
(2)第三者性の確保
(3)救済機関の責務
(4)救済機関の組織
(5)事務局体制
6 制度の導入にあたって留意すべき事項
(1)県民の理解と協力
(2)他機関との連携
(3)市町村との連携
おわりに
別紙(イメージ図)
資 料
はじめに
○ 「児童の権利に関する条約」(以下「子どもの権利条約」という。)が平成元年11月に国連総会で採択されて12年が経過しようとし、またわが国が平成6年4月にこの条約を批准して7年が経過した。子どもの権利条約は、子どもが大人と同じく人権の主体であることを認め、すべての子どもが、家庭、学校、地域社会等において、一人ひとりの個性に応じた発達と社会人として人格形成のための権利を保障されていく必要のあること、そのために、我々大人がすべての子どもを社会のパートナーとして慈しみ育てていく責務があることを規定したものである。
○ しかし、近年、全国的に児童虐待が急激に増加し、また、いじめや少年非行等の問題が深刻化しており、多くの幼い子どもたちの生命が失われ、また子どもたちの心身に大きな傷を与えている。こうした事態は、子どもの権利侵害であり、緊急に解決しなければならない問題であると認識するものである。
○ 埼玉県では、こうした権利侵害行為から子どもたちを守り、子どもが健やかに育つことができる施策を検討するため、知事部局、教育局、警察本部に渡る横断的な組織「子どもの権利擁護対策プロジェクト・チーム」を設置し、平成12年10月に、当委員会の検討テーマである子どもの権利救済機関をはじめとする提言を行った。
また、平成12年5月に、青少年に向けて「生命の大切さを訴える知事緊急アピール」を発表し、緊急青少年非行根絶対策本部を設置するとともに、平成13年2月には、「児童虐待の防止を訴える知事緊急アピール」を発表し、知事自ら先頭に立って、700万県民で取り組む児童虐待防止対策に取り組んでいるところである。
さらに、県教育委員会においても、いじめ問題の解決に向けて、家庭教育や相談体制の充実、学校、家庭、地域社会が一体となった取組みなどに努めているところである。
○ 埼玉県子どもの権利救済機関検討委員会は、子どもの権利擁護対策プロジェクト・チームの提言を受けて、「子どもの権利救済機関のあり方」について、より専門的な立場から検討を行うことを知事から要請された。
○ 検討を重ねた結果、当委員会としては、先の児童虐待やいじめなどの取組みを今後も強化していくことを切に望むものであるが、なお、国や全国の自治体における子どもの権利擁護の気運の高まりを視野に入れて、悩み苦しんでいる子どもたちを救済していくことのできる新たな権利擁護システムを構築していくことが重要であると考えるに至った。21世紀の彩の国さいたまを担う子どもたちの権利を擁護し、健全な成長・発達を保障できる環境を整備することが、すべての人の人権を尊重する県づくりにつながると認識し、以下のとおり提言するものである。
(1)子どもの権利侵害の現状
○ 近年、全国的に、そして本県においても、児童虐待が急激に増加し、また、いじめや少年非行等の問題が深刻化しており、きわめて憂慮すべき状況になっている。我々は、これらの問題が、本来子どもの権利が尊重され、守られるべき場である家庭や学校、地域社会、福祉施設等で起きていることを重く受け止めていかねばならない。これらの問題は、子どもの健全な成長を損ない、明日の社会を担う子どもたちの可能性を奪うものとして、一刻もゆるがせにできない問題である。
○ 児童虐待については、本県においてもいたいけな子どもの生命が失われたことはまだ記憶に新しい。県内の6児童相談所における虐待相談件数が、平成12年度には1,186件に達し、平成11年度の691件の1.7倍、5年前の平成7年度の約5倍と急激な伸びを見せている。さらに、平成13年6月時点では507件に達し、平成12年同月の262件を上回る勢いを示している。このほか、相談や通告に至っていないケースも考えられる。
