THE REFLEX
作:柴レイ
第伍話 : Nowhere man
「よぉ〜サトミぃ。元気にしとったか?」
独特の関西弁のイントネーションの言葉が、倉田サトミの耳に届いた。その声を聞いて、サトミは笑顔を浮べながら直ぐに振り返った。そして自分が小さい頃から慕い続けた叔父の姿を確認するや彼にむかって勢いよく駆け出す。
「トウジ叔父さん!!」
声と共に、サトミはトウジの広い胸に飛び込んだ。トウジはそれに対して驚いた様子も見せず、笑顔で、自分の顎にも届かないくらいの少女を受け止めた。そして少女の頭に軽く右手を乗せて
「おいおい・・・相変わらずやのぉ。ええ加減いい歳なんやから、甘えん坊は卒業したらどないや」
「だってぇ〜最近全然会えなかったんだもん。お家に遊びに行ってもずっと留守だったし」
「色々と忙しかったしな。それより・・・もう離れてくれんか」
困ったような声を出してやんわりとサトミを離そうとするトウジだったが、すると益々サトミは拗ねたような声をあげつつ、更にトウジに強く抱きついてきた。それをトウジも強く拒絶しようとはしないままにしていたが・・・
「こほん!」
咳き込むような声がトウジの耳の届く。彼は一瞬とはいえ、サトミを学校が終わった後、家に連れてきた彼女の存在を忘れていた事に気がついた。そして気づかないうちに自分の頬がだらしなく弛んでいた事にも。
「あわわ・・・違うねん。これはな決して・・・」
慌てていい訳を探そうとするトウジ。しかしとっさに気の利いた言葉が出ない。
「違わないもん。トウジ叔父さんは、わたしを今日も強く抱きしめてくれたんだもん。ねぇ!!」
ことさら今日の部分を強調して、トウジの胸に顔をうずめながら喋るサトミ。彼女の後ろにいる、彼女の担任の先生の存在を無視するかのように。しかしサトミのささやかな抵抗はあっけなく終わる。
「ユウジ君にこの事言いつけるわよ。桐山さんにも教えちゃおうかしら」
その言葉に、サトミは鋭く反応した。特に“桐山”の部分に激しく。
「わかったわよぉ〜」
ふくれっつらのまま、サトミはしぶしぶトウジから離れた。そして彼女の担任であり、トウジを激しく睨んでいる、トウジの妻でもある、鈴原(=旧姓:洞木)ヒカリにぺこりと頭を下げた。
「まったく・・・学校きっての才女。クラスみんなから信頼を集めている委員長さんとは思えない態度ね。実際私が話しても誰も信じないでしょうけどね。おそらくユウジ君ですらも」
「ユウジには別に隠す必要もないわ。ユウジにはありのままのわたしを知って欲しいもん」
ほのかに頬を染めながら、サトミは呟いた。トウジは驚きながらサトミを見つめて
「おろ?なんやなんや、サトミもそういう事言う様になったんか。なんぞユウジと進展でもあったのか?」
と語ったが、それをヒカリは笑みを浮べながら
「あの戦闘の後、変わったわね。今やすっかり誰はばかることなく、ユウジ君にベタベタしちゃって、こちらが恥ずかしくなるくらいだわ。クラス委員長としての毅然とした様はもう微塵もないもの。今日なんてユウジ君がネルフに行くって早引けしてからは、露骨に不機嫌になって、まわりにあたってたくらいだもんね。特に桐山さんの隠れファンの男の子達優先に八つあたりしてなかったっけ」
「ほんまか?」
更に驚いたようにトウジはサトミに尋ねた。
「ううう・・・だってぇ・・・桐山さんに会えないのが寂しいとか・・・学校一の美少女だとか・・・彼女がいないとクラスがすっかり火が消えたようだとか・・・まだ数日しか姿見せてないくせに・・・どこがいいのよ・・・頭悪そうだし・・・ユウジにだけなれなれしいし・・・」
トウジの質問に答える前に、急にサトミはブツブツと不満ごとを呟き出していた。そんなサトミの姿に、トウジは先程の甘えん坊モードよりもこちらのほうに驚いていた。
自分に甘えるのは、両親を早くに亡くし、今は学校の寮で一人健気にふるまっている反動であり、親戚でもあり色々と面倒をみてきた自分にだけは素直に自分をさらけ出している事を理解してたので、ヒカリの許容範囲内で甘えさせてやっていた。実際自分に甘える以外は、常に気丈な振る舞いを見せる姪の事を、自分達夫婦に子供がいない分トウジはとても可愛く思っていた。
