THE REFLEX

作:柴レイ


 

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「君の名前は?」

「綾波レイ・・・」

「レイちゃんって言うんだ・・・ここの子?・・・お父さん、お母さんは?」

「お兄ちゃん・・・ネルフの人なんでしょ。そしてサンダルフォンを殺しに来たんでしょ・・・」

「え!?」

「お兄ちゃん達ネルフは、私達を利用するだけ利用して・・・それでどこに行きたいというの・・・」

「君は一体・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マナ、アヅサ、ユウジの住むジオフロントの中でも高級の部類に入るマンションは、今日もまた、少年少女達の嬌声で朝を迎えた。

「なんで俺達だけが修学旅行に行けないんだよ。マナ、忘れてないか?俺が生徒会長だってことを?」

「忘れてないわよ」

「飛び立つ飛行機〜僕達は見送った〜♪ 悲しくて逃げた〜僕達の修学旅行〜♪」

「アヅサ・・・その替え歌は少し無理があるわね」

「アヅサは黙ってろ。それでなんで温泉なんだよ。しかもサトミはネルフでお留守番で、俺達だけだなんて」

「サトミちゃんは、この前の事があったから、参号機とのシンクロ実験を重ねないといけないのよ」

「さよならは〜言わないよ〜サード♪ ずっと地下に〜置いて行く〜♪」

「黙ってろアヅサ!!」

「黙るのはあんたよ!!それにアヅサも真面目に私の言う事を聞いてなさい!!」

とうとうユウジが声を荒げたが、逆にそれがマナの癇癪スイッチを入れる形になった。机を強く叩き、大声でユウジとアヅサに怒鳴り散らすマナ。

ユウジは不満気ながら渋々口を閉じる。閉じないとどうなるかをわかっていたからだ。一方アヅサの方は、なんで自分がという感じできょとんとした顔で黙っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタカタ・・・・・・

ジオフロントの下部にある、コンピューターの配線が複雑に絡み合っている中から、規則正しくキーボードを叩く音が聞こえる。叩くのは、赤いジャケットを着込んだ茶色髪の女性だった。

彼女は暫く膝に乗せたノートパソコンのディスプレーを眺めていたが、やがて一息つくと口にくわえていたMO状のメディアをノートパソコンに挿入した。そしてエンターキーを軽く叩く。ピーという音がして、ノートパソコンが挿入されたメディアにデータを記録し始めた。

「ふふん・・・さて何分かかるかしら・・・安物だしねぇ・・・けっこうかかるかも・・・」

彼女はそう呟いた。しかし表情は満足気であった。そしてそういう場所では恐らく厳禁であろう、煙草を取りだし口にくわえた。そしてジャケットからライターを取ろうと、ごそごそしていたが

シュッ

不意に彼女の眼前にターボライターの火が差し出された。彼女はそれに驚く風はなかったが、暫くその炎を見つめた後、顎を差し出して煙草の先を火に近づけた。そして煙草に火がつくと、またゆっくり顎を引き、そして煙草の煙をゆっくりと吸った。すると、彼女の眼前に差し出されていたライターも、彼女の前から自然な感じで引っ込められた。

「よくここにいるってわかったわね」

マナは更に煙草を吸い、正面のディスプレーを見ながら呟いた。

「はい、ここではないかと思いまして・・・でも実は結構探しました」

マナの後ろに立つ、岸田カスミは穏やかな口調で上司の問いに答える。

「まったく・・・あなたもたいしたタマね。司令は今頃アヅサと喧嘩でもしてるだろうに」

「アヅサちゃん、可哀相・・・司令はあの子を露骨に毛嫌いしてるから・・・大丈夫なんですか?」

カスミはここはまるでアヅサの気持ちを代弁するかのように、マナを非難するような口振りに変わる。しかし、マナは少しも動せずに、気楽な口振りで

「アヅサは、普通の女の子じゃないわよ。このくらいの事、心配ないわ」

「そうですけど・・・」

「カスミだって、本当は心配してないくせに。アヅサの凄さはあなただってわかってる筈でしょ」

「でも・・・そうですけど・・・あの子は14歳の女の子なんですから」

あくまでお気楽な調子のマナ。いっぽうカスミはそんなマナをたしなめるような口調を変えない。そうこうしている内に、ノートパソコンのモニターでは先程から動いていた数字が残り1分を切っていた。マナはその数字を満足そうに見つめた後、大分短くなった煙草を口から離した。

