THE REFLEX
作:柴レイ
第拾壱話 : Hurting each other
ここはどこなの・・・白い霧につつまれて何も見えない・・・
わたしの存在を感じられない・・・目の前にわたしの手が見える・・・でも感じる事が出来ない・・・
わたしは夢を見ているの・・・いやな夢・・・こんな夢なんて早く覚めればいいのに・・・
泣いている声が聞こえる・・・男の人の声だ・・・よく知っている人の声・・・
え?・・・今わたしの名前を呼んだの?・・・聞いた事もない名前・・・
違うよ・・・わたしはそんな名前じゃない・・・わたしは・・・あれ?・・・わたしは・・・
わたしは・・・わたしは・・・誰?・・・思い出せない・・・
でもそんな名前じゃないよ・・・違う・・・違うよ・・・おじさん・・・違うよぉ・・・
お願いだからそんな悲しそうな顔で・・・そんな名前で呼ばないで・・・
いやだ・・・そんな名前じゃないよ・・・いやだ・・・助けて・・・助けてよ・・・
助けて・・・ユウジ・・・・・・!?
『サトミぃ!!・・・サトミぃ!!・・・大丈夫かぁ、サトミぃ!!』
倉田サトミが参号機のエントリープラグ内で意識を取り戻すと、耳に叔父である、ネルフ副司令鈴原トウジの声が飛びこんで来た。はっとして、プラグ内できょろきょろするサトミ。
『サトミ・・・意識が戻ったんか・・・なあ、返事してくれんか』
トウジの心配そうな声が聞こえる。サトミは混濁する意識を落ち着かせるように一息つき、胸に両手のひらをあてた後、ゆっくりとはっきりとした口調で声を発した。
「大丈夫です、副司令。すみません・・・少し寝っていたみたいです」
するとトウジのホッとした吐息に続いて、優しげな声がサトミにかかった。
『謝る事ない・・・エヴァっちゅうのはそういうもんや。そうか・・・夢を見てたんか・・・』
「はい・・・シンクロの数値はどうでしたか?」
『可も無し不可も無しという所やな。マナ三佐と岸田二尉がここにおらんから、彼女らにデータ渡して分析してもらわんとそれ以上はどうにもわからん。わしは今日は岸田の指示通りに、通り一遍の行程をテストしだけやし』
「そうですか・・・」
『こないなこと言うたらほんまあかんのやけど・・・もうええわ。サトミにあんまりこないな事させたないしな』
「わたしなら大丈夫です」
サトミの真面目なそして健気な一言に、トウジの胸がちくりと痛んだが、そんな素振りを努めて押し隠し、可愛い姪にむかって精一杯の笑顔を浮べ、あえて軽い調子で
『今日はもう終わりや、終わり。マナ三佐の真似するんなら、こう言う所と違うか。“わしが決めたんや、ネルフ副司令の鈴原が決めたんや。文句あるかぁ”・・・なんてな』
「あんまり似てない・・・それにやっぱり関西弁が変?」
『ほっとけ!!』
トウジに突っ込みをいれながらようやくサトミの表情に笑顔が浮かんでいた。正面のモニター越しに代理の女性オペレーター達に笑い飛ばしながら指示をしているトウジの姿が見える。
小さい時から大好きだった、そんな叔父の姿をサトミは安心した風に眺め、やがてプラグのハッチが開くのを心待ちにしていた。今日は確かヒカリ叔母さんの誕生日。鈴原家に呼ばれて誕生会をする予定になっている。
