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ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン   Ludwig van Beethoven ( 1770 - 1827 ) ドイツ

「 遥かな恋人に Op.98 」   
      

An die ferne Geliebte  
     

詩: アロイス・ヤイテレス


丘の上に登って座り

 丘の上に登って座り、青い雲を見つめ、
 遠くの牧場、愛する君と始めて会った場所を探すのだ。
 君から遠く離れて、僕らの間には山や谷があり、
 それが我々二人を、二人の安らぎや幸せや悲しみをも
 引き離している。
 ああ、君を求める僕のまなざしに君は気付かない
 そしてため息も、この隔たりでは消えてしまうだろう
 君のところへ届くものは何も、愛の便りになるものはないのだろうか。
 この嘆きを僕は歌おう、何故なら愛を歌う声は、
 この遠い隔たりで消えることがないのだ、
 そして君を愛する心は、こころから大事にしているものを
 かなえてくれるだろう。


Auf dem Hügel sitz ich spähend



そこでは、山々が青く

 そこでは、山々が青く灰色の霧の中から
 そびえ、見下ろしている、
 太陽の光が消え入るところ、
 雲が集まっているところ
 そこへどうしても行きたい。
 そこへどうしても行きたい。
 静かな谷があり、悲しみや苦しみは静まり
 岩の間に静かに桜草が憩い、
 風がたおやかに吹く、
 そこへどうしても行きたい。
 そこへどうしても行きたい。
 ここからもの悲しい森へと
 愛の情熱やこの心の苦しみは、この心の苦しみは、
 僕を追い立てようとする。
 ああ,私をここから連れ去るものなどありはしない
 いつまでも君の傍にいたいのだ。愛する人よ、


Wo die Berge so blau



空高く飛ぶ雲よ

 空高く飛ぶ雲よ、小さい小川よ、
 愛する人を探し出して
 何千という僕の挨拶の言葉を伝えておくれ。
 雲よ、彼女の後を追い
 静かな谷間で憩う彼女の前に
 神々しい空のもとで
 僕の姿が見えるようにしておくれ。
 もう秋の葉の落ちかけた繁みの傍で
 私がどうしているか、この悲しみを
 鳥達よ、彼女に伝えてくれ。
 心和ませる西風よ、やさしいそよかぜで
 僕の変わらぬ気持と、
 最後の太陽の光のように消えようとしている
 ため息を伝えてくれ。
 僕の愛の望みをささやいてくれ、小さい小川よ、
 さざなみの間に僕の数知れぬ涙が
 流れていることを彼女に話しておくれ。


Leichte Segler in den Höhen



高みにいる雲や、にぎやかな鳥達よ

 高みにいる雲や、にぎやかな鳥達よ
 君たちは、僕の愛する君を
 眼にすることが出来るだろう
 私もあの空へ上りたい。
 西風が君の頬や胸に戯れるように吹き
 絹のような巻毛をゆれ動かし
 僕も君といて一緒にその喜びを感じたい。
 向こうの丘から、君のところへ急ぐ小川よ、
 彼女の姿が水面に写ったなら
 遅れず、それを僕のところへ持ってきておくれ。


Diese Wolken in den Höhen,Dieser Vöglein muntrer Zug



五月がきて、牧場は繁り

 五月がきて、牧場は繁り
 そよ風がやさしく暖かく吹いて
 小川は音を立てて流れる。
 ツバメは、ねぐらの屋根へ帰ってきて
 花嫁を迎える部屋つくりにいそしんでいる。
 そこには愛が住みつくのだ
 そこには愛が住みつくのだ
 色々な所から運んできたものを新婚の寝床に並べ
 又生まれる子供達への準備をもしている
 結ばれたつがいは信じ合って暮らすだろう。
 冬が別れ別れにしていたものを、春が結びつけた。
 春は愛するもの達を結びつけるすべを知っている。
 五月がきて、牧場は繁り
 そよ風がやさしく暖かく吹いているが
 僕だけはここから動くことはない。
 春が愛し合っている全てを結びつけているというのに、
 僕達の愛には春は来ない
 そしてあるものは涙のみ
 そしてあるものは、そうだ、あるものは涙のみ


Es kehret der Maien,es blühet die Au



さあ愛する君よ

 さあ愛する君よ、
 以前に歌ったこの歌を受け取っておくれ。
 夕方、リュートの甘い伴奏に合わせて
 もう一度歌っておくれ。
 赤い夕陽が静かな青い湖に向って射して行き、
 そして最後の光がかなたの山の高みに消える頃に
 そう、君は歌う、
 僕が歌っていた、なんの飾りもない
 心の中からほとばしる、ただ憧れだけがこめられた歌を。
 そして、この歌で、我々を隔てる邪魔物を消してしまおう
 そして君を愛する心は、こころから大事にしているものを
 かなえてくれるだろう。
 そして君を愛する心は、こころから大事にしているものを
 かなえてくれるだろう。


Es Nimm sie hin denn,diese Lieder




ベートーベンの「遥かな恋人に」の詩はビーダーマイヤー風というのか、ロマン派の大詩人達と比べると素朴で、私も下手な訳を作ってみて恥ずかしくなるようなものです。ベートーベンのいわゆる「不滅の恋人」にたいする憧憬をぴったり表現している内容であったにしても、どうして、彼がこのような素朴な詩に惹かれたのか、作曲当時の彼の年齢からしても、私にはわからないところがあります。
しかし、もちろんこれは、ベートーベンの作った歌曲の最上のものの一つであり、この曲と後期の作品101のピアノソナタとの関係もよくいわれている。
この曲が、シューマンを限りなく魅了した事も付け加える必要があるでしょう。(ご存知の通り、ピアノのための「幻想曲」、弦楽四重奏2番等を始めとして自作に、この歌曲のテーマの引用がたくさんある)
ここではベートーベンは寡黙でp(ピアノ)で語ることが多いけれど、第1、第2曲は本当にすばらしい。それにまた各歌の簡単なつなぎが素敵です。
この曲は歌手にとっては見せ所がないだけに難しいものでしょう。有名な割には演奏されない曲という感じがします。さて、私の聞いた演奏は以下の5種、
1. フィッシャーディースカウとデムス(DG)
2. ヘルマン・プライとレナード・ホカンソン(Philips)
3.トマス・ハンプソンとジェフリー・パーソンズ(EMI、1993年のエジンバラ音楽祭でのリサイタルのライブ録音)
4.イリス・フェルミリオンとペーター・シュタム(CPO)
5.ペーター・シュライヤーとアンドラーシュ・シフ(DECCA)

始めて知ったこの曲の演奏がフィッシャーディースカウとデムスによるものなので、それが私の頭に刷り込まれています。
それ以外では、ヘルマン・プライを選びます。彼の明るい声には向かない曲の様に見えますが、これは若者の歌 なのです。
(稲傘武雄)99.7/22

以前作成したこの歌曲の詩の訳を使いたいと言う方がおられまして、内容を見直しました。恥ずかしいことにいくつか間違いが見つかり、今回訂正をしました。(稲傘武雄、2003.9.11)

( 2003.09.11 稲傘武雄 )


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