最近は、一昔前のように手形のパクリ(資金繰りに困っている個人や会社に融資を持ちかけ、取立には回さないと言って手形を騙し取り、これを種に現金などを脅し取るなどの事案)は、不景気であるにもかかわらず余り聞かなくなりました。金融機関やパクリの被害に合う方が賢明になったのであれば、結構なことです。しかし、現在でも受取手形の盗難、紛失は散見されます。その時、受取手形の所持人であった人や会社にとって手形金を受け取れるかどうかは、事業を継続できるか否かの分かれ目になるくらい、大変な事態になることも珍しくありません。以下は実際にあった受取手形数枚で、金額合計5,000万円相当を盗難に合い、善意を装った第三者から取立訴訟まで提起されながら、適切な対処をしたため、殆どの手形金を受け取ることが出来た事案を参考に同種事案で損害が発生しないことを願って、その対処法を参考に供するものです。
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受取手形数枚を盗難に合いました。取りあえず、どうすればよいでしょうか |
犯人が、現金や物品だけを目的で盗んだ物にたまたま受取手形が含まれていたもので、自分には手に負えないと考えて取立などに回すことなく、遺棄してしまうという事案も結構あり、そういうケースなら、先ず、心配いりません。公示催告を申立、除権判決を得れば、手形なくして取り立てできます。
しかし、手形そのものを目的で窃取したような犯人は、盗んだ手形を自己のために利益になるように悪用します。つまり、犯人が手形の取立に自分自身の名前を出すことをしないで、善意を装った第三者が取立に回す手口が通常です。被害者が何も対抗手段を取らないで手形振出人がその決済に応じたりすれば、手形金を被害者が手にすることは大変困難になります。
被害者は、先ず、窃取された手形は善意を名乗る第三者から、取立に回されると考えて手を打つべきです。
そこで、第一にしなければならないことは、警察に被害届を提出するとともに、同時に手形振出人から、取引銀行に事故届を提出してもらい、手形決済に応じないよう依頼することです。
次に公示催告の手続をして、万一手形は取立に回らず、しかし、被害者には手形が取り戻せないことに備えて、手形なくしても権利行使が出来るよう、手だてを講ずるべきです。
警察に被害届を提出し、それで犯人が手元にまだ、手形を持っている間に逮捕されれば、手形も無事、被害者に返ってくることになりますが、そんな事例は先ず、滅多にありません。さらに、これは法律的には殆ど意味はありませんが、盗難手形の善意取得者が出ることを防ぐために新聞等に手形の盗難広告を出すことです(盗難広告を出したからと言って、その後の手形取得者が悪意になるわけではないと言う意味で、盗難広告は余り効果はありません。)。
| 事故届の提出 |
事故届の提出が出来るのは、通常、盗難手形の振出人に限られますから、振出人でない手形の受取人である被害者としては、一刻も早く振出人に依頼して事故届を提出してもらわなくてはなりません。
事故届を提出するときには、警察からの被害届を提出したという受理証明をもらって添付することが必要です。
事故届が提出されると支払銀行は振出人の支払委託の取消があったものとして、その後の支払を拒絶します。
そして、支払銀行は、盗難を理由に手形を持ち出し銀行に返還し、第二号不渡届を手形交換所に提出します(第二号不渡届とは、手形交換所規則で定めているもので、「資金不足」「取引なし」以外の事由による不渡届のことです。)。
盗難を理由とする不渡の場合、支払銀行が手形金額相当の異議申立提供金を手形交換所に提供することによって、取引停止処分は行われません。この異議申立提供金は支払銀行が振出人に提供させるのが通常なので、場合によっては、被害者がこれを提供し、これを振出人が支払銀行に提供することもよく見受けられます。
もちろん、この異議申立提供金は、当該盗難にあった手形の所持人への支払が認められないと裁判等で明らかになった時点で、手形交換所から、支払銀行に、支払銀行から、振出人に返還されます(手形交換所規則によれば、異議申立提供金の返還について、「当該手形の支払義務のないことが裁判(調停、裁判上の和解等確定判決と同一の効力を有するものを含む。)により確定した場合」と規定されていますので、和解や調停のときは、当該手形が支払義務のないものであることを和解条項や調停条項で明確にしておかないと、返還請求するとき、支払銀行や手形交換所からスムースに返還されないことがあります。)。