○ 学校におけるいじめの発生件数は、平成7年度をピークに減少の傾向にあったが、平成11年度に増加に転じ(1,374件)、平成12年度には前年を上回る1,566件となっている。調査件数に表われていない潜在的ないじめも予想され、また、不登校の背後にいじめ問題がからんでいることも少なくないことを考えると依然深刻な状況である。
また、体罰については、学校教育法により明確に禁止されているが、平成12年度には19件と平成11年度(25件)に比べ減少しているとはいえ、依然として跡を絶たない。
○ 少年非行については、子どものころに虐待された経験が、自己及び他者の権利に対する歪んだ価値観を植え付け、犯罪や非行につながるケースが多いことから、子どもの人権の問題と捉えることができる。昨年本県においても少年同士の殺人事件が発生したが、平成12年に補導された非行少年等は7,498人と前年より577人増加しているなど依然深刻な状況である。
また、少年の福祉を害する犯罪での検挙人数は228人となっている。
なかでも、平成11年5月に成立した「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「児童買春禁止法」という。)違反で検挙された人数は、平成12年において33人となっている。
テレホンクラブや伝言ダイヤル、インターネットを利用したケースが多いという。
○ さらに、全国的に見ると、児童福祉施設や認可外保育施設等において、体罰や死亡事例が報告されている。
(2)子どもの権利侵害の背景○ この背景として、少子化や核家族化、都市化などが急激に進行し、子どもと家庭を巡る社会環境が大きく変化していることが指摘されている。
(3)子どもの権利についての基本的考え方○ 子どもの権利条約が定める子どもの権利は、福祉、保健、医療、教育、司法等の広範な内容を含み、また、子どもは単なる保護の対象ではなく、権利行使の主体であると位置付けている。当委員会の検討に当たっても、子どもの権利を子どもの権利条約にそって理解することが適当であると考えた。
(4)子どもの権利擁護に関する現行制度と取組み○ 子どもの権利擁護に関する現行制度としては、国、県、市町村の行政において、福祉、保健、教育、警察等の各分野に、法務省子どもの人権専門委員、児童相談所、学校、総合教育センター等の相談機関又は相談員の制度が多数あり、それぞれに専門的な助言を行うなど、大きな役割を果たしている。
2 子どもの権利擁護の動向○ 子どもの権利条約が、わが国において批准され、発効したことに伴い、国においては、子どもの人権専門委員の制度を創設し、また、児童福祉法の改正、児童買春禁止法及び児童虐待防止法を制定するなどの取り組みがなされている。
3 子どもの権利救済機関の必要性
(1)子どもの権利救済機関の設置○ 県は、子どもの権利を擁護し、関係機関と連携して、権利侵害から子どもを救済する子どもの権利救済機関(以下「救済機関」という。)を設置するべきである。この新たな救済機関は、子どもの権利擁護の視点に立って、公平・中立で、かつ行政から独立した第三者機関である必要がある。
(2)救済機関の必要性○ 子ども自身は、権利が侵害されていてもそのことを自覚できない、適切に表現できない、あるいは、報復や仲間はずれにされることを恐れて先生等に相談することもできない、親や先生など大人は信用できないと思っていたり、どこに相談すれば良いのか分からないなど、一人で悩んでいる子どもたちが少なくないことを考慮すべきである。
4 子どもの権利擁護システム
(1)救済機関の役割救済機関の役割としては、次の事項が考えられる。
(2)救済機関に求められる機能
○ 救済機関の機能としては、次表及び別紙の図のとおり考えられる。
| 内 容 | |
| 相 談 機 能 | 子ども本人や子どもに関係する機関、大人からの権利侵害に関する相談(電話・面接)を受け、必要な助言を行う。 |
| 調 査 機 能 | 権利救済の申立てを受け、事実関係等の調査を行う。 |
| 調 整 援 助 機 能 | 当事者双方に助言し、当事者間での問題の解決に向けた調整援助を行う。 |
| 勧 告 機 能 | 県の機関に対し、是正等の措置を講ずるよう勧告する。 |
| 意見表明機能 | 県の機関に対し、制度改善のための意見を表明する。 |
