雫
1996年6月発売
販売:(株)アクアプラス 企画・製作:リーフ
リーフ・ビジュアルノベルシリーズ 第1弾

リーフさんのビジュアルノベルシリーズというか、販売されている18禁ギャルゲーの第一段です。「ま〜くの落書き部屋」でのチャットルームで、管理人のま〜くさん達に紹介されて、「To Heart」を始めて結構面白いぞと感じましてね、それで続いて「痕〜きずあと〜」をプレイし、すっかりリーフさんのゲームにはまってしまった私が必然的に続けてプレイしたゲームです。
上記のラベルを見るとまぁまともっぽいですが、実際の女の子の顔は、賛否あると思いますが、新城沙織ちゃん以外は全然可愛くない。むしろ目が気持ち悪いというのが先に立ちました。でも学園に起こった怪しげな事件を推理・探索していく組立て・・・・そして流れる音楽の素晴らしさに心を打たれて、先ずは『卒業式エンド』、続いて『はさみエンド』でショックを受け、その次の『夕陽の屋上瑠璃子さん』のCGのあまりの美しさと流れる音楽に鳥肌が立つくらいに感激しましてね。それからは夢中で全シナリオをコンプリートしていきました。後でふれますが、自分にとって『瑠璃子トゥルーエンド』を超える感動は、Keyさんの「AIR」の『AIR編』まで現れなかったくらいでした。
さて感想(レビュー)なんですが、全体のテーマをまとめてなんて文章力は無いので、各キャラへの感想という形で話を進めていく事にします。尚、断っておきますがネタバレ全開ですので、未プレイの方はここで遠慮された方がいいかと思います。
新城沙織(コードネーム・さおりん) ←パッケージの右下の赤毛の女の子
可愛いです。他の子(瑠璃子、瑞穂、香奈子)が最初気持ち悪いという感じだったのに、彼女だけは出だしからくるくる変わる表情がすっごく可愛くって、迷わず最初に選択しました。恐らくこう思った方は多いんじゃないかと思います。それだけに、他の子・・つまり瑠璃子さんをまったく無視しているとハッピーエンドに行けないなんて、To Heartのあかりちゃん同様に製作者がとても意地悪です。
バレー部のエースで常に元気一杯、でもオバケにとっても弱い所なんて、またまた可愛くって男心をくすぐるじゃないですか。でも途中で、 「狂気って、案外身近なのかも知れないよね。こんなつまんない毎日を送らされてるんじゃ、おかしくなってトーゼンよ。」 と彼女が呟く場面でいやな予感がしたんです。それでも途中毒電波から脱出した後、“リーフの必殺技・ふきふき”が炸裂し、お待ちかねのHな場面となるわけですが、これだけは男として興奮しましたね。つうか後は瑠璃子さん除いて気分悪いだけだったし。
要はこのゲームのメインヒロインである、月島瑠璃子さんをシカトしたツケが最後に回ってきます。恐るべき、これ以上無い残酷な『はさみエンド』ですね。あれは酷い・・・・あんな幕切れはないですよ。思えば、凄く女の子として魅力的に可愛らしく描かれてたのは、このラストを劇的に盛り上げる為にといっても間違いないんでしょうね。物語としてみれば、月島兄(=拓也)にとって、あくまで強情に電波の存在を侮辱する主人公の長瀬祐介と沙織ちゃんに、電波の持つ力の恐ろしさを見せつけてやろうという事なんでしょう。沙織ちゃんは最後まで意識がしっかりしてます。それなのに、身体の自由がきかない。喉に迫ってくる鋭利な鋏。そしてついに喉に感じる冷たい感覚。その瞬間でも彼女は、 「これ…ゆめ…だよね…」 と呟くしかないんです。そしてそれを見せつけられる祐介・・プレイする私達・・は、絶句する以外に何も出来ないんです。これ以上のBADエンドはないでしょうね。少なくとも映画『バトル・ロワイヤル』あたりにぎゃーぎゃー文句たれてる連中には絶対教えないほうがいいでしょう。こんな残酷描写は許せんと怒りそうだから。
