「・・・」
NERV本部の通路を、アスカはシンジの背を追う様に歩いていた。
ミサトがNERV本部に泊まり込む様になった次の日から、シンジとアスカはNERVで汎用人型決戦兵器の起動実験に明け暮れている。神経接続試験から、実戦のシミュレーションまで。ある事実を遠回しに語る訓練に没頭させられていた。
対使徒戦が近い。それはアスカも、肌で感じている。故に訓練を、アスカは真剣にこなしていた。
精神同調率の平均値は、ゆっくりと上昇している。一昨々日よりも一昨日、一昨日よりも昨日。そして昨日よりも今日の方が良い数値を示していた。シンジに、平均値でも最大値でも負けているのが気に入らないが。
訓練終了後、ミサトは携帯電話の新しい電池をシンジ達に渡しながら命令した。明日はNERVに泊まって貰う事になる、それから携帯電話の電源を絶対に切らない様に・・・と。つまり明日から明後日くらい迄の間に、使徒が第3新東京市に襲来すると言う事である。
初めての、対使徒戦。自分が第3新東京市へ召集された、本来の理由。だがアスカの闘争本能は、少しも燃え盛ってはいない。たった1つの、心の奥底に引っかかった澱の様な感情が邪魔をしている。
「・・・」
自分の10歩ほど前方を歩く、シンジの事だ。ここ数日の間に、シンジのアスカに対する態度は豹変していた。かつては時間も場所も問わずアスカを嬲り続けていたのに、この3日間はアスカに触れようともしない。それどころか、まるで存在していないかの様に。アスカの存在すら意識していない様に感じられた。
アスカから見たシンジとは、一言で言って歪んだ性欲の権化である。そのシンジが、散々嬲り続けて来たアスカに魔の手を伸ばそうともしない。これは被害者であるアスカには、全く理解出来ない事である。
加えてNERVで訓練を行う様になってから、何故かシンジの帰宅が遅くなり始めた。NERVでの試験や訓練内容で、シンジとアスカに差など無いのにも関わらず。ふと気付くと、シンジの姿が消えている。何処に行っているのか、何をしているのかなど全く判らない。
アスカにとって、陵辱を受ける事は苦行でしかなかった。たかだか半月程度とは言え、アスカは毎日シンジに弄ばれ続けて来たのだ。決して休む事も、絶える事も。まるでそれが、シンジの日課だとでも言う様に。
それが、唐突に消え失せた。使徒が近づいているから・・・いや、そんな事はあり得ない。アスカでも判る。あのシンジが、そんな殊勝な考えを持つ筈が無い事くらいは。逆にアスカは訓練すらロクにこなせないと周囲に喧伝する程に、陵辱の程度を増す方が遙かにシンジらしいだろう。
学校の中でもアスカを玩具としたのである。その場所がNERV本部に移った所で、シンジは何も問題としないだろう。にも関わらず、シンジはアスカの身体を貪ろうとはしなかった。
陵辱が終了したのか、それとも休止したのか。アスカとしては前者で有って欲しいが、後者である可能性も否めない。ただどちらであったとしても、それは本来アスカに安堵をもたらす筈だった。
何故、どうしてこんな目に遭わなければならないのか。そう問う他に無い行為から解放されたのである。喜び勇み、対使徒戦に向けた訓練に集中すべきだろう。
「・・・っ」
だが今のアスカが抱いているのは、身体の底から沸き上がる不満だった。しかも情けない事に、情欲を持て余した欲求不満である。
NERVの購買部で買った安物のブラジャーの下に納められた、胸が弾けんばかりに訴えていた。セットで買った、ショーツの中でも。あの肉の凶器を突き立てられ乱暴に掻き回される事を期待し、潤み淫液を染みさせている。
シンジの暴虐を受け止め続けた肉体は、もはや何も無い事を喜びと出来ないのだ。嬲られる事こそが日常と化し、絶えた今となっても。過去の歓喜を、忘れられないでいた。
心とは異なる、身体の裏切り。許し難き反乱。それにアスカは成す術が無い。何であんなモノを欲しがらねばならない、どうして嬲られない事で不平を感じねばならない。そう思った所で無駄だった。そう言い聞かせようとしても意味が無い。
「・・・」
今アスカが味わっている苦悶は、事実なのだから。いかに自分に言い聞かせようが、その欲求が満たされない限り解決にはならない。
身体の要求に負け、昨夜アスカはシンジに渡されたバイブレーターで自ら慰めていた。余りに悶々として、眠れないどころか気が狂いそうになった為だ。しかし、それでもアスカの身体は満足してくれない。かえって欲求不満が、逆に大きく膨らむだけだった。
アスカには、どうする事も出来ない。欲に狂い溺れる事を知ってしまった身体を、制御する事どころか一時的に満足させる事も出来ないのだから。
特に肉体の変容をアスカが思い知らされたのは、今日の接続試験を準備している時である。プラグスーツを着込み、密着させる瞬間に思わず甘ったるい吐息を漏らしてしまったのだ。横でレイも着替えていた為に慌てて取り繕ったが、それで誤魔化せたのかはアスカにも自信は無い。
プラグスーツを密着させる事が、シンジに着させられたビスチェの感覚と重なったのだろう。プラグスーツは全身を緩やかに締め付ける構造になっているので、確かに似ていなくは無いが・・・そんな事が判っても、アスカとしては悦んでいる場合では無かった。
自室で慰めている時は未だ、自己嫌悪に陥るだけで済む。だがプラグスーツを着る度に感じてしまっては、対使徒戦どころか訓練もおぼつかない。
・・・ただ。手っ取り早い解決方法も、一応は存在していた。その方法を、アスカも知ってはいる。だがその方法を選ぶ気は無く、選びたいとも思えなかった。余りにも屈辱的で、自分のプライドに泥を塗った上で踏みにじる様な手段でしか無いからだ。
「・・・アスカ」
「・・・なっ・・・な、何よ?」
突然シンジが立ち止まり、アスカの名を呼ぶ。全く予想していなかっただけに、アスカの驚きは半端では無かった。沈み込む他にない自分の思考を中断して、少しだけ警戒しながらシンジに応じる。
「今から、カラオケボックス行くんだけど。アスカも、一緒に来る?」
「・・・カラオケボックスぅ?」
拍子抜けした声で、アスカはシンジの提案を聞き直した。年齢に見合ったまともな事を、初めてシンジから聞いた気がする。あの、碇シンジから。耳を疑う他に、アスカに出来る事などない。聞き間違えたのか、それとも幻聴か。ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、アスカはシンジの顔を見返していた。
「・・・知らないの?」
「っ・・・知らない訳無いでしょっ!私が疑問に思ってんのは、アンタが何だってンな所行こうって言い出したのかって事よっ!」
「何でって・・・息抜きだけど。他に、何か理由が要るの?」
「・・・」
確かにその通りである。カラオケボックスに、他の目的で行くと思う方がおかしいだろう。まっとうなシンジの理屈に、アスカも二の句を継ぐ事が出来なかった。
ただ、それを言い出したのが誰あろうシンジである。いかにまともな理屈であろうが、アスカに信用しろと言う方が無茶な話でしかない。逆にまっとうな理屈を口にしたのがシンジであるだけに、かえって胡散臭く感じてしまう。
「・・・本っ当に、歌うだけなんでしょうね?」
念を押す様に、眉を潜めながらアスカはシンジに聞いた。どの様な返事を聞いた所で、信用など出来る筈の無い問いを。
「疑り深いねぇ」
「っ疑われる様な事を散々ヤった、アンタが悪いんでしょっ!私のせいじゃ無いわよっ!!」
「で、どうするの?行く?行かない?」
「・・・判ったわよ」
面倒臭そうに、アスカはシンジの提案を了承した。シンジの口約束を信用したからではない。結局アスカには、逆らう余地など無いのだ。今迄もそうだった、今回もそうに決まっている・・・。
そこまで考えた所で、アスカは思考を無理矢理止めた。違う。そうじゃない、何故逆らわない。自分の思考の帰結が、アスカには信じられないでいる。
どくんっと、身体が脈を打った。困惑する、アスカの意識を征す様に。そもそもの言い訳が間違っている、と身体が囁いている。身体の奥底で疼き続ける、ねじ伏せたくてたまらない何かが。
身体の奥底から、何かがこみ上げて来た。満たされない欲求が、満たされるかも知れないと言う歓喜が。疼きが熱を帯び、身を悶えさせようとする。恐らく、起こるであろう事を期待して。
「・・・イく、わよ・・・」
そう言い終えたアスカの口元は、確かに笑みを形作っていた。それが偶然の産物だったのか、それとも意識した上での仕草なのか・・・アスカには、判らない。
17:1 〜scene.5_a〜
「・・・やれやれ」
サイドウィンドウまでスモーク加工されたライトバンから、降り立ちながらマナは溜息を漏らした。
久しぶりの、シンジからの呼び出し。目的が何か、そんな事はマナにはどうでも良い。呼び出された、その事実が有れば充分である。他に、理由など必要ない。御主人様の命令は絶対であり、そもそも命令された事自体がマナには嬉しくてたまらないのだから。
シンジに呼び出された先は、第三新東京市の歓楽街に有るカラオケボックスだった。安価で密室となり、しかも多少騒いだ所で誰も疑問を覚えない空間。そこで多分、御主人様に私のいやらしい身体を使って頂ける。御主人様は、私をどう嬲って下さるんだろう。期待に、マナは身体を震わさずにいられない。
空母を降りた後、マナはシンジに逢う事が出来ないでいた。マナの所属する、戦略自衛隊が新たなNERVへの作戦行動を決したからだ。当然、既にNERVの職員。それれも世界に三人しかいない適格者に取り入っているマナは、計画に組み込まれている。計画の打ち合わせなどが忙しく、とても抜け出す余裕は無かった。
それでもシンジからの呼び出しが有れば、即座にマナは駆け付けただろう。戦略自衛隊の命令と、御主人様からの命令。どちらを優先すべきかなど、今更マナには悩む事では無いからだ。シンジから何の連絡も無かったので、仕方なく戦略自衛隊の仕事に従事していただけである。