| 要 請 機 能 | 県の機関以外の者に対し、是正その他必要な措置を要請する。 |
| 公 表 機 能 | 勧告や意見表明した場合等には必要に応じて公表する。 |
○ 相談機能は、子ども本人又は子どもに関係する大人等から相談を受けるもので、相談者、特に誰にも相談できずに悩んでいる子どもが、自ら問題解決に向けて自信を持って取り組んでいけるよう、問題点の整理と解決の道筋を共に考えていくなどの支援(エンパワメント)を基本とする。
○ 調査機能は、相談で解決できない深刻な問題で権利救済の必要があると認められ、相談者からの救済の申立てがある場合に、事実関係等を調査するもので、その後の調整援助や勧告等の基礎となる極めて重要な機能である。
救済の申立ては、救済機関が調査、調整等の救済活動に入るために、本人の意思を確認するものであるが、子ども本人が申立てする場合も想定し、文書による申立てのほか、口頭による申立ても受け付けるなど、申立てしやすい手続きにする必要がある。
なお、救済機関が独自に入手した情報等で、救済の必要があると判断される場合には、本人等からの申立てがなくとも救済機関自らの発意によって独自に調査を実施することができるようにすることが望ましい。
○ 調整援助機能は、当事者間で解決が困難な場合、救済機関が間に入って問題点を整理することで当事者間の相互理解を進め、話合い解決を図るもので、救済機関の重要な機能である。軽易なケースについては、相談の段階で調整援助できるようにしておくことが望ましい。
○ 勧告機能は、調査の結果、子どもの権利救済の必要がある場合に、県の機関に対し、是正の措置を行うよう求めるものであり、意見表明機能は、個々の事案に共通する課題等について、県の機関に対し制度や施策の見直し等を図るよう意見を表明するものである。また、勧告や意見表明に対する是正報告を求めることができるようにしておく必要がある。
○ 要請機能は、市町村や民間などの県の機関以外の者に対し、是正等の措置を求めるものである。
○ 公表機能は、県の機関に対して、勧告や意見表明した場合等にその内容を公表することができるものである。また、県の機関以外の者に是正等の要請を行ったが、正当な理由なく応じない場合においても、子どもの被害が拡大しないよう何らかの公表制度を設けることが望ましい。
ただし、公表は、救済機関の他の機能では、権利救済を図ることができない場合の最終的な措置であり、極めて大きな影響を与える措置であることから、公表に当たっては、個人情報等の保護について最大限の配慮を行わなければならない。また、公表を行うかどうかの判断に際しては、事前に、相手方に対して意見を述べる機会を与えるなど、公表に伴う手続について、検討する必要がある。
○ 救済機関は、年間の活動状況を年次報告書として作成し、知事に報告するとともに、県民に公表し、救済機関の活動への理解を促進するものとする。併せて、子どもの権利擁護について、広く県民に啓発を行う必要がある。
(3)条例による救済機関の設置
○ 当委員会としては、子どもの権利擁護を推進していくために、救済機関を条例に基づき設置することを提言するものである。
県の条例により調査や調整援助、勧告、意見表明、公表等の権限を救済機関に付与するとともに、県の機関に対し調査への協力義務や調整、勧告等を尊重する義務を規定する必要がある。
○ さらに、条例設置により、
@職務権限が明確になり、県民にとってわかりやすいこと
A制度の安定化を図ることができること
B県民の意見が議会を通じて反映されること
C公平・中立性や専門性を発揮できること
D子どもの人権尊重の県民世論を喚起し、人権侵害に対する抑止力にもなりうること
などの効果が期待できる。
○ なお、条例の制定とともに、速やかな救済機関の設置に向けて、救済機関設置後の円滑な運営が図られるよう、救済制度の実際の運用のあり方等について、さらに具体的な検討を早急に行うことが望ましい。
(4)県の機関又は県の機関以外の者に対する調査方法
○ 救済機関を条例により設置する場合、救済機関の調査は、県の権限が及ぶ県の機関に対する調査と県の権限の及ばない県の機関以外に分けて考えていくこととする。