「でっ、カスミはそれを言いたくて、ここまで辿りついたというの?」

「いえ・・・単に、霧島三佐を探していただけです」

その素っ気無いカスミの返答に、マナは表情を幾分曇らせて黙ったが、やがてパソコンが再びピッと鳴り、続いてメディアが勢いよくキーボードの下の方から出てくると、手に取りジャケットのポケットに入れた。そしてゆっくり立ちあがる。煙草の吸殻を丁寧に携帯吸殻入れに収めた後、後方を振り返った。

「どういう意味かしら」

マナはそう言って、カスミの顔を睨みつけた。その表情はそれまでの軽い口調とは異質の物で、しかもカスミにとってもめったに見た事の無い厳しい物であった。

カスミはそんなマナの視線に思わず表情を固くして、目をそらした。しかし、直ぐに表情を戻して、マナの顔を再び見つめた。そしてぼそっと・・・

「酷いです・・・お忘れですか?」

そう呟いた。マナはやや厳しい視線を緩めながら、それでも真っ直ぐにカスミの表情を探るように見つめ続けた。

「何よ、忘れたって」

「朝のモーニングコールの時に、私におっしゃったじゃないですか。今日は頼み事があるって」

「そうだっけ・・・」

「そうですよ。それなのに、いつまでたっても姿が見えないし。バイクが車庫にあったから来てる筈だと思って」

「・・・・・・」

「酷いです。なんか・・・私を恐ろしい顔で睨むんですもん」

「・・・朝は低血圧だから・・・忘れる事もあるのよね」

「そういう表情は敵にだけ向けてください。私は悲しいです」

徐々に形成逆転。マナの口調がだんだん弱弱しくなり、カスミの恨み言が勢いを取り戻してきた。そして二人の会話が一瞬途切れた。やがてマナがニコっと笑顔を作った。

「頼みと言うのはね・・・」

「ごまかさないでくださいよぉ」

カスミが更にマナに食い下がろうとしかけたが、マナが笑顔を保ったまま

「お互い・・・この辺りが落とし所でしょ・・・」

そう呟いた。目は笑っていたが、その口調は再び厳しい物に戻っていた。すると、カスミの表情も、真剣な物に戻った。二人は黙ってお互い見詰め合ったが、やがて今度はカスミが喋り出した。

「はい・・・・・・頼みってなんでしょうか?私に出来る事なら」

マナはそんなカスミの表情を見つめた後、再び軽い口調を取り戻して

「ちよぉっと・・・キツイ仕事よ。カスミには荷が重いかもしれないけどねぇ」

カスミにそう言って笑いかけた。その笑顔は、カスミが好きなマナの労わりのこもった笑顔だった。カスミもようやく相好を崩して、胸をポンと叩いた後、マナの表情を見つめながら

「どんなキツイ仕事もこなして見せます。尊敬する霧島三佐の命ならば」

と、元気に答えた。マナはそんなカスミの表情を優しく見つめながら、彼女の左肩に右手を置いた後、

「きついわよぉ〜この私だって苦労してるんだから」

「はい??」

意味深なマナの口振りに、カスミの顔にハテナマークが浮かぶ。マナは悪戯そうな笑顔になりながら、ようやく本題を語り出した。

「私の代わりに、お守をして欲しいのよ」

「誰をですか?」

「思春期真っ只中の傷つき易い子羊と、それを狙う油断も隙もない獰猛な狼よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぉ疲れた。まだ着かないのぉ〜」

