翡翠


 

 遠野家に仕える双子のメイドの内、志貴に使える妹の方。感情は乏しく、人形みたいに見えますが、実はかなり無理して冷静に振るまっていただけで、後半かなり感情的というか情熱的になります。特にHシーンにおいてね。作画の武内氏の愛情が深く出てて、立絵もイベント絵も各ヒロインの中では格別によい仕上がりになってます。有名になった指ちゅぱ絵は、ギャルゲーの中でも名場面の一つに数えられるでしょう。

 わたしはエヴァでは綾波萌えでした。それだけに、綾波テイストの、男の子(主人公)に対して無垢で一途なおとなしい女の子翡翠は、当初かなりポイントが高かったのを覚えています。少なくとも、月姫プレイで、アルク→シエル→秋葉の段階では、翡翠がベストでした。そして満を持して翡翠シナリオに入ったものです。その結果・・・クライマックスでわたしは琥珀さんに落ちました。それも完璧に!!

 他のレビューでも多く語られてましたが、翡翠シナリオは琥珀さんシナリオみたいだという物でした。確かにあの角川映画の横溝正史氏の金田一耕助シリーズみたいな幕切れは強烈でした。古い歴史のある名家で、欲ボケのジジイに若い女性(琥珀さんは幼女)が陵辱されてしまう。そこから生々しい復讐劇がその名家に起き、そして最後はその被害者から加害者に形を変えた女性の自殺で終焉するあたりがね。わたしは、中・高校生時代は、角川映画にはまった口なので(薬師丸ひろ子ちゃんに一番はまりましたが)、この翡翠エンドには衝撃を受けつつも、大変気にいりました。しかしながらこのシナリオの勝者であり、志貴をゲットするヒロイン翡翠よりも、自殺(or生き延びるが記憶を無くしてしまう)エンドの琥珀さんへと注目が飛んでしまいました。

 何故、わたしは翡翠よりも琥珀さんへ心変わりしたのか?琥珀さんについては、彼女について語ったコーナーに譲りますが、翡翠については最後のあの場面で失望したからだともいえます。最初に彼女の印象として、無垢で一途なおとなしい女の子と書きましたが、最後の場面をみるに決してそうではないとわかりました。決して無垢ではありません。かなり計算高く自己中心的というか自己陶酔型のずるい女の子だといえます。翡翠ファンには酷い言い草でしょうが、これがわたしの彼女に対する評価です。何故、琥珀さんの復讐劇を側で見ていながらそのままにしていたか。何故なんらかのアクションを起こそうとは思わなかったのか。それは確かに非力で無力な少女には何も出来なかったとはいえるでしょうが、だとしても最後のトゥルーエンドで、琥珀さんに変わって幸せになりますはねーだろ。あの白い服を着て、白いリボンを空に飛ばす場面でのクドクドとした彼女の一人称の語りは、かえって自分のやましさを自己弁護しているようにもみえました。というか、そうとしかみえませんでした。せめてあの場面、「姉さんに申し訳ない。わたしは姉さんの事を思えばとても幸せになる資格は無い」と言って欲しかったなと思いました。これがわたしの翡翠に対する決定的な負の評価になってしまったのですね。

 まぁ〜ある意味、翡翠は志貴とはお似合いだとも思います。二人とも、結局は自分の事しか考えてない、自分だけが幸せになればいい、それ以外の不幸になった人のことは都合よく忘れられるタイプの人間ですから。これについては悪い意味ではありません。何故なら、ヒーロー&ヒロインは自己中心の性格であるべきで、おひとよしだったら物語を主役で終えることは出来ない筈ですからね。月姫でいえば、おひとよしで損をし人気も出なかったのは、シエル先輩で一目瞭然です。