シンジのよって開発され尽くしたマナの肉体は、当然の様に不平を訴えていた。与えられる快楽が絶えたままなのだから、当然である。だがアスカと違って自慰にふける事も無く、マナは不平を押し殺していた。歯を食いしばり、必死で耐え抜いている。
霧島マナの身体も精神も、もう御主人様のものなのだ。自分のものではない。だから命令も無く、自分で慰める事など許される訳がなかった。慰める事も、嬲る事も。御主人様だけが、出来る事なのである。そう、自分に言い聞かせながら。
そして、来た。シンジからの呼び出しが。待ち望んだ、携帯電話へのメールが。ヒマなら来て、と言う遊びに誘う様な短い一文が。
適格者からの呼び出しに応じる事を止める理由は、マナの上官にも無かった。取り込む事すら考えているのだから、むしろ積極的に対応しなければならない。計画の打ち合わせから一時外れ、直ちにマナは第三新東京市に派遣される事となった。
因みに、シンジとマナの間に肉体関係が有る事は知られている。しかしその事は、非難や批判や中傷の対象にはなっていなかった。逆に賞賛を受ける事も、同情される事も無いが。任務に差し支えない為に、上司からピルが支給されただけである。
取り入る為に、身体を使った。たかが、それだけの事だ。諜報員である以上、任務達成の為に使えるモノは何でも使うのは常識である。任務達成に使用した道具が、自分の肉体だったと言うだけだ。
それ以上の事を聞く者はいないし、マナも自ら話してはいない。自分がシンジの奴隷であり、絶対の忠節を誓っている事だけは・・・当事者たち以外には、誰も知る事では無いのだが。
軽い足取りで、マナは御主人様の待つカラオケボックスへと急ぐ。何処をどう見てもスパイとは思えない、デートの待ち合わせ場所に向かう単なる14歳の少女と化して。
そのマナの足取りが不意に鈍った。歓楽街で、感じる筈の無い気配を感じた為に。
シンジの待つカラオケボックスの入り口に1人、30歳近い男が立っている。まるで誰かを待つかの様に。だが、同類であるマナには判る。それが擬態にしか過ぎない事を。何故ならその男の気配が、気配によって包み隠されていた為だ。
誰かと待ち合わせているのに、気配を隠すバカはいない。そんな事をしたら、見つけて貰えなくなる。だとしたら、あの男が気配を隠す理由は1つしか無い。見つけて欲しく無いからだ。見つかった時の保険として、念の為に人を待つフリをしているのである。
自分の同類。マナは即座に決めつけた。奴隷、では無く諜報部員に違い無い。しかしその顔に、マナは見覚えが無かった。つまり戦略自衛隊の人間では無いと言う事になる。
急遽予定を変更して、マナはカラオケボックスが入ったビルの周りを1周した。その男が単独で来ているとは思えない。何処に、何人居るのかを確認しようとして。
表に1人。その男を見張る様に、向かい側に1人。裏口に1人。裏口の道路に止めた、白いライトバンに1人。マナが確認出来たのは、これだけである。
疑う余地は無かった。彼らはチームで動いている。彼らの標的は判らない。だがマナは、早々に彼らを排除する事にした。漠然と、嫌な予感が頭を過ぎった為だ。根拠を説明は出来ないが、勘を信じて生き残って来たマナとしては当然の選択である。
動きやすい格好で来て良かったと、マナは偶然に感謝していた。ゆったりしたズボンと、同じく大きめのTシャツ。それに、腰の上辺り迄しか丈の無いジャケット。スカートよりはずっと、行動の制約を受けずに済む。
潜入作戦で使う装備も、背負った小振りなバッグの中に1通り入っている。拳銃を持って来なかった事を悔んだが、今更どうにもならない。手持ちの装備で何とかするだけの事で、どうしても必要なら敵から奪えば良いだけの事だ。自分の能力を信じ、尚かつ過信しない様にして責務を果たすだけである。
・・・だが。第一弾の制圧作戦は、懸念した事が馬鹿馬鹿しく思えるほど呆気なく終わった。
ライトバンの中では、1人の男がシートをリクライニングさせて眠っている。死んではいない。だが本来の任務は果たす事は出来ず、車に乗り込んだマナになされるがままだった。
「・・・身元を明かすモノは一切ナシ・・・そー言う基本だけは弁えてる、か・・・」
ジャケットやズボンのポケットを漁り終えた、マナが呟く。仕事自体が恐ろしく簡単だった為に、かえって苛立ちを強く感じていた。グローブボックスも開けてみたが、やはり手がかりになりそうなモノは1つも無い。
この男を眠らせる方法は、簡単だった。鍵穴から麻酔ガスを流し込んだのだ。後は鍵を開け、改めて睡眠薬を投与しただけ。それで、1人目を排除完了である。とても諜報員相手の行動とは思えないし、マナとしても呆れる他に無いお手軽さである。
そう言う手合いだったからこそ、身元を示す物を持っていないかとマナも期待したのだ。常識的には、無くて当然なのに。苛立つ方が筋違いなのだが、苛立たずにはいられなかったと言う事である。
ライトバンから降り、車の影でマナは暫く時間を潰してみる。時間にして、ざっと10分程度。この男が眠っている事に、他の諜報員達が気付くかどうかを試す為に。
「・・・はずれ、みたいね・・・」
奪った既製品を改造したイヤホンを、手の中で弄びながらマナは1人呟く。車の中で眠っている男から得た、たった1つの戦果である。しかしイヤホンからは、何も聞こえては来なかった。点呼も、確認も。この男が眠っている事に、他の者が気付いているのかすら判らない。
「・・・うーん・・・」
少しだけ、マナは悩んでいた。ここまで、いい加減な相手だと思ってもいなかったからだ。やる気が無い、諜報員。判った事と言えばこれだけで、所属も目的も皆目見当が付かない。
「・・・まぁ、何でもいいか」
暫く考えた後に出した、マナの結論はこれだった。考えても判らない、だったら考えなければいい。思考停止では無く、思考を放棄したのだ。不穏故、排除する。それで充分だった。御主人様の命令に従うのに、些細な理由など必要無いのと同じである。
それに、少なくとも大義名分は有るのだ。後顧の憂いを絶つ為に。自分がこの場に赴いた本来の目的を、万に1つも邪魔されない為に。
「さっさと片付けて、御主人様に可愛がって頂こうっと」
御主人様の為に、働く事。それも、形こそ違えど奉仕の1種である。御主人様の為と思えば、奴隷として実行しない理由など無かった。例え、どれほど腑に落ちない事で有っても。
「どぉっ!?今度こそは、ぜぇったいに私の勝ちよっ!!」
マイクを握り締めたままで、アスカはソファに座ったシンジに向かって高らかに宣言した。よほど巧く歌えたと言う自負が有るのだろう。ここ暫く見られなかった、会心の笑みすら浮かべている。
「・・・」
しかしモニターには、無情な数字が表示された。100点満点で、41点。因みに先行だったシンジは、63点だった。本人の自信とは裏腹な、アスカの見事な敗北である。
「っ・・・どぉなってんのよ、この機械わぁ!あんな巧く歌ったのに、41点ん!?この機械、ちゃんと採点してんの!?」
マイクを持ったまま、アスカはモニターに駆け寄りがたがたと揺さぶり始めた。自分の歌唱力を、機械にバカにされたのだ。アスカの気分が良い訳が無い。ただその行為は、何処をどう見ても愚かしい真似でしか無かったが。
「はい、残念でした。また、ボクの勝ちだったね・・・レベルの低い闘いだけどさ」
自嘲気味に、シンジは暴れるアスカに向けて現実を投げかけた。勝ったシンジにしても、100点満点で61点しか取れていないのだ。チェロの演奏を趣味にしている、シンジが・・・である。自慢どころか、逆に秘匿すべき数字だろう。
それでも勝利は勝利であり、敗北は敗北である。モニターに手を置いたまま、振り返ったアスカは鬼の様な形相でシンジを睨め付け喚き散らす。
「・・・判ったわっ!やっぱりアンタ、何か仕組んでるんでしょ!?」
「・・・やってないよ、そんな事・・・」
根拠も無く口をついて出た言葉だが、言ってみると意外と正論の様に感じられた。その手の小細工は、シンジの得意技である。呆れながらも否定するシンジに、更にアスカは畳み掛けていた。
「ウソよっ!そうでも無きゃ、こうも私ばっかり負けるって変じゃない!?」
6度の対戦で、1勝5敗。アスカのプライドを傷付け、苛立ちと猜疑心を煽るには充分すぎる戦績だった。ブラジャーとショーツしか身に着けていないアスカは、Tシャツ姿のシンジへ怒りに彩られた疑問を力任せにぶつけ続けている。
「だから。アスカの言った条件、全部受け入れたじゃないか。歌う順番とか、マイクとか」
「っ・・・そっそれは・・・そんなの、アンタが何もやってないって証拠にはならないわよっ!!」
「それに今なんか、アスカと同じ歌を歌ったんだよ。更に、リモコンで数字入れたのもアスカじゃないか。どうやって仕掛けろって言うのさ?」
「・・・」
確かにその通りだった。沈黙を守る以外に、返す言葉がアスカには無い。何かやっているのだとしても、その尻尾を掴んでいる訳では無いのだ。具体的に指摘出来無い以上、単なる言いがかりにしかならない。
「ともかく、まぁたアスカの負け。22点差だから・・・2枚か。決めた通りに、ぱーっと脱いじゃってよ」
第3新東京市の歓楽街に有る、雑居ビルを改造した様なカラオケボックスにシンジ達は居た。防音がしっかりしているのか、隣の歌声は殆ど聞こえて来ない。照明はやや薄暗いが、それでも胡散臭い雰囲気はしなかった。
疑い半分でシンジに付いて来たアスカには、意外と言うしかない。シンジの事だから、もっとロクでもない場所を選ぶと思っていたのだ。そもそもカラオケボックスに来る事すら信用していなかったので、本当に着いた場所がカラオケボックスだった時点で充分に驚いていたのだが。
更に驚愕すべきは、シンジの態度だった。本当に、カラオケボックスで巧いとも下手とも言えない歌を歌っている。他には何もしようとはしない。燻り続ける情欲の炎を内に宿している、アスカに手を出す事も。
何曲か交互に歌っている間に、対戦機能を見つけたのはアスカだった。100点満点からの減点法で歌を採点し、歌い手を点数で評価する。ただ歌っているだけでは面白く無いからと、アスカの方からシンジに勝負を持ちかけたのだ。