「サトミちゃんもいつまでもあなただけの可愛い女の子じゃないのよ」
今や、一人の恋する女の子として、自分のライバルであろう相手に理不尽な理由で嫌事をいうサトミの姿に、驚くよりは寂しい思いをしてただろう心を見透かしたような妻ヒカリの言葉に、トウジは、はっと我に帰った。
いつのまにか、物思いにふけっている間に、サトミは冷静な表情に戻って、トウジをまっすぐに見つめていた。そしてヒカリの表情にもどこかしら緊張が浮かんでいた。
「大事な話があるって聞いたわ・・・学校じゃ話せないから、だから今日は家においでって、先生に・・・」
「私も聞きたいわね。まだサトミちゃんを今日連れてきてとしか聞いてないし」
妻ヒカリと姪サトミの真剣な問いかけに、不意をつかれトウジはうろたえかけたが
「まっまぁ、玄関口で話もないやろ。とにかく先ずは飯でも食おうや。はらぺこやしな。なぁ〜ヒカリ」
「トウジ叔父さん・・・」
「そうね、今日は二人とも大好きなパスタを湯がいてあったのよ。今日はボンゴレとかどう?」
ヒカリも夫トウジの提案に軽く同意した。そしてまだ言い足りなそうなサトミの背中を押して、部屋の奥に進めていこうとした。トウジもとりあえずほっとしたような表情を見せて、 「飯や飯や・・・」 と言って食事をする床の間に向けて駆けて行った。それをヒカリはクスっと笑って、自分も玄関で靴を脱ごうとしたが
「ボンゴレいや・・・」
もうトウジといっしょに床の間に行ったかと思ったサトミが、急に不機嫌そうに自分にクレームの言葉を吐いていた。これには唐突でヒカリも驚いた。自分の料理にケチつけたことなかったのに・・・それにパスタ料理は、夫もだけど、むしろサトミの好物だった筈では・・・
「そっそう・・・サトミちゃん。ボンゴレロッソとか好きじゃなかったっけ?」
「早くしいや〜もうわて我慢でけんわ。台所のアサリを生で食うどぉ」
床の間からトウジの声が聞こえてくる。ヒカリは 「はいはい・・・今作るから」 と言って、サトミの肩をポンと叩きながら、二人で廊下を歩いて床の間へ向かった。そしてサトミに尋ねる
「じゃあ、何がいいの。せっかくアサリの砂をはきださせておいたんだけど、困ったわね」
「ごめんなさい。でも・・・今日はパスタはいやなんです。特にボンゴレは」
「どおして?」
「昨日・・・学校でユウジに向かって、自分の得意料理だとか言ってたもん」
「誰が?」
「・・・誰って・・・あの小うるさい転校生が・・・・・・」
「はっくしょん!!」
アヅサは急に大きなクシャミをした。そしてあわててまわりをきょろきょろ見まわす。薄暗くなったその街の外れの小道は、誰の気配もなかった。暫く立ち止まっていたが、やがて一息ため息をついた後、アヅサは暗い道を早足で歩き出した。
「誰かわたしの悪口を言ってるみたいね。ったく・・・多分、サトミあたりじゃないかしら。昨日もまぁ〜ずっと睨みつけてくれちゃって。ふふふ・・・ちょっと露骨にユウジに絡んでたもんね。でも仕方がないじゃない。なんかわたしの美貌に早くもあたられて、男子生徒供が怪しい視線を送りだしたしさぁ。確かに、顔だけだったらまぁ及第点のもいたけど、でも今のわたしには、普通の恋愛ごっこしてる暇はないんだしね。サトミにも、学校にいるうちからポイントかせいどかないといけないんだから」
道は登り坂になった。目的地はもうすぐだ。彼女の足が更に速まる。しかし息は全然切れてなかった。
「今日はいい感じだったのに。計画通り同居にもこぎ付けたし。マナもさ、わたしをサポートするって言ってたのに、どうしてこうなるのよ。本来は、マナが今日の夜は気をきかせる筈じゃなかったっけ。わたしは、誰かさんみたいにジェリコの壁なんて無粋な事を言うつもりはなかったしさ。・・・・・・つまり、緊急事態だということね」
アヅサの目の前に、老朽化した建物が見えてきた。アヅサは軽く舌打ちしつつ
「面倒かけないでよ。もう役目は終わったんだから、おとなしく退場すればいいのよ」