瑠璃子さんと屋上で指きりをしておきますと、一転して『ハッピーエンド』に辿り着く事が出来ます。絶体絶命のピンチの二人の前に、颯爽と真のヒロインとして瑠璃子さんが現れ、悪の兄さんを身を投げ出して退治してくれます。そして物語は穏やかな・・ラブラブなエピローグを迎えます。最後にこれまた百万ドルの笑顔で、 「来年、同じクラスになれるといいね。」 と祐介に語りかける沙織ちゃんが凄く可愛いんですわ。そして今度は沙織ちゃんとの指きりのシーンが挿入されてます。ここで祐介は何故か沙織ちゃんが最初に出した右手を拒否して左手を出すんですね。これは凄く意味深の行動だったと思います。
主人公の祐介は、恐らくまわりからイジメを受けている・・・・それも無視されるといった感じの・・・・なんの取り柄もない、こんな世の中は爆弾で壊れてしまえと寂しく妄想するしかない孤独な少年に過ぎなかったんでしょう。そんな彼にとって、月島兄妹が見せてくれた電波まみれの世界は、ある意味彼にとって待望の世界だったと思いますね。でもここで沙織ちゃんという常識のある世界に生きる、しかも凄く可愛い女の子と知り合えたという、奇跡的な幸運にふれたお蔭で、月島兄妹の世界に巻き込まれずに済んだ訳です。側に沙織ちゃんがいなければ、恐らく彼の深層心理は月島兄に極めて同調し、彼の下僕を嬉々として演じる木偶に成り下がれたのでしょう。それが沙織ちゃんのお蔭で、月島兄と敵対する事になりました。その結果は、瑠璃子さんが来なければ地獄を味わうし、来てくれたら沙織ちゃんラブラブエンド=イジメから脱出の幸せな高校生活に辿りつくという事になります。しかし、そういう本人には出来すぎの幸運を得たとしても、それでもそれまでの一人ぼっちの惨めな日々が彼に残したトラウマが完全に消えた訳ではありません。例えば後日、沙織ちゃんにふられようもんならまた孤独な妄想少年に帰ってしまうでしょう。そういう彼の簡単には癒えない心の傷は、“あちらの世界”へ行ってしまった、月島兄妹と太田香奈子への共感としてくすぶっているのです。沙織ちゃんと指きりをしようとした時に、彼には瑠璃子さんとの指きり=電波なあちらの世界へのリンクが思い起こされたのじゃないでしょうか。だからこそ、自分に眠ってる“電波なあちらの世界に郷愁を持つ心”に決別する・・・・あえて目をそむける為に、左手を出したんだと、私は思いました。
沙織ちゃんシナリオのテーマは、祐介が孤独な妄想の世界から脱出出来るかどうかが描かれてたんだと思います。出来なくって地獄を見て自らも精神崩壊した『はさみエンド』と、脱出できて沙織との幸運な学生生活に辿りつけた『ハッピーエンド』の二つが用意されているのは、そのあまりの極端さに流石と唸るしかないです。
相原瑞穂(コードネーム・みずぴー) ←パッケージの右上の眼鏡の女の子
可愛くないです。そして全然萌えないです。だって彼女の心は主人公の祐介ではなくって親友の太田香奈子さんに向いてますから。行動の全ては“香奈子ちゃんの為”であり、一応のハッピーエンドにしても“香奈子ちゃんが可愛そうだよぉ〜悲しいの。辛いの。だから泣けせてれる胸を貸してください。”ですからね。
いえね、シナリオが悪いという意味ではないですよ、決して。でもプレイした私は、祐介にシンクロしてる訳ですから。祐介を本当は愛してない女の子に興味はもてないし、語る気も起きないという感じです。むしろ魅力を感じるのは、壊れたまんまの太田香奈子さんですね。あまり語られる事の無い女の子だけに、想像は思いっきりかきたてられます。最後のエンディングで、オルゴールをトリガーにして、無意識のまま消火器で月島兄を倒した後、彼に抱きつく辺りの彼女の思いはどこにあったのか。これだけでもSSの題材になりえるくらいのキャラへ思いをかきたてる事が出来ますね。そうです・・・・私にとって“瑞穂さんシナリオは、結局香奈子さんシナリオだった”という感想が残ったんです。実際このまま書き続けると、太田香奈子さんの物語になっていきそうですしね。
月島瑠璃子(コードネーム・るりるり) ←パッケージの中心にいる水色の髪の女の子