○ 県の機関への調査
児童相談所、県立福祉施設や県立学校などの県の機関への調査については、条例により調査を行う権限を救済機関に付与するものとし、救済機関は、関係部局等へ調査を行うことを事前に通知して、直接調査を行うこととする。
○ 県の機関以外への調査
県の機関以外の国や市町村の機関(小・中学校を含む)、民間の施設又は民間人への調査は、救済機関の目的、調査内容の取り扱いなどを十分説明し、理解と協力を求めたうえで直接調査を行うこととする。
なお、民間の児童養護施設や保育所等の福祉施設、認可外保育施設等など県の指導監督権が及ぶ場合は、その指導権限のある部局と連携し、調査を行うこともできることとする。
(5)公立学校に対し調査等を行う場合の運用
○ 救済機関と県教育委員会及び市町村教育委員会は、互いの立場を尊重しつつ、子どもの権利擁護の視点に立って、双方協力して子どもの権利救済に当たることとする。
○ しかし、公立学校における子どもへの権利侵害は、学校教育の内容と深く係わるものであり、教育委員会の職務権限に配慮する必要がある。
○ このため、救済機関は、公立学校へ調査、調整援助、勧告、意見表明、要請又は勧告若しくは意見表明の公表(以下、この項において「調査等」という。)を行う場合には、県教育委員会及び当該市町村教育委員会に、調査等の目的、内容を説明し、また、その意見を十分聴取するなどの協議を行った上で、調査等を行うものとする。
調査及び調整援助については、必要に応じて県教育委員会に依頼して行うことができるものとする。
○ 公立学校に対する調査等に係る県教育委員会及び当該市町村教育委員会との協議が整わず、かつ救済機関が当該学校に対する調査等を必要と認める場合には、救済機関は、県教育委員会及び当該市町村教育委員会に対し、調査等を求める勧告又は要請を行い、それを公表するなどの必要な措置を行うことができる。
(6)救済の対象と範囲
ア 子どもの範囲
○ 子どもの権利条約、児童福祉法、埼玉県青少年健全育成条例等を勘案し、原則として、県内在住、在学、在勤の18歳未満の者を対象とする。
ただし、高校等に在学中の者や障害のある20歳未満の者等については、必要に応じて弾力的に対応できるようにしておくことが望ましい。
○ 本県外の学校、施設等における事案については、本人の意思を確認し、所掌する他都県担当機関等へ対応をお願いするが、児童福祉施設の入所について本県の権限が及ぶような場合については救済の対象とすることが望ましい。
イ 救済の申立て者の範囲
○ 子ども本人や親等から申立てができない事情がある場合も想定されるため、救済の必要があると認める事案については、利害関係を持たない第三者からの申立てを認めることとする。
○ 子どもの権利侵害を名目に、もっぱら他の目的達成を図るような、制度を濫用するものかどうか慎重に判断する必要がある。
ウ 救済の対象外
○ 救済の対象外としては、次のようなものがあげられる。
・子どもの権利侵害に関する個別の案件ではない事案
・裁判所等により確定し、あるいは係争中の事案
・不服申立てされている事案
・議会に請願又は陳情を行っている事項に関する事案
・人権侵害行為のあったことを知った日から3年を経過した事案(ただし、正当な理由があるときは除く。)
5 救済機関の組織・運営
(1)組織のあり方
○ 子どもの権利救済に当たっては、子ども本人が安心と信頼をもって相談ができ、また、相手方や関係機関からも権威をもって迎えられることが必要である。このため、救済機関は、公平・中立的な立場と高度な専門性をもって問題解決を図り、かつ県の組織から独立性を有した第三者機関であることが必要である。
(2)第三者性の確保
○ 県の機関に対して、救済機関の独立性を尊重する義務や調査等への協力義務を規定することにより、救済機関の職務執行上の独立性を保つ必要がある。
○ 子どもの権利擁護委員(仮称)の任命に当たっては、権利侵害事案の当事者となりうる可能性のある関係者や県と特別の関係にある企業等の役員、議員等は任命を制限する必要がある。