そして軽く、腰の辺りを触る。羽織っていたピンクのジャケットの裏には、ゴツっとした塊があった。その感触を確認した後
「さてと行きますか。とっととすませましょ」
そう軽く呟いたアヅサの表情は、そんな軽口とは裏腹に若干の緊張の色が浮かんでいた。
明かりの乏しい室内。どこからかかすれ気味の猫の声が木霊する。テーブルに置かれた3本のローソクの火がゆらゆらと波打っていた。
そんな薄暗い室内で一人テーブルに頬杖をついていた女性が不意に正面の壁の上を見上げた。そこには写真入の額縁があった。金髪ショートカット、左目の下に印象的なホクロをたたえた理知的な女性の上半身の写真があった。
その額に飾られた写真のどこか冷たそうな・・・そして寂しそうな瞳。その瞳と同じような視線で、彼女は写真の女性を見つめていた。やがて口元が綻んだ。
「先輩・・・」
伊吹マヤ39歳。新生ネルフの技術開発部総責任者、再生エヴァ計画および科学技術部顧問。惣流アスカによって再始動したネルフの最大の功労者として彼女は副司令の座にも押されていた。エヴァンゲリオン“R”の初号機・弐号機の開発にも多大な尽力をしており、まわりからは副司令というよりは伊吹博士とも呼称されていた。それは正にかつての赤木リツコと同様の姿であった。
ただ一つリツコと違ったのは、マヤにはリツコにとっての自分のような片腕ともなる後輩がいない事だった。敬愛する先輩同様に独身のままのマヤであったが、彼女にはリツコに対するミサトのような友もなく孤独だった。そして今始動しようとしている参号機のプログラミングは、もはや彼女を必要としてなかった。
「先輩はかつて私にこうおっしゃいましたね」
『潔癖症ね。この先辛いわよ、人の間で生きていくのが・・・汚れたと感じた時わかるわ・・・それが』
マヤはその言葉を忘れた事は一度としてなかった。リツコがダミーシステムの破壊の罪で独房に入れられた時、マヤは自分も罰せられる事を承知の上で、リツコに会いに行ったことがあった。そして先の言葉の意味を問うた。しかしリツコからはまともな答えは返ってこなかった。帰ってきた言葉は
『ここは臆病者の掃き溜めよ・・・ただ前に進む勇気すら持ち合わせていない・・・あなたがいるべき場所じゃないわ』
マヤは、振り向かずにイスに座ったままうつむくリツコの背中に叫んだ。いっしょに出ましょうと。
『汚れきった私はこの組織その物なのよ。いっしょに裁かれるしかない。でもマヤは違うでしょ』
それ以上リツコは言葉を発しなかった。マヤがどんなに問いかけても。涙ながらに叫んでも。
そしてその時がリツコの姿を見た最後だった。
「私は先輩と違って、汚れはしなかったわ。そして前に進みつづけた」
額縁を見つめて、写真のリツコに語りかけるように話すマヤの表情は穏やかなものだった。
「辛いと思ったこともない。汚れたのは、アスカにマナだったわ。あの子達は先輩と葛城三佐をなぞる生き方しか出来なかった。だから先輩の言った通りに全然前に進んでない。同じ事を繰り返そうとしている。でもね、私は違うわ。私は先輩にも葛城三佐にも・・・碇司令にも出来ない事を・・・」
チリリン
彼女の耳に玄関の呼び鈴が聞こえた。
「誰?」
マヤは、床に投げてあった白衣を羽織ると、玄関にむかって歩き出した。
「桐山ですぅ!!伊吹博士、いらっしゃいますかぁ〜」
「アヅサ!?」
マヤは驚いていた。ネルフを休んでもう三日。そろそろ誰かが来る頃だろうとは思っていた。恐らくマナか、あるいはマナの子飼いの岸田カスミだろうと予測していたが、まさかチルドレンをよこすとは。
「なめられたものね・・・」
それでも口元に笑みを浮べながら、マヤは玄関の鍵を開けた。やがて玄関が静かに開く。アヅサのいつもどうりの不敵な笑顔がそこにはあった。
相変わらず生意気な娘だ。しかしマヤは心中の不機嫌な気持ちをおくびにも出さず、余裕の表情でアヅサを向かい入れた。
「どうぞ」
「お邪魔しま〜す」
風呂場でユウジは天井を見ながら考え事をしていた。様々な事が彼の頭に浮かんでは消えた。
『はじめまして、碇ユウジ君。私はマナ・・・霧島マナよ』
『やっと会えたね・・・ユウジ君』
「んっ?・・・」
