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フランツ・シューベルト   Franz Peter Schubert ( 1797 - 1828 ) オーストリア

「 ズライカT(東風) 」   
      

Suleika I  
     

詩: ヴィレマー(Marianne von Willemer)


この風のそよぎは何を告げようとしているのでしょう
東風がうれしい便りを運んできてくれたのでしょうか
風の翼のさわやかな羽ばたきは
わたしの深い心の傷をいやしてくれます

風は道の砂埃をやさしく撫でて戯れながら
小さな雲のようにほこりを舞い上げたり
飛び回る小さな虫たちの群れを
安全なブドウ畑の葉陰へと吹き寄せたりしています

そのそよぎは強い日差しをおだやかに鎮め
わたしのほてった頬をさましてくれます
それは野や丘で豊かに実るぶどうの房に
軽やかに口づけしながら吹き過ぎてゆきます

そしてそよ風のやさしいささやきは
あの人の千ものことづてを運んでくれるのです
この丘が暗くなってしまうまでに
千もの口づけがわたしに命を与えてくれるでしょう

さあ、そよ風よ、もう先に吹いてゆきなさい!
今度は他の友や悲しみに沈む人を慰めてあげて
高い壁に夕陽の輝きがまだ残るあの場所で
わたしはもうすぐ愛する人に逢えるのだから

ああ! 本当の心のつながりと
愛の息吹と、生き生きとした命は
あの人の口づけだけが、あの人の息吹だけが
わたしに与えることができるのです




ゲーテの恋人マリアンネの作で、ゲーテが自分の詩集に自作として収めたため、長くゲーテの傑作として親しまれていました。全く無名の女性がゲーテの諸傑作に勝るとも劣らない詩作を残した経緯は高橋健二著『ゲーテ相愛の詩人マリアンネ』(岩波書店)で詳しく述べられています。 「ズライカ」とはイスラム文学のなかでもっとも美しく才智あふれる女性の意です。

シューベルトの作曲は彼のリートの中でもひときわ優れたもののひとつ。美しい旋律と詩に即した自然な高揚と陶酔と。歌は 名曲だけにたくさんあり、手元にもシュヴァルツコップ、ベイカー、ヤノヴィッツ、プライス、アメリンク、オジェ、ギーベルなどがましたが、みずみず しく決して過剰にならずにしかも熱く高揚するアメリンクが理想的と思いました(フィリップス)。ボニーや白井さんでも聴いてみたいものです。他にメンデルスゾーンの作もあり、これはボニーが録音しています。

( 2002.12.30 甲斐貴也 )


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