来し方も行方も知らず呼子鳥
寄席はねて散りゆく足の音おぼろ
寝ねがての窓に朧の月仰ぐ
走馬燈子に頼るとは思うまじ
月下美人咲きて寝るには惜しき夜
白々と旅行カバンの中に冬
相馬灯亀追う兎追いつけず
顔出して金魚よ光り吸いたまえ
春障子影絵のきつねコンと鳴く
われにまだ童心ありて蝶を追う
涅槃西カッと睨んだ魚拓の眼
身の丈に育ち皮脱ぎそめし竹
緑陰の縁台で待つ心太
冬障子独り暮らしの意地通す
冬うらら昨夜の諍いなど忘れ
働けどはたらけどと言う年果つる
石榴の実はじけてルビーの紅覗く
草の実を背中につけて猫帰る
灯を消して稲妻走る部屋におり
子の便り繰り返し読む十三夜
灯を一つ消せば暑さが一つ消え
四方より迫るが如し秋の暮れ
木下闇いつもの場所に猫不在
「みずようかん」流れる如き菓子舗の字
夏富士を遙かに風の歩道橋
口開けて目薬差すや夏始め
四つ目垣越えてれんぎょう伸び盛り
冬うらら釣り糸たれて恙なし
ふるさとは紅葉の中の一軒家
短日になぜかせかせか厨事
注連かけてしばし安らぐ庭箒
石段を下り来る僧に花の雨
啓蟄のみみず大きく伸び縮み
戻り来る猫の背中に青時雨
早蕨の握りこぶしの産毛かな
ごわごわと奴凧めく宿浴衣
蛍呼ぶ声懐かしき里帰り
青田風田舎座敷を吹き抜ける
田のむこうむこうも田んぼ蛙鳴く
幼子の目にゴジラめく雲の峰
春の雪庭土ゆるむ兆しかな
振り返り帯ぽんと打つ初鏡
魚はねる音月見草開く音
稲刈りのややこは畦の籠の中
木の葉散るおとぎ話のように散る
菜箸でつつくおでんの煮え加減
永らえて去年の花野に逢いにゆく
画廊出て木犀匂う道をゆく
大根をまず試みるおでん通
秋の蚊をうちはらいつつ立ち話
障子入れ秋の一間となりにけり
足袋を脱ぐ仕草に色香まだ失せず
矢切越え野菊の墓のあたりまで
風鈴や記憶に淡き恋のあり
風鈴にほどよき風となりにけり