ポールが目が覚めた時には、妻子は既に起きていて先に支度をしていた。
妻と娘が、ポールに少し顔が膨れっ面で話し掛ける。
「やっと、起きた」
「遅いよ〜」
「起こしても起きないんだもん」
「ごめん、今何時?」
「9時」
「リンは、何時に起きたの?」
「私は6時」
「6時?!」
ポールは、娘の返事に驚いた表情をする。
娘のほうが先に目が覚めていたことにビックリしていた。
「だって、私先に寝てたもん」
「お母さんもそうだけど」
「起こしてくれれば、良かったのに」
「昨日の疲れがあると思って、起こすと悪いと思って」
「なるほど」
ポールは、頭を掻きながら返事をする。
3人は、支度をして出る準備を済ませた。
「それじゃあ、先に外に出ているね」
「お父さん、先に行ってるよ」
「分かったよ、すぐに下に行く」
妻も娘もウキウキしていて、ポールよりも先に下に降りて行った。
ポールは、バックの中の道具が揃っているのか確認した。
登山コースを、簡単なハイキングコースを選んでいた。
長い間、旅行を計画しては駄目になることが今までに多かった。
妻の体調が良い、タイミングを見て今回の旅行を決めていた。
正直、散歩に近いコースであっても念には念を入れて準備をしていた。
「大丈夫だ、何も起きない」
ポールは、自分に言い聞かせるように言葉を発した。
旅行に出かける前も、娘は妻を心配するポールの姿を見ていた。
それだけ、家族で支えあってきた。
準備を済ませるなり、ポールは部屋を出る。
すると何やら外がザワついているような、騒がしいことに気が付く。
ポールは特に気にも止めずに、ゆっくりとした足取りで下に向かった。
朝はペンションの廊下も暖かかった。
廊下の天井付近の窓から、空を見ることが出来たが。
霧が出ているようで、真っ白だった。
壁に備え付けられた窓があったので。
そこから窓を見ても、やはり霧が出ていて。
霧が邪魔をして、かすがに外の様子が見える程度だった。
ポールは霧を見て、心配そうな顔をしている。
妻が歩けるかどうかだった。
手をつないで歩かないと、危険かもしれないと感じた。
初心者に近いポールだったが、霧が登山に影響することは知識としてあった。
視界が遮られることで、足場が見えにくくなる。
妻が転倒でもしたら、危険だと感じた。
下に降りると、警察がペンションに来ていることに気がついた。
そして、受付の近くに椅子が置かれており警察が宿泊客の聴取を取っている。
その中の、自分と同じ年齢層の男性が警察と話をしている。
ポールは側で会話を聞いていたが、事態がまだ把握出来ず緊張している。
ニクソンという客と警察との聴取が始まっていた。
「あなたがニクソン?」
「ええ、そうです」
「警察の者ですが」
「少しの間、ご協力をお願いします」
「あなたは、いつからお出かけになっていました?」
「昨日の、お昼ごろからですね・・・」
「というと、昨日1日はここへは帰ってきていないんですね?」
「そうですね」
「昨日は、何か近くで気になったことはありませんでしたか?」
「気になったこと・・・?」
ポールは、聴取の内容を側で聞きながら近くにいるオーナーに話しかける。
「オーナー、何かあったんですか?」
「ええ、事故らしいけどね」
「事故?」
ポールが、少し寒気を感じた。
「一つ離れた山奥で」
「火事があったらしいんだ」
「それが、今事件性があるかもしれないって話でね」
「そういうことですか」
「でも、お客さん方を疑っているわけではないからご心配なく」
オーナーは、ポールにそう言い伝えて落ち着かせた。
この時、ポールには自分には関係のない話だと思い。
それほど気にはしていなかった。
「私も火事があったとしか聞いていないから、詳しく知らないんです」
「でも、この周辺の人間全員に聞き込んでるんですよ」
「私も早朝に下へ降りてきたら、すでに警察の方が入り口のドアをノックしていたから」
「お客さんからすれば、あまり良い気はしないですよね」
「それは、確かにそうですね」
「でも、それだけ丁寧に調べてるってことはそれだけこの町は安心なんですよ」
「細かく調べることが、ですか?」
「火事が起きても、聴取も取らずに現場の場所だけ言い伝えられたら不安でしょ?」
「どんな状況なのかを知れば気休めではないですが安心ですからね」
「警察側は、目撃者がいないかどうかを知りたいだけみたいですから」
「そうですか」
「ところで、他のご家族の方は・・・」
「あれ?」
「妻と娘が下に降りて行って」