柴レイは、アニメ界の電波少女・青いショートカットの綾波レイちゃんが大好きでした。あっ・・・今も好きですよ。それだけに、“雫のメインヒロイン”“元祖電波少女”と名高い彼女には、プレイする前から、特別な思いを抱いていました。でも最初の登場はちょっと引きました。だって、瑞穂さん同様全然可愛くないし、台詞も確かに電波バリバリでマジに危ない女の子でしたからね。例えアヤナミストだったとしても、誰が沙織ちゃんに転ぶのを非難できようか・・・・という感じでした。しかしその危ない瞳と性格の彼女を、沙織ちゃんと瑞穂さんの誘惑を振り切って再度屋上に登って再会すると、あのリーフ作品でもトップクラスの名場面と私が思ってる、『夕陽の屋上瑠璃子さん』に会えるんです。そこでのあまりの神々しい美しさ・・・・流れる音楽・・・・そして彼女が紡ぐ言葉・・・・震えるくらいに感動するんですよ。この時点で、既にハッピーエンドしてた沙織ちゃんがどこかに飛んでいきました。完璧に瑠璃子さんの不思議な魅力に転んでしまった訳ですね。
彼女の物語は、途中の二つのバッドエンドを越えた後に、彼女とのセックスを通しての三つのゴールがあります。『トースターエンド』に『トゥルーエンド』そして、トゥルーエンドを見た後に見られる『(瑠璃子さん救済の)ハッピーエンド』ですね。それぞれ流石メインヒロインで、シナリオも素晴らしい仕上がりとなっています。
『トースターエンド』については、沙織ちゃんの所でふれましたが、もともと孤独で寂しい妄想少年である祐介が、沙織ちゃんみたいな可愛い女の子(念の為に言っておきますが、瑠璃子さんは、可愛いんじゃなくって、神々しい、この世の女の子とは思えない女神様みたいな存在です。)が側にいないので、月島兄の作り出した“電波な世界”に心のどこかで共感・共鳴してる状態です。そしてたっぷりと毒電波を受信し、生徒会室でやりまくってた後だけに、精神状態はほとんど壊れかけてます。そこに瑠璃子さんが“犯されるのを覚悟の上で”接近してきた訳ですから、それを跳ね返せなかった為に、彼の暗黒面が一気に瑠璃子さんの力で覚醒してしまいます。散々妄想パワーを蓄えてきた彼は、月島兄みたいな、ただただ妹に罪悪感を持ちつつ救いを求める以外には、単なる常識人の・・・通常の学園生活では生徒会長を務めていたある意味成功者である・・・トラウマパワーなんてめじゃありません。いいことなんてこれっぽちもなかったと歪みきった祐介の怨念は、月島兄を軽くぶっ壊します。瑠璃子さんは身体をはったカケに失敗した形ですね。そして祐介の怨念・復讐は強大なエネルギーとなって、彼を取り巻くまわりの世界を破壊していく訳です。これは、月島兄の野望が成就した『卒業式エンド』と並ぶ、痛快なBADエンドといえるでしょう。あえて痛快といいましたが、これはゲームなんだし、ただただ主人公が都合のいい出来過ぎのハッピーを迎えるよりは、この方がかっこいいとすら思えたという意味です。物語のオープニングで語られた祐介の妄想が成就したという事ですからね。そして途中で、暴走しつつある祐介に犯された瑠璃子さんが 「私を傷つけたのは、君だよ…長瀬ちゃん」 と語る場面がありますが、その台詞が凄い破壊力をもって、自分に負けた彼を断罪する言葉として投げかけられるんですね。ここもしびれる場面でしたよ。はい、そうです。私はこの『トースターエンド』が大好きだという事です。
そして『トゥルーエンド』です。先ほどのトースターが祐介の妄想成就物語だとすれば、このエンドは、“月島兄妹の物語”だったと言えます。可愛そうな身の上の兄妹の生い立ちが語られます。この後にいたっては、沙織ちゃんを『はさみエンド』では惨殺する憎むべき月島兄(=拓也)も哀れな存在に過ぎません。そして彼に犯された瑠璃子さんは、単に純潔を、信じていた兄に汚されたという事だけでなく、兄の寂しさその物までもその小さい体に受け止めてしまったのでしょう。そして兄を憎む気持ちよりも、妹を汚したことで更に罪悪感に悩み、電波をふりまわしてまわりを傷つけていく兄の姿に耐えられないくらいの悲しみを感じたのでしょう。それこそ兄がおかしくなったのは自分の所為だとまで思いつめたのかもしれません。月島拓也が暴走すればするだけ、彼女の心も痛めつけられます。彼女の悲しみはいつしか電波な言葉を呟く危ない少女へと彼女自身を変貌させていきました。そして太田香奈子さんが壊れた時に、彼女は悲しい決意をすることになります。