THE REFLEX

作:柴レイ


 

第参話 : Things we said today

 

 

 

 

 

「ほんとうに行くの・・・」

「ああ・・・もうじたばたしない。覚悟は出来ていたんだ」

「ユウジぃ・・・」

サトミは泣きながら、ユウジに抱きついた。それを受けとめるユウジ。

「ユウジ、行かないで!!・・・もうユウジに会えなくなってしまうなんてやだ。ユウジが変わってしまう・・・もう今までのユウジに会えなくなってしまうなんてやだぁ!!」

泣きながら叫び続けるサトミを、ユウジは身体から離した。

そしてサトミの表情を見つめる。彼女の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。

ユウジは笑いながら、サトミに語りかけた。

「約束しよう、サトミ・・・二人で・・・今日の約束をな」

唐突なユウジの言葉に、サトミはぐずりながらも言葉を返した。

「約束・・・」

そんなサトミに、今まで見せたことのないような笑顔を浮かべながら、ユウジは呟いた。

「そうさ・・・今日二人で決める約束さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケージ内でユウジは大声を張り上げていた。そんな彼の姿をマナは黙って見つめていた。ユウジの視線と叫びは、彼を頭上から見下ろしている、ネルフ司令惣流アスカに向けられていた。

激しくアラーム音が鳴り響く。作業員達が血走った目で慌しく動き回っていた。彼らはアスカの命により、エヴァンゲリオン“R”弐号機の発進準備にかかっていたのだ。先程までアスカの後方に立っていた伊吹マヤ博士も、準備の総指揮の為に彼女の元から離れていた。

この時ケージ内で、動かずに立っていたのは、アスカ、マナ、ユウジの三人だけだった。ユウジはアスカに向かって、エヴァ弐号機の搭乗を拒否していた。しかしアスカはそれに耳を貸そうともしない。それまで黙っていた、マナが口を挟む。

「まだユウジ君には無理です。今、諜報部に命じてアヅサを探させています」

アスカは、そんなマナに冷ややかな視線を向けつつ、声を発した。

「今、弐号機の発進準備をしているのよ。どこにいるのかもしれない、桐山なんてほっときなさい」

「しかし・・・」

「霧島三佐、命令します。速やかに発令所に戻り、戦闘指揮の準備を始めなさい」

「司令!!」

今度は、マナが声を張り上げそうになったが、そのマナを制する様に、ユウジが静かに言葉を吐いた。

「母さんの勝手にするがいいさ・・・なんでも自分の思い道理になるって思えばいいのさ。なんなら今この俺を脅迫してみろよ。命令なんてまどろっこしい事しないでよ。言っておくけどな、例え銃を向けられたって、俺はエヴァには乗らないぞ。死んでも嫌だ。命令に背く俺を、殺してみろよ。親父にそうしたみたいにな」

それまで氷の様な表情だったアスカの口元が、ピクリと歪んだ。しかしそれは一瞬の事であり、さらに言葉を続け様としたユウジを遮るように、溜息まじりな声を出した。

「なさけないわね・・・所詮つっぱっていても、肝心な時にはてんで意気地なしだったのね」

「なんだと」

「そうじゃない、あの“情けないバカシンジ”だって、エヴァの搭乗からは逃げなかったわよ」

「っく・・・なんの練習もしてない俺に、いきなり実戦に出ろというのが、非常識じゃねぇのか?」

「非常識だろうがなんだろうが、私も“臆病者のシンジ”も黙って搭乗したというのにね・・・失望したわ」

わざとなのか、それとも違うのかわからないが、シンジの名前を彼に対する侮蔑の形容詞をつけて喋り続けるアスカ。その度に、ユウジの身体が大きく震えるのをマナは呆然と見つめていた。今にも爆発しそうなユウジの姿を見て、マナは声をかけようとしたが・・・

「私達の血を引いたとは思えない出来そこないなのね。バカシンジのダメな部分だけ受け継いだのかしら」

「あああ・・・・・・」

「碇の姓が悪いのかしら・・・口ばっかりの臆病者の・・・」

 

「だまれぇ!!!」

 