一人暮しをしていた頃から、ずっとこういった鈴原家のイベントには参加してきた。幼い頃に父母を亡くした。それでも小学校に上がる頃から学校の寮に入り、寂しいなんて考えずにやってきた自分を、ずっと鈴原夫妻がなにかにつけて面倒みてくれていた。
子供のいない夫妻の養子にどうかという言葉には丁寧に断っていたが、同居はしなくても家族同様に付き合ってきたので、今日にしても何を差し置いても参加するつもりだった。
・・・・・・そう自分に言い聞かせて、ユウジとアヅサと一緒に温泉に行けなかった悔しさを忘れようとしていた。
「なんの夢を見ていたんだろ・・・思い出せない・・・でもなんか凄くいやな夢だった気がする・・・」
サトミはポツリと呟いた。覚める直前にユウジの名前を呼んだ気がする。なんで呼んだんだろう・・・ユウジの楽しそうな顔がそこにあった。それは覚えている。だから呼んだんだろう。
「でも・・・なんか凄くいやな気分・・・何故?」
サトミは目をつぶり首を左右にふった。すると朧気に、再び目覚める直前の夢の画像が蘇ろうとしていた。
ユウジがいて・・・楽しそうに笑っていて・・・そして、隣にもう一人・・・
「・・・・・・!?」
胸をかきむしられるような不快な感じ。そんな身の毛がよだつ感覚に思わずサトミは身震いした。それと同時にプラグのハッチが開けられた。強い照明がサトミの目に飛び込む。サトミは思わず眩しそうに目を細めた。そして一瞬自分に襲いかかったその衝撃と供に、酷く嫌な画像を消し去ろうとしていた。
一拍おいてサトミは立ちあがり、ゆっくりとプラグから降りた。
「何をするんだ、アヅサ!!」
まだ本当に小さい女の子を、倒れるくらいの勢いで頬をひっぱたいたアヅサに向かって、ユウジは弾けるように怒鳴りかかっていた。思わず立ちあがりアヅサの両肩をわし掴みにする。
「・・・・・・」
「アヅサ!!」
ユウジに顔がくっつかんばかりに近づかれ睨まれても、アヅサは目をそらそうともせず憮然としたままであった。その表情は、かつてユウジが見た事も無いような険しく憤ったものであった。
元々長く不良少年だったユウジの眼光はけっこう鋭いものがある。大抵の者は、大人であってもすくみ上がるくらいの視線だった。しかしアヅサは全然怯もうとしない。むしろやがて乾いた、感情の削げ落ちたような表情に変わり、正面のユウジではなく、その先を見つめるようなそんなアヅサの視線にかえってユウジの方が怯んだ。
「あ・・・アヅサ・・・お前・・・」
思わずユウジの呟きが漏れる。自分の正面にいるその少女は、普段自信満々でいつもふざけていてユウジを小馬鹿にしたような、知らず知らずの内に心を激しく揺さぶられるような・・・そんな表情ではなかった。
まるで・・・そうまるで・・・今自分達を無表情に断罪しようとしていた、人形みたいな女の子の顔・・・
あなたは・・・私と同じ・・・
その言葉通りの表情にユウジには思えた。もう先程の怒りはない、むしろなにか大切な物を失いそうな、そんな不安な気持ちになって、アヅサの両肩に添えられた手のひらに思わず力が入った。
「ユウジ・・・痛いよ・・・」
「アヅサ!!」
アヅサが、か細い声を漏らす。そしてその表情はユウジのよく知る物に戻っていた。思わずユウジはアヅサの身体を力いっぱい抱きしめていた。まるでそうしないと彼女がそのまま地上から飛んでいってしまうのを食い止めるかのように。アヅサはびっくりしつつも目をつぶって抱かれるままにしていた。
プップー!!