因みに負けたら服を脱ぐとルールを提案したのは、シンジである。負けた側に、それなりのペナルティが無いと面白く無い。いかにもシンジらしい理屈で、ゲームの要素を増やしたのである。
アスカは、そのルールを軽い気持ちで承知した。理由は、勝ち目が見えた為である。先程聞いた程度の歌唱力ならば、シンジに負ける事は無い。そう確信しからだ。
しかし、結果は1勝5敗。アスカとしては、信じ難い惨状だった。僅差の勝利が1つだけと、圧倒的な敗北が5つ。シンジの着ていたYシャツを剥ぎ取っただけで、ついにアスカは総ての着衣を奪われる羽目となっていた。
「・・・判ったわよ・・・」
脱ぐのが恥ずかしいのか、それとも圧倒的な負け越しが恥ずかしいのか。アスカにも判らない。判っている事と言えば、逆らえばもっとロクでも無い目に遭わされる事だけだ。渋々、アスカは残された2枚の着衣を脱ぎ始める。
背中に手を廻し、ホックを外した。肩紐をずらすのと同時に、布地の間に腕を差し入れ胸の中心辺りを隠す。後は上半身を捻る事で、ブラジャーを床に落とした。
前に身を屈め、腰に手をかける。引っ張る様にショーツの上辺に指をかけ、そのまま巻く様に下へとずらして行く。
「っ!?」
思わぬ音を聞いて、アスカの顔色が変わった。くちゅっと言う、湿った音が。見ると陰裂と其処を覆っていた布の間に、透明な糸がつぅっと走っている。慌ててアスカは、顔を赤らめながら愛液の糸を断ち切る様にショーツを一気に脱ぎ捨てた。
「っ・・・ぬ、脱いだわよ・・・」
何を今更と思わないでは無いが、両手でアスカは胸と股間を隠している。散々見られたどころか、弄ばれ倒した肉体なのだから。
最も、だからと言って開けっ広げにする筋も無い。と言うよりも、何もしない訳には行かなかったと言うべきなのかも知れなかった。自分が濡らしていた事を知ってしまった為に、改めて羞恥心が苛み始めたのだろう。
押さえられている乳首も、ゆっくりと固く尖り始めているのが腕に伝わって来る。乳首を貫く、ピアスの冷たさと共に。その感触を受けて、湿った綿を握る様に再び愛液が溢れ始めていた。
「っ!」
とても立っている余裕などない。勢い良くソファに座り、アスカは両足をきつく閉じ合わせた。それから身体を丸め、少しでもシンジの視線を受ける表面積を減らそうとする。
「・・・そんな事は、見れば判るけど」
子供じみた真似をするアスカに、シンジの陵辱する様な視線が突き刺さる・・・様な気がした。だが実際のシンジの目は、さっさとアスカから外れている。アスカが脱ぎ終えた事を一瞥し確認した後は、再び次に歌う歌を探し始めていた。カラオケボックスにおいて、良くある態度である。
「それじゃ、第7回戦を・・・」
「っ・・・ちょっと待てぇ!」
言われた通りに全裸になったにも関わらず、シンジの態度は余りにも素っ気なかった。しかも、どうやらシンジは未だ対戦を続けるつもりらしい。曲のコードが載った本をぱらぱらとめくり出すシンジを、慌ててアスカが止めた。
「え?今度は何さ?」
「っ今度は何さ、じゃないわよっ!見りゃ判んでしょ!?私にはもう、着てるモノ無いのっ!それで、どうしろって言うのよ!?」
身体を隠す事も忘れ、乱暴にばんばんとテーブルを叩きながらアスカはシンジを怒鳴り飛ばす。激しく胸が揺れ、それが少しだけ痛みを覚えさせた。そんなアスカを面白い玩具でも視る様な目で眺めながら、シンジは皮肉っぽい疑問を投げ掛ける。
「ふぅん・・・アスカらしくないねぇ。今度こそ勝つ、って気は?」
「1勝5敗で、どぉすりゃそんな自惚れ抱けるってぇのよっ!?」
「・・・自分の歌が下手だって、ボクに力説されても・・・」
「っそぉじゃぬわあぁいっ!!」
頭に血が昇り過ぎたのか、アスカは自分が何に腹を立てているのか判らなくなり始めていた。そこに、冷水をかける様なシンジの冷静な意見が割り込む。
「だったら、別にいいじゃないか。アスカが勝てば、ボクが脱ぐだけなんだから」
「・・・それよか・・・どうせだったら、私に服を着させて欲しいんだけど・・・」
正論と言えば正論だが、アスカとしてはシンジが脱ぐ所を見ても嬉しくはない。それよりも、奪われた衣服を奪還出来た方がずっと良かった。どうせ聞き入れられる訳が無いと、諦め半分で呟いてみる。
「いいよ」
「え?」
「それじゃ、アスカが負けたら・・・フロントの自販機で、缶ジュース買って来てよ。その格好のままで」
「・・・イヤ」
とんでも無い提案に、アスカは短い否定の言葉を言う事しか出来ないでいた。自分の提案をすんなり呑んだだけに、絶対に何か代替条件を提示するだろうとは思っていたが。余りの酷さに、瞬間とは言え猛る事すら忘れてしまっている。
「何で?」
それでも、言わねばシンジには伝わらないだろう。理解出来ないとでもいいたそうな表情を浮かべるシンジに、アスカはありったけの罵声を浴びせる。何でこんな事が、言われなければ判らないのだと。
「っアンタぶわかぁ!?何処のバカが素っ裸で、表ほっつき歩きたがるってぇのよっ!?」
「どうして?アスカって、見られて興奮しちゃうタイプじゃないの?」
「っ、そそそっそんな訳無いでしょ!?」
どもりながら、それでもアスカはシンジの疑問を一蹴しようとした。シンジがそう嘯く根拠はアスカにも判っている。それでも心の中で、頼むから気付いていないでくれと祈らずにはいられいない。
「だって今も。ボクはなぁんにもしてないのに、お○んこ濡らしてるしさ。それって、見られて感じてるからじゃないの?」
「っ!?」
無造作で無慈悲な指摘に、アスカの顔が真っ赤に染まった。気付かれない訳が無いが、やっぱり気付いていたと絶望感を味わいながら。
「学校の屋上でした時も、おしっこ漏らしちゃうくらい感じてたし・・・あの時は、言葉責めに弱いんだと思ってたけど・・・成る程。そう考えると、納得出来るよ。あの時と比べて、家の中でアレコレした時に反応がイマイチな事とかも」
「違ああうっ!!ぬわに妙な納得してんのよ、アンタわぁ!?」
張り裂けんばかりの絶叫で、アスカはシンジの誤った理解を否定しようとする。過去を思えば、無駄な事だと判っていても・・・それでも、せずにはいられない。
「別に隠さなくてもいいよ、性の趣向は人それぞれだから。でもさぁ。だったら何で、さっき服が着たいなんて言ったの?」
「・・・」
独りで勝手な思考を展開させるシンジを見ながら、アスカは再び暗澹たる思いが脳を埋め尽くすのを感じていた。全くアスカの言う事に、耳を貸していない。あるいは右から左に流れているのかも知れないが、どちらにせよ聞く気が無い事には違い無いだろう。
「それじゃあ明日から、制服のスカートを膝上40センチくらいの丈にしようかな。ついでに上着のシャツも、乳首が見えるか見えないか位の長さにして」
「っ・・・そんな格好してたら、学校着く前に警察にパクられるわよっ!!」
その姿を脳裏に描きながら、アスカは即座に断言した。スカートの長さが膝から40センチ上に有るとなると、殆ど無いも同然である。普通に立っていて何とか、股間が隠れる程度にしかならない。少しでも動けば、あっさりショーツが露わになってしまう。上着に関しては改めて論ずるまでも無く、猥褻物陳列罪で引っ張られても文句の言える格好では無い。
「そうかな?」
「そうよっ、決まってるでしょ!?」
小首を傾げるシンジに、アスカは更に畳み掛けた。1つ間違えたら、それ故に実行される可能性が有ると言うのに。
「・・・まぁいいや。露出狂なアスカの性癖を満たす事は、改めて考えるとして・・・」
「っそんな事考えなくていいわよっ!私は、露出狂じゃないんだからっ!!」
「先ずは、カラオケの勝負を考えないと」
「・・・」
相変わらずの事だが、アスカの意見をシンジは聞き流し続けていた。結局、普段と同じである。怒鳴り過ぎて喉の疲労感を覚えたアスカは、テーブルに置いて有ったグラスを取り、ストローを使わず直にジュースを飲み干した。
「そぉだなぁ・・・じゃ、こうしようか。アスカが負けたら、1曲。ボクの入れた歌を歌ってよ。その歌に関しては、どんなに点数低くても罰ゲームは無し。それでどう?」
氷だけが残ったグラスを、アスカは机に戻す。それを待っていた様なタイミングで、シンジが新たな提案を行った。
「・・・」
だがアスカも、即座に返答をしようとはしない。無言で、頭の中だけでアレコレと考え始める。
過去の戦績を思えば、流石に勝利ばかりでは無く敗北をも想定せざるを得なかった。無論勝つ事を前提として勝負に挑んではいるのだが、1勝5敗と言う現実から目を逸らす訳にもいかないだろう。
勝ったら服を再び着られる。負けても、もう1曲歌うだけ。シンジが提示したとは思えないほど、美味しい提案の様に感じられた。だが、アスカは首を縦に振ろうとはしない。眉間に皺を寄せ、シンジの顔をじっと睨み付ける。
「ん?どうしたのさ、アスカ?」
「・・・アンタにしちゃあ、随分と甘っちょろい提案だと思ってたのよ・・・」
シンジが提示する、アスカにとって美味しい提案。そこに、どうしてもアスカは釈然としないものを覚えずにはいられなかった。これも過去を少しでも鑑みれば判る事だ。そんな事は、絶対にあり得ないと。
と、なると・・・やはり、シンジが何かを仕掛けていると見るべきだろう。だが、一体何を仕掛けているのか?それがアスカには見通せない。どれだけ考えシンジの顔を見つめても、その答えは得られそうに無かった。
「物足りないの?もっとハードな奴がいいって言うんなら、そうするけど?」
「っ判ったわよっ!負けたら、アンタの入れた歌を歌ってあげるわっ!」
冗談では無い。下司の勘ぐりでしかない誤解も、ロクでも無い条件を受け入れさせられるのも御免である。慌ててアスカは、シンジの提案を了承する事にした。
フロントでシンジが待つ部屋番号を聞いたマナは、直接向かう様な事はせずに1フロアずつ迷子になったかの様に歩き続けていた。
外の諜報員は1通り片付けたが、恐らくビルの中にも居るだろう。外の連中は眠らせる事を優先したので、確認も尋問も出来なかった。その為に、虱潰しの探索を続けている。部屋だけでは無く、従業員の控えやトイレや非常口と言った所まで。