| 公示催告による除権判決 |
手形(ここまでもそうですが、手形と言うときは、通常流通している約束手形を指します。)は有価証券ですから、その権利を行使するためには手形を所持している必要があります。したがって、手形を窃取されて所持していなければ権利行使が出来ません。また、盗難にあった手形が善意の第三者に取得されて、盗難の被害者は手形上の権利を失うことになる可能性もあります。
そこで、喪失(盗難、紛失、滅失)した手形を無効とし、手形を喪失した人が手形を所持することなく権利行使をするための手段を必要とします。
これが公示催告による除権判決の制度です。
除権判決があれば、喪失した手形は無効になり、喪失者は手形なくして権利行使が出来るようになりますし、以後善意取得はあり得ないことになります。
窃取された手形であっても所在が明らかであれば、所持人に対して引き渡しを求めるべきで、公示催告の申立は出来ません。しかし、窃取された手形の所在が明らかで、所持人も分かっていると言うことは先ず、ありませんから、公示催告の上、除権判決を求めることになります。
公示催告の申立は、手形の支払地を管轄する簡易裁判所の専属管轄です。公示催告の期間は6か月以上とされていますが、官報に掲載することが必要で、そのためにもある程度日数が必要ですから、結局、申立をしてから、除権判決を得るまで通常、7ないし8か月は要することになります。
公示催告期間中に手形所持人が現れ、権利を主張して振出人や裏書人に請求してくれば、これら関係者間で権利の存否が争われることになります。
| 善意取得を装う第三者から、振出人や裏書人が手形の支払い請求をされた場合 |
本稿の参考にしている事件では、盗難手形を所持する3人から、先ず、被害者に任意で支払い請求があり、うち、1人は盗難の事情を詳細、具体的に説明したところ、請求を取りやめて手形は任意で返還されたましたが、後2人は盗難手形に被害者の裏書があったところから(これは偽造裏書)、振出人あるいは振出人と被害者を相手に訴訟を提起してきました。
いずれも手形訴訟においては、当然、所持人が勝訴したので、被害者側から申し立てて通常訴訟に移行し、1人に対しては、完全勝訴、他の1人とは被害者に有利な内容で和解がなされました。また、他の1通については、振出人が一旦は、事故届まで提出しておきながら、期日に取立に回ってきた際、事故届を撤回して支払に応じたので、支払の無効を争ったが、これは敗訴しました。
任意で支払い請求があった時点から、手形所持人との交渉状況の会話をすべて、隠し取りで録音しましたが、訴訟になってから、この録音は所持人の悪意を立証する間接証拠として大きく役立ちました。
また、盗難被害直後、所轄警察署には被害届を提出しましたが、2、3か月は熱意を持って捜査しているようでしたが、犯人の可能性の高い人物が事件後4か月くらいして、所在不明になったこともあって、その後は捜査が行われている風には見えません。
また、裏書は、犯人の偽造と考えられたので、検察庁に告訴しましたが、被害者からの事情聴取もなく、すぐに中止処分に付され、以後こちらも捜査がなされているとは考えられず、もちろん、警察からも検察庁からもなんの説明もなく(法的に明確な説明義務がないことは分かりますが)、捜査機関の対応には、全く信頼感を失いました。
手形所持人が善意取得によって権利行使つまり支払い請求が認められるためには、取得者が手形を取得する際に善意で重過失がなかったことが必要です。手形取得者の悪意あるいは重過失は、これを否定する者において、悪意、重過失を主張立証することとされていますので、実務上、被害者の主張立証責任は重く、先ず、盗難手形において善意取得を名乗る者から、支払い請求があると、これを裁判上否定することは相当に困難です。
判例上、重過失が認められた事例は、譲渡人がその手形を所持していることに疑念を抱くべき事情があるのに、入手状況等などなにも調査することなく漫然と手形を取得したような事案となっています。