軽快な車のクラクションが鳴る。続いて
「あああぁ〜昼真っから熱いわねぇ。もうお姉さん、見てらんないわよぉ」
「カスミさん!?」
「カスミぃ・・・何よぉ〜いいところだったのにぃ・・・」
愛車マセラッティの修理が終わったのか、岸田カスミがにやにや笑いながらクラクションを鳴らしつつ、二人を冷やかしていた。
ユウジはびっくりして飛ぶようにアヅサから離れた。アヅサはユウジから離されてその両手を正面にバタバタしつつ、マナと同様に御邪魔虫なカスミを、怒ったように睨んでいた。
「もう宿についているかと思ったら、そんな所で二人の世界に入っていたんだぁ〜」
「いや・・・それは・・・ちっ違うんです。カスミさん」
おどおどしてカスミにいい訳しようとするユウジ。その瞬間、アヅサに背中を向けた彼の右の肩口に、アヅサの形の良いすらっとした右足の踵が振り下ろされた。
「ぐぁ!!」
「何が違うのよ。なんでいい訳してるのよ、カスミにぃ」
右肩を押さえながらうずくまるユウジ。涙目になりつつアヅサを睨んで文句を言おうとしたが
「じゃあどう言えというんだよ、二人の世界とか誤解してたじゃないか・・・はうう・・・」
アヅサの右ストレートが物凄い速さで、ユウジの頬をかすめ、その勢いにユウジは絶句した。
「言葉通りよ」
そう吐き捨てるアヅサ。続いて瞬時に表情を変え、ユウジに楽しそうに笑いかけた。
「はいはい、痴話喧嘩はそのくらいにして。タダでさえ暑いんだから、早く宿に行きましょう」
カスミは笑って車に二人を導いた。満面の笑顔で後部座席に座るアヅサ、ユウジも引きずられる様に続いた。
「暑いわぁ〜たこ焼きもいいけどぉ、バニラアイスにチョコチップ付きがいいなぁ。ユウジさん、奢ってくれないと嫌いですよ」
そうアヅサは言って、暑いと言いながら、隣に座るユウジの左手に自分の右手を絡めていった。
「暑いだろぉ!!・・・・・・ん?・・・あれ?・・・そういえば」
ユウジはアヅサをうるさそうに振り解こうとしながら、不意にあることを思い出して変な声を上げた。
「どおしたのぉ?ユウジ君」
前の座席の運転席のカスミが、エンジンをかけながら背中をむけたままでユウジに話しかけた。カスミの問いにすぐには答えずユウジは車内から窓越しに外をきょろきょろ見渡していた。
「あの女の子・・・確かレイとか言った・・・」
カスミの背中がピクリと揺れた。しかしそれは一瞬で、ユウジに構わず車のアクセルを踏んでその場から発進しようとした。ユウジは 「あっ・・・」 と言いかけたが、アヅサが両手のひらでその口を塞いだのでそれ以上喋れなかった。
三人を乗せたマセラッティは危なっかそうなエンジン音を立てつつ、目的に向かって坂を登り出した。ユウジはアヅサの両手のひらを振り解いて、後部の窓からさっきまで自分達がいた辺りを目で追っていた。しかし先程から何度見ても、その場にレイという女の子の姿はなかった。
「帰っちゃったのかな・・・ねぇカスミさん、ここに来た時に僕達以外に小さい女の子見ませんでした?」
ユウジの問いに、カスミは 「あれっ・・・クラッチが滑る、ギアも固いし、ブレーキも変ね」 等と恐ろしい事を言いながらも、バックミラー越しにユウジの表情を目でちらりと追いつつ
「私が着いた時見たのは、ユウジ君が今まさにアヅサを抱きしめ押し倒そうとしてた場面。それだけよ」
「いや、それを聞いてるんじゃなくって。その側に小さい女の子が・・・」
真っ赤になりながら否定するユウジの側で、今度はアヅサが正面の座席まで身を乗り出して
「タイミング悪すぎよぉ。後10分も遅れてくれれば、わたしもユウジも大人になれたのにぃ」
「10分?・・・そのくらいでぇ〜」
「うん。どおせユウジは直ぐにいっちゃうだろうから・・・それで充分じゃない」
