THE REFLEX
作:柴レイ
第八話 : Good morning Good morning
霧島マナの一日は、散らかった室内に、優しい音色で響き渡るモーニング・コールで始まる。
純白のリネンの毛布を、長くよく鍛えられたカモシカのような足で払いのける。そしてぼさぼさの髪を右手で乱暴にかきながら、不機嫌そうな表情で受話器に左手を伸ばした。
トゥルル・・・トゥルル・・・カチャ!
『おはようございます!霧島三佐!』
「・・・・・・はよっ」
『今日もとてもいい天気です。でも地下にモグラのように潜りこむ私達にはあまり関係ないのかもしれませんが。でも三佐は、ご自慢の“刀”で颯爽と風を切って通勤して来るのでしょうから、さぞかし気持ちいいのでしょうね』
「かったるいだけよ」
『また今度私をタンデムに乗せて下さい。あの時は凄く怖かったけど、でも楽しかったです』
「暇になったらね」
『少なくとも今日はダメみたいです。それでは今日の予定を申し上げます。録音の準備はよろしいですか』
「もうボタンを押してるわよ」
『それでは、タンデムに乗せてくれるっていう約束も録音してくれたんですね。嬉しいです』
「早く始めなさい」
『はい、午前中は先ず、司令に同席してもらってのミーティグ。そのまま分裂使徒対策会議の打ち合わせ・・・・・・』
ネルフ本部からかかってきた、軽快な口調の岸田カスミの声のする受話器を無造作にベッドに投げ、マナは煙草に火をつけてそれをくわえたまま、新しい下着を身につけていた。
やがて赤いジャケットまで羽織ると、部屋にある鏡台の鏡に写る自分の顔を見つめる。寝起きとはいえ、険しい顔だ。それを見て、両頬を両掌で軽く叩いた後、にっと不自然に笑ってみせた。
そしてそのまま立ちあがろうとしたが、不意に鏡台の小さなテーブルに、裏側を見せて置いてある写真立てをひっくり返して表を向けた。
そこには一枚の写真があった。大きなつばの麦藁帽子を被り白いワンピース姿で微笑んでいる14歳の自分の姿があった。そして隣で腕を組んでいる恥ずかしそうな表情の同い年の少年の姿もあった。それをマナは暫く見つめていたが
『・・・・・・以上です。それでは、一時間後に喫茶ネルフのいつもの席で待っています』
カスミの説明が終わった。マナはそれを聞き終わると。写真立てを再び裏側へひっくり返し、電話機本体の、ちかちか明滅するボタンを押して録音を止めた。そして中のディスクを取ろうとはしなかった。
やがて、少年少女の甲高い喧騒が聞こえてくる。それを聞くとようやくマナに自然な微笑みが浮かんだ。
「きゃあああああ!!ゴキブリよぉ!!」
アヅサのどこかしら楽しそうな大声が食卓に響き渡った。イチゴジャムを薄くぬったトーストを頬張りつつ、ブルーベリーシロップを垂らしたヨーグルトにスプーンをさしていたユウジがうるさそうに叫んだ。
「朝からうるせぇよ。無敵のアヅサ様、ゴキブリくらい簡単に退治しろよ」
するとアヅサは、ユウジをきっとにらみつけ、強い口調で文句を言った。
「かよわい女の子が助けを求めているのよ!!ナイトは直ぐに立ちあがりなさいよ!!」
凄い剣幕だ。飛びまわってたゴキブリですらもびびったのか、壁に止まっておとなしくなった。
「ナウ・ハンティングね!ユウジぃ」
「へいへい・・・」
ユウジは渋々立ちあがると、側にあった新聞を丸めてゴキブリのとまっている壁に向かって歩いていった。するとゴキブリは身の危険を鋭く察知したのか、再起動して羽ばたいた。そしてアヅサに接近する。
「やだあああああ!!」
アヅサの悲鳴。ユウジは丸めた新聞紙をふるったが宙を舞うゴキブリにはかすらない。そこでユウジはテーブルに置いてあった、一冊の厚手の本を新聞紙の代わりにつかむと。そのままゴキブリのいる辺りを大きなスイングで振った。面積を大きくした効果か見事にヒット。哀れゴキブリは壁に叩きつけられ、その壁に茶色いシミを残した後、静かに床の下のゴミ箱に転落した。
「はい、一丁あがり。これくらいなら俺でも出来るさ」
ユウジはそう言って、見事に役目を果たした雑誌を、ゴキブリの亡骸があるゴミ箱に捨てようとした。
「ちょっと待ちなさいよぅ!!」
ゴキブリを退治してあげたというのに、アヅサの発した声は、自分への感謝の言葉ではなく、非難の刺があったので、ユウジは不機嫌そうにアヅサに向かって不服の言葉を投げた。
「なんだよ」
「その本・・・なんてことするのよぅ。大事なキャノンの原画集なのに、お気に入りの表紙が汚れちゃったじゃないのよぅ。あうー・・・もぉユウジ、許さないんだから」
「お前なあ、それが助けてあげた者に対しての言葉か。だったら最初から自分でなんとかすればいいだろ」
「ユウジぃ・・・絶対許さないんだからね。弁償してよぉ」
「元々それは俺の本だろ。欲しいと言うからあげたんじゃないか。弁償もくそもあるか」
「うるさぁい!!黙れこのガキども!!」
ますます声の調子が上がる、ユウジとアヅサに向かって、彼等の倍の音量の怒声がリビングに響いた。
「っ・・・マナ。ユウジがね、酷いんだよ」
「酷いのはてめえだ。この自己中女が」
バン!!