血を吐き出すような叫びが、ケージ内に響いた。ユウジは、うずくまって両手で床を叩いていた。どこか発狂した風にも見えた。

アスカは黙って、そんなユウジの姿を見下ろす。しかし彼女の身体もどこか震えている様だった。

マナは、そんなユウジに駆け寄り、彼の背中を抱きしめた。そしてアスカの姿を見上げる。その目は怒りに燃えた物だった。

「それが・・・それが・・・母親が息子にかける言葉ですか」

マナがアスカに強い非難の言葉を吐いた。その口調は怒りに震えていた。そして更に言葉を続けようとしたが、そんな彼女の言葉は再び遮られた。

「いいさ・・・よくわかったよ・・・」

その声は、さっきまで激しく床を叩いていたユウジから発せられた。先程の絶叫とは違って、妙に落ちついた声であった。しかしその抑揚のない声で、

「臆病者の姓か・・・確かにそうかもな・・・それでも俺は碇姓を名乗りたい・・・」

俯いたまま呟くユウジ。そんな彼にマナは、声をかけようとしたが、ユウジは黙ってそれを制した。

「俺は、碇ユウジだ・・・惣流なんて姓を名乗るのだけはゴメンだ。夫と息子を見殺しにしてでも生きようとする、最低の人でなしのやつがつけてる姓を名乗るくらいだったら、死んだほうがマシだ」

アスカは、それを黙って聞いていたが、不意に

「それは・・・搭乗を受諾したと思っていいのかしら」

ユウジはそれには答えなかった。黙って下を向いていた。

「黙ってるって事は、決心したって訳ね・・・マナ、後は頼んだわよ」

そう言い残して、ケージの上のブースからアスカの姿が消えた。マナは、何か言いた気であったが、それよりもユウジの事が心配でならなかった。そんなマナにある呟きが聞こえてきた。ユウジのそれまでとは打って変わった、か細い声が

「マナ・・・助けて・・・」

14才の少年の切ない叫び・・・しかしそれは一瞬だった。

やがてユウジは立ちあがった。そして真っ直ぐに正面の弐号機を見つめていた。マナは、そんなユウジの両肩に後ろから両手を乗せながら、語りかける。

「説明を始めます。もう知っているとは思うけど、エヴァとのシンクロは・・・・・・」

ユウジは、真剣な表情でマナの言葉に耳を傾けていた。もはや彼に脅えは微塵も感じられなかった。マナはそんな彼に、短時間で丁寧かつ的確な説明を続けた。彼女もまた、歴戦の戦士の顔に戻っていた。

 

 

 

やがてユウジは、制服姿のまま、頭にインターフェース用のヘッドセットを装着し、エントリープラグに乗り込んで行った。マナは発令所に戻り、腕組をしながら、岸田カスミ三尉の報告に耳を傾けていた。

「プラグ固定終了!・・・第一次接続開始!・・・エントリープラグ注水!・・・」

マナは順調に読み上げられるカスミの声を聞きながら、口を真一文字に結んでいた。

・・・A10神経接続問題なし!・・・双方向回線開きます!・・・パイロット初期コンタクト、異常なし!」

全ての準備が整った。シンクロ率は、44パーセントを示していた。驚くべき事に、かつてのシンジがそうであったように、ユウジもまたいきなりエヴァとのシンクロに成功したのであった。

発令所正面の巨大スクリーンには、迫り来る使途の姿と、真っ直ぐな瞳のユウジの姿を映して出していた。

「霧島三佐、エヴァ弐号機発進準備完了です」

それまで自分の机のモニターを見つめていたカスミが、言葉と共に振り返った。マナは黙ってうなずく。そして、彼女もまた後ろを振り返った。視線の先は、司令席であった。

そこには、右肘をつき、手袋をした右手のひらを頬にあててるアスカの姿と、彼女の後ろに立つマヤの姿があった。

「司令、よろしいのですね」

どことなく毒気を含んだようなマナの言葉をアスカは口元に笑みを浮かべながら聞き

「直ちに発進。速やかに使途を殲滅」

そう、頬ずえをつきながら命令を発した。マナは、キッとした表情を浮かべたままそれを聞くや、直ぐに正面に向き直り。発令所、中央作戦司令室全体に轟くように叫んだ。

「エヴァンゲリオン“R”弐号機発進!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

細長い姿をした使徒は、悠然と宙を泳ぐ様に進んでいた。戦自の戦闘機が、次々とミサイルを命中させていたが、すこしも怯む様子は見られなかった。使徒の短い両腕から、光の鞭のようなものがのびて、不規則な動きで中を舞い、その度に、戦闘機が一機また一機と墜落していった。墜落した戦闘機が地上で爆発して、辺り一面火の海になっていた。