 ここで終わると、翡翠ボロクソで終わってしまいそうなので、ここで翡翠シナリオの魅力についてもう少し語ります。月姫の各ヒロインのシナリオ計9つの中でも、翡翠トゥルーエンドはベストだと思っています。それは先程述べた通りに、金田一シリーズ風だっただけでなく、これは翡翠vs琥珀さんの幸せになるための攻防戦だったとみてるからです。翡翠にはどうみても姉を大切に思っている描写はありません。彼女が愛するのは志貴だけです。いっぽう琥珀さんにしても、本当に全てが翡翠を思ってのことだと言い切れるのでしょうか。確かに、琥珀さんが槙久によって拉致監禁陵辱の立場に落ちたのは、翡翠を守る為でした。性的な虐待の日々は大変な不幸です。でもその代償として、琥珀さんが得た物は翡翠とは比べらものにならない物でした。笑顔どうこうではありません。琥珀さんは槙久の看護の為の名目で外の世界に出るようになります。時南医師から薬の調合から、本来医療目的からの料理までも教わります。そして翡翠の代わりに明るく振舞うようになりましたが、屋敷から一歩も外に出ないで、しかもメイドとしての仕事しか教わらなかった翡翠よりも、外の空気を自由に吸って、部屋でテレビまで嗜好する琥珀さんが明るくなるのは当然といえるでしょう。あの双子姉妹の究極の願いは、遠野家から自由の身になり、愛するパートナーを得て幸せになる事です。そしてそれを実行する術を学べるのは、様々な知識を教養を得た琥珀さんでしかなかったのです。

 そう考えてみると、にこにこして自分のしたいように振舞って、ちゃくちゃくと復讐劇を遂行する(=自由と幸せに向けて進行中の)琥珀さんを、翡翠がどんな思いでみていたのか。それはある意味、どす黒い怨念めいたものではなかったのでしょうか。「確かにわたしは姉さんのお蔭で清い身体のままでいられた。でもそれだけだ。わたしは姉さんみたいに男の人とも・・・いや、外の世界の人とも誰とも触れ合えない。一生この屋敷から出ることができないままに老いるだけなのだろうか・・・」こう考えていたように思えます。そしてそう考えてみると、翡翠が琥珀さんのする事を見て見ぬ振りをしてたのではなく、指を咥えて見てるしかなかったともいえるのです。翡翠シナリオの後半、最初に志貴と結ばれたのは琥珀さんの方でした。もちろん翡翠は知らないままです。そしてあの学校で秋葉がシキを仕留めたら、これで琥珀さんの復讐劇は完結。後は、兄殺しでトラウマを負う秋葉、男との付き合い方もしらない翡翠、この二人の世間知らずよりもはるかに琥珀さんはアドバンテージを握る形になります。そうなる筈でした。

 しかしここで大逆転が起きます。翡翠が勇気を振り絞って、志貴と結ばれる事に成功します。そして学校に志貴を連れて乱入。結果として、シキと秋葉の同士討ちと、志貴に琥珀さんの復讐劇を分らせる風にもっていく事ができました。まぁこれは多分に元気を取り戻した志貴の行動からよるもので、翡翠にとってはラッキーなものでしたが、とにかくも志貴は琥珀さんを詰問する事になります。琥珀さんは最後の最後に来て、秋葉を失い、志貴にも嫌われるという悲惨なオチになってしまい、後は自暴自棄になって自殺してしまいました。そして翡翠は志貴を一人で独占する権利を得たのです。これが翡翠トゥルーエンドの本当の意味での大どんでん返しといえるでのはないでしょうか。そう思うと、クライマックスのあの翡翠の独白がどこか喜びに満ちた物に見えてきます。ここで琥珀さんへの懺悔を語る必要性はこれっぽっちも無いことになりますね。これから翡翠は志貴とともに生き、人生で遅れた分をゆっくり取り戻して、本来の明るい性格を取り戻していく事となるのでしょう。

 翡翠。洗脳探偵というネタもある彼女。しかし彼女の無表情な仮面に隠された、本当の姿。琥珀さん以上にある意味不幸な境遇から、琥珀さんみたいに要領よくもなく不器用なまま、それでも必死になって幸せを求めようとする女の性がみえるような気がして、それに気づいてからは、彼女も再び魅力的に思えるようになってきました。あの琥珀さんメインのSS『amberance』では、翡翠は精彩がないままで終わってます。でも今後は彼女の逆襲も描いてみたいなと思っています。あくまでコミカルにね。

 

 

 


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