狼が吼える。

「さっきからそればっかりじゃないか。何度も何度も、カスミさんも迷惑だろ」

子羊がたしなめる。

「もう直ぐよ。ほらっ・・・あそこに見える建物が今晩の宿泊先よ」

狼と子羊を後部座席に乗せたカスミは、愛車のマセラッティのハンドルを握りながら笑って答えた。

プスン・・・

「あれっ?」

マセラッティが急に止まった。カスミが驚いたように呟く。そしてアクセルを踏み込むが車はぴくりともしない。カスミは溜息を一息ついた。その表情はのんびりして慌てた素振りはなかった。

「何よぉ・・・どうしたのよ。急にぃ」

「エンストですか?カスミさん」

「いや・・・違うわね。これはエンジントラブルと見たわ。そろそろ来る頃なのよね」

まるで人事みたいなカスミの口振りに、狼が再び吼えた。

「何がそろそろよぉ〜カスミぃ・・・まさかここから歩く事になるんじゃあ!!」

子羊がそんな狼をなだめる様に口を挟んだ。

「さっきの建物なら、もう歩いても直ぐですよね」

しかし、カスミはハンドルをポンポンと楽しそうに叩きながら

「直線距離なら2キロ強。ただ、ここからずっと湖沿いをくねくねと登るのよねぇ。けっこうキツイ傾斜をね」

「なによぉ〜それぇ!!」

「いい運動じゃないか。ダイエットに・・・」

そこまで言った子羊を狼が厳しい表情で睨み付ける。その視線はかなり厳しい物だった。

「なんか言った・・・」

「いっいや・・・なんでもねえよ」

ガルルと唸る狼に、子羊がすくみあがった。カスミは運転席から後を振りかえって、二人に笑いかけた。そして唸る狼の頭をポンと軽く叩いて、落ち着かせる。

「宿には、アヅサの大好きなたこ焼きが用意してある筈よ。だから我慢して」

「ううう・・・ユウジ、行くわよ。こんな所でもたもたしててもしょうがないわ」

カスミのたこ焼きという言に、狼が鋭く反応した後、ようやく牙を収めて隣に座る子羊を立つように促した。

「カスミさんは?」

よせばいいのに、子羊は狼以外の女性に感心を向けた。すると狼が、本当に子羊の右腕に噛み付いた。

「痛てぇ!!何すんだよぉ!!お前はよぉ!!」

「アヅサ、その位にしてなさい。私はマセラちゃんの機嫌を直さないといけないから、後で来るわ。予約してるんだから大丈夫。先に行ってて。それじゃあユウジ君、アヅサを頼むわね」

お気に入りの丸眼鏡を外しながら、カスミはめっとアヅサを一睨みした後、ユウジに労わるように声をかけた。年齢は24歳だが、どことなく幼い感じで高校生でも通用する、そんなカスミの愛くるしい微笑みに、ユウジがポッと頬を赤らめた。アヅサがそれに益々不機嫌さを増して、ユウジを車から引きずり出した。

「早く行くわよ。ユウジ」

「頼むって・・・俺のほうこそ頼まれたいっすよ。カスミさん」

「気をつけてねぇ・・・」

プンプン怒りながら、ユウジを引きずって坂を登っていくアヅサ。そんな彼女にぶつぶつ言いながらも、渋々ついていくユウジ。そんな二人の後姿を、カスミは楽しそうに眺めていたが、やがてポツリと呟いた。

「ユウジ君には荷が重いわね。それにしても、あの子のあの顔・・・思い出しちゃったじゃない」

カスミはそう行った後、澄み切った青空を見上げながら、何かに思いを馳せていた。

「ああいう表情を作れるようにはなりたくないわね。あんな怖くて・・・そして悲しい顔・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い廊下をアスカとマナが歩いていた。二人の間に会話はなかった。普段と違って、フォーマルなスーツ姿に身を包んだ二人は。やがて廊下の終点にある、大きなドアを開けた。そこは前方にむかって扇場に下っている席が並ぶ広い一室があった。