それぞれの部屋の入り口は、「田」の字になった金属のフレームに濃い色のガラスが填め込まれていた。空き部屋でマナ自ら確認してみたが、外からも中からも伺えるのは人影と照明の点滅程度しかない。覗けば部屋の中を見れるかも知れないが、逆に覗いている事も中から簡単にバレてしまう。
ただマナには、部屋を覗き見る気など無かった。気配を探るだけである。それで、十分に事は足りた。カラオケを歌いに来て、わざわざ気配を隠す者など普通はいない。その、普通では無い者を探せば良いのだ。
探す方法も、そう難しいものではない。ただビルの中を、ふらふらと歩き回るだけで事足りる。無駄に時間を要してしまうが、万全を期す為には仕方が無かった。
「・・・どうやら、他には居ないみたいね・・・」
ある場所を残して、1通り探索を終えたマナは結論を下した。不穏で不自然な気配は何処にも無い。中には、どうやら誰もいなかったらしい・・・たった、1カ所だけを除いて。
人数は1人だけ。それはいい。問題は、その人物の居る場所だった。フロントで聞いた、御主人様の待っている部屋の至近。もはや疑う余地は無い。標的は、御主人様だ。マナの感じた、嫌な予感が当たった事になる。
歩を進めながら、マナはバッグから針と小さな薬の瓶を取り出した。今まで使ったモノとは、別の代物である。麻酔薬だが、持続力が無い。個人差は有るが、1時間も効力を持たせる事が出来なかった。麻酔薬と言うより、麻痺薬とでも呼んだ方が適切かも知れない。
狙いは判った。だが、誰が狙っているのかが未だに判らないままである。最後の1人を捕獲し尋問して、今後の憂いとならない様に対策を練る必要が有るだろう。カラオケボックスの中なら、周囲の目を気にする事なく尋問出来る。
指の間に、薬の染みた針を忍ばせたまま。マナは気配を殺す事無く、御主人様と招かれざる客の待つ部屋を目指して歩く。気配を殺さなかったのは、この手の場所では気配が無い方が不自然だからだ。普通の人として、ぎりぎりまで相手に接近する。この針を使うのは、相手を確認してからでも充分だろう。
通路には、1人の男が立っていた。それも、シンジの居る筈の部屋の前に。険しい顔で、部屋の中に視線を投じている。扉から間を開けて立っているのは、ガラス越しに見咎められる事を恐れての事だろう。傍目には、部屋が空くの待つ様な仕草にも見える。カラオケボックスに於いて、あり得ない事だが。
素知らぬ顔で、マナは男との距離を詰めて行く。目を動かす事無く。男の存在を、さも気付いていない様に。早くもなく、遅くもない速度で。視野の隅に入る、扉のガラスに写った男の顔を脳裏に焼き付けながら。
その男の正体を、マナは知っている。加持リョウジ。NERVでは無く、国連に所属する出向職員。弐号機とアスカを移送する、空母にアスカの保護者役として乗り込んでいた男。その後は、経緯は不明だがNERVに居着いているらしい。
・・・そう言う事か。声には出さず、1人マナは得心する。倒して来た諜報部員達の正体だけで無く、気の抜け切っていた理由も判ったからだ。
彼らは加持の命令に従って、アスカをシンジから奪還する為にカラオケボックスへと来た。しかし奪還する理由に関しては、一切説明していないのだろう。説明する為には、置かれている状況も話さねばならない。つまりアスカがシンジに性欲処理の奴隷として調教されている事を、話さなければならなくなる。
そんなモノを聞かされても、信じる者などいる訳が無い。又助けられる側のアスカも、自分の痴状を多くの人に知られたいとは思わないだろう。結果として、何故奪還しなければならないかが曖昧になる。しかも14歳の小娘を、同じく14歳の子供から。気を漲らせる事など、出来る訳が無い。
マナが排除した人間は、現時点で4人。小娘1人の奪還作戦からすれば、必要以上の人数だろう。それも、結果としてはマイナス要素である。奪う相手も、14歳の子供なのだから。本来の実力を、出す気になれる訳が無い。加持としてはアスカのプライドを優先したつもりなのだろうが、結果としてそれが仇となったのだ。
最も、普通に考えれば加持の作戦は成功しただろう。マナと言う想像の外に有った存在が、その計画を総て破壊してしまったのだ。出来ていた穴を、偶然と実力でマナが突く形で。
「・・・」
マナは必死になって、口元に浮かぼうとする笑みを堪えていた。あからさまな、侮蔑の笑みを。御主人様と自分を侮った、愚かしさを嘲らずにはいられない。今迄潰して来た連中と違って、加持は相応に出来る。他の連中と違って、気も抜けてはいない。しかし、それだけだ。とても、自分の敵と言える程の能力は有していない。
今のマナには、時間が惜しかった。下らないお遊びに付き合わされていたら、自分の楽しむ時間が減ってしまうだけなのだから。1分1秒でも、つまらない事は早く終わらせるべきだろう。そんな時間が有るなら、御主人様と共に居る時に費やすべきなのだから。
一瞬だけ睡眠薬を選択した事に、マナは後悔しかけていた。相手の正体が判れば、生かしておく理由などない。後の事を思えば、殺した方が憂いは少ないだろう。
だがそれは、差し出た愚考にしか過ぎない。加持の事を、御主人様も知っているのだから。どうするかは、自分では無く御主人様が決める事である。
御主人様が殺すと言うのならば、それでいい。生かしておくと言うのなら、それで構わない。それを決めるのは自分では無く、御主人様なのだ。殺せと命ぜられれば、躊躇い無く殺す。命令に従って実行する、それだけの事である。
「・・・」
加持と扉の間を通る瞬間に、マナは肩からジャケットを浮かせた。着ている間にずれたジャケットを、羽織り直すかの様に。それと同時にマナは手首を捻り、その勢いだけで加持の首筋に向けて薬液に濡れた針を投じる。
「っ!?」
顔を僅かにゆがめ、加持は首筋を掌で押さえた。ちくっと、何かが刺さる感覚。軽いが、する筈の無い不自然な痛みが首筋に走った為に。
掌で首筋を押さえたまま、加持は信じられないと言った顔でマナを見つめている。ぱくぱくと口が動いているが、そこから声が発せられる事は無い。
明らかに、油断していた。今更しても、何にもならない後悔に加持は己を苛む。単なる、普通の小娘。そう決め付けて、加持は最低限の警戒すらしていなかった。自分の存在を気付かれてはいないと、勝手に思い込んでいたのである。その油断が、こうして報われる事となった。高過ぎる代償を支払う事で。
視野に映るもの総てが、急速に霞んで行く。地面は激しく波打ち、上下左右に揺れていた。感覚を喪失した身体からは、存在感さえもが消え去ろうとしている。
そして、漆黒の闇が加持を包み込んだ。
「・・・やれやれ。大した事無いわね、国連って言っても」
崩れ落ちかけた加持の身体を爪先で支えながら、マナは諜報員の寝顔に嘲りを投げ掛ける。
諜報員同士の闘いに於ける実力差とは、結局の所は実戦経験の差でしかない。NERVの警備は、マナからすれば鼻で笑うしか無い程のお粗末さだった。そもそもマナが、シンジに容易に接近出来た事がその証明である。常識で考えれば、身元が不詳な相手など接近出来る訳が無いのだから。
そんな中で諜報活動を続けていたとしても、少しも能力を磨く事にはならない。逆に、腕を鈍らせる事となるかも知れなかった。それが、この結末である。嘲る他に、出来る事など無いだろう。諜報員としては、はっきり言って失格である。
「・・・さて。御主人様は、この御土産を気に入って下さるかしら?」
完全に意識の失せた加持を踏み付けながら、マナは部屋の中を伺おうと扉に近寄った。加持と同じ様に、中からは誰が居るかは判らない程度の距離を置いて。
「・・・?」
そこにはシンジと、未熟な新入りの奴隷が居た。意味は判らないが、奴隷は素っ裸でマイクを握り何やら歌っている。どう見てもその光景は、調教などでは無く遊んでいる様にしか感じられない。
「・・・そんな事より、他にやる事が有るでしょ・・・あなたには」
単純にカラオケを楽しんでいる様に見えるアスカに向けて、思わずマナは毒づく。握るべきは、マイクなどではない。口も、歌の為になど使うべきでもない。奴隷の存在意義など、御主人様に奉仕する他に何も無いのだから。
これが未だ、シンジが歌っているのならマナにも理解出来る。その間牝犬は、奉仕なり肉棒を突き立てられていれば良いのだから。自分がアスカと同じ立場に居たら、間違い無くそうしている。だからこそマナには、状況を理解出来なかった。
「・・・それとも」
窓の中を見ながら、マナには首を傾げる事しか出来ない。シンジが黙って見ているからには、アスカが歌を歌っているのはシンジが了承している行為と言う事になる。だとすれば、そう言う事になる。いかに、そうは見えないとしても。
「これも、調教の一環・・・なの?」
そもそも、マナにシンジが何を考えているかなど判る訳が無かった。ただ状況を認識するだけの事だ。それにどの様な意味が込められているかなど、御主人様が考えれば良い事である。一奴隷如きの、思いが及ぶ所ではなかった。
「・・・」
ただ、アスカが居るとなると加持を連れて入る訳には行かない。アスカはマナを、戦略自衛隊の人間だと知っていた。それを加持が知れば、収拾が付かなくなる可能性も有る。余計な混乱を、わざわざ招く必要も無いだろう。
「・・・!?」
どうしようかと迷いかけたマナが、思わず息を飲んだ。シンジが、マナへと視線を投じていた為に。
恐らく加持が覗いていたのも、シンジは知っていたのだろう。つまり、この一部始終も見ていたに違い無い。マナが加持を眠らせる為に演じた、立ち回りも。
知っていて、あえて何もしない。それを思うだけで、マナの胸に熱いものがこみ上げて来る。自分が御主人様の役に立っていると言う、存在意義を感じる為に。委せて頂けた事を遂げられた、期待に添う事が出来た喜びに。
信頼しているが故に、手を出さない。委せておけば大丈夫だと、絶対の信頼を寄せて頂けている。シンジの奴隷であるマナとしては、悦ばずにはいられなかった。
「・・・」
自分を見つめ続けるシンジに向け、マナは目で話かける。この男を連れ、トイレで待っていると。小さくシンジが頷くのを見届けた後、マナは扉から離れた。