リビングに大きな音が響く。マナがテーブルを激しく叩いた音だった。流石にユウジとアヅサは驚いた。マナは怒りのこもった目つきで、二人を交互ににらんだ後、
「二度もうるさいって言わせないでよ・・・この私を怒らすつもり・・・」
音量はさっきより下がったが、震える感じのその口調は逆に二人に充分な恐怖を与えていた。
「聞き分けの無いアヅサちん・・・久しぶりに御仕置きしてあげようかしら・・・」
先ずアヅサをにらんでマナが言葉を発すると、瞬時にアヅサは顔面蒼白になって
「はぅ・・・ごごご・・・ごめんなさい。ゆうことをききます。霧島三佐」
床にペタンと尻餅をつきながらも震える声で、マナにむかって謝った。その様をマナは、ふんっと見やった後、今度は隣のユウジに向かって
「そっちもよ。あなたも、また私の足の裏を後頭部につけたまま床をたっぷりなめたい・・・」
これにはユウジも顔を真っ赤にして、俯いたまま呟いた。
「わかったよ・・・朝から騒いで悪かった」
二人の謝罪の言葉を聞いた後、マナは満足そうにイスに座った。そしてテーブルに置いてあったパンを取り美味しそうに食しながら、さっきまでとはうって変わって優しそうな声で二人に声をかけた。
「昨日言っておいたけど、今日も学校は半日で切り上げて、サトミちゃんを加えてのシンクロダンスよ。特にユウジ君、よく聞きなさい。司令や副司令がなんと言おうが、私はあなたたちを組ませるからね。そりゃあ、サトミちゃんにも早く実戦経験つませたいけど、でも参号機にはまだまだ不安な要素もあるし・・・とにかく最後に決めるのは、作戦部長を任されている私なんだから・・・わかったぁ!?」
「ああ・・・」
元気なさそうに呟くユウジ。
「任せてよ。二人の愛さえあれば、参号機パイロットなんておよびじゃないんだから」
アヅサも言ってる事は威勢がいいが、その口調に力強さはなかった。
それは次なる使徒への対戦に備えての、コンビ作りにおいて、3パターンの内、アヅサ=ユウジが一番結果がしっくりいってないことだった。
ちなみに、ユウジ=サトミも芳しくない。結局の所ネルフ内での評価は、アヅサ=サトミのコンビが一番という流れになっていた。それは司令のアスカも認めていた。しかしそんな事(アヅサ=サトミ)は、三人のチルドレンにとっても、そろって承服できない事だった。
ネルフ施設内の広々とした一室。そこには、クラッシックのリズミカルなメロディが流れていた。室内の上方には大きなガラス窓があり、そこには室内のチルドレン三人を見下ろす大人達の目があった。
黒いスーツを着込んだ、角刈りの副司令は暇そうにきょろきょろしていた。赤いジャケットを着こんだ、作戦部長は右手の人差し指を右こめかみにあてて首を傾げていた。丸い眼鏡をかけて数値の動くモニターを真剣な面持ちで見やっていた、岸田三尉が不意に後ろを振り返る。
「どうしましょう・・・もう一度や・・・」
「当然よ!」
カスミに最後まで喋らせず、マナは不機嫌そうに声を発した。
「せやけどなぁ〜もうええんとちゃうか。サトミやったら、わしがよぉ説得するさかいに」
そこに鈴原副司令が言葉を挟む。司令のアスカが多忙という事で、彼がずっとマナといっしょにコンビについての見極めに参加していた。彼にしてみれば、可愛い姪であるサトミにも初陣を飾らせたい。そしてそれは実績のある、アヅサとのコンビでというのがもっとも最適だと考えていた。サトミ本人の気持ちが、ユウジと組みたがっている事は重々承知していたが・・・
「副司令のお言葉ですが、私はまだユウジ君が本来の力を出していないんだと思います」
マナはやんわりとトウジの言葉を否定する。トウジはそれに対して難しそうな表情を浮べて
「そりゃな・・・エヴァの事は、マナ三佐が一番わかっとるんやけどなぁ」