「いっぱいいるわね・・・」

アスカがぼそっと呟いた。彼女の視線の先には、とてもじゃないが好意的とは思えない背広姿の大勢の男性の姿があった。彼等はみな同じ灰色の背広姿で、そして二人を敵意こもった目で見つめた。

「みんな私達の父親みたいな年齢なのに。それなのに娘みたいな私達を親の仇の如く睨んじゃってるわ」

マナが自嘲気味に呟いた。しかしその表情には余裕が浮かんでいた。

「まぁ、あんな親父が何人束になっても全然怖くはないけどね」

アスカも同様に余裕の笑みを浮べてマナに語りかけた。そして真っ直ぐ自分達の席に向かって歩き出した。

「ほらっ・・・今日も来てますよ。その親父達を扇動している眼鏡オタクが」

マナもアスカに続いて、お気楽に喋りながら、やがてアスカのたどり着いた席の隣に座った。

「これより、ネルフ司令惣流アスカの証人喚問を始めます」

ふてぶてしい二人の女性の態度にざわめいていた会場に一際大きな声が飛んだ。声の主、相田ケンスケ議員がそうやって場を沈めると、座っている二人の元に近づいた。そしてにこやかな笑みを浮べた後、アスカに語りかけた。

「ようやく来てくれたね、惣流。ホント久しぶりだよ。トウジは元気にしてる?」

好意的なケンスケの語りかけだったが、アスカは横をプイっと向き、そして気持ち悪そうに唾を飛ばした。そんなアスカの態度に、ケンスケも流石に戸惑った表情を浮べたが、直ぐに落ち着きを取り戻し、今度はマナの方をむいて再び笑顔を作りながら語りかけた。

「霧島さんも久しぶり。今回は惣流を説得してくれて・・・」

そこまでケンスケが言いかけた時に、不意にマナが右手を上げて、ケンスケの喋りを制止し、そして冷ややかな表情と口調でケンスケに応えた。

「相田下院議員、失礼ですがこのフォーマルな場では、私達を気安く呼ばないで欲しいんですけど」

「なっ・・・」

「14歳の子供の時とは違うんですから、ちゃんと惣流司令、霧島三佐と呼称して下さい」

相手を突き放すようなマナの言い様に、ケンスケはとうとう不機嫌になった顔を隠さずに、横を向くアスカと、自分を冷笑するマナを忌々しげに睨みながら

「いつまでも調子に乗るんじゃないぞ。その余裕がどこまで続くか見物だな」

そう吐き捨てて、二人の側を離れて、会場の二人と反対側の席に戻っていった。

「今日の議題は、ネルフ司令惣流アスカの日本国政府との収賄疑惑と、先に起こった国連安全保障委員会理事の大量失踪事件に関する、ネルフの関わりを徹底的に糾弾します」

議長が大きな声で宣言した。アスカが軽く欠伸をする。隣に座るマナも冷静な表情を崩してなかった。

「どこに証拠があるというのよ・・・ったくバカバカしい」

アスカが不敵に呟いた。マナは黙っていた。しばらく各議員の読み上げが続いたが、どれも確かに抽象的な内容で、目標の二人を糾弾するには物足りない感じであった。

「まだ続くのぉ・・・眠くなってきたわ・・・」

アスカが退屈そうに叫んだ。議長がゴホンと咳き込むが、まったく意に解した様子は見せなかった。その時、それまで大人しくしていたマナの目が不意に光った。そして同時に、ケンスケの表情にも快心の笑みが浮かんだ。