本件においては、幸いというか、窃盗犯人が被害者である株式会社の裏書を手書きで偽造していたこと(通常、株式会社が手形面上の記載を手書きですることは異常というのが判例)、善意取得を名乗る所持人が金融業者で手形割引をも業務としていたこと、盗難手形の振出人会社は広島では、信頼のある会社であったから、その割引は銀行等でも簡単にできることなどに加え、上記録音した会話状況で、被害者を脅しつけて支払い請求していることが伺えることなどを立証できたので、被害者が全面勝訴あるいは有利な和解で被害者は殆ど損害を蒙らないで済みました。
| 振出人が事故届を提出したのに、これを撤回して支払をした場合 |
本件で参考にしている事件では、盗難にあった手形の内、1通につき、振出人は一旦、事故届を提出したのに手形が支払のため、取立に回ってくるや支払期日になって事故届を撤回して支払に応じてしまった。盗難被害者つまり手形の受取人としては、振出人から、工事代金の支払いのため、振りされたものであったから、この支払いを有効とすると自己の工事代金は受け取れなくなってしまう、しかもこの手形は、金額1,600万円であったから、会社の存立さえ揺るがしかねない事態になってしまいました。
盗難被害者としては、その手形が取立に回されたことを知ってから、多数回、振出人に盗難の事実を説明し、決済されたときの自社の窮状を十分説明しましたが、この時の取引が初めての取引であったこともあり、なぜか振出人は、被害者の依頼に応じないで決済してしまいました。
そこで、被害者は、手形決済の無効を理由に支払い請求の訴訟を提起したが、結局、敗訴に終わりました。
盗難被害者に分かっていた事実は次のような程度のものでありました。
つまり、手形を取立に回した者は、被害者とも面識があり、窃盗犯人と考えられる被害者と取引のあった者とも面識があって、金銭の貸借関係があったらしいこと、手形の裏書は、被害者名義の裏書が偽造され、その後の裏書人は、窃盗犯人、次いで取立に回した者の裏書がなされていて、裏書は連続していました。被害者としては、振出人に、取立人は窃盗犯人とぐるであり、真の権利者ではないから決済しないようにと懇願もした。被害者は、訴訟において、振出人は、被害者から聞くなどして、取立人が悪意の手形取得者であることを知っていたか、被害者の説明、懇願にも係わらず、注意を欠いて悪意で無権利者であることに気がつかなかった、取立人が善意でないことについては、その資金状態なども含めて、その取引銀行などに聞けば簡単に分かり、その証拠も簡単に入手できた筈であるなどと主張しました。
手形の支払が無効となるのは、手形法77条1項3号が準用する40条3項により、「満期において、支払をする者は、悪意または重大な過失のある限り」その責めを免れないとされています。ここにいう悪意または重大な過失について、判例は、手形所持人の無権利者であることを知っているだけでは足りず、更に、それを立証し得べき容易にして確実な証拠方法をも知っているとか、僅かな注意を払ったならば、手形所持人の無権利についての認識及びそれを容易に立証し得る証拠方法を確実に入手することを得たと思われるのに、その注意を欠いた場合を言うとしています。
本件では、所持人つまり取立人の無権利であることについては、相当程度立証に成功しましたが、そのことについて、容易確実な証拠を入手することについては、遂に立証は成功といえるほどにはなりませんでした。結局、その点で盗難被害者は敗訴し、売掛金の回収は不可能になってしまいました。仮に振出人が決済に応じなかったら、本件具体的事実のもとにおいては、所持人が訴訟を提起することは考えられないので、盗難被害者が損害を受けることはなかったと思われるし、仮に所持人が取立訴訟を提起しても、これに対してはかなり容易に勝訴し得たと思われます。善意取得を装う所持人の取立訴訟に対抗するのと、支払った後で、この支払を無効にして、振出人から、再度の支払を命じる判決を取得するのとでは全く質的に難易度に違いがあります。
この訴訟から警告的に言えることは、盗難被害者としては、振出人の決済を押さえることができない以上、手形金の回収は先ず、諦めなければならないと言うことです。
最後に、手形のように流通性の高い、価値ある物については先ず、絶対と言って良いほど盗取されることを回避することに普段から極力注意することです。事務所の金庫などに手形は保管しないで、手にしたら即刻取引銀行に預けることです。
一度、盗難に合えば、よほど運が良くないと手形金は受け取れないと考えておくべきです。
| 手形事件の弁護士費用 |