マナとは目をあわさず、そう呟くトウジに対してマナは、 「申し訳ありません」 と頭を下げた後、ガラス越しの向こうで息を切らしてしゃがみこんでいるユウジに向かって、マイク越しに声をかけた。チルドレン三人のいる室内に、マナの声が聞こえてくる。
『もう一回よ。ユウジ君、アヅサ。今度は第二楽章のアンダンテをやってみて』
「はぁい」 とアヅサは元気よく立ちあがった。実は彼女が三人の内で一番ダンスを踊っていたが、息はまったく切れていなかった。彼女の2/3を踊ったユウジと、1/3のサトミは息を切らしていた。
尚、その日は、ユウジ=サトミの組み合わせは一回も試されていなかった。アスカはそれもやるように指示を出していたが、マナは完全に無視をしていた。それにトウジもカスミも黙って従っていた。
音楽が流れ始める。アヅサが軽快にリズムにそって踊り出した。一方、ユウジは疲れからかその動きに精彩はまったくなく、どこか投げやり気味にも見えた。すると室内にマナの怒声が飛ぶ。
『こらぁ!!ユウジ!!真面目にやりなさいよ!!』
音楽は止まる。アヅサは黙って踊りを止めた。ユウジは名指しされたにも関わらず、力無く座りこんだ。そんな彼にサトミが慰めようという感じで近づいたが、マナの怒った声が続く。
『ほっときなさいサトミちゃん。ユウジ、顔を上げなさい。なんなのそのザマは。それが第二東京で番をはってて、ここでも天才生徒会長という事で中学校に君臨してる碇ユウジの姿なの。情けないったらないわ』
そこまで言われても、ユウジは下を向いたまま肩を苦しそうに弾ませていた。彼の代わりにアヅサが声を発した。
「ユウジにはこういうのは向いてないのよ。わたしならもうサードチルドレンと組んでもいいわよ」
そのアヅサの言葉に、サトミは驚いた表情を見せたが、ユウジの背中を見つめた後、上方のマナを見上げて
「わたしもかまいません。ファーストチルドレンに合わせるよう努力します!」
そう叫んだ。二人とも、本来は組みたくないコンビなのだが、苦しそうなユウジの姿を見るに見かねて思わずそう言わずにいられなかった。マナは黙って腕組みをし、二人の少女の声を聞いていたが、やがて
『サトミちゃん。今日は上がっていいわ。お疲れさん』
そうマイクに優しそうに声をかけた。その言葉に、三人のチルドレンも、彼女のそばにいたトウジとカスミも驚いて目をみはった。最初に言葉を発したのは、カスミだった。そしてトウジも続く。
「霧島三佐。もういいじゃないですか。これ以上・・・」
「そや、もうむちゃやで。それにな、そんな勝手な真似、惣流が聞いたらただではすまんぞ」
しかしマナはそんな言葉に微塵もたじろがない。毅然とした口調で
「全責任はこの私がとります。副司令、私がそう言ったと、司令にお伝え下さい。今回の作戦行動のコンビは決まりました。初号機パイロット・アヅサと弐号機パイロット・ユウジ君で行きます。今回が最初の作戦となる参号機パイロット・サトミちゃんは、バックアップとします」
「せやけどなぁ・・・」
「私が決めたんです。作戦部長の霧島マナが決めたんです」
大声を張り上げるマナ。その勢いに、トウジもカスミも黙ってしまった。その時、彼等にユウジの声が聞こえてきた。その口調はしっかりしたものだった。
『マナ、むきになるのもいいけどよ、戦うのは俺達なんだぜ。あんたの意地で、俺だけじゃない、アヅサやサトミを危険な目にあわせるなんてごめんだぜ。俺だって精一杯やったさ。でもな、今回の作戦においては、冷静にみて俺は向いてないんだろ。だったら俺は俺の出来る事を・・・』
そこまでユウジが言った所で、マナは顔を真っ赤にしてユウジに向かって叫んだ。