「あのなぁ〜アヅサ。お前なに言ってんだよ」
「甘いわね、アヅサ。それが耳年増で体験がない子供の発想なのよ。14歳のユウジ君がちゃんと出来るわけないじゃない。いいとこ10分でアヅサの真っ白な可愛いパンティを汚すくらいが落ちよ」
「うぐぅ・・・だからもてないオバさんはいやのよ」
ユウジは下を向いてしまった。 「もうやめてください・・・」 とすら言葉も発せずに、それからカスミとアヅサの女同士の強烈なシモネタ合戦に耳を塞ぎつつ、自分の世界に逃げ込もうとしていた。
確かにレイという女の子はいた筈だ。こんな昼間から夢を見る筈がない。
それにさっきのアヅサの顔・・・
レイと同じようなあの感情も消えうせたまるで人形みたいな顔・・・
あれは夢なんかじゃない。消えたというのか。ちょっと目を離した隙に。
アヅサにぶたれたから逃げて行ったのか・・・
自分を勝手に肴にしてぎゃあぎゃあ騒ぐアヅサとカスミを無視してユウジはついさっきまで自分の側にいて何か自分の存在そのものに刃を突き付ける様な事を喋っていた、レイの赤い瞳に心を馳せていた。
そんなユウジの姿を、アヅサはカスミに言い返しつつも、探るような目で追っていた。そしてカスミもまた、運転しつつアヅサをからかいながら、バックミラー越しに二人の姿を時より見やっていた。
「議長!!」
アスカが率いる新生ネルフによって犯されたという疑惑の、国連安全保障委員会(ネオ・ゼーレ)の会員達の失踪事件について、その貴重な生き証人ともいえる三笠理事の出現に証人喚問の議場はざわついていた。そんなざわめきを沈めるかのように、マナのよく通った声が響いた。
「何かね?・・・霧島三佐」
議長がマナの発言に答える。マナはその場で立ちあがると
「ここで惣流司令に声明文を読ませて頂きたい」
そう議場内に轟く強い口調で語った。
「最初に議長は証人の宣誓を求めたではないか、それを拒否しておきながらこのタイミングでか!」
相田ケンスケ議員がマナの言に鋭く反応して、席から立ちあがりその要求を拒絶しようとした。議場からもすかさず、アスカやマナにむかって激しい野次が飛ぶ。しかしマナは怯まなかった。
「私達は、今回の喚問に拒否する事もなく、様々な質疑にも誠実に答えていくつもりです。ぜひ発言の機会を与えてください」
マナはきっぱりと言いきった。その口振りと毅然とした表情は、他を圧倒するものを持っていた。野次はそれでもやまない。議場の前に並んで座る議長達は御互いの顔を見合って、相談しあっていたが、やがてハンマーで机を数度叩き、場を沈めた。そしてマナに向かって
「惣流アスカの声明を認めます、記録に取るように」
と語った。ケンスケは不満気に何か言いかけたが、黙って席に深く腰を沈めた。マナは満足そうに、アスカに持っていた紙を渡し席に着いた。そしてアスカがゆっくりと立ち上がる。
2015年に再び人類を襲った、未曾有の惨劇“サードインパクト”。15年前と同様に人類の半分が死滅したという悲劇にあっても、人類は再び不屈の精神で復興を遂げ様としていた。
そんな人々の心の拠り所となったのが、重大国家犯罪人とされている碇親子(ゲンドウ、シンジ)と葛城ミサトの直ぐ側にいながら、彼等の犯罪行為に染まる事無く反発し続け、そして事変後自ら先頭に立ち、旧ネルフの犯罪行為を糾弾しつつ、人々から復興のシンボルとして祭り上げられていた、惣流アスカであった。
彼女はかつて人々から女神の如く慕われた時期があった。やがて彼女が重罪人碇シンジの子を宿していた事が判明しても、世論は彼女に同情の声と、碇シンジに対する激しい憎悪を向けたのであった。
やがて牢に幽閉されていた筈の碇シンジが消息不明となり、噂では南米の奥地で死んだとも伝えられた。アスカは、国連大使として各地を回っていたが、シンジの件についてはノーコメントを貫いたという。