「・・・お陰で、御主人様に御褒美を頂けるかも・・・ありがとうね、間抜けなスパイさん」
皮肉っぽくも妖艶な笑みを浮かべ、マナは力の抜けた加持の身体を担ぐ。そして自分の身体が熱く火照り始めるのを感じながら、トイレへと歩を進めた。
「・・・」
モニターを見つめたまま、アスカは動きを止めていた。余りの衝撃に、心臓が止まってしまったのかと錯覚してしまう。
「・・・」
心の中に凍てつく様な冷たい風が吹き抜けるのを、アスカは実感していた。ひゅうひゅうと木枯らしに乗って枯れ葉が舞い、口に出すのも情けない現実がアスカに突き付けられる。
「・・・また、負けたね・・・」
「・・・」
罰ゲームよりも今は、敗北と言う現実の方がアスカには深刻に覆い被さっていた。エヴァを動かす事で、負けている。体術に関しても負けている。お遊びとは言え、まさか歌でも負けるとは思っていなかった。なまじアレコレとシンジに難癖を付けただけに、その惨めさが一層堪えてしまう。そこまでやっても、負けてしまったと。
念の為に触れるが、シンジは本当に何も仕掛けていない。純粋に、アスカの実力で負けているのだ。ただアスカも、音痴だから敗北したと言う訳ではない。逆に、シンジの歌が飛び抜けて上手いと言う訳でも。問題は、各々の歌い方と採点システムの相性に有った。
アスカは歌を巧く歌おうとしている。その結果、音の延ばし方や歌うタイミングにオリジナルとは微妙な変化が生じていた。一方シンジには、その手の細工をするだけの技量が無い。オリジナルを模倣して、それで終わりだった。CDとライブを聞き比べると、同じ歌手が歌っていても違いを感じるのと同じ事である。
因みにシンジはCD的な、アスカはライブ的な歌い方をしていた。だから聞いている分には、音の繋ぎや余韻の残し方でアスカの方が聞き心地は数段良い。機械に細工をしたと、アスカが腹を立てるのも当然の事だろう。
だが判定する機械に感覚は無く、もっと単純な方法で採点を行っていた。具体的には、いかに忠実に歌うかを調べているのである。音程や音の長さと言った、基本的な事を。結果、忠実に歌っていないが為にアスカの点が低くなった・・・と言う事である。
因みに採点システムの仕組みを、シンジは知らない。そもそもシンジがカラオケに来た目的は、マナと合流する為の時間潰しでしかなかった。誘いはしたが、実の所アスカは来ようが来まいが構わなかったのである。
付いて来たから遊んでいるだけの事で、仮に自分が全裸になっても別にシンジは構いはしなかった。アスカに裸を晒す事など、何とも思っていないのだから。
「それじゃ、罰ゲームだね・・・えーっと」
アスカが全裸になったのは、単なる偶然の産物である。ただ、この状況を利用しない手は無い。リモコンをかちゃかちゃと操作して、本当はマナにやらせる予定だった行為をアスカに促す。
「この歌を、歌って頂きましょう。では惣流・アスカ・ラングレーさん、張り切ってどーぞぉ」
「・・・何よ、その陳腐な司会者口調は・・・?」
シンジの喋りを横に聞きながら、それでもアスカはマイクを握り歌う準備をする。たかが歌う位の罰ゲームなど、どうと言う事は無いと言い聞かせながら。歌詞を写すモニターへと視線を向け、どんな歌が来るのかと身構えながら。
「・・・何これ?」
モニターが趣味の悪い、ピンク一色に染め抜かれた。そこに小さな白い染みが浮かび、すぅっと滑りながら文字を描いて行く。その文字を声に出しながら、アスカは眉を潜める事しか出来なかった。
「恋さぐりぃ?八神康子ぉ?ぜぇんぜん知らないわよ、こんな歌も歌ってる人も・・・」
モニターに出たタイトルと歌手名に、アスカは正直な感想を漏らしている。知らないどころか、記憶に掠りもしなかった。困惑を隠そうともせずに、アスカはシンジへと視線を投じる。
「大丈夫だって。ちょっとイントロ長いけど」
「・・・それにしても、やたらと辛気臭い音楽ねぇ・・・アンタの趣味って、こう言う曲なの?」
スピーカーから流れる音楽が耳に届き、アスカは思わず顔をしかめた。テンポが遅く、抑揚も殆ど無い。弛んだ様な、古くさくて眠気すら誘う音楽。カラオケボックスよりも、中年が集まるスナックや場末の居酒屋で流れる方がずっと似合っている。
「・・・!?」
長く退屈なイントロが終わり、やっとモニターに歌詞が表示された。それを見た瞬間、ぼんっと爆発する様な勢いでアスカの顔が上気する。つまらなそうにモニターを見ていた表情は一変し、わなわなと身体が震え出す。モニターの映し出した、歌詞らしき文字の羅列を見て羞恥心が爆発してしまった為に。
「っぬぬぬぬわによ、これわぁ!?」
マイクを握ったままで、マイクに向かってアスカは反射的に叫んでいた。いや、叫ばずにはいられなかったと言うべきか。
「あれ?歌わないの?」
「っ・・・歌えるかぁっ、こんな歌っ!!」
アスカの怒りも、当然の事だろう。モニターには、ほんの数種類の文字しか表示されていないのだから。
殆どが「あ」と「ー」だけで構成され、そこに時折「ぅ」や「っ」が混じっている。それが何を意味するか、判らないとアスカには言えない。
「でも、罰ゲームなんだしさ。アスカ、さっさと歌ってよ」
「だからっ!こんなの歌じゃないってぇのっ!!」
嬌声。喘ぎ声。それ以外の、何でもない。それ以外のモノと、アスカに思える訳が無かった。シンジに強制され、自らも散々発した言葉・・・いや、声。だからこそ、余計に怒りが爆発してしまうのだ。
「そう?でもさぁ、アスカ。こっちじゃ、上手く歌ってるよ?」
アスカの怒号を難なく受け流しながら、シンジがリモコンを操作する。それと同時に、表示された歌詞はそのままでバックの映像だけが瞬時に切り替わった。
「!?」
その映像を見て、アスカは思わず息を飲む。そこに居たのは、オレンジ色の髪を持つ全裸の・・・惣流・アスカ・ラングレーだった為だ。
モニターの中のアスカは、自分の胸を揉み陰裂に指を滑らせていた。半開きになった口からは吐息を漏らし、目を閉じ快感を味わっている。
実はシンジがカラオケボックスに来た理由は、これをマナと見る為だった。歌の方も、マナに歌わせようとして準備したモノである。わざわざカラオケ用に、NERVの機材で編集すると言う手間をかけてまで。予想に反してアスカが付いて来てしまったので、歌わせる相手を変えただけの事である。
「あ・・・ああ、アンタ・・・」
ただ、そんな事はアスカの知った事では無かったし・・・今は、それどころではない。愕然とした表情と、震える声でアスカはシンジに問う。
シラを切る余裕など、アスカには無かった。それ程、見せつけられた映像は強烈に過ぎたのだ。処女を失う時に見せられた、シンジとマナの性交など比較にもならない。何しろモニターの向こうに居るのは、誰あろう自分なのだから。他人事では無い分、胸に突き刺さるものは強く鋭い。
今更、否定するだけ無駄だろう。シンジに妙な革の下着を着させられた時。これは、それを脱がされた後で自室で行った自慰の映像だ。
「・・・みっ、見てただけじゃ・・・」
あの翌朝に、シンジはアスカに聞いてた。オナニーがどうこう、と。だからシンジが、自慰をしていた事を知らない訳が無い。見ていても、おかしくは無い。そう、アスカも踏んではいた。
ただ、まさか録画されているとは思ってもいない。かたかたと震えながら、アスカはシンジに聞くまでも無い事を訊ねる。
「え?アスカ、気付いて無かったの?」
「・・・どっ、どー言う意味よ・・・?」
「撮ってるのを知ってたから、オナニー止めなかったんじゃないの?」
「っそんな訳有るかぁ!!」
既に何度目か判らない怒りを、アスカは爆発させた。要するにシンジは、見ている事を知っていたからこそ自慰をしていたと言っているのだ。それはアスカが露出狂だと言う事を、前提とした理屈である。そのしつこさだけを取っても、アスカが怒りを爆発させて当然だろう。
「そうなの?それにしちゃあ、無駄に激しいんだけど。露出狂のアスカらしく、見られてたから燃えた・・・もとい。見て欲しかったから、あんなに激しくオナニーしてたんじゃないの?」
「っ・・・違あああぁうっ!それに何度も言うけど、私は露出狂なんかじゃないわよっ!!」
「まぁ、自分から認める人なんて滅多にいないけどね。それよりさ、早く歌ってよ。罰ゲームだって事、忘れたの?」
「・・・」
そう言われた所で、歌える訳が無かった。スピーカーから、恥を忘れた自分の歓喜の声が響いている。モニターでは、潤んだ割れ目へとアスカは自ら指を突き立てていた。その飛沫が飛び散る音迄もが、耳に届く気がする。
「・・・」
部屋の明かりを、煌々とつけていた訳ではない。にも関わらず、映像は呆れるほど精細にアスカを映し出している。当然の様にフルカラーで、しかも皺の一本までをも。モザイクを入れ忘れた、アダルトビデオの様に。
我が事とは思いたくもない、恥知らずな真似。しかしその映像から、アスカは目を逸らす事が出来ないでいた。改めて声など出る訳が無い。ただ放心状態で、モニターを見つめ続ける事しか出来ないでいる。
「・・・しょーがないなぁ」
テーブルを跨ぎ、億劫そうにシンジはアスカの方へと歩み寄った。マイクを掴んだアスカの手を握り、その腕にコードを手早く巻き付けて行く。
「っ、何を・・・っ!?」
手首をマイクのコードで絡め取られ、ようやくアスカは我に帰った。慌てて声を上げ、コードを振り解こうとする。しかしそれは、余りに遅い対応だった。既にコードは、完全にアスカの両手を絡め取っている。合わせれた手の間にマイクを握らされたままで、手首から先の自由を完全に奪われていた。
「手伝ってあげるんだよ、アスカが歌うのを」
両足の付け根を抱えて、アスカの身体をシンジが持ち上げる。腕や足を振って暴れようとするが、シンジは気にもかけていない。ソファに座り、自分の上にアスカの身体を乗せようとする。
「!?」
無意識に視線を下ろした、アスカの顔色が変わった。ズボンのファスナーが下ろされ、シンジの赤黒い屹立が自分を迎えていた為だ。ここ暫くの間、口にしか入れられる事が無かった巨大な肉の棒。それが、あさましくも涎を滴り落とす肉穴を狙っている。