手形・小切手訴訟事件についての広島弁護士会報酬等基準は次のとおりです。
| 着手金 | 報酬金 | |
| 〜300万円 | 4%(最低5万円) | 8% |
| 300万円〜3,000万円 | 2.5%+4.5万円 | 5%+9万円 |
| 3,000万円〜3億円 | 1.5%+34.5万円 | 3%+69万円 |
| 3億円〜 | 1%+184.5万円 | 2%+369万円 |
通常訴訟に移行したときの着手金は通常訴訟の着手金と上記表の着手金の差額、報酬金は、通常訴訟の場合に準ずると規定しています。
| 遺産分割事件の法的処理の動向 |
遺産相続事件で最も多いのは、遺産分割を巡っての争いである。
それは、相続に預か れるか、自分の相続するのは、どの財産で、他の相続人に比べて価格的に損をしてい
なかなど相続人間の利害が最も対立する場面であるからであろう。
戦後の民主教育、人権教育を受けた良くも悪くも権利意識の確立した世代が登場してくる相続人の殆どを占めるに至って、親子、兄弟、配偶者が亡くなったことに端を発する遺産相続であるのに遺産分割の場面になると、その悲しみなどは別な場所に置いて、熾烈とも言える争いになるのが多くの遺産分割事件の常である。
道徳観、価値観が現在とは異なった戦後間もないころは、遺産相続においても、それら道徳観などから、当事者間に争いがあっても、それが裁判所の門をくぐることは少なく、当事者間で一応の決着を見ていたものが、ここに来て法的に認められた手続つまり家庭裁判所の調停及び審判を利用する事件が増加の一途を辿っていることも、その証左である。
数字的に見ても、遺産分割事件の受理件数(全国)は、昭和41年には、調停が3312件、審判が617件であったのが、平成3年には、調停が7917件、審判が1584件といずれも25年間くらいで、優に2倍以上に増加している(法曹会・「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題」から)。
| 遺産相続事件の問題点 |
相続人が誰であるか、法定相続分の割合などは民法相続編で法定されている。したがって、通常の事件では、それらが争いの対象になることは先ず存しない。
するどく対立するのは、「遺言の有効無効」「遺産の範囲及び存否(特定の財産が相続財産か否か)」「特別受益つまり生前贈与の有無と価格」「寄与分の存否と価格」などである。
| 遺言の有効無効を巡る争い |
遺言、中でも自筆証書遺言の成立の真正つまり当該遺言が被相続人の作成にかかる物か否かあるいは被相続人の真意に基づく物か否かが争われるのは一応うなずけるとしても、公証人によって作成される「公正証書遺言」についても同様な争いが多いのは驚きである。
自筆証書遺言の場合は、被相続人つまり遺言者が死亡前、遺言書を作成したころ、病気、痴呆あるいは、そこまで行かないでも加齢による意思能力の減退など、遺言能力に問題があった場合、自己に不利益な遺言内容の相続人から、徹底的に争われる。
同様、公正証書遺言につても遺言者に遺言能力がなかった、被相続人以外の者の関与によって作成されたいう趣旨の争いが後を絶たたない。自筆証書遺言で遺言が偽物であるという争いの時は筆跡鑑定が行われたり、遺言能力が問題になれば、当時の病状を問題とし、関係した医師から事情を聞いたりするが、大体、これらがなされるころは被相続人死亡後あるいは問題となる事実関係から相当に時間を経過していることもあって、多くの場合は決定的に事の真相を見いだすことは困難なのが実状である。
したがって、遺言が存するときは、これを覆そうとする方が大抵は不利である。
特に遺産分割調停の申立をして、調停の席上、公正証書遺言の成立を争う方では、そのような問題持ち出して自己の主張を有利にしようとしているのかも知れないが、相手方において、これを容認して話を進めるようなことは通常あり得ず、調停は暗礁に乗り上げて、時間の無駄になるだけある。
どうしても、遺言の成立を争いたいのであれば、訴訟で解決してくるか、調停を不調にして審判で行くしか他に争いを解決する方法はない。
| 遺産の範囲、特定の財産が遺産に含まれるか否かの争い |
遺産の範囲、特定の財産が遺産に含まれるのか否かが問題になるのは、特別受益とも関 係するが、実務に表れるのは、被相続人が特定の不動産などを特定の相続人に相続させ たいため、生前、時価よりも相当廉価で売却した外形を作出している場合などである。