第三新東京市の市民は、すでに迅速に地下のシェルターに避難をしていたので人的被害は、最小限に食い止められていた。第一中学校二年A組の生徒達もまた同様に、シェルターの一ブロックに集められていた。大人達は災害に黙りこんでいたが、生徒達は元気に騒いでいた。そんな彼等を時には沈め落着かせていたのは、クラス委員長の倉田サトミだった。ほんの数時間前は、ユウジの胸で泣いていた彼女だったが、今は毅然としてクラスを統率してる。

サトミの背中がポンとたたかれた。彼女が振り返ると、そこには担任の鈴原ヒカリの姿があった。

「ごくろうさん。サトミちゃんのおかげね。こうしてみんなが無事なのも」

「みんながわたしを手伝ってくれたんです。先生もそばにいてくれたから」

「謙遜しなくていいわ。あなたは委員長としての役目をしっかり務めてくれたの。偉いわ」

ヒカリはサトミを優しく労っていた。確かに彼女の言う通り、このような非常事態においてのサトミのリーダーシップは特に秀でた物だった。

しかし元々サトミがこうであった訳ではなかった。かつては優等生ではあったが、どちらかというと個人主義的で、委員長とはいってもまわりの人望を集めるタイプではなかった。しかし現在クラスは間違いなくサトミを中心にまとまっていた。

彼女が変わったのは・・・半年前・・・碇ユウジが転校してきた頃からだった。

 

 

 

 

 

サトミが始めてユウジに会ったのは、担任のヒカリに呼ばれて入った校長室であった。そこで彼女は、髪を金髪に染め、薄汚い格好をして目をぎらぎらとさせていた少年の姿を、不愉快気に見つめた。 

 失礼します・・・倉田です。

 ご苦労さん、倉田さん。今日はあなたに転校生を紹介するわ。彼は、碇ユウジ君というの。第二東京市から転校したのよ。あのね・・・彼は“碇”という姓だけど実はね・・・・・・

 よろしく、碇ユウジ君。第三新東京市第一中学校にようこそ。わたしはクラス委員の倉田です。

 分からないことがあったら、倉田さんになんでも聞くといいわ。彼女は、学校で一番の才女だし。

 ・・・・・・

 何?よく聞こえないわ。

 気にいらねぇな・・・その偉ぶった態度がよぉ。

 どういう意味?

 不良なんて世間の落伍者だと思ってるタイプなんだろ。今だって俺のこの姿を見て、蔑むような目つきをしやがって・・・勝手に俺の値踏みをしてんじゃねぇよ、作り笑顔を浮かべながらな。

 あなたこそ、勝手にわたしの心の中を読まないでよ。

 

 

 

 

 

それから数日後。サトミはユウジが学内の不良グループと喧嘩をしていると聞きつけ、慌てて現場に向った。しかし現場には、十人もの不良達がボロボロになって倒れてる姿だけであった。

サトミはユウジの姿を探す。やがて立ち入り禁止の屋上への扉がこじ開けられているのに気がついた。サトミは恐る恐る屋上に出る。するとそこには、衣服はほとんど無傷ながら唇を少しきったままで大の字で屋上のコンクリートの地面に寝そべっているユウジの姿があった。

ユウジはサトミが来た事に気づき、サトミの方を向いてにやりと笑う。その表情が思ったほどに子供っぽいのにサトミは驚きながらも、彼女の方から彼に語りかけた。

 どうしてそんなにつっぱってなきゃいけないの。

 あいつらが先に喧嘩を売ってきたんだぜ・・・弱ぇ癖によぉ。

 あんなに酷くやらなくてもいいのに、これでますます・・・

 別にクラスの誰とも仲良くなるつもりもねえしな。おまえは何故俺にかまうんだ。委員長としての責務か?

 違うわよ。今のあなたを見てるとほっとけなくって・・・

 鈴原先生にでも言われてるのか?・・・それとも・・・

 どうして、そんなにまわりを敵視しないといけないの・・・何に苛立ってるのよ。

 ほっとけよ俺の事は。俺は誰ともつるむつもりはねぇんだ。俺にかまうとこれからロクなことないぞ。

 ほっとかない・・・誰に言われた訳じゃぁないわ。わたしがそうしたいから・・・

 

 

 

 

 

それから数ヵ月後。サトミは、ユウジに屋上へ呼ばれた。屋上への扉は修復されていたが、今度は錠前が粉々に砕かれて扉が開いていた。

ユウジは今度は第三新東京市全体が見渡せる景色をフェンス越しに立って眺めていた。その後姿を見ただけでサトミは驚きの声を上げていた。ユウジの髪は黒色になっていた。そして格好も白い学生用のワイシャツを着、黒い長ズボンをはいていた。極普通の生徒の姿だ。