兄を止めるだけの電波パワーを持ちうる、歪んだ妄想少年こと祐介に身体を張って力を与える事で、この兄妹の悲劇に終止符を打とうと考えたのです。そして兄の電波で覚醒しつつあった、祐介に身体を・・・・兄妹の行く末の全てを預けました。そこで祐介が即彼女を犯した場合は、先に述べたトースターへ一直線という訳です。しかしここで祐介が、必死に誘惑に堪えますと、瑠璃子さんの悲しみの意味に気づくことになります。その上で二人は結ばれました。悲しい境遇に満ちた二人が心身を重ねたとき、彼は瑠璃子さんの悲しみ=月島兄妹の悲しみを理解し、また彼女も祐介の寂しさを理解するのです。やがて二人は繋がったまま、お互いを慈しみあいます。ここで祐介の名台詞が出てくるんですね。 「君は僕に泣いているといったけど、泣いているのは・・・・瑠璃子さん君のほうじゃないか」 と。
やがて二人は生徒会室に戻り、月島拓也の悲しい暴走に終止符を打つことに成功します。月島拓也は既になんの罪の無い女の子を多く汚していきました。太田加奈子さんは心を完全に破壊されてます。その罪はたとえ哀れな境遇にあったとしても許されるべき事ではないのでしょう。祐介に敗れ去った彼は、完全に廃人同様に破壊されてしまうことになります。その完全に壊れた兄の姿を見たとき、やむえないことだとわかっていても、瑠璃子さんには自分を許せないと思ったに違いありません。兄は自分の為にああなってしまった。その兄を破壊する事を自分はやってしまったと。瑠璃子さんは、心と身体で全てを共有した祐介も愛していた筈です。それでも哀れな兄を置いて自分だけ幸せになるなんて彼女には出来ませんでした。そしてもう一度悲しい決意をする事になります。それが最期の病室で、兄妹ならんで眠る場面でした。なんて悲しい物語なんだろうと思いました。この物語では誰も救われません。誰もが被害者なのに、何故こんな悲しい結末を迎えなければならないのか。祐介には、沙織ちゃんハッピーエンドみたいな幸せな高校生活に導いてくれる人はいません。孤独なままです。そして力を得てしまったが為に、今までみたいに妄想の世界に逃げ込む事も出来ません。逃げ込もうとしたら、月島拓也の悲劇を自分が犯すことに気づいているからです。力を無為に得たまま彼は孤独と向き合っていくしかないのです。自分を一人現実に残したまま、二人っきりの世界へ去ってしまった月島兄妹を求め続けながら。そんな彼の悲しみに“トゥルーエンド”の寂しい旋律が流れたとき、私は泣いてしましました。
確かにある意味、瑠璃子さんの『トゥルーエンド』は、瑞穂さんのシナリオ同様に。祐介の為の物語ではなく、“月島兄妹の物語”でした。ただ一時でも、祐介と瑠璃子さんが心と身体を重ね、お互いの悲しみを共有したので、心に響く忘れなれない物語になったんだと思っています。そしてここまで私の心の琴線を震わせたシナリオはリーフさんの作品では、「痕」と「To Heart」では、味わえない物でした。
痛快な『トースターエンド』と悲しみの『トゥルーエンド』の後に、『瑠璃子さんハッピーエンド』をプレイする事が出来ました。これは『トゥルーエンド』があまりに悲しいので、その救済という感じで添えられたエンディングですね。ここではみんな救われます。いや、香奈子さんは救われてないか。そう、それで月島兄妹と祐介に穏やかな日々が訪れるのは、自分には酷く偽善的に思えたものです。まぁこれ以上書くとシナリオへの勝手な文句にしかならないので、ここで止めておきます。瑞穂さんの所でも言いましたが、別にこのシナリオを否定するつもりはありません。ただ私には、悲しくも美しい『トゥルーエンド』が嗜好にあったという事に過ぎませんから。
最後に、瑠璃子さんの『トゥルーエンド』の後には、いくつかのおまけシナリオをプレイできます。『太田香奈子さんショートストーリー』と『宇宙人侵略コメディ』ですね。それぞれ味わいあります。宇宙人物は、リーフさんのセルフコメディです。特定の趣味と笑いのセンスをお持ちの方々には大笑い間違い無しでしょう。ちなみに私も腹を抱えた口です。それとここで肝心な事はこれです。素の太田香奈子ちゃんは沙織ちゃんに負けないくらいに可愛いじゃないか。
(2001.01.09)