「偉そうな口たたくな。私はね、今回の事だけじゃなくって物事をトータルに考えて、その上で命令を発しているのよ。なんにもわかってないあんたが生意気な口をたたくな。十年早いわよ。精一杯だって?向いてないだって?そんな台詞はあんたが言うべき言葉じゃないわ。そういう事を判断するのは、ずっとあんた達を見ている私なの。向いてるかどうかは私が決めるの。ユウジ!あんたがやるべきことは、一日でも早くアヅサとのシンクロを高める事なのよ。余計な心配しなくても、この私があんた達三人の事を責任持って守ってみせるわよ。わかった!!二度と作戦部長の霧島マナの命令に生意気な口をたたくんじゃないわよ」
マナはそう一気にまくしたてた。もはやユウジは何も言い返せなかった。そんな彼に、サトミが近づいて後ろから抱き付いて言葉をかけた。
「頑張って、ユウジ。あなたならきっと出来る。わたし信じているから」
そこまで言うと、サトミは身体を離して、今度は上方のマナを見上げて元気よく言葉を発した。
「それでは、サードチルドレン倉田サトミ、今日は上がります」
『お疲れ様、サトミちゃん。明日は学校休んで朝から来てくれる。色々と指示をするつもりだからね』
さっきとはうって変わった、マナの優しそうな言葉がサトミにかけられた。サトミは肯いて、そして室内から出ていった。すると今度はアヅサがユウジに笑顔で語りかける。
「とことんまでつきあうよ。ユウジ、ふぁいとだよ」
ユウジはしばらく黙っていたがやがて立ちあがった。そしてマナに向かって、声を飛ばす。
「今度はどのパートをやるんだ。なんでもやるぜ」
その日から一週間もの間、ユウジとアヅサは学校を休んで、ネルフの施設内に泊まりこんで猛特訓に入った。サトミもまた一人で参号機とのシンクロ実験や、ライフル発射の訓練を連日必死にこなしていた。
もちろん、マナを中心とする発令所の面々も同様だ。そしてトウジは、このマナの方針を自分も同意しているとの言葉を添えて、司令のアスカに報告していた。それに対してアスカは
「マナが責任取ると言ったんでしょう。なら任せるわ。鈴原は彼女のサポートを継続して」
そう答えるだけであった。その表情は冷静で、トウジは何も見出せなかった。
その間、二体に分裂する使徒が、ネルフのタイムテーブル通りに、紀伊半島沖に現われた。実質マナの指揮下にある戦自の戦闘機部隊が迎撃に出撃。新型N2爆雷により大きなダメージを与え、そのまま半島沖に放置された。
そして活動再開が予測されるその前日、ようやくユウジとアヅサの二人は一週間ぶりに、彼等のマンションに帰っていた。
マナは、様々な準備等で多忙との事で今晩もネルフに泊まりだと二人に伝えられていた。疲労困憊の二人は、たいした会話もせずに各自シャワーを浴び、夕食をとって、それぞれの部屋に寝るために入っていった。二人とも布団に入ったら直ぐにも寝てしまうと思っていた。
ユウジは暗い自分の部屋の中で寝つけないでした。身体はそうとうに疲れているはずなのに、アドレナリンが分泌したままになっているのか、興奮していてなかなか眠れないでした。
「仕方ねえや。久しぶりにやったらそれで寝れるかな・・・」
ユウジはそう呟いて。部屋は暗いままで、ベッドの布団の中で、もぞもぞし始めていた。
彼の部屋のドアがノックされ、そして静かに開いた。しかし何かに集中しているユウジは気がつかなかった。
「マナ・・・マナ・・・」
暗闇にユウジの呟きがもれる。そんな時、彼の背中に言葉がかかった。
「充電中悪いんだけど・・・そういう時には、わたしの名前を呼んで欲しいなぁ・・・」
「・・・!?」
ユウジは絶句した。部屋は明かりもなく暗いままだ。布団の中で彼はあわててごそごそしていた。
「あっ・・・ごめんね。眠れなかったから、話でもしたいと思ったんだけど・・・じゃあもう少し外に行ってるわ」
本当にすまなそうなアヅサの声。しかしユウジは努めて平静な声を繕って