そしてそんなサトミの驚きを背中越しに感じ取った後、ユウジはゆっくりと振り返った。その右口元は赤く腫れ上がり、さらに右目のあたりも紫色になっていた。誰にそんな風にやられたのだろう。そしてその一見真面目そうな格好・・・。サトミは戸惑いを隠せなかったが、そんな彼女にユウジはどこか嬉しそうに笑いながら語りかけた。

 安心しな。これから優等生になってやるよ。

 え!?・・・それって・・・

 倉田サトミの学校一の才女の座も風前の灯火ってことさ。

 そんな・・・どうして急に・・・それにその顔・・・

 魔女に襲われたのさ・・・どうでもいいさ、そんな事・・・それより俺、今度の生徒会会長選にも立候補するぜ。間違いなくお前にだけは勝つつもりさ。

 ちょっちょっといきなりそんなに言われても訳がわからないわ。

 俺が必ず会長になれるかはわからないが、間違いないのは、お前よりは投票をかせぐってことさ。

 なっなんでそんなこと言いきれるのよ。

 倉田にはな、人の上にたつ人望が欠けてるからさ。

 知った風な口を・・・あなたにわたしの何が解るっていうのよ。

 

 

 

 

 

生徒会長選は、碇ユウジの圧勝であった。まだ転校して数ヶ月だというのに、しかも不良然とした態度でほとんど過していたというのに、彼は学校中の人望をいつのまにか集めていたのである。ついでに校内学力テストも突然トップに立っていた。

天才・・・サトミはユウジを見てそう思わざるを得なかった。そして彼女にとってショックだったのは、彼女もまた会長選に立候補していたという事だ。なのにクラスの誰もが委員長の彼女ではなくユウジを応援していた。

やがてクラスでちょっとした揉め事が起きる。サトミは仲裁に入ろうとしたが、誰もそんな彼女の言う事を聞こうともしない。しかしユウジが一声声をかけただけで、クラスが一瞬にして静まった。

サトミはこの現実に激しいショックを受け、思わず涙が零れそうになる。そんな姿をクラスのまわりに見せたくなくて教室から飛び出した。そして気がついたら屋上に出てた。もう扉は開けっ放しになっていた。屋上でサトミはフェンスの寄り掛かりながら一人で泣いていた。そんな彼女にユウジの声がかかった。

 こんな所で一人で泣いていたのか。

 どうしていいのか・・・もうわたしにはわからない・・・みんな勝手なことばかり言って・・・

 確かに、あいつらには委員長の気持ちなんてわかってないんだろうな。

 もういや・・・クラス委員なんてやめたい。どうしてわたしばっかりがこんな思いをしなくちゃいけないの。

 やめたきゃやめればいいさ・・・でもな倉田。一つだけ言っておくけどな。

 なによ・・・天才生徒会長さん・・・

 あるお節介の受け売りだけどな・・・普段悪魔みたいなことばっかりやってるくせに、たまにはいい事を云う。そんなやつから教えられた言葉なんだ。それ以来俺が大事にしている言葉さ。

 ・・・・・・

 人の上に立つって事は、その分だけ他人より孤独を味わう事になる。そしてその孤独に耐えられない者は、人の上に立つ資格がない。・・・って言葉さ。

サトミは気がついたら、ユウジの胸で泣いていた。それをユウジも優しく抱きしめる。

それからサトミはユウジの姿を目で追った。何故彼が短期間でみんなの人望を集めたのか。そして自分には何が足りなかったのかを知るために。

ユウジは不良だった。しかし彼はここまで多くの苦労をしてきたようだった。それを一人で乗り越えてきた自信が彼を支えていて、その人物の懐の深さが自然とまわりの信頼を集めている事に、サトミは気づいた。そして彼は自分に敵意を向ける相手以外は、実はとても優しい少年だった。サトミはいつのまにか彼の姿を有る目的とかでなく、自然に追うようになっていた。

学業優秀であり、喧嘩も強い、面倒見もよく、優しい。しかしそれ故に、ややまわりの生徒にとっては近寄りがたい存在でもあった。人望はある。しかし気楽に近づける対象ではなかったのだ。

そんな彼とまわりをもっと親密にしてあげたとサトミは思いだす。そしてそうなるように努めた。そんな彼女をある時、ユウジは「サトミ」と呼ぶようになった。彼が姓ではなく名前を呼ぶのは学校で彼女一人だ。