この場合、その不動産の客観的価格、廉売した価格が分かれば、その差額分を生前贈与 、特別受益として取り扱い、他の相続人の利益を保護することはある程度可能であるが 、なにしろ、他の相続人が関与しないところで行われたもので、実際の価格を証拠を以 て立証することは困難であり、特定の相続人が不当に利益を受ける可能性が強い。
また、数次相続でAを被相続人とする相続があり、長期間後にその子Bを相続人とする相続が開始して遺産分割で争いになったとき、A名義のままの不動産が残っているような 事例が未だに農村部などでは珍しくないが、Bの遺産分割において、直ちにBの遺産としては扱えず、正確な権利関係を確定するのは大変で、このような財産がある調停事件では、その取扱いに苦慮することが時々存する
| 特別受益と寄与分 |
学資、結婚費用、マイホームの購入などで、特定の相続人は他の相続人に比し、特に利益を得ているので遺産分割においては、これは考慮してほしいとか、特定の相続人が自分は遺産の形成に関して、他の相続人とは比べ物にならない貢献をしているから、これを遺産分割において考慮しほしいというな主張は、遺産分割調停においてはなされないことが珍しいくらいである。
しかし、これを証拠で認定することになると全くといって良いほど具体的に証拠で認定できるような事案は無いと言っても過言ではない。もともと、明白な事実であれば、争いにはなろないであろう。
| その回避策(予防的意味の回避策) |
大抵の相続争いは、遺言があっても、成立に争いがなく、具体性に欠けるところがない遺言が存しないから、紛争になる事例が多いと思われる。したがって、相続開始前の紛争防止策としては、具体性のある遺言を成立の申請にも配慮しながら、作成しておくことであろう。
つまり、遺言の方式については、公正証書遺言により、しかも公正証書遺言の場合は、その作成に公証人が関与するので、具体性についても後見的アドバイスが期待できるので、そのメリットは紛争を予防するのに多いに役立つと思われる。
| 公正証書遺言の作成方法と効果、作成費用 |
公正証書作成の手続
遺言を望む人が、公証人役場の公証人に遺言公正証書作成の嘱託を申し出ます。
申出 人は、本人証明のための印鑑証明と実印、その他戸籍謄本遺言の目的に不動産があれば 、その登記簿謄本などを用意して公証人役場に出向きます。なお、公証人の手数料を計 算するため、目的不動産の固定資産課税証明書の提出を求められることもあります。
公正証書遺言をするには、成人の証人二人が必要ですが、嘱託人の方で用意できなけれ ば公証人役場において紹介してくれます(しかし、公正証書遺言の成立が争われるとき は、大体、この証人が公証人役場で依頼した遺言者には全く関係ない人のことが多く、 後の争いを予防する意味で、証人は遺言相手方(相続人ら)が信頼をおいている人にす れば多くの争いは防げると思います。ただ、遺言の段階から、相続人間に対立があるよ うな場合はこれは、困難かもしれませんが、できるだけ、そのように努めるべきです。 )。
公証人は、証人二人の立会のもとで遺言者の口授に基づいて遺言の趣旨を了解し、 これを公正証書上に記載します。公正証書の内容は、遺言者及び証人に読んで聞かせ、 遺言者、証人がまちがいないと言えば各自署名押印します。作成された遺言公正証書は 原本は、公証人役場に、遺言者には、正本、謄本各1通が交付されます(作成後は、通 常は正本は、遺言者が、謄本は、主な財産を与えられることになる相続人または受遺者 、遺言執行者を指定した場合は遺言執行者が保管する例が多いようです。)。
なお、相続人、その承継人、代理人または利害関係人は、遺言の効力発生後、当該遺言 公正証書を保管している公証人役場において、その閲覧または謄本の交付の請求が出来 ます。
遺言公正証書作成手数料
作成料は、相続財産及び遺贈する財産の合計額と相続人、受遺者の人数で決まります。 例えば、総額1億円の財産を配偶者に6,000万円、子供1人に4,000万円相続 させるという遺言の場合は、妻と子供二人分で合計8万3,000円になります。
なお、公証人役場は、広島市の場合、広島市中区中町7ー41三栄ビル9階に広島合同 公証役場があり、電話は082−247−7276です。
| 相続関係事件の弁護士費用 |