ふっと、シンジが手の力を抜いた。当然、持ち上げられたアスカの身体は重力に従い下へと落ちる。
「ひっ!?」
一瞬の浮遊感の後、シンジの怒張がアスカの潤み切った柔肉を貫いた。激しく膣の奥を打ち据え、どんっと突き抜ける様な衝撃がアスカの肉体と精神を激しく揺さぶる。
「ぁあっ!?っ・・・はっ、ぁあんっ!」
それと同時に、ぞわわわっと背筋に何かが這い上がってくる気がした。骨盤から、首へと。指やバイブレーターなどでは、どうしても味わえなかった強烈な快感が。
アスカの秘肉に、久し振りに突き入れられた肉塊。口でしか味わえなかった屹立が、アスカの柔肉を荒々しく抉って行く。
「あふっ、はっ・・・あ゛ああっ!」
びくっびくっと、身を仰け反らせたアスカが絶叫を放った。バイブレーターで、自分で掻き混ぜるのとは快感の桁が違う。じわじわとこみ上がって来るのでは無く、動きを予想させない激しい快感。自慰では、絶対に得られない感覚。それにアスカは翻弄されていた。
「はっ、ん・・・ぁっ、あっあああっ!」
シンジは下から、上に乗せたアスカの身体を激しく突き上げている。根本まで埋まった肉棒の先で、アスカの子宮口を突き破らんとする様に。激しく、容赦も無く。
「あぅっ!?っ・・・ぃ、いいっ!ひっ、ぁあんっ!」
荒馬に跨ってロデオをしているのと、似ているかも知れない。ただ両腕を縛られたアスカには、バランスを取る術が無かった。喘ぎながらも、ぐらぐらと身体を前後左右に揺らしている。
「あぁっ!はっ・・・っぁ、あああっ!」
それが膣内壁の、あらぬ所に刺激を受け更なる快感を呼び起こしていた。自分1人では絶対に得られる事の無い、予想していなかった部位への刺激。それは自分で慰めるより、遙かに強い快感の波となってアスカを揺さぶっている。
「くっ、あはぁっ!っ、ぎっ・・・あうぅっ!?」
今にも転がり落ちそうな身体を支える為か、シンジの指がアスカの乳首にぶら下がった両方のピアスにそれぞれ引っ掛かけられた。
「ぃっうぅっ!?っ・・・くっ、ああっ!」
身体の揺れに合わせて、当然乳首は激しく引っ張られる。引き千切られんばかりの痛みが胸から疾走し、アスカを激しく苛んでいた。
「はうっ、うっ・・・くぅっ、あっあはぁっ!」
痛みが快感に転化する。既に自ら知った、特異な感覚。異常な事だと言う事くらいは、アスカにも判っている。しかし判っていた所で、アスカにはどうにもならなかった。
「ひっ、くぅんっ!ぁ・・・はあぁっ!」
その感覚は、激しい快感となってアスカの脳に届いている。それが現実だった。乳首を指先で擦る事と、何も変わりはない。むしろ刺激が強い分だけ、単に愛撫されるよりもアスカの身体は素直に悦びとして受け入れている。
「うぅっ、んあうっ!ぃっ、うあああっ!」
本気で支えるつもりだったら、胸をわし掴みにでもした方が確実だろう。知っているのか、それともアスカをその方向へと調教したいのか。そのどちらであれ、アスカは歓喜に喘いでいる。
「はっ、ああんっ!ふっぁふあっ!」
以前と比べ、シンジに挿入されている感覚を明確かつ仔細にアスカは感じていた。張り出した雁首が肉壁を掻き分ける感覚。茎に浮かんだ瘤が、潤む淫壁を擦る感覚。ぱんぱんに腫れ上がった亀頭が、子宮口に突き入らんとする感覚。
そのどれもを、アスカは脳裏に描いている。一度も見た事の無い筈の、自分の膣の中を明瞭に。熱く滾る肉の塊を、アスカの媚肉が包み込み締め付ける。内股に力を籠め、肉襞に伝わる刺激をより強めようとして。
「ふぅっ、んんんっ!むっ、ああんっ!」
何時の間にか、歌は終わっていた。アスカの自慰は続いているが、歌詞は消え代わりに2桁の数字が表示されている。
「・・・へぇ・・・普通に歌うより、いい点数出すなんてねぇ・・・」
アスカの身体越しに、モニターを覗いたシンジが皮肉っぽくアスカに話しかけた。得点は、実に71点。皮肉にも、今日出た最も良い数字である。
「はあぁっ!あぁっ、あっあああっ!ぅんっ、んあああっ!」
勿論アスカは、そんな事に意識は向けていない。モニターを見ている余裕など、もう無かった。
快感が脳裏に煌めき、自分の中の何かを弾けさせる。それが何かなど、アスカには判らない。考える余裕など無かった。ただ翻弄され、嬲られるままに。アスカは快楽に酔い、悦楽を謳歌し続ける。
「・・・未だ未だ余裕有るんだけど、ちょっと用事があるから終わらせるよ・・・っ!」
身体の奥深くに突き立てられたままの、シンジの肉塊がびくっと大きな脈を打つ。その直後、どくんっと子宮の入り口で何かが爆発した。
「ひっ!はぁっ、あっ・・・ひゃうっ、ああああっ!!」
熱い塊となったシンジの精が、怒濤となってアスカの中に注ぎ込まれて行く。肉棒を受け入れた肉壺の中を一瞬で満たし、更なる浸食を妨げる肉壁を打ち破らんばかりの勢いを伴って。
「っ・・・はっ・・・ああっ!!ひくっ!っ・・・い、あはぁっ!!」
シンジの肉塊から放たれる、射精の脈動に合わせる様に。アスカは身体を震わせ続けていた。自分の身体の奥へと、吐き出される煮え滾った体液に。ばちばちと頭の中で火花が連続して弾け、それと共に頭の中が精液と同じ色に・・・真っ白に染まり、意識が消え失せて行く。
「っ・・・っ、んっ・・・ぁ・・・んっ・・・」
アスカの全身から、完全に力が抜けた。意識が飛び抜け殻となったアスカは、くたっとシンジに身を預けている。
「・・・中に出されてイっちゃったのかぁ。アスカも、すっかりエッチな身体になっちゃったねぇ」
呆けたアスカの顔に、シンジは確信と共に嘲りの言葉を投げ掛ける。口元と目に、淡い笑みを浮かべながら。
「はぁっ・・・ぁんっ・・・はぁっ・・・んっ・・・」
だがアスカは、シンジの言葉を肯定も否定もしなかった。普段のアスカであれば一言の元に切り捨てただろうが、今はその言葉が出て来ない。
「・・・はぁっ・・・ぁ・・・ぁっ、ぁ・・・」
ごぽっと音を立て、膣と肉棒の隙間から溢れた白濁液が零れ床に落ちる。自分の身体の奥底を叩いた、快楽の残滓。その感覚の余韻を、アスカは味わい続けていた。取り繕う事も隠す事も出来ない、満たされた笑みを浮かべながら。
絶頂の余韻を味わっているアスカの身体を、シンジは持ち上げ横に置いた。それから精液と愛液で汚れた肉棒を、テーブルの上のおしぼりで拭いズボンにしまい込む。
「・・・さて、と」
先ほどのマナの合図を、シンジは見ていた。誰かが動いている事は感じていたが、思わぬ獲物の獲得に笑みが零れそうになる。アスカの保護者役の、身柄を確保出来たのだから。流石は戦略自衛隊で鍛え上げられた諜報員である。ぬるま湯NERVの諜報員とは、やはり格も腕も違う。
シンジは、アスカを堕としてから加持に見せつけるつもりだった。保護者役を仰せつかっていた者の怠慢を、嘲り嘲笑う為に。
だがアスカを従属させる直前に、事は露見したらしい。加持が此処に来た事が、全てを証明している。その加持を、マナが処置してしまった。単なる偶然の展開だが、幸運は幸運として享受すべきだろう。
シンジがアスカを調教している事を、もう加持は知っている。ならばアスカの調教の、最終プロセスを終える前に加持と直接話をしておきたかった。加持自信の無力さと共に、もう止める事など出来ないと思い知らせる為に。その上で、調教を終えたアスカから絶望を味わって貰う。
加持の元に向かう準備をする為に、マイクのコードをシンジは手に取った。それで2個の輪を作り、アスカの足首に通す。更にポケットからアイマスクを取り出し、アスカの顔に被せた。
「・・・はぁっ・・・っ!?」
快感の余韻に浸っていたアスカが、現実に引き戻される。突然、視野が暗闇で覆われた為に。何事かと、アスカは反射的に身を捩り身体をじたばたと動かす。
「っ、ぁ・・・ぎ、ぃっ!?」
それと同時に、五体の自由がアスカから奪われた。両膝が折られ、足を閉じる事が出来ない。足首と膝に何かが食い込み、強引に引っ張られている感じが伝わって来る。
一方腕も上に引っ張られ、更に後方へと負荷がかかっていた。背中越しに手首と足首を縛られた様に、身体が弓なりに逸ってしまっている。
「っ・・・くっ!」
じたばたと足掻いていた為だろう。アスカの身体が、ソファから滑り落ちた。ロクに身動きも出来ないので、受け身が取れる訳も無い。大した高さでも無いのに、かなりの痛みがアスカを襲う。
「・・・アスカ、ちょっとは大人しくしててよ。ボク、トイレに行きたいんだから」
呆れ半分の声をかけながら、シンジがアスカの身体を担ぎテーブルの上に置いた。クッションを敷いたらしく、テーブルの冷たさはアスカの素肌には伝わって来ない。だがシンジに取らされている格好を思えば、配慮が有り難いなどと思える訳も無かった。
「っ・・・だったら、縛る事無いでしょっ!?」
「だってさ、勝手に服着そうだし」
「・・・っ」
自分の目論見をシンジに先取られ、思わずアスカは言葉に詰まる。バレて当然の事とは言え、驚きが皆無と言う訳では無いからだ。
「それじゃ。大人しくしてるんだよ」
かちゃっと扉の開く音が聞こえ、アスカは顔色を青く変えシンジに声をかけた。シンジが、本気らしいと言う事を悟って。
「・・・ちょちょっ、ちょっと待ってよ!このまま置いて行く気!?」
当たり前だが、カラオケボックスの扉には鍵など付いていない。つまり誰もが自由に入れる状態で、全裸で身動きが出来ないまま放って置かれる事になる。
今までにアスカも縛られて放置される事は幾度か経験しているが、それは総てマンションの中での話だ。しかも目隠しされているので、誰が入って来たのかも判らない。アスカの顔には恐怖すら読み取れたが、それはむしろ当然の事だろう。
「その格好で、一緒に来る気は無いんでしょ?ボクも、運ぶの大変だし」
「っ、意味が違うわよっ!!」
身を捩ってみたが、出来る事はそれだけで身体はまるで言う事を聞こうとしない。逆に動けば動く程に、強く縛られてしまう気がする。
「あんまり騒いでると、廻りの人が見に来るよ。何事だって・・・あ、アスカはその方が良いのか。じゃあ、ご自由にどうぞ。もしかしたら、見るだけじゃ無くて使って貰えるかも知れないよ」
「・・・」
そう言われて、声を上げられる筈も無かった。思わずアスカは、反射的に口を閉じてしまう。
目を塞がれても、方向感覚まで失った訳ではない。自分の取らされた姿勢に、アスカは顔色を青くさせずにはいられなかった。
部屋の入り口に向けて、足を開き腰を突き出す格好。シンジが言う通り、誰か入って来れば最低でも悪戯くらいはされるだろう。何しろアスカは、目を塞がれ身体の自由を奪われているのだから。
中途半端に開きひくついたままの淫唇からは、未だシンジの注ぎ込んだ精液が溢れていた。しかも両方の乳首には、リングのピアスがぶら下がっている。誰がどう見ても、絵に描いた様な犯される事を期待し待つ女でしかない。シンジの理屈も、あながち冗談だとは言えないだろう。
「・・・」
アスカには、沈黙を守る他に出来る事など無かった。誰とも知らぬ者たちに輪姦される自分が、嫌でも想像出来てしまう。とても、声など上げられる訳が無かった。騒ぎ立てるよりも周囲に気取られる可能性が低い、たったそれだけの理由で。
「・・・黙っちゃったか。でも、カラオケボックス来て静かにしてるのもねぇ・・・口じゃなくて、こっちで歌って貰おうか」
口を閉じ身じろぎすらしないアスカの開いたままの股間に、シンジはマイクを添える。膣から精液が吐き出される音をマイクが拾い、こぽっ・・・こぽっと湿った音がスピーカーから響き出した。
「っ・・・」
スピーカーから降り注ぐ恥辱の音に苛まれたかの様に、アスカの身体の奥が再び疼き始める。先程の感覚が身体の中と脳の間を幾度も反芻し、膣壁が愛液を滴らせ始めていた。内腿を伝わった淫液はテーブルを濡らし、嗅ぎ馴らされた臭気となってアスカを包み込む。
「・・・っ・・・くっ・・・んっ・・・っ」
止まれない。歯止めが効かない。身を捩り、己に伝わる感覚を否定しようとしても。身体は火照り、更なる刺激を求め暴走し続けている。理性を無視して、快感の濁流を欲していた。身体の自由が戻れば、自分で慰め始めたかも知れない。
だがシンジは、そんなアスカに構おうとはしなかった。短い言葉を残し、さっさと部屋から立ち去って行く。
「じゃ、又後で」
アスカを陵辱するのとは、質が全く異なる娯楽を楽しむ為に。
トイレの個室で、加持は目を覚ました。だからと言って、急に目を開けたりはしない。神経を身体の隅々まで走らせ、肉体の状況をチェックする。
身体は何処も拘束されていなかった。内懐に入れた拳銃が残っている。しかし臑に付けて有る、予備の小型拳銃は奪われていた。つまり、身体検査はされたと言う事だ。懐の拳銃も、何か細工がして有るのかも知れない。弾を抜かれたか、銃口に栓でもされたか。武器として、頼る事は考えない方が良いだろう。
「・・・」
気配を探ってみた。1人、自分の正面に立っている。他には、全く感じなかった。1人ならば、素手でも何とかなるだろう。腹を決めた加持は、ゆっくりと閉じていた目を開けた。
「・・・起きました?久しぶりですね、空母以来でしたっけ?」
そこには、1人の少年が立っていた。感じた気配の数と同じ。ただ、それでも加持は驚きを隠せなかった。立っていた少年が誰なのかを知った為に。
「・・・挨拶はいい」
エヴァ初号機の適格者。碇シンジを睨み付けたまま、加持は歯の裏に張り付けたスイッチを押した。張り込ませた部下に、ある行動を促す合図を送る為に。
シンジが此処に居る以上は、カラオケボックスにはアスカしか残っていない事になる。ならばアスカを連れ去る事など容易い。アスカを薬で眠らせ、裏口から運び出すだけだ。諜報員からすれば、どうと言う事も無い仕事でしか無かった。
ただ、問題も無い訳ではない。加持を眠らせた少女は何処に居るのか、だ。加持の視野に、あの少女の姿は入っていない。アスカに付いている可能性も、否定は出来ないだろう。
少女の戦闘能力は、不意を突かれたとは言え加持を驚かせるに充分なモノだった。隙を見せてしまっても問題に思えない様な、自然な態度。そんな少女がアスカと共に居たら、奪還作戦もかなり苦戦するだろう。
「一体・・・君は、何を考えているんだ?」
そんな自分の考えを隠す様に、加持はシンジに聞く。囮として、シンジの気を引き時間を稼ぐ為に。
「そうですねぇ・・・色々と考えてはいますよ。明日の天気とか、今日の晩ご飯は何にしようかなぁとか」
そうシンジが言うと同時に、立ち上がりながらの加持は己の拳をシンジの頬に叩き込んだ。いや、その筈だったのだが・・・実際には加持の拳は宙を切り、勢いに抗えず身を前方に泳がせている。
「っ・・・!?」
信じられない。そんな顔をして、加持は周囲を見回す。そして愕然とした。
「・・・無理ですよ、そんな動きじゃ」
シンジは、さっきまで突っ立っていたのとほぼ同じ場所に居た。相変わらず何事も無かったかの様に、両手をポケットに突っ込んだままで。
「大した腕じゃないなぁ・・・ミサトさんが自慢してたから、ちょっとは期待したんだけど。遠慮しないで、さっさと懐のモノを使ったらどうです?」
「・・・」
シンジが、どうやって攻撃を捌いたのか。それさえも、加持には判っていない。判っている事は、隙を突いた筈の一撃がシンジを捉えられなかった・・・それだけだ。
攻撃が外れた。それは紛う事なき事実である。躊躇する事無く、加持は懐から拳銃を抜き。手早く安全装置を外しながら、シンジへと向けた。小細工をされているかも知れないが、そんな事はどうでもいい。撃つ以外にも、殴るなり投げるなり使い道は未だ残っている。
「・・・今直ぐ、アスカを自由にしろ・・・」
加持の後悔。それは、保護者役でありながらアスカの元を離れた事に有った。最初の人類とやらをゲンドウに渡す為に、VTOLで戦闘中の空母から離脱した事だ。
あれはあれで、仕方の無い事だったと加持は思っていた。NERVにアダムの卵を届けると言う責務こそ、優先すべき事だったのだから。まさかシンジがここまで暴虐無人な真似をアスカにするなど、加持の想像外の出来事でしか無かった。
既にアスカは、取り返しが付かない所まで来ていると加持は認識している。勿論、それを総て己のせいだと言うのは偽善でしかない。ただ保護者役である加持に相応の責任が付いて回るのは当然であり、可能な限り元居た場所へアスカを引き戻すのは保護者の義務でもある。
その上で、過去の怠慢を罰するのならば罰すればいい。それを誰が成すかはともかく、碇シンジと言う少年を見くびっていた自分を。
銃を抜いた理由も、それだ。もう、過ちを繰り返す訳には行かない。ここで決着を付けるしか無いだろう。無論加持も、シンジを殺す気は無い。だが、多少は痛い目に遭わせた方が良いに決まっている。腕なり足なりを撃ち抜き、シンジの虚勢を剥ぎ取らねばならない。
「そんなバカいませんよ。だったら、最初っからヤりません」
シンジの返答は、加持の予想に違わぬ内容だった。図に乗った、子供の戯言。銃を抜いても、使わないとでも決め付けているのだろう。或いは撃てない細工をして有るのかも知れないが・・・今は、そんな事を気にしている場合ではなかった。
「・・・君は、自分がやっている事の意味が判っているのか?」
「ボクに限らず、誰にも判りませんよ。そもそも、意味なんて無いんだから。面白いから、ヤる。精々、それだけの事です。他に意味やら理由付けって必要ですか?」
「・・・」
そうはっきり言い切られてしまうと、加持には返す言葉が無い。確かに、あんな真似をするのに理由など必要無いだろう。理由とは、結局の所は自己弁護にしか過ぎないのだから。シンジが罪悪感を欠片も感じていないのであれば、理由など必要になる訳がない。そもそも、自らを弁護しようと言う気が無いのだから。
「ご大層な言い訳が必要だったら考えますよ。えーっと・・・エヴァに搭乗する事によって生じた、戦闘症候群がどーとかこーとか・・・あ、そーだ。そんなのより愛情の裏返し、なんて方が良いかも知れませんね。ありがちだけど、定番だし」
「・・・」
完全に馬鹿にされている。それが判らない程、加持は愚かではない。だからと言って、シンジの挑発に乗ろうとは思えなかった。子供だと、油断する訳には行かない。自分の攻撃を、一度は避けているのだから。それなりの事は出来ると、決めてかからねば再び足を掬われる。
「アスカの保護者役として、もう一度だけ言う。アスカを自由にしろ」
これは、最後通告だった。ここでシンジが引かなければ、加持としても行くしかない。加持が発する殺気が膨らみ、シンジを包み込んだ。これが最後なのだと、気配でもシンジに教える為に。
しかしシンジは、加持の殺気に包まれながらも顔色1つ変えていない。殺気に気付いていないのか、それとも気にする程の殺気では無いと言いたいのか。少しだけ口を歪め、薄く皮肉っぽい笑みを浮かべたままシンジは加持の通告を破棄する。
「イヤです。結構しつこいんですね、加持さんって」
「・・・そうか・・・」
薄々そうなると思っていた通りに、交渉は決裂した。ならば加持としても、実力を行使する他にない。ゆっくりと加持は、引き金を握る指に力を込める。
だが加持が、その引き金を引き切る事は無かった。唐突に、加持の首筋に冷たい何かが押し当てられた為だ。
「!?」
薄い、鋭利な金属の感覚。ナイフか、それに類するモノで有る事は間違い無い。切っ先は、正確に頸動脈の上を押さえている。皮膚や血管の弾力で耐えられる、限度ギリギリの力が刃には籠められていた。刃を前か後ろに滑らせるだけで、あっさりと肉は切り裂かれ大量の出血と共に自分は死ぬ。
「・・・」
言葉が出なかった。声を出す程度の振動でも死ぬ、と言うのも有るが・・・それ以上に、驚きで言葉が出ないと言った方が良いだろう。
ナイフの存在感は、肌を通して伝わって来る。しかし、それ以外には何も伝わって来ないのだ。ナイフが忽然と現れる訳が無い。誰かが手にしている筈なのだが、その誰かの気配を加持は感じ取れなかった。
「・・・マナ。ボクがいいって言う迄、手を出しちゃダメだって言っておいたじゃないか」
