連邦の宇宙政策やジオニズムがその限界を露呈しつつある今、
人々は新しい政治体制を望んでいる。
大いなる千年王国。
女なら誰もが夢見た
愛と徳による絶対王制。
今、歴史的実験が
一組の主従により
進められようとしていた。
私たちの理想郷、
その名も・・・・・・
神聖モテモテ公国
「何がモテモテ公国よ!! そんな事一度でももててから言いなさい!」
昼の第三新東京市の住宅街に、少女の怒声が響き渡った。
ここはとあるアパートの一室。
声の主、元連邦軍少尉のサラ・ザビアロフは、目の前でのんきに昼食を食べている女の子を睨んでいた。
「オトコスキー」
トンカツを頬張りながらサラに答えた女の子の名は、ミネバ・ラオ・ザビ。世が世なら、さるコロニー
国家の姫様として生きているはずの少女である。
「私たちがなぜもてないかというと・・・」
どうせろくな答えは返ってこないとサラは確信していたが、黙ってミネバの話を聞いていた。
「シロッコの陰謀よ」
サラの堪忍袋の緒が切れた。
「ハッピーな生き様さらさないで下さい!」
サラの鋭い蹴りが、食卓ごとミネバを吹き飛ばす。
「殿下に助けられてから、私の生活がどうなったかおわかりですか! ここの部屋だって回覧板の流通
経路からはずされちゃったんですよ!」
(パプテマス様、サラは悲しいですぅ)
思わず涙ぐむサラ。
思えば運命の悪戯としかいいようのない、二人の出会いであった。
月面都市フォン・ブラウンで、サラは失った記憶を探しながら生きていた。
医師の話によると、記憶の一部欠如は戦争の時の怪我が原因ではないか、ということだった。
街に知り合いもなく、ただ孤独に過ごす毎日。
そんな彼女が街を歩いていた時、目の前にいきなり都市の天蓋をやぶって落ちて来たものがあった。
それは、軍服をまとったかわいらしい女の子であった。
そのまま何が何だか分らぬうちに、さる国の姫だと言い張る女の子・ミネバのペースに乗せられたサラは、
ミネバの家来となり、オトコスキーなる名前を押し付けられ、ミネバの想い人がいるという、日本は
第三新東京市まで来てしまったのである。
かろうじて記憶に残る上官以上の存在だった優しい青年、パプテマス・シロッコを侮辱された
(ように思った)サラの体は、怒りと悲しみのため小刻みに震えていた。
「フフ、サラのあんぽんたん・・・」
珍しくサラの本名を呼んでゆっくりと体を起こすミネバ。
「いい? ヤロウあふるるモテモテ公国の建国は、ジオン・ズム・ダイクンより託された大事業なのよ。
すばらしい肉体を持つ私たち二人に・・・」
とても9才(自称)の女の子が言うとは思えない台詞をのたまうミネバ。サラは黙って聞いている。
「貴方は光の美少女。サナリィ推奨の伝説のプリティガールよ〜」
ミネバの怪し気な褒め言葉に、再びだんまりを決め込むサラ。
「そして私はジオンの公女。サンクキングダムと5人の美少年を影からあやつる・・・」
ここまで聞いて怒りが頂点に達したサラは、ミネバの胸ぐらをつかんで叫んだ。
「もういい! 死んで下さい! だいたい殿下は、碇シンジとかいう少年と結ばれたいのではなかった
のですか!? それならモテモテ公国など作る必要はないでしょう!」
「しかし建国はジオンの遺志だから・・・とにかく早く許して、今日は貴方に贈り物が・・・」
辛うじて怒りを押さえたサラは、ミネバから手をはなした。
ミネバが懐から取り出してサラに差し出したものは、皮張りの表紙にジオン公国の紋章が入った、
かなり値が張りそうな一冊の本であった。
「はい、キシリア叔母様の著作物」
サラはその本に、うさんくさげな視線を投げつけた。
「独裁者の演説草稿のような詩集などいりません」
「ところがこれは、ヤロウにもてるためのテクニックが満載されたV作戦ファイルなのです」
「え!?」
思わずミネバに問い返すサラ。
「その上、これにはザンスカールのマリア女王の大幸運パワーも、たっぷりこもっています・・・
これを読めばヤロウにもてることジェットストリームアタックの如し!」
自信たっぷりに本をかかげるミネバ。そんな彼女に、サラがあきれ顔で聞いた。
「そのヤロウにもてること、というのはどういう意味です? 第一、その本を読んだ殿下がどうして
もてないのですか?」
サラの一言に凍り付くミネバ。
「オトコスキー、貴方私が助けてやった恩も忘れて・・・では、私自らこの本の魔力を証明して
みせましょう。覚悟おし、オトコスキー」
ミネバの大胆な宣言に、サラはあきれた顔のままこう言った。
「いいでしょう。だが殿下が失敗された時は、公国に国家的危機が訪れる事を覚悟して下さい」
「その時はたっぷり危機を起こしてみなさい」
かくして主従二人は、午後の繁華街へと繰り出したのである。
午後の街は、学校帰りの学生や、買い物に来た主婦などでにぎわっていた。
さっそく本の魔力を試さんとするミネバ一行の前に、一人の青年が歩いてきた。
「うわあ、高エネルギー体!」
思わず訳の分らないことを叫んであわてるサラ。