広島弁護士会報酬等基準では、相続関係事件についての規定は、遺言書作成と遺言執行しか具体的規定はありません。
遺言書作成については、定型のもの10万円〜20万円とされ、非定型的なものについては、経済的利益によって、段階的に費用額が定めれられていますが、それによりますと、例えば、経済的利益が3,000万円〜3億円については、0.3%+38万円とされております。
遺言執行については、基本として、経済的利益が3,000万円〜3億円の場合、1%+54万円とされています。その他調停、審判、訴訟については、それぞれの規定が別に定めてありますので、これが適用されることになります。
多数相続人の利害を調整して遺産分割協議を成立させる等の事務は、示談交渉事件として、基準の民事事件の示談交渉事件の規定が適用されて、着手金も報酬金も通常の訴訟事件の場合の3分の2になります。
例えば、遺産額3,000万円〜3億円の相続につき、遺産分割を纏めれば、着手金2%+46万円、報酬金4%+92万円となりますが、特に相続事件には、遺産分割の前提、あるいは後始末としての事務が複雑多岐に渡りますので、依頼者と弁護士がよく話し合って決める必要があります。
| はじめに |
宅地、農地、山林、原野の境界をめぐる紛争は、いつの世にも存在します。田舎などに行けば数代続いて隣家同士で紛争があり、なにかあるごとにこれが頭をもたげ、場合によっては、血の雨が降ることも珍しいことではありません。
また、サラリーマンがローンでやっとマイホームを購入したところ、隣家あるいは公道との境界に所有者同士争いが存する土地で購入後困ったことになったなどという例も珍しくありません。
念のため、「境界」は、法律家は「けいかい」と読みます。意味さえ間違っていなければ、読み方などどうでもよいではないかという人も多いかと思います。私もそちらの方ですが、法律家というのは、こういうことを重要に考える人が多いと思います。
だから、「相殺」を「そうさつ」と読んだりすると軽蔑される風潮が今でもあるようです。しかし、平成7年刑法が口語体に改正されるまでは、同法には「止ダ」という用語が45条にあり、「ただ」と読ませていました。
これなどは、立法者が間違えたのではないかと思いますが、ひどい例です。。脱線しましたが、境界紛争は、土地の物理的種類とは、別に公有地、私有地という区別もあります。
通常、道路や河川は公有地ですが、その公有地と私有地の境界が問題となることもよくあります。
特に、道路法や河川法の適用のない道路や河川は、法定外公共物と呼ばれ、国有地と されて、財産管理は国、用法管理は委任された都道府県とされていますが、法に規定が整備されていないだけに、争いも多く、裁判で決着を付ける場合も厄介な代物です。当ホームページでは、何回かにわたって、境界紛争を取り上げようと考えていますので、日常見かける紛争は、大体網羅的に取り上げます。
| 法律上のと地の境界の意味 |
土地には、1筆ごとに地番が付されることになっています。したがって、土地の個数は、筆個数で数えます。
つまり、一つの土地とは、1筆の土地のことです。土地の境 界は、「ある地番を付された土地と、隣接する別の地番を付された土地を区分する公法上の線」ということになります。線ですから、長さはあっても、幅はありません。
分合筆のあった土地は別ですが、そうでない土地は、国が明治時代の地租改正の時、定めた筆界が今でも土地の境界であり、それは観念的存在です。
なぜなら、各土地の筆界に目に見える形で線が引かれているわけではありませんし、家屋敷の塀なども線ではありませんし、塀が必ずしも境界と一致しているとは限らないからです。
そのように境界は、公法上の土地を区分する線で抽象的なものですから、一度決定された筆界が動くと言うことはありません。
| 所有権の範囲と境界 |
以上のように公法上の境界は、目に見えない物ですから、隣接する土地の公法上の境界と所有者同士が境界と考えている線が異なれば、その土地については、公法上の境界と私権である土地所有権の境とが別になることがあり得ます。特に土地についても取得時効の制度の適用がありますから、隣接する土地の境界が公法上の線と所有権の及ぶ範囲としての限界の線が別異になることはまま、あります。通常、土地の境界を争う訴訟は、境界確定訴訟として争われます。しかし、名目はそうであっても、現実の争いは結局、隣地所有者間の所有権の及ぶ範囲を定めてもらうのが目的ということであれば、公法上の抽象的な線である境界を裁判で定めてみても当事者にとっては殆ど意味はありません。