○ 子どもの権利擁護委員の地位の独立性を保障するため、意に反してみだりに解職されることのないように解職要件を限定する必要もある。
(3)救済機関の責務
○ 救済機関は、人格を持つ個人として子どもを尊重し、すべての子どもの代弁者として活動することを基本とする。
このため、救済機関は、どのように活動することが子どもにとって最善の利益なのか、それを実現するためにはどのような方法があるのかを、子ども自身の意思を尊重しながら、関係する人たちとともに考え、実行し又は実行を促していかなければならない。
なお、子どもが権利救済を求めたことにより、新たな権利侵害が生じる二次被害の発生の防止についても、十分配慮しなければならない。
また、救済機関は、すべての活動において、子どもへのエンパワメントの視点に立って、子ども自身の力による解決を助け、子どもの成長と自立を支援していくこととする。
(4)救済機関の組織
ア 組織の内容
○ 救済機関の組織は、その機能に合わせて、相談を担当する部門、調査等を担当する部門及び事案を審査し、勧告、意見表明、公表等を行う部門に分けられる。
○ 他都県市の例では、東京都は「相談」「調査」「審査」の3部門だが、川西市、川崎市は相談部門と調査部門を一体としており、審査部門である子どもの権利擁護委員との2部門で運営している。
○
本県の救済機関においては、市設置と県設置による相談件数の相違や広域にわたっての調査の実施等を勘案すると、相談(相談員)、調査(調査専門員)、審査(子どもの権利擁護委員)の3部門を設置して行うことが望ましいと思われる。ただし、相談員と調査専門員とのケースの引継ぎが洩れなく行われるよう運営上の配慮が求められる。
イ 子どもの権利擁護委員(仮称)
○ 子どもの権利擁護委員は、救済機関を代表するとともに、調査に基づく事実関係を適切に判断し、当事者間の調整、勧告、意見表明、公表等を行うものである。
○ 子どもの権利擁護委員は、人格が高潔で社会的信望が厚く、子どもの人権問題に優れた識見を有するものであることが必要な要件となる。
選任に当たっては、高度の専門性と信頼性が求められることから、学識経験者や法律の専門家が望ましい。
○ 選任手続きについては、委員候補者選考委員会の審議を得た上で、知事が委嘱するなど、県民に対する公明性、透明性に配慮する必要がある。また、委員の任命を議会の承認事項とするかどうかについては、なお検討を要するものと思われる。
ウ 調査専門員
○ 調査専門員は、子どもの権利擁護委員の職務執行を補助するスタッフで、子どもの権利擁護委員の監督のもとに、相談員から引き継いだ権利侵害事案の事実を調査し、調整援助などにより問題解決を図ることを担当する。
○ 調査専門員も、子どもの権利擁護委員と同様に人格が高潔で社会的信望が厚く、子どもの人権問題に優れた識見を有することが要求されるため、子どもの権利擁護の相談等に携わっている弁護士や子どもの福祉に熱意を持つ心理学の専門家や医療、福祉、教育関係者等から選任することが望ましい。
エ 相談員
○ 相談員は、子ども自身や親、県民などから権利侵害の相談ないしは通報があった場合に、適正な判断と助言を行うものであり、また、子どもからの相談を親身になって聞けることが必要であるため、子どもの相談業務についての専門的知識と豊富な経験を持つ人が望ましい。
○ また、子どもの相談相手は友人が一番多いこと、子どもは表現力が乏しく、年長者との会話が不慣れな傾向にあること、年齢が近いと心 を開きやすく、相談しやすいこともあることから、感覚的にも近い若年相談員を登用することも検討する必要がある。ただし、相談業務等に関する研修を十分行うことが必要であるとともに、経験豊富な相談員によるサポートの体制を確保することが必要である。
○ 相談時間は、子どもからの相談が多数あることを考慮すると、夜間や土日も受け付けることが望ましい。また、このほか、FAXやインターネットでの相談、フリーダイヤル、留守電機能、携帯電話からのメール受信などについても検討するなど、いつでも気軽に相談しやすい体制を確保する必要がある。
(5)事務局体制