「私も後を追いかけたところなんだけど」
「私は見てないけどね」
「見てない?」
ポールは、おかしな表情を見せる。
「ええ、奥さんとも今日はまだ顔を合わせていないよ」
「ただ、さっきはずっと外にいてね」
「車のバッテリーが上がってしまったお客さんがいて」
「ヘルプに入っていたから」
「たまたま、見ていないのかも」
「これから、出掛けるのかい?」
「そうです」
「車のほうにいるかも、行って来ます」
「奥さんが心配なら、この場は私が上手く彼らに伝えておくから」
「外に出て行って構わないよ」
オーナーは、ポールに気を遣ってそう伝える。
「そうですね、先に妻子の様子を見てきます」
「気をつけて、今日は霧が多い」
「ありがとう」
ポールは、ペンションからそ〜と出る。
車に着くと、左の助手席のドアが開いていたので。
妻と娘が先に乗っているものと思い。
中を覗いてみると、誰もいなかった。
ポールは、妙な胸騒ぎがした。
ただ、車上荒らしのような跡はなく。
妻と娘の姿はなかった。
それでも、助手席のドアが開いていることから。
娘が開けたのではないか、という想像だけは出来た。
たが、肝心の妻子の姿がない。
急いで、周りを見渡した。
そして、ポールは妻と娘の名前を大声で叫んだ。
でも、返事は返ってこない。
2人がいなくなったことに、寒気を感じた。
ポールは、急いでペンションに駆け込んだ。
「すいません、2人がいないんだ」
「いないって?」
「今、車を確認したんだけども」
「助手席のドアだけ開いていて、中には乗っていないんだ」
「もし、この山奥で遭難したら・・・」
「落ち着いて、要するに妻と娘さんがいないのかい?」
「そうだ!」
「どうしたらいい?」
オーナーは、さっきまでいた警察官の2人を呼びに行き。
ポールの事情を代わりに説明しに動いた。
「オーナーから話は聞いたよ」
「車はどこに?」
警察は、ポールが外に出て行った事情をまるで聞かず。
何もなかったかのように、事情を真剣に聞こうとした。
「向こうです」
ポールは、ペンションとは反対側の方角を指で示した。
「ちょっと、見に行こう」
ポールは、警察と同行し。
停めてあった車の場所まで、警察官2人を案内する。
お互いの警察官は、車の中を調べる。
「これと言って、不振な点はないが」
「この場所だ」
「2人が移動すると言ったら、反対側の道路しかないだろう」
「後は、この崖だが・・・」
「奥さんもいなくなったとなると、それは考えにくいですからね」
ポールは、また寒気がして。
ガードレールの下に下って見える崖を上から見下ろす。
警察がポールの行動を見るなり、話しかける。
「この先に行くことはないはずだ」
「ガードレールがあるから、気づくはずだ」
ポールは周囲を見回してみる。
霧は出ていたが、20メートルほどの視界はあった。
階段伝いに見える1つの小屋があることに気づく。
「あの小屋は、何です?」
「ああ、あの小屋は誰も住んでない」
「中もガタが来てて、誰も近づこうとしないよ」
「ただ、あの階段を上っていくと」
「別の道に出る」
「どんな道です?」
「登山コースさ」
「しかも、ベテラン級のヤツが好んでで通る場所だよ」
「ただ、かなり足場が悪いから」
「滅多に使うことはない」
「ただ、この道は変わってて」
オーナーは、少し間を置いた。
「あなたの言ってた、例の橋のある道にも続いてる」
「ただ、この道からは遠回りになるから」
「あまり使わないけどな」
「もし、この道を使ったとして」
「どれくらいで着くんです?」
「5時間は掛かるだろう」
「ただし、ある程度慣れた人が行く場合の話だ」
「どうして、そんなことを聞くんだ?」
「もし、娘がこの階段の向こうに行っていたら」
「考えにくいよ」
「ペンションと反対側だ」
「ええ、でも・・・」
「視界が0に近くて、全く見えてない状況に近かった」
ポールは、妻子の行動を想像しながら必死になって彼らに説明している。
「それに、僕の泊まってるペンションについてる階段と」
「この階段、よく似てると思わないか?」
ポールはオーナーに説明をを続け、オーナーは自分のペンションとを見比べた。
「似てると言えば、似てるが」
「こっちのほうが横の幅が小さいし・・・」
オーナーは、ポールを安心させるために。
とりあえずは、そんなことないというような口ぶりで説明を続ける。
「ええ、確かに」
「でも、向こうの階段と間違えて・・・」
「この階段を登って行ってるってこと考えられないかな?」