「今日は重要な参考人をお呼びしています」

「へぇへぇ・・・」

議長の力強い言葉にも、アスカは眠そうな目で答えるだけだった。

「行方不明でした、国連安全保障委員会の理事の一人、そして元戦略自衛隊の参謀総長を歴任された・・・」

「えっ!?」

予想だにしなかった、議長の言葉にアスカの目が驚きとともに開かれた。

「今日ここにお出で頂きました。どうぞ・・・三笠コウイチ様」

会場の後方のドアが開けられた、思わず振りかえるアスカ。その視線の先には、ヨボヨボとした足取りの初老の紳士が、両脇を頑丈そうな男達に支えられて現われた。

「どういう事よ・・・マナ・・・」

アスカは信じられない口振りで隣に座るマナに語りかけた。マナはそんなアスカに対しても、あくまで冷静さを失わずに

「大丈夫ですよ。予想外の事が発生しましたが、まぁ・・・心配には及びません」

マナは、アスカと違って後ろを振り返ろうともせず、席に座ったまま冷静に答えた。ケンスケの眼鏡越しの目が自信満々に光る。そして不思議な事にマナの口元にも笑みが浮かんでいた。しかしアスカは、そんなマナの表情に気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にゃぁ〜

「ユウジぃ・・・ネコさんだ。ネコさんがいるよぉ・・・」

「小汚い野良猫だなぁ」

「何を言うのよ・・・あんなに可愛いのに・・・」

さっきまでプンプンしていたアヅサが、坂の先で鳴いている猫の姿を見るや、急に猫撫で声を上げてふらふらと歩き出した。ユウジはそんなアヅサの背中を溜息ついて見ていた。

「ネコさん・・・わたし行くね・・・ユウジ、止めないでね」

「お前はいったい誰なんだよ。そろそろお米券でも出すかと思ってたら、今度はそれかい」

ユウジが飽きれたように喋るのを無視して、アヅサはふらふらと猫に向かって歩いていった。

「勝手にしろ・・・・・・んっ?」

ユウジはかまってられないとばかりに呟いていたが、不意に自分を見つめる視線に気がついた。ゆっくり振りかえる。すると登ってきた坂の下の方に、一人の小さな少女が立っているのが目に入った。

少女は、4〜5歳くらいに見えた。短かめの髪の毛は色素が落ちていて、空色になっていた。それでも十分に異様なのだが、それ以上に自分を見つめる視線・・・真っ赤な瞳にユウジは知らず知らずの内に困惑していた。

少女はその印象的な瞳でじっとユウジを見つめながらゆっくり近づいて来た。

「こんにちは・・・この辺りの子かい?」

やがて自分の直ぐ側まで来た少女の視線に戸惑いながらも、ユウジは穏やかに表情を作り、そして腰を屈めて、目線の高さを少女と同じにした後、再度話しかけた。

「君の名前は?」

「綾波レイ・・・」

「レイちゃんって言うんだ・・・ここの子?・・・お父さん、お母さんは?」

「お兄ちゃん・・・ネルフの人なんでしょ。そしてサンダルフォンを殺しに来たんでしょ・・・」

「え!?」

「お兄ちゃん達ネルフは、私達を利用するだけ利用して・・・それでどこに行きたいというの・・・」

「君は一体・・・」

少女レイは、じっとユウジを見つめ続けながら名前を名乗った後、急に非難するような言葉を彼に向けた。ユウジは、レイの言葉の意味を理解するより、その非難にただ驚き黙ってしまった。

不意にレイがユウジから目をそらして正面の上を見上げた。ユウジもつられて振りかえる。そこには、さっきまでふざけていたアヅサの姿があった。頬に猫に引っかかれたのか赤い筋を作っていたが、その表情は険しい物であった。ユウジは何か言いかけようとしたが、それよりも先にレイが喋り出した。

「桐山アヅサ・・・」

驚くユウジ。何故この少女がいきなりアヅサの名前を呼ぶのか?

しかし、呼ばれた筈のアヅサは黙ってレイを厳しい目で見つめていた。レイは真っ直ぐにアヅサを見つめ、か細い声でアヅサに向けて言葉を発した。

「あなたは・・・私と同じ・・・」

その瞬間だった、ユウジはその場で起きた事に唖然とすることしか出来なかった。さびれた田舎の坂の途中に乾いた音が響いた。

 

パアン!!

 

アヅサがいきなりレイの頬を張り飛ばした音だった。

 

 

 

 

 

第拾壱話に続く

 


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