ユウジはふとしたことに気がついた。さっきからマナの事を・・・彼女の姿を思い浮かべると、その度にアヅサが現れて重なるという事を。何度もマナとアヅサの顔が重なるという事を。
「そういえば似てるな・・・」
茶色がかったセミロングで癖毛のマナと、黒色のロングのストレートヘアを三つ編みにしてるアヅサは、一見違うように見えて実は目鼻立ちとかがとてもよく似ている事を。そして人を食ったような口ぶりも。
同居することになり、マンションに連れてこられて、初めてユウジはマナとアヅサが一緒に住んでいた事を知った。これで合点がいった。何故会う前からアヅサが自分の事を詳しく知っていたかのを。
「マナのやつ・・・」
前にも一度だけマナの家に行った事はあった。むりやり第三新東京市に連れてこられた頃だ。あの時、ユウジは荒んでいて、まわりが全て敵に思えていた。マナにアスカの話題を出され挑発されていつのまにか連れてこられたが、それでもユウジはマナに油断をしてはいなかった。
マナに隙が見えた時、ユウジはマナに襲いかかった。別に彼女を犯そうという気があったわけではない。ただ自分が優位に立とうと考えた上での事だった。所詮は女だと。口ではかなわないが力づくで黙らせてやる。
しかしその思惑は瞬時に打ちのめされた。気がついたらユウジは床にうつぶせに這いつくばり、後頭部をマナに足蹴にされていた。マナは息一つ上げずに嬉しそうに笑っていた。
屈辱的な事だったが、不思議とユウジには心地よい思い出だった。あの後の初めての口付けとともに。
「あの時には、マナ一人だった筈だが・・・それじゃあ、その時アヅサはどうしていたのかな・・・」
やがてユウジはアヅサの顔が風呂場の天井に浮かんでいた。そしてまた瞬時にマナの顔が重なる。
「目が同じなんだ・・・そっくりだ」
そしてユウジは湯船の中からざばっと立ちあがった。
「まさか・・・姉妹・・・いや案外親娘だったりして・・・あはは、ありえたりして・・・」
「いつまで入ってるの、ユウジ君」
そんなユウジに風呂場の外から声がかかった。ユウジはびくりとしたが、直ぐに 「今上がるよ」 と答えた。そしてそのユウジの返答を聞いて、また部屋に戻ろうとするらしいマナに向かって問いかけた。
「アヅサは、もう帰ってきたの?」
「まだよぉ・・・」
「まだなのか・・・」
ユウジはそう呟いて、風呂から上がって、浴室のドアにかかっているバスタオルで身体を拭きながら心配そうに考えた。
マナに頼まれて、伊吹博士の所に行くと言ったのが確か夕方6時前だった筈だ。伊吹博士の家はここから1時間程だと聞いた。行ってなにか話して往復してきたとして3時間くらいか。でももう夜10時になる頃だ。一体どうしたんだろう。直ぐ帰ると言っていた筈なのに。
「何かあったんだろうか。ネルフ同士のことじゃないか・・・・・・でも、いやな予感がする」
ユウジはなんともいえない不安な気持ちで、用意してあった寝巻きを羽織った。そしてマナがいると思ったリビングに向かった。そこからテレビの音が聞こえてきたから。それにアヅサの帰りを待っていてマナが作った夕食を食べていなかった。暫くテレビを見ていた自分にマナが風呂を勧めたのだった。そしてユウジが風呂場に向かう時、マナが携帯をかけたことを耳にしていた。
「マナ、アヅサはどうしたんだよ・・・まだ連絡・・・」
そう言いかけて、ユウジは驚いた。家に入って直ぐに一番風呂に入った後、タンクトップと半ズボン姿に着替えていたマナが、再びネルフの制服。よく目立つ真っ赤なジャケットを羽織っていたから。
「出かけるのか・・・まさかアヅサの身に・・・」
そう心配そうに呟いたユウジに対して、マナは明るい笑顔を作って答えた。まるでユウジを安心させるように。
「心配ないわよ。これから迎えに行くところ。2時間くらいで帰るから、もう先にご飯食べてて」
「おっ俺も・・・」
そう言いかけたユウジをマナは穏やかに制した。そして
