THE REFLEX
作:柴レイ
第拾参話 : Total eclipse of the heart
『ユウジぃ!!・・・ジャイアントエントリーパート2ぅ!!』
アヅサが浅間山の火口内に初号機で突入する瞬間、軽快な声でそう叫んだ。その声は、火口付近で待機する、弐号機とそのパイロットのユウジに届いた。唐突なアヅサの叫びに、ユウジはただポカンとして乗りきれないでいたが、ネルフ本部発令所の司令席で正面の大スクリーンを見つめていたアスカは、不機嫌そうに口を歪めた。後方で立つトウジが一瞬吹き出しかけたが、直ぐに堪えるように咳払いした。
「アヅサぁ・・・聞える?先に射出したレーザーは目標を的確に捉えているわ」
『暑いんだけどなぁ〜』
発令所内で、心持厳しい口調でマナがアヅサに語りかける。先程から、背中にアスカの刺すような視線を感じながらも、それを気にする風は微塵にも見せず、作戦部長としての毅然とした態度をマナは保とうとしていたが、そんな彼女の努力に反してアヅサは、お気楽な口調を崩さずにふざけて語りかけに答えた。
「真面目に聞きなさい。目標は現在深度1300の地点で漂っているわ」
『終わったら、また温泉でゆっくりさせてね。それとユウジぃ・・・もう覗いちゃだめだよぉ』
『・・・っ、そんな事してねえよ』
思わず、ユウジがアヅサの物言いに食ってかかる。濡れ衣だけに、顔を真っ赤にして叫んだ。発令所内に含み笑いがこぼれた。それまでの張り詰めた雰囲気が一瞬に和らぐ。しかしそんな状態を司令であるアスカは静観出来なかった。厳しく叱責の声をあげようとしかけたが・・・
「あんたたち、ここ・・・「まだ、そんなことしてるの?ユウジ君。こんな所まで来てぇ!!」
しかし、マナがアスカの言葉を遮る様に、声の音量を上げて、しかもたしなめる様に叫んだ。その声は、アヅサにシンクロするがごとく、緊張感のかけらもない声だった。
『マナまで何言うんだよ!!』
声を荒げるユウジ。
「恥ずかしがる事じゃないわ。サカリ出した14歳だものね。全然悪い事じゃないのよ。誰もあなたを責めてはいないわ。でもね・・・やっぱり自重する事も覚えなきゃ」
『だから覗いてないっつうに!!』
『深度ぉ1000突破!!目標まだ補足出来ず。・・・でもね、わたしならいいの。勘違いしないで。覗いて欲しくないってのは、昨晩みたいにカスミを覗こうとした事を言ってるのよ』
『なっなんでそれを・・・』
「やっぱそうだったのねユウジ君・・・マンションでも、私だもんね。やはりガキには興味ないのかぁ」
マナがそう言って、うんうんと深刻そうに肯く。
『違うんだぁ!あれは・・・『ガキってなによぉ、マナぁ!!』
「不憫な奴やな・・・ユウジ・・・」
ユウジの叫びは、今度はアヅサの怒号でかき消された。もう発令所内は、隠そうともしないオペレーター達の笑い声に包まれた。トウジまでもが、それに乗って笑っていた。アスカ一人だけが、下を向いて怒りに震えていた。
『深度1350・・・見ぃつけた!!今晩は、オムレツね』
「ナァイス、アヅサ。ちゃちゃっといくわよ」
『了承(1秒)・・・』
一見すると、ユウジが顔を真っ赤にしてあたふたしてるのを楽しんでいる様子のアヅサであったが、灼熱の溶岩内で、僅かの無駄も見せず、最短距離で目標とする第八使徒の卵へと辿りついていた。
15年前のアスカが乗った弐号機とは違って、D型装備を着込む事はなく、ATフィールド展開だけで、ここまでやってのけるアヅサの能力に、発令所内の全スタッフが全幅の信頼を置いていた。それ故に、誰もアヅサとマナの態度に口を挟む事無く、一緒になって笑っていたのだった。
ただ二人のおふざけで笑い者になっているのは、ユウジである。それを含めて、アスカはまるでかつての自分すらも笑われてる気持ちになり、ただ一人唇を噛み締めていた。司令とはいっても、対外的にはともかく、内部ではもはやネルフはマナとアヅサの思うがままだった。