それもそのはず、その美しい容姿の青年こそは、ライトニング・カウントの通り名で知られる撃墜王、
ミリアルド・ピースクラフトその人だったのである。
今日は、かつて共に戦ったネルフの面々に挨拶をしに来た、というところだろうか。
「だ、だめです! 人類と別進化したようなお父様をお持ちの殿下では無理です!」
動揺のあまり恐ろしいことを口走るサラのすねへ、ミネバの前蹴りが飛んだ。
「・・・・!!」
すねを押さえてうずくまるサラに、ミネバが厳しい口調で言った。
「オトコスキー、よくもお父様を・・・とにかくこの本の力を見せてあげます!」
「もしも、万に一つでも・・・殿下があの男とうまくいくようでしたら・・・なにもモテモテ公国なぞ
建国しなくても、殿下の愛しいシンジ殿とは永遠の愛が築けましょうが・・・」
サラは全く本の効力を信じていない様子である。
「まずはその本の『出会いの章』を開いて御覧なさい。『落とし物をヤロウに拾わせて恋のきっかけと
しなさい』とありますね?」
サラが言われた所を開くと、確かにそのような記述があったが・・・。
(なになに・・・『そして礼と称してヤロウにあれこれしてみたい。まずは世界中に落とし物を
仕掛けねば。これで兄上にも・・・』・・・)
「あの、殿下。私は帰ってもよろしいですか?」
全てを読んだサラは、正直な感想を述べるしかなかった。
「まあ見ていなさい。ジーク・ジオン」
呆然とするサラを残し、ミネバは鼻歌を歌いながらミリアルドの前に回り込んだ。この時点で、すでに
何かがおかしい。
(フフフ・・・では早速)
さり気ない(と本人は思っている)しぐさで、ハンカチを落とすミネバ。あとは後ろから歩いてくる
ミリアルドが気づくのを待つばかりだ。
しかしミネバがいくら待てども、ハンカチを差し出す美青年はやってこない。
不審に思ったミネバが後ろを見てみると、ミリアルドは店のショーウインドウに陳列された品物を物色
している最中であった。その少し前の歩道に、ミネバのハンカチが恨めしげなしわを作って落ちている。
(なぜ? どうしてこうなるの?)
その時、ミネバの脳裏に力強い声が響き渡った。
(恐れるな、ミネバ・・・公国建国の戦いを止めるな。ゆけい、ミネバ! 儂の屍を越えてゆけ!)
星の彼方より届いた声援が、ミネバの消えかけた闘志に火をつけた。
(うう、デラーズさん・・・ミネバはもう泣きませぬ。私の戦いぶりを、宇宙の彼方より御照覧あれ!)
ミネバはうつむいていた顔を上げると、再び戦いに身を投じた。
(まずい気配ね・・・彼は全然気が付いていないわ)
そのころサラは、少し離れた所から、困った表情を浮かべてミリアルドの様子を見ていた。
そしてミネバの方へ目をやったサラは、とんでもない光景を見てしまった。
ミリアルドに無視されたことに腹をたてたのか、ミネバは身につけている物をその辺にばらまき出した
のである。ネックレスに始まり、帯革、懐中時計、その他諸々・・・。ミネバの周りには、たちまち
黒山の人だかりが出来ていた。
周りが騒がしいことに気づいたミリアルドが野次馬の中心に視線を走らせると、年端もいかぬ女の子が
眉をつり上げて上着を脱ごうとしている最中であった。
思わず女の子に声をかけるミリアルド。
「君、大丈夫かい?」
(やっと気が付いたのね。これでサラにもザビ家の偉大さが・・・)
しかしミリアルドの口からでた言葉は、ミネバの予想とは違っていた。
「ノイン、君は医者を呼んで来てくれ。私はここでこの子を落ち着かせるから」
ノインと呼ばれた女性が、あわてて走り去っていく。意外な結果にがく然とするミネバに、衝撃の結末が
訪れた。
ミネバをあぜんとして見つめる野次馬の中に、碇シンジの姿があったのである。
何か見てはいけないものを見てしまったという視線が、シンジからミネバに向かってそそがれていた。
(シンジお兄ちゃん・・・全部見てたのね・・・)
それは、あまりにもむごい事実であった。
「はわわ〜!!」
ミネバは昼下がりの繁華街を、雄叫びをあげて走り去る。
「でぇーんかぁー!!」
サラの悲痛な叫びが街にこだました。
ミネバは、そのまま行方をくらました。
それから半月後、ミネバはサラの元へ何だか帰って来た。
サラは、黙って本をミネバに返した。
私たちの理想郷、
神聖モテモテ公国の建国。
果たして、この主従の悲願が成就するのはいつの日か。
あとがき
今回はあまりひねりを入れられず、ほとんど元の話のままになってしまいました。
次回があるのなら、その辺をなんとかせねば。
猛魂さんの寄贈作品「神聖モテモテ公国」でした。どうもありがとうございますぅ。(^^)
いやぁ〜ミネバ様が、へっぽこですねぇ。でもすっごくかわいい!!
そして、仕えるオトコスキーことサラちゃんもいい味だしてます。
このおかしくも健気な二人に幸せな日々が訪れるのか?ぜひ続編が読みたいところです。(^-^)/
読み終わったみなさん、ぜひ楽しいお話を寄贈してくれた、猛魂さんへ感想メールを送ってくださいね。
お願いします。わたしも、「サラちゃんの隠れ家」の更新を頑張らねば。(^_^)