やがてサトミもまた、クラスでは普段は言う事をなかなか来てもらえないが、それでも以前にはなかった相談事を色々と持ちかけられる存在になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヴァンゲリオン弐号機は、よたよたとした足取りながら、使徒に対峙していた。

ユウジは、マナからの指示通りに必死になって弐号機を操縦していた。弐号機は最初、パレットライフルを連射した。しかしそれは使徒になんのダメージも与えられなかった。

「どうして効かないのよ!!ATフィールドの展開はどうしたの。ちゃんと中和しなきゃダメじゃない!!」

その姿を発令所の正面大スクリーンで見ていたマナがいらつきながら叫んでいた。

「距離がありすぎるのかもしれません。ここは弐号機をいったん撤退させたほうが」

南二尉が、興奮した口調でマナに問いかけた。それを聞くとマナは顔を歪め

「ユウジ君には、これ以上は限界ね。それじゃぁ・・・」

その時マナの言葉をアスカが遮った。

「まだ行けるわ。ユウジを、もっと使徒に接近させなさい。ATフィールドの展開は“今の場所”から続行」

「司令!!むちゃです」

マナが背後のアスカの方を振り返って、強く抗議の言葉を吐く。しかしアスカは悠然と正面の大スクリーンを見つめていた。

「霧島三佐、弐号機が!!」

岸田三尉が叫んだ。驚いて、正面の大クリーンへ振り返るマナ。使徒の光の鞭が弐号機に叩きつけられた。その瞬間、弐号機の右腕が切り取られ、パレットライフルと共に宙を舞った。そして発令所に、ユウジの絶叫が響く。

「ユウジ君!!」

マナが叫んだ。発令所は騒然とした雰囲気になった。それでもアスカは黙って大スクリーンをを睨みつけていた。

ユウジは、エントリープラグ内で苦痛に顔を歪めながら、右腕を左手で握り締めていたが、不意に正面を向くと、眼前に迫る使徒に向かって泣きながら叫んでいた。

「こんちきしょう!!」

ユウジの絶叫とともに、弐号機はプログレッシブナイフを左手で抜くと使徒に突進していった。

「やめてぇ!!ユウジ君!!」

マナの制止は、届かない。弐号機は、使徒の光の鞭に機体のあちこちを貫かれながらも突進し、そして使徒のコアにナイフを突き刺した。発令所にはユウジの絶叫が聞こえてきてた。

「使徒のATフィールドが弱まっていきます。“弐号機も”フィールドを展開したみたいです」

南二尉が声を発する。その瞬間だった、それまで冷静に大スクリーンを見つめていたアスカが叫んだ。

「いまよ!!」

その声に続いてマナが大声で叫んだ。

「アヅサ!!陽電子砲発射!!」

光の束が、使徒の左後方から一直線に向かってきた。それが使徒の身体を一気に貫いた。

 

ドグォオオオオオオオオオ!!!!

 

轟音が起こり、使徒が爆発した。辺り一面が火の海になった。その閃光が大スクリーン越しに発令所内に届き、各員を照らしていた。マナは、口を真一文字に結んで睨んでいた。他のオペレーター達も真剣な目で見つめていた。ただアスカだけが、口元に笑みを浮かべて見つめていた。そんなアスカに後方から声がかかる。

「勝ちましたね」

「ええ・・・全て予定通りの勝利ね・・・」

やがて爆発が収まり、真っ赤に燃え視界不良だった所が徐々に開けてきた。そして発令所の全員の視線の先に、一つの物体が浮かび上がってきた。南二尉の快活な報告が飛んだ。

「弐号機健在。パイロットにも問題はありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトミは一人で地上に出ていた。そこには使徒の残骸があちこちに転がる現場だった。

まだ爆発の熱気が残っていて、彼女の頬には汗が浮んでいた。それでもそんなことには気にする風もなく、サトミはきょろきょろとあちこちを見渡していた。

そんな彼女の後方から、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。その声にサトミは振り返った。その瞳には涙が浮んでいたが、表情には満面の笑みが浮んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日決める約束さ・・・二人だけの約束・・・」

「二人だけの・・・」

「俺は絶対に変わらない。そして必ずサトミの元に帰ってくる」

「わたしは、どんな事があってもユウジの事を信じ続けるわ。いつまでも待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま・・・」

「おかえりなさい・・・」

 

 

 

 

 

第四話へ続く

 


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