第八使徒の卵が、15年前同様に浅間山火口内で発見され、その採掘作業が今マナの指図で進められていた。現地では、マナの片腕と黙される岸田カスミ一尉が二人のチルドレンにマナの指示を伝え、作業遂行に努めていた。準備段階から実行まで全て順調に推移していた。
アスカは、マナの後付けの報告を黙って聞くだけである。アスカに口を挟む余地は、まったく無かった。火口に突入するのは、初号機アヅサ。そして弐号機ユウジは今回もバックアップであった。
ちなみに参号機サトミは、まだシンクロに問題ありという事で、ネルフのケージ内で待機となっている。当然サトミにも、彼等のやりとりは聞えている。
『・・・・・・』
彼女は、ここのところの態度そのままに無表情で黙っていた。叔母のヒカリの誕生日以来、慕っていた筈のトウジにも口をきいていなかった。
『お願いだからいい子にしててねぇ〜』
アヅサの口調は、使徒の卵に対しての物か、それともユウジに対しての物か・・・もはやユウジは、叫ぶのを止め、観念したようにモニターに映る初号機を大人しく見つめていた。
大きなキャッチャーに卵を収納して、背中に取りつけられたクレーンでゆっくりと上昇する初号機。発令所内にも安堵感が浮かび、それぞれが大スクリーンに映る光景を落ち着いて見上げていた。
『副司令・・・』
「・・・なんや、今忙しいんや」
むすっとしたアスカの後方に立つ、トウジの左耳にすえつけられた聴診器に諜報部からの連絡が入る。
「・・・・・・おう、わかった。惣流、ちょっと席を外すで」
トウジはめんどくさそうな表情を浮べながらも、アスカに一言声をかけて司令席から静かに退出した。アスカはトウジに背中を向けたまま、表情を一切変えないで、正面のスクリーンを睨み続けていた。
「・・・!?」
マナの表情が突如曇った。それと同時に
『何よぉ〜これぇ〜』
アヅサの困惑した声が続いた。卵が急に羽化を始めたのだった。まさに15年前と同様に。後200メートルまで上昇していたというのに。
「捕獲中止、キャッチャー廃棄。使徒が生態に成る前に速やかに殲滅」
『待ってましたぁ〜』
マナが即座に指示を飛ばす。迷いもなく迅速であった。アヅサもそれに即座に応えた。
「ちょっと待ちなさい、まだ反応し始めただけじゃない。もう200メートル切っているのよ」
司令席からアスカが上半身を乗り出してマナの背中に叫んだ。
「初号機、戦闘準備。プログレッシブナイフ装備」
しかしマナはアスカの叫びを無視し、アヅサへの攻撃指示を続けた。
「マナぁ〜聞いてるの?」
アスカが怒鳴る。それでもマナは怯まない。側に控える各オペレーター達にもテキパキと指示を飛ばした。そして発令所内は、マナの指示通りに慌しく動き出した。そんな状況にアスカは席の正面の机を叩きながら
「司令は私よ。私は本作戦の件については、国連を含む各所に・・・」
アスカはマナの背中に怒気を含んで叫んだ。それでもマナは後方のアスカに向かって振りかえろうともせずに言い放つ。
「作戦部長は私です。全責任は私が取ります」
初号機は、羽化を続け幼態の体を形成し始めた第八使徒を包むキャッチャーを放した。そして使徒のコアの部分にナイフを鋭く突き立てた。
ぎゃああ・・・という使徒の悲鳴ともつかない音が聞えてきた。
サンダルフォンを助けて・・・
不意に、レイの声がユウジの頭の中に蘇った。
「あっアヅサ!!」
思わずユウジが声を発した。そしてマナの指示もないのに、弐号機を動かそうとする。
「アンビリカルケーブル、パージ!!えっ!?・・・どうして?」
発令所の指示に無視して独自に活動するために、ユウジはケーブルを外した。通常内部電源は5分の筈。しかし・・・ユウジの目に飛び込んだ数値は・・・
「20秒・・・」
「どういうことよ、マナ!!」
数値を唖然として読み上げるユウジに対して、アスカが大声をあげた。
『うるさいから黙っててよ。元へっぽこパイロット』
「ななな・・・なんですって・・・」
アスカの声がぶるぶる震えた。彼女を罵倒したのは、マナではなく
『往生しなさい・・・ほらぁ〜とっとと逝きなさいよぉ〜おばさんがうるさいんだから』
今まさに、第八使