○ 子どもの権利擁護委員や調査専門員、相談員の救済機関の活動を支える業務を行うため、事務局を設置する。
○ 事務局についても、救済機関の公平・中立性を確保するため、子どもに関わる機関や子どもに関する施策を担当する部局ではなく、人権施策を総合的に所掌する部局に置くことが望ましい。
6 制度の導入にあたって留意すべき事項
(1)県民の理解と協力
○ 児童虐待や体罰、児童買春などのように、本来子どもの権利を擁護すべき大人が子どもの権利を侵害している現状を見ると、すべての県民が、子どもの健全な成長と権利擁護について改めて考えていく機会をもつことが重要と思われる。このため、県は、市町村、学校、保育所、幼稚園やPTAその他の関係団体と連携して、子どもの権利擁護を考える機会を数多く提供していく必要がある。
また、子どもアンケート調査でも、子どもの権利条約の認知度や子ども自身が権利について考えることも少ないことが伺える。このため、子どもに対して、家庭、学校や地域社会の中で、あらゆる機会を通じて、子どもの権利と責任について学習できる機会を提供していく必要がある。
○ さらに、救済機関の活動を理解し、協力してもらえるように、県民や子ども、関係機関に対して、救済機関の制度を広くPRしていく必要がある。
(2)他機関との連携
○ 既存の相談窓口が多数ある中で、これらの窓口との連携をどのように行うかが課題となる。相談内容に合った適切な相談機関を紹介し、あるいは他相談機関から紹介を受ける場合も想定されるため、子どもの人権侵害事案に関する情報交換や意見交換を行うなど、常に他の相談窓口との連携を図る必要がある。
○ 児童虐待や犯罪の被害に関係する通告、事案など緊急保護を要するようなケースについては、児童相談所や警察等の機関に引き継ぐなど、関係機関との連携を図っていかなければならない。
○ 救済機関の活動だけで、子どもの権利擁護を図っていけるものではないため、救済機関の活動に当たっては、国、県、市町村の機関ほか、子どもの権利擁護に取り組む民間団体等との連携を図っていく必要がある。
(3)市町村との連携
○ 子どもアンケート調査でも、子ども自身が直接会って相談したいのは、自分が住んでいる町であることから、基本的には、子どもに最も身近な家庭、学校、地域、市町村の機関において、権利侵害の予防と発見、相談などの対応が適切に行われるべきである。その上で、市町村段階においても、当委員会で提言する救済機関が設置されることが望ましい。
○ 児童虐待の問題で市町村段階のネットワークが整備されつつあるが、子どもの権利擁護についても、今後、市町村段階において保育所、児童館、小中学校、医療機関などや児童委員、青少年補導員、法務省子どもの人権専門委員等と連携し、地域の実情に応じた適切な対応を取れる体制づくりに取り組むことが求められている。このことは、救済機関で取扱ったケースのアフターケアの方法を確保するうえでも重要である。この上で、県の救済機関と相互に連携を図った活動をしていくことにより、地域レベルでの子どもの権利擁護が図られていくものと思われる。
おわりに
○ 当委員会は、「子どもの権利救済機関のあり方」について、以上のとおり提言を行うものである。子どもの権利擁護は緊急の課題であり、救済機関が今後果たす役割は大きいものと思われる。当委員会としては、当報告書に基づく方向で早い時期に救済機関を設置されることを望むものである。
○ なお、「子どもの権利救済機関」は、子どもの権利擁護やそれに取り組む救済機関の活動に理解を示す県民の皆様や関係機関に支えられて初めて、実効ある取組みができるものである。このためにも、救済機関は常に情報の公開に努め、県民からの意見を真摯に受けとめていく必要があると考える。
○ 最後に、子どもの生活が家庭、学校、地域、施設など多方面に渡っていることを考慮すると、救済機関の設置、運営に当たっては、福祉分野と教育分野等との連携が必須であり、この制度の核心であると認識した。
当委員会としては、今後も継続的に福祉分野と教育分野等との積極的な連携を強く望むものである。
関係する行政機関やすべての県民の皆様の御理解と御協力をお願いするものである。