そうすると土地の境界に争いがあるから、裁判で境界を決めてもらおう、それには境界確定訴訟だというわけには行かないのです。
本当に公法上の境界を争えば、紛争が解決するのか、そうではなくて、当事者間の所有権の及ぶ範囲を決しなければ終結しないのか(この場合は、所有権確認訴訟で争うことになります。)をよく検討する必要があります。そのように考えると純粋な境界確定訴訟は、私人間においては、殆どないのではないかと考えられます。
しかし、本来、公法上の境界は、私的土地所有権の境界と一致していたものですし、境界紛争がある場合、仮に所有権確認訴訟だけを起こすと、これは民事訴訟ですから裁判所は、当事者の申立に拘束されますし、あるいは所有権の範囲を証明できなければ証明責任に従って、請求は棄却されて境界は永久に確定されないことにもなりかねません。
それに比べ、境界確定訴訟は、公法上の境界を定めるものであり、公法上の存在ないし単位は私人の意思によって左右できない性質を持っていますから、形式上、民事訴訟手続によって争われますが、当事者の意思に拘束されず、客観的な立場から公平な境界を確定することが出来ます。
そのような意味からは、境界確定訴訟にも大きな意味があります。裁判所は、境界確定訴訟については、当事者の意思に拘束されない変わり、請求棄却はあり得ず、必ず、境界を確定する判決をしなければなりません。
| 境界確定ののための証拠 |
以上のように境界確定の訴訟においては、裁判所は必ず、境界線を決めなければなりませんが、誰が見ても納得するような境界線についての証拠があれば、もともと境界紛争などは起こりません。
つまり、境界について、先ず、確たる証拠などはないのが通常で、そうであるからこそ、深刻な紛争になるとも言えます。そこで、このような境界を認定する証拠として先ず、いわゆる「公図」が上げられます。
日常的には「公図」とは法務局に備え付けられているすべての地図を指すことが多いようですが、より正確には、「公図」とは、旧土地台帳付属地図をいいます。公図は、もともと明治6年の地租改正のころから、租税徴収の資料として作成され、その後、何回か測量を行って改正されて明治22年旧土地台帳付属地図となりました。
なお、その後も昭和35年の不動産登記法の改正までの間、国土調査による地積図等も旧土地台帳付属地図として登記所に備え付けられてきましたので、これらも含めた旧土地台帳のことを 公図と呼んでいます。
昭和35年の不動産登記法の改正で、土地台帳と土地登記簿を1元化しました。つまり、公図と登記簿の両方を法務局で管理することになりました。
この際、土地の形状と区画を公示するために地図を備え付けることになりました(不動産登記法17条、いわゆる17条地図といわれるもので、これは、現地復元性のある精度の高い物であることが要求されています。)。
しかし、17条地図は、全国的に整備されていないため、不動産取引の便宜と登記事務の円滑化のため、公図は地図に準ずる書面として取り扱われることになっており、当該地域を管轄する登記所において、無料で閲覧することが認められています。
なお、昭和35年以後登記所に送られてきた国土調査による地積図や土地改良・土地区画整理等の所在図は、17条地図とされているものが沢山あります。また、現地復元性とは、土地の形状が災害などで変化しても土地の位置、形状を復元できるもののことを言います。
この法17条地図は、高度の正確性を備えていますので、法17条地図の存在する土地のおける境界確定訴訟のおいては、その地図がいわば決定的な証拠となるといっても過言ではありません。
なお、公図と17条地図の正確性について、17条地図は定量的な面で、つまり、免責、距離、線の長さ、方位などについて正確ですが、公図は定量的な面では殆ど正確とは言えず、定性的な面では、つまり、里道、水路との位置関係、各筆のおよその位置関係、境界線のおよその形状など地形的事項については、かなり正確であるとされています。
なお、不動産登記簿には、地積欄があって当該土地の面積が記載されていますが、後に分合筆された場合は別として実測面積と公簿面積は一致しないのが通常です。