ポールは、それでも有り得るという前提でポールと警察間の間の中に入り説明する。
だが、この時ポールの想定したことが今後に大きく影響するとは。
誰もが想像出来なかった。
ポールは、小屋の階段をじっと見つめていた。
そして、階段の上への様子を見るために登ってみる。
「ポール」
「どうする気だ?」
「登って見る」
「上がどうなってるのか、確かめたいんだ」
オーナーは、ポールが登るのを止めなかった。
あまり使わない階段であるのと湿気のため端の部分に、少しコケが生えていた。
でも、歩くことには支障のない程度だ。
階段は10段ほどあり、上下で5段ずつの区切りになっている。
山の地底に沿って、左から登るようになっている構造だ。
中間地点から、右から始まるような組み合わせになっている。
これは、自分の泊まっているペンションとは、逆の組み合わせだ。
ポールは登り終わると、小屋をじっと見つめる。
そして、ゆっくり歩きながら一歩ずつ前進していった。
本当に、人の住んでないような小屋だ。
バケツらしきものや植物の肥料など、様々なものが倒れていたり転がっている。
「なんで、こんなところに肥料があるんだ?」
参考イメージ
周辺には、花など植えられていないし雑草が生い茂っている。
伸びきった木の枝が、小屋の屋根に当たっている始末。
全く手入れはされていない様子だった。
といっても、見苦しくもなく小屋そのもの不潔感も感じないほどだ。
そして、ポールは小屋の周辺をさらに見渡す。
何か、赤い物体が目に入った。
そっと近づくと、何やら物が落ちている。
顔を近づけると、物体そのものは非常に小さいのだ。
ポールは、しゃがんで右手で物を拾ってみた。
それは、娘のアクセサリーだった。
リンは、首からアクセサリーを通し身につけるのが好きだった。
そして、何か緊張したりすると。
首に通ったチェーンを持つのが癖だった。
拾ったアクセサリーについた鎖の一部は変形して、少し曲がっていた。
恐らく、掴んだ時の力で曲がっていたんだろう。
ポールは、自分の置かれた状況から想像してみた。
「もしかして・・・」
ポールは、寒気がした。
娘は、この場でアクセサリーを落とした。
娘がここを通過して、先へ進んでいった可能性は出てきた。
ただ、妻が通った物的証拠は見つからなかった。
ひょっとしたら、2人が一緒にこの先を進んでいった可能性があった。
「ポール?」
「聞こえるか?」
「1人で、先へ行かないほうがいい」
「暗くなったら、周りが見えなくなるぞ!」
オーナーは、ポールの返事を待つが。
全く、ポールの声が聞こえない。
「ひょっとして、聞こえてないのかな?」
オーナーの位置からは、ポールの姿が全く見えなかった。
「ちょっと、呼んで来ますよ」
「この先のルートは、ある程度把握出来ているんでね」
オーナーは、後ろの警官にそう伝えると。
自分も、階段を上がっていった。
オーナーの表情に焦りが出ている。
オーナーは上りきるが、ポールの姿がないことに気づいた。
「ポール?」
「どこに行ったんですか?」
「返事をして下さい!」
「ポール!」
オーナーは、小屋周辺を調べた。
オーナー「大変だ、本当に先へ歩いていったのか?」
オーナーは、そっと時計の時刻を見る。
時間帯としては問題はないのだが、霧が大量に出ていた。
日が落ちてからでは、さらに危険が迫る。
オーナーは、ポールにどれほどの最低限の登山知識があるのか把握していない。
オーナーは、ここで判断を迫られる。
ポールのような初心者は、この先のルートを通過できる保証はない。
そして、オーナーもほぼ手ぶらの状態で小屋の側まで来た。
小屋から、ペンションまでは離れていた。
その時に、オーナーが思いついたのが警官の装備品。
懐中電灯を持ち歩いていることに気づいた。
そして、急いで階段を下り警察官に話しかける。
「すいません、悪いんだけど」
「腰に下げてる懐中電灯を、貸してくれませんかね?」
「どうする気だ?」
「中を見てきます」
「見てきますって?」
「ポールがいないんです」
「たぶん、この先の道まで向かって行ってる」
警官は事情を把握したのか、腰についてる懐中電灯を取り出した。
「本当は、渡せないよ」
「特別だからな」
「お借りします」
黒く頑丈そうな懐中電灯だった。
見た目にはに、武器としても使えそうな物だ。
オーナーは、再度階段を登り。
奥の小屋を抜けた通路を進んでいった。
警官は、後ろでオーナーの戻ってくるのを待った。
でも、この日いくら待っても2人が戻ってくることはなかった。 |