「だから本当に心配ないのよ。さっきアヅサから携帯が入ったの。博士の昔話につきあわされて長くなりそう。もう勘弁してぇ〜と泣き言を言ってたわ。だから救いに行くの。そうね、たまにはアヅサにもいい薬になったわよ。昔の事に縛られて、それを何も知らない他人に話す事しか出来ない年寄りの愚痴を聞くのもいい社会勉強よ」
「年寄りって・・・」
さりげない口調で、副司令に向かってとんでもないことをのたまっているマナの姿にユウジは絶句していた。いくら母さんの片腕だからって・・・そういえばマナが他人の事を侮辱するような口をするのを聞く事はめったにないのに。確かに敵には容赦しない・・・魔女の異名を持つくらい徹底的にやる人だったが・・・
「じゃあ〜行ってくるね」
考え事をしてたユウジは、マナの言葉に不意に我に返った。
「あっ・・・マナ・・・」
「何?」
あわててマナに声をかけるユウジに、彼女は優しそうに答えた。
「一つだけ聞いていいか」
「一つだけならいいわよ」
「この前の出撃の時の事なんだけど、アヅサは本当に行方不明だったのか、それともすべてマナのシナリオ・・・」
「そうよ」
マナは、ユウジに最後まで語らせなかった。
「全てはユウジ君にエヴァ搭乗を受諾してもらう為。私は目的の為には手段は選ばない魔女だもの。まぁ司令があそこまで暴言を吐くとは思わなかったけどね。私はもっとスマートにやるつもりだったから。アヅサにはあの時点で初号機に乗る準備を完了してた筈よ。お見事でしょ、みんな計画通りに動いてくれたわ。そしてユウジ君。あなたは期待に見事に応えてくれた」
さも当たり前のように話すマナ。ユウジは驚いてはいなかった。既にある程度予想した通りだったから。
なぜそうことを聞いたのか。もっと他に聞きたいことはあった筈だ。ユウジは自問自答していた。本当に聞きたいことは、アヅサの安全に確信を得るための答え。いやマナとアヅサの関係だった筈だ。
「出来たら寝ないで待っていて欲しいな。疲れてるとは思うけど。アヅサが喜ぶから」
再び思考に浸り始めたユウジにマナは声をかけた。
「あっあああ・・・待ってるよ」
ユウジは、はっとしつつもそう答えた。その答えにマナは満足して笑顔をつくると颯爽と外に出て行った。
「気をつけて」
ユウジは、閉まったドアを見つめながら呟いていた。
「どやっ、サトミ?」
「わかった・・・やるわ・・・」
「本当にいいの?」
「わたしにだって出来るわ」
そわそわしながらマヤの演説をうわの空で聞いていたアヅサが不意に目をみはった。そして思わず席から立ち上がった。その様子を見てマヤは満足そうに微笑んだ。
「そう・・・私は神に近づいたのよ。新たなる偉大な生を作り出す事に成功したの」
「まっまさか・・・使徒を・・・」
「碇司令にも、赤木博士にも出来なかった事。現状を把握してそれを利用することは出来たけど、それは受身の態度、他力本願でしかなかったわ。神の摂理に操られていただけよ。操られただけでも・・・神の代理人を気取れただけでも立派だけどね。でもね、私は違うわ!」
アヅサを圧倒するようなマナの大声。そしてその瞬間建物全体が揺れ始めた。
「なっ何?・・・何が起こったの?・・・・・・あっ!!博士!!」
思わず声をあげてまわりを見渡したアヅサだったが、ふと気づくとさっきまで自分の正面にいたマヤが姿を消していた。
がたがたと大きく揺れる室内。アヅサは半屈みになり、腰から銃を取り出した。そして玄関に向かう。マヤの事は気になるが、先ずは外にでないと・・・そうとっさに考えていた。
なんとか玄関の前まで来た、揺れは益々激しさを増す。もう建物全体が崩れそうだ。その時ドアが勢いよく開いた。驚くアヅサ。思わず銃を構えたが、直ぐにそれを降ろした。
そしてドアの前に立つ、自分を迎えに来てくれた、マナに向かってなんとか駆け寄った。
「どういうことよ?一体何が起こったというの?」
マナは大声で叫んでいた。彼女にアヅサは抱きつきながら外に転げ出た。そして
「伊吹博士が・・・伊吹博士が・・・」
「副司令が何をしたのよ?どこにいるの?」
「おそらく裏の第四芦ノ湖に・・・」
そうアヅサが答えた瞬間だった
ぎやあああああああああす
なんともいえない不気味な咆哮が辺り一面に響いた。
それはまるで地獄からの悲鳴のようにも聞こえた。