礫川(こいしかわ)浮世絵美術館 設立趣意書

 

  浮世絵は現代の我々に身近な江戸時代の風俗絵画であります。
 江戸は世界で最も早く形成された近世百万都市で、この巨大都市民衆の澎湃(ほうはい)たる
 エネルギーが、高度な、洗練された、最も日本的な江戸文化を醸成しました。
         
 その代表とも云うべき浮世絵は、版画様式を主とする親しみやすい庶民絵画で、優れた芸術性と
 豊かな民族性をそなえ、世界に誇るべき日本文化の随一であると考えられます。
 事実、浮世絵は国際的に高い芸術的評価を得て、世界各国の多くの人々から愛好されています。
 また、日本人好みの印象派絵画自体が浮世絵からの強いインパクトのもとに生まれ出たことは
 美術史上の定説となっており、特にゴッホの絵画に多くの浮世絵版画が模写されていることは有名です。
         
  近年、我国は世界屈指の経済大国となり、政治・経済・文化の各方面において国際的に
 指導的役割を果すべき時にあたり、自国文化の代表たる浮世絵に対する正しい理解と正当な評価を形成し、
 国際社会にその優れた文化遺産を公表宣伝し普及をはかることは、文化国家として当然の
 社会的コンセンサスであります。
         
 にもかかわらず、わが国における浮世絵芸術に対する社会的認識は極めて低く、国際的に認められている
 高い評価とは全く一致しない状況にあります。
 外国に留学するなど、日本文化を海外から見直す経験を持ったことのある者にとっては、この状況は
 憂慮に耐えません。
         
 更に、その重要な使命に携わるべき公私の既存関係機関が極めて少ない現状にかんがみ、此処に
 微力ではありますが有志相集い、浮世絵文化の研究と啓蒙・普及を目指して、
 礫川(こいしかわ)浮世絵美術館設立を意図した次第であります。
         
  当館設置の文京区小石川の地は、往時、浮世絵師の礫川亭永理や戯作者の恋川春町が居住し、
 当地名に因んだ雅号を名乗った由緒ある土地柄であります。
 また、葛飾北斎の冨嶽三十六景シリーズ中の傑作「礫川(こいしかわ)雪の旦(あした)」は、
 当地付近からの富士山遠望の図である事などを勘案して、館名を礫川(こいしかわ)浮世絵美術館と
 致しました。
         
 浮世絵美術館としては当面プライベートで小規模のものとして発足致しますが、展示作品は
 歌麿・北斎・広重はもとより、初期の師宣から末期の歌川派までの3世紀に亘る浮世絵の流れを、
 芸術性の香り高い、優れた作品により系統的にカバーすることを目標としております。
         
  礫川(こいしかわ)浮世絵美術館設立の趣旨は以上の如くでありますので、
 関係各位におかれましてはよろしくご理解を賜り、今後のご指導ご助力のほどを衷心より
 お願い申しあげます。
         
           1998年11月
                             礫川浮世絵美術館館長
                                       松井英男