「いや・・・べっ別になんでもないんだ・・・話なら丁度いいな・・・おっ俺もそう思ってたから」
それでもどもりながら喋るユウジ。でもアヅサは落ちついた声で
「男の子ってそういうもんだって、マナに聞いてたもん。別に気にしてないよ。でももしサトミの名前を呼んでたら、少し悲しかったけどね。いいよ、実はわたしも少し動揺してるから、30分くらいしたらまた来るわ。それでいいでしょ」
ユウジは何か喋ろうとしたが、次の言葉が出てこない。アヅサは静かに 「ごめんね」 と言って外に出ていった。そして30分後、 「もう寝ちゃった?」 という言葉と共に、アヅサが再度ユウジの部屋のドアを叩いた。
ユウジは黙って、ドアを開ける。そこにはまだ少し顔を赤くした、アヅサの姿があった。
「入れよ。少し話をしようぜ。なんならここで寝ていくか・・・あっ、もちろん俺は床に寝るから」
「いいの・・・じゃあ朝までお邪魔しま〜す。いいよ別に一緒の布団でも」
「そんな訳にいかねぇだろ。俺達はもうお互い14歳だぜ」
「大丈夫よ。わたしは二日目だし。それにユウジはもう充電終了したんでしょ」
「なっ・・・何言ってんだよ。充電なんてしてねえよ。それに女の子が軽はずみに二日目だとかぁ・・・」
「ユウジ、照れちゃって可愛い。ふふふ・・・」
「からかうな!」
「ねぇ一つだけ答えて、やっぱり今日はマナだったの?・・・いつもなの?」
「いいかげんにしろ。それ以上言うと、部屋から追い出すぞ」
「ごめんごめん。もう言わないよ」
「ったく・・・」
その後、アヅサがユウジのベッドに入り、ユウジは床に毛布を敷いて寝た。そしてそれから二人で取りとめの無い話を始めた。
どんな話をしたのかもうユウジは覚えていなかった。ややうとうとしかけていたが、不意に自分の耳に暖かい息がかっかってびっくりした。目を開けると、ベットに寝ていた筈のアヅサが床で寝ている自分の毛布に忍び込んでいたのだった。ユウジは思わず声を上げそうになったが、
「・・・寝てやがる・・・まったくいつのまに。危ないところで襲われる所だったぜ・・・」
ユウジはそう呟いたが、それでも心臓が激しく高鳴っているのを感じていた。下半身も再び熱くなっている。数時間前、律儀にマナではなく、アヅサに色々と御世話になってしまったために、14歳の少年の心が激しく揺さぶられていた。
必死に理性にすがろうとするが、可愛らしく寝息を立てるアヅサの顔をまじかに感じ、そして彼女のいい匂いを嗅ぐ内に、いつのまにかアヅサの細い身体に両手が伸びていった。もはや頭は真っ白だった。ユウジは、 「アヅサ・・・」 と呟いて彼女に触れ様としかけたが
「グッモーニング・・・グッモーニング・・・ユウジ君!!」
部屋が勢いよく開いて、マナが大声で入ってきた。
「うわあああああ!!マナなんだよぉ!!」
ユウジはアヅサから飛びのいて床に転がり、そして真っ赤な顔でマナに大声で文句を言った。
「もう朝6時よ。今日は早いって言ってたでしょ。あれまぁ・・・おやおや・・・」
マナはあたふたするユウジと、それでも起き様とせず眠りこけているアヅサを交互に見やって
「最後までシンクロに努めてるなんて、お姉いさん嬉しいわ。それでこそ、ユウジ君よ。どぉ・・・アヅサは美味しかったぁ。ちょおっと詳しく聞きたいわねぇ」
「まだ何にもしてねぇよ」
ユウジは更に耳まで赤く染めてマナに言い返した。マナはそんなユウジに笑いながら近づいて
「アヅサはもう少し寝ててもらうわ。ユウジ君だけ先に行きましょ。色々と今日の説明もあるしね」
そう言って、ユウジを立ちあがらせ、リビングに引っ張っていった。部屋にはアヅサだけが残された。
静まる室内。遠くからマナの笑い声とユウジの慌てたような叫びが小さく聞こえていた。
「覚えてらっしゃい、マナ・・・やっぱり最強の障害は、サトミじゃなくってあなたなのね・・・」