やがてアスカは、国連直属の組織としての新生ネルフの初代司令となる。人類復興の為の女神として、彼女に日本を始め世界中が熱い期待を求めたのであった。そしてそんな中、アスカの一人息子ユウジが、彼女の前から離れる事になる。
「私は、かつて旧ネルフに強引に加えられながらも、彼等のカルト的な発想による“人類補完計画”という忌まわしい計画に内部から反発し続けてまいりました。そしてサードインパクト後にこの命を生き長らえた後、自らが所属した組織の犯罪行為を世間の目に明らかにする事にいささかの躊躇することもなく、同時に雄雄しく復興していくみなさんと供に、昼夜と問わずこの身を捧げてきたつもりです」
「先程より、各議員の先生方よりお話のあった様々な嫌疑の数々、これらは全て私には、そして私が全責任を負う現在の生まれ変わったネルフにおいては、事実無根、まったくの誹謗中傷に他なりません。私達は、いかなる犯罪行為も行っていませんし、犯罪集団とも関わりを持っていません。そしてみなさんの血と汗の結晶である税金を不当に搾取している等とは、そいう疑いを持たれている事に深い悲しみを禁じ得ません」
「この喚問に応じたのは、これらの嫌疑を白日の元で晴らし、私の息子が、そして私に協力してくれる、隣に座る霧島三佐を始めとするネルフ職員の家族が、世間に後ろ指をさされる事のない様、全てを正直に語り、そして真実をみなさんと一緒に付き止めたいと思ってのことです。ですからこの喚問から私は逃げません。私とネルフにかかわる全ての中傷に真っ向から戦う所存です」
マナから渡された書面を、アスカはゆっくりと感情を込めて読み上げた。野次はピタリと止まっていた。そこかしらからすすり泣く声すらも漏れていた。
かつて人類の復興のシンボルであったアスカの凛とした姿に、各議員達がこれまでの苦難の思い出を呼び起こされていたのだった。アスカもまた自然に感極まった表情を浮べていた。
こういう・・・自分に酔える所が、民衆に祭り上げられる重要な才能なのよね・・・
マナは、そんなアスカと簡単に雰囲気を一変してしまった議場内を冷ややかに眺めながら、そう考えていた。
ケンスケは、慌てて場の雰囲気を変え様として、先程議場に呼んだ三笠の方を向いて彼に発言させようと考えたが、老人の三笠は既に咳き込み黒服の男に支えられて立つのもしんどそうであった。
議長はそれを目に留め、彼の健康状態を案じての退室を命じた。すぐさま彼は抱えられながら退場した。ケンスケは成す術なくその場に座りこむ。それからまだ数時間喚問は続いたが、もはやアスカとマナを慌てさせるような事は何も起きず、あっけなく喚問の続きは後日開催という事で閉廷となった。
「今日は予想以上にあっけなかったわね。マナの文章の威力かしら。この魔女さんには文才もあるのね」
「いえ、全然たいした文章とも思えません。むしろ司令のカリスマさ故だと思います」
「せやけどな、完全に終わったのと違うやろ。まだ三笠のじいさんがおるしな」
ネルフ内の司令室で、アスカとマナそしてトウジが三人だけで密談をしていた。
「あれには驚いたわね。マナ、どういう事よ。ちゃんと戦自に処分させてたんじゃないの?」
「そう指示してあったんですが、何か手抜かりがあったみたいです。あの男は、戦自のOBでもありますから、誰かがこっそり逃がしたのかもしれません。これからその線を私直々に調査しておきます」
「そんなところやろな。せやけど体調がごっつ悪いて聞いとるけど、もう会場には出てこられへんのとちゃうか」
「そうね・・・でもやっぱりあいつは不味いわ。よりによって、ネルフとネオ・ゼーレの関わりに精通しているんだし。あんなのに余計な事を喋られたら色々と面倒な事になるわ」
「司令、私の責任です。この私の判断で三笠の処理を再度一任させて下さい」
「処理って・・・今あのじいさんは、相田が匿っているんでしょ」
「多分・・・彼の差し金だとしたら、恐らく警察か、ひょっとすると連邦警察もありえますね」
「なんやて、ほたら手を出せないやないか。いくらなんでも・・・」
「鈴原、あんた今でも相田とは時々連絡取り合える仲なんでしょ。だったら、あんたが上手くあの眼鏡を」
「そやな、どこまで出来るかはしれんけど、まぁあいつが今何考えておって、これからどうするつもりかくらいは」
「頼めるわね・・・」
「そんなまどろっこしい事無意味ですよ」
マナが、アスカとトウジに口を挟んだ。二人は、訝しげにマナの顔を見て
「だってそれしかないじゃない・・・連邦警察に匿われているのよ」
「そやそや、ここはあんまり危ない橋を渡らんほうが」
しかしマナはニヤリと笑って、アスカとトウジの次の言を制した後、
「最初に言った通り、私に任せて下さい。私の責任ですから、私が自分でけつを拭きます」
「マナ・・・そんな事出来るの?」
「マナ三佐、無茶は・・・」
しかしマナは笑った表情を変えずに、こう二人に語った
「この世に確かな事が一つだけあります。それは・・・人というのは、いつかは必ず死ぬという事です」
マナのその笑顔に、アスカもトウジももはや何も言えなかった。その時、室内で携帯のベルが鳴った。マナがジャケットから携帯を取りだし、
「カスミ?・・・・・・そぉ。うん、わかったわ。予定通りね。それじゃあ〜明日また指示をするわ」
そう満足気に、カスミからかかってきたらしい電話に短く応対すると、アスカとトウジに向かって
「それでは、例の件が動き出した様ですので、私は発令所に戻ります。よろしいですか、司令副司令」
そう言って頭を下げた。アスカとトウジも黙って肯いた。それを見てマナは、静かに司令室を出て行った。室内には、アスカとトウジの二人が残された。しばらく沈黙が流れたが
「あのじいさんは、マナの差し金じゃないの?・・・そうとも疑っていたんだけど・・・」
「わからん・・・ただな、惣流。あの女には油断するな、さっきの笑い顔見たかよ。あないなことさらっと言いよる、ほんま魔女みたいな女やな。おっかない女や・・・」
「心得てるわ。それと、マナの子飼いの人形娘二世にもね」
「なんやねん?・・・その人形娘二世言うんわ・・・」
「どおでもいいわよ。それより今晩・・・つきあってくれる久しぶりに・・・」
アスカの問いかけにトウジは一瞬考え込んだ素振りを見せたが、直ぐに
「ええよ、色々と朝までつきあったる」
そう答えた。アスカはようやく笑顔を見せ、トウジの右頬に自分の右手のひらをあてた。
ユウジは一人で宿を抜け出していた。アヅサはカスミと風呂に入ると言ったきり、姿を消していた。ユウジは二人を探そうとは思っていなかった。ただ・・・不意に自分でもわからないある予感を感じて、あてもなく、ふらふらと夜の温泉街を歩いていたのだった。そして小一時間歩き回った時、
「ん?・・・誰?・・・」
月明かりに照らされた一人の女の子が自分を見つめているのに気がついた。
「レイちゃんだね。僕に会いに来たのかい?」
女の子の赤い瞳に誘われる様に、ユウジはフラフラとレイに近づいて行った。レイはユウジが自分の直ぐ側に来ると、右手を上げて手招きをした。
「何?・・・」
ユウジが屈んでレイと目線の高さを合わせる。レイは無表情のままでユウジにむかって呟いた。
「どうして私達は御互いに傷つけあうの・・・もうやめて・・・」
「えっ、それじゃあ俺達はどうすればいいのかい?」
「ネルフにいる魔女と女神がいなくなればいいの・・・」