シンジの視線が、加持からやや後方へと動く。苦く、悪戯をした子供を咎める様な笑みを浮かべながら。その言葉に呼応して、加持の背後から殺気が膨れ上がり冷ややかな声が発せられる。
「・・・御主人様に銃を向けているのに・・・ですか?」
「・・・さっきの・・・!?」
忘れる筈が無かった。シンジ達が居た部屋の様子を窺っていた時に、自分の前を通り過ぎた少女だ。そして、薬で自分を眠らせた敵でもある。
「大した事じゃあ無いさ。当たらなけりゃ、何を向けていようが関係ないよ。銃だろうと、核兵器だろうと」
くすくすと笑いながら、シンジはマナの怒りを押さえる。だが加持は、歯ぎしりを押さえられなかった。マナとか呼ばれた少女が現れたのか、ずっと存在していたのか。それさえも加持は気付かなかったのだから。
「・・・」
・・・だが。表情を変えぬまま、加持は思考を改めた。2人とも此処に居る以上、逆にアスカの元には誰も居ない可能性が高いのではないか?邪魔だてする者が居ないのなら、アスカ奪還作戦は成功して当たり前だろう。
自分が囮になって、敵を引きつける事が出来た。その結果が死でも、文句は言えないのかも知れない。過去の怠慢の罰にしては高価過ぎる気もするが、アスカを救えるのであれば仕方が無い代償だろう。そう、思えない事も無い。
「どうです?加持さん、試してみますか?1発目は、多分避けられますよ」
「・・・だろうな・・・」
シンジが言っている事は嘘ではないだろう。銃弾を見て、避ける訳ではないのだ。引き金を引く瞬間の、腕や身体の動きで銃弾が放たれる瞬間を察知し反応するのだから。
加持はシンジに相対して、銃を構えている。引き金を引く動作は、楽に見切れるだろう。又それだけの能力がシンジに有る事を、先ほどの攻撃を避けた事で加持に教えていた。
そして引き金を引けば、加持の命運は尽きる。2発目を撃てればシンジを捉えられるが、そもそも引き金を引ける事は無いからだ。シンジはともかく、マナと呼ばれた少女は絶対に動く。恐らくナイフの刃を動かし、2発目を撃つ前に自分は首から血を噴き出し殺されているだろう。
「そう言えば加持さんって、此処に1人で来たんですか?」
「いいえ。他にも、確認出来ただけで4人居ました。表に2人、裏に1人。それから車の中に1人。これが、その証拠です」
マナが掌を広げ、何かを床に落として行く。小さな樹脂製の、白い物体。それが何か、加持は良く知っている。知らないと、言える訳が無かった。それは今回の作戦行動に参加した者たちに、加持自らが手渡したイヤホンである。
「・・・」
床にイヤホンが落下する乾いた音を、加持は呆然として聞いていた。自分から送る合図を伝える為に、用意し渡しておいた代物。それをマナと呼ばれた少女は、総て回収していた。アスカの救出など、今となっては叶う筈も無い。先ほど送った連絡を、1人として聞いてはいないのだから。
「・・・」
そしてそれは、マナが加持の想像を絶する程の手練れである事も意味していた。専門の訓練を受けているだけでは無く、数多くの実戦も経験している事は疑う余地が無いだろう。そうで無ければ、複数の諜報員を排除する事など絶対に不可能である。
「ふぅん・・・それで、その4人はどうしたの?」
シンジの問いかけを、加持は聞き流し1人考える。マナは、その訓練を何処で受けたのかを。
シンジと共に居る事を今まで知らなかった以上、マナはNERVの人間ではない。国連本部からの派遣も考えられるが、その場合は加持に一言くらい事前に伝えられるだろう。名や背格好はともかく、既に侵入させた者が居る・・・位の事は。
だが加持は、そんな話を全く聞いてはいなかった。共同作戦を張れば調査は数段楽になるのだから、もし居るので有れば知らせない理由が無い。となると、国連のセンも捨てて良いだろう。それ以上に有力で、国際憲章など平然と無視しそうな組織が残っているのだから。
戦略自衛隊。それが加持の至った結論だった。戦災孤児を引き取り、養護施設と偽った訓練施設で徹底的に鍛え抜いた。そんな所だろう。
普通に考えれば、年端も行かない子供が諜報員などと疑う事すら無い。発想の外の事でしかないからだ。つまり、相手の盲点を容易に突けると言う事である。仮に疑われたとしても、元々が戦災孤児なら切り捨てても惜しいと思う必要すら無い。子供の戯れ言だと、公言してしまえば終わりである。諜報員の命運はともかく、組織が疑われる事は無い。
「1人は、車の中で眠ってます。残りは急性アルコール中毒になって、今頃は病院だと思いますけど・・・もしかしたら未だ、道路に転がってるかも知れません」
「・・・アレ使ったのかぁ。あんまり騒ぎが大きくなったら、ボクらも遊んでる場合じゃ無いし。そんな所だろうね」
「・・・」
だとしても、未だ判らない事が有る。何故マナが、シンジに付き従うのか。シンジを利用しているのか、それともシンジに利用されているのか。シンジと言う人間を把握出来ていない加持には、それが判らない。
「・・・それで、加持さんはどうしますか?」
1人考え続けていた加持を、シンジが自分たちの世界へと呼び戻した。最後の選択を、加持に促す為に。
「続けますか?それとも、諦めますか?ボクは、どっちでも構いませんけど」
「・・・」
認めるしか無かった。敗北を。もはや、逆転はあり得ない。信じられない様な、計算外の奇跡でも起こらない限り。言葉には出さず、構えていた銃口を下げる事で加持はシンジに態度を表明した。何時でも構え直せる様に、手を離したりはしなかったが。
「そうだ、何だったら加持さんも混ざりますか?アスカも喜ぶんじゃないかなぁ、壊れちゃう位に」
「・・・」
流石に加持も、シンジの誘いに何と返して良いのか判らなかった。つい先程とは異なる理由で、加持は沈黙を守り続ける。
シンジが言う所の調教に加持が混じっている事をアスカが知れば、確かにアスカの精神の糸は切れてしまうだろう。自我も、がらがらと音を立て崩壊するに決まっている。くらい、ではない。アスカの精神は、確実に壊れてしまうだろう。
ただシンジの呼びかけに、当然ながら加持は応じる気など無い。幾ら何でも、そんな事が出来る筈も無かった。加持から見たらアスカなど子供に過ぎず守備範囲外だったし、仮に抱くのだとしてもシンジに促されなければならない筋など無い。
「遠慮しなくても良いですよ、ミサトさんには黙っておいてあげますから。どうせ加持さんだって、親心や命令でアスカの保護者役を引き受けた訳じゃないんだから」
「・・・何が言いたい?」
持って回ったシンジの口調に、加持は眉間に皺を寄せずにはいられなかった。ミサトとの関係をわざわざ口にする無遠慮さに、機嫌の悪さを隠そうともせずシンジへと加持は問い返す。
「はっきり言った方が良いのかなぁ?所詮、加持さんにとってもアスカは道具に過ぎないんでしょって事を。NERVに堂々と潜入する為の・・・ね」
「!?」
余りに受けた衝撃が大き過ぎて、加持は表情も態度も取り繕う事が出来なかった。愕然として、冷ややかな色を帯びつつ有る少年を見つめ返す。
「でも加持さんは、もうNERVに居るんだし。別に一度くらい、利用した相手の味見くらいしても良いと思いますよ。今更アスカにどう思われようと、困る理由なんて無いんだから」
ごくっと音を立てて、加持は思わず息を飲んだ。こんな理屈を突きつけられると、加持は想像してもいない。粘ついた冷たい汗が噴き出し、背中を薄気味悪く濡らすのを感じずにはいられなかった。
堂々とNERVへ潜入する。一見矛盾している様で、実は諜報員に限って言えば最良の選択肢だった。堂々としていればしているだけ、逆に怪しむべき要素が薄れる為である。シンジと同年代の、マナが諜報員である事と方法論としては同じだ。
「・・・調べたのか・・・?」
だがそれを、たかが14歳の少年に知られ指摘された。驚かない方が、どうかしているだろう。隠す術も無い驚愕に支配されたまま、加持はシンジに無意味な言葉を投げかける。
「裏を取る為に、ですけど。一応は調べましたよ」
「・・・裏?」
「最初に加持さんを見た時から、何となく変だなぁって思ってたんですよ。それで勘を試すつもりで調べてみたんですけど・・・もしかしたら、隠せてたって思ってたんですか?」
「・・・」
加持にはもう、絶句するしか無い。シンジは加持の正体を、一目で見破っていた。だが加持は、シンジの正体を見破るのに多大なる時間を有している。いや、新たな疑問すら湧いているのだ。正体には、かえって遠ざかってしまったのかも知れない。
「・・・まぁ加持さんが何をやろうが、ボクにはどうでも良い事ですけどね。ボクのする事を邪魔しなければ、それでいいです」
「っ!?」
首筋に当てられていた刃が抜き取られ、全く間を置かずに細い針が突き立てられた。針の刺さった周囲が熱を帯び、その感覚は血の流れに乗って全身へと広がって行く。
「今回は、あなたの部下と同じく急性アルコール中毒になって貰うけど・・・」
頭の中が無秩序に混濁し、全身の感覚が痺れで途絶される。マナが言う通り、まさに前後不覚になるほど飲み過ぎた時と同じだった。違いは、アルコールを摂取していない事。たった、それだけだ。
「これを他の薬に変えるのは、どうって事も無いのよ。判るでしょ?」
マナが、未だ何とか意識を保っている加持に淡々と話しかける。遠回しに、加持を何時でも殺せる事を教える為に。それが脅しだと、加持に思える訳も無かった。背後を、気取られずに取る相手であれば殺す事も容易だろう。
「・・・今時流行らないだろうけど、アスカと心中・・・って所かな?そのくらいのの細工はしてあげますよ」
「ぉ・・・お前は・・・何者、な・・・んっ・・・だ・・・っ」
そう言い終えるのと同時に、加持の身体は崩れ落ちた。身体を浸食して行く酩酊感が、加持の自制心さえをも蝕み尽くした為だ。抗おうとする拠点を失った加持には、薬液の効果が消え去るのを待つ他に出来る事は無かった。
「・・・何者って・・・碇シンジですけど。もしかして、忘れちゃったんですか?」
普段と何ら変わらないシンジの返答が、横たわる加持に降り注ぐ。だがその声は、加持の意識に届きはしなかった。
付:「やがみやすこ」の「こいさぐり」ですが、漢字は違うかも知れません。