不動産登記簿の地積は、明治19年から、土地台帳の地積を書き写した物です。そして、土地台帳の地積は、地租改正時の測量つまり納税する側の国民が測量した結果に基づいていますが、測量する側の国民の側では地租を安くするため、過少申告しており、また、当時の測量技術の未熟も相まって不正確なものとなっていることはみなさんも聞いておられると思います。
それで、多くの場合、縄のびといって公簿面積より、実測面積の方が多くなると言うこともご存じと思います。
次に境界確定の基準として、境界確定裁判などで取り上げられるのは、「占有状況」「公簿面積と関係」「境界木または境界石」「尾根・崖・谷などの自然地形」「道路・山道」「林相・樹齢」などです。占有状況というのは、民法が186条1項で占有によって所有権を推定していますし、多くの場合は、占有つまり事実的支配と所有権とは一致するからです。
公簿面積というのは、A地、B地の境界に争いがあるとき、そ の公簿面積の比と実測面積の比が相当異なるときは、公簿面積そのものは信頼できないとしても、その比率は信頼できることから、実測面積を公簿面積の割合で配分した境を境界と考えようと言うもので、裁判例においても、この考えによって境界線を確定するケースがかなり、見受けられます。
尾根、崖、谷、道路、山道というのは、古来、それらが境界とされた事例が多く見られるので、争いがある境界をそれらでを参考に決めようと言う考え方ですし、林相、樹齢というのも山林の場合、異なる樹木の集団が隣り合っているときは、その境が境界、樹齢の異なる樹木の集団が隣り合っているときは、その境が境界と考えようと言うものです。
なお、境界確定訴訟においては「古老の話」が間接的に証拠となることがあります。
つまり相当高齢である人の記憶を境界確定の根拠にしようというもので、他の訴訟においては、殆ど信頼性がないとして省みられないものが本訴訟では重要な事実認定の役目を担うこともあるということで、考えてみれば不思議な気もします。
また、航空写真が境界確定の決め手になる事件もあります。
我が国においては、建設省国土地理院と林野庁が日本全土の航空写真を定期的に撮影しています。
主として都市部やその近接区域を国土地理院が撮影し、主として山間部を林野庁が撮影しています。国土地理院の担当地域の航空写真は、財団法人日本地図センター(東京都目黒区青葉台4丁目9番6号、電話03−485−5415)で、林野庁担当地域の航空写真は、日本林業技術協会空中写真室(東京都千代田区6番町7番地102、電話03−261−5281)に申し込めば入手できます。
なお、国土地理院の担当地域の航空写真は、国土地理院または国土地理院地方測量部(広島市の場合は、建設省国土地理院中国地方測量部(広島市中区上八丁堀6−30広島合同庁舎、電話082−221−9743))、林野庁担当地域のものは営林局または
その支局で、閲覧することが出来ます。
このように見てくると境界確定訴訟においては、決め手になる証拠というものは滅多にあるものではなく、事実認定の難しい事件であることはお分かり頂けると思います。
| 境界紛争(宅地)の予防 |
宅地は、他の地目に比べて、地価が高く狭い土地でも経済的価値が大きい、狭い地域に多数の土地が所在し、境界線が複雑で、関係する所有者数が多い、宅地の境界の異同は日常生活に直接関係する、というような特徴があるため、一旦、境界紛争が始まると、争いは熾烈で、関係者も多いことから、その解決には複雑な手続と長い時間が必要となります。
したがって、予め、紛争予防のため、つぎのような方法が考えられます。
測量(関係相隣者がすべて立会した上、正確な測量によって関係数量を把握し、測量図上の各境界点と現地の境界標とが合致するようにしておき、立会者全員の署名捺印を測量図にもらっておくこと。
次に方位や中心点が分かる方法で、ほぼ永久的に現状を保存できる境界標の設置。
さらに塀、側溝をもって境界とするときは、補助的に境界石標を設置したり、側溝であれば境界は、その中心線なのか、外測線なのかを明確にして隣地所有者の立会も得た上で証拠化しておくこと、擁壁の場合は、土地所有権がその上下に及ぶことから、擁壁の地下部分が隣地に入り込まないよう注意するべきです。
今回は土地の境界の紛争について一般的なことを取り上げましたが、次回更新からは 具体的境界紛争(民民(私有地対私有地、官民(公有地対私有地)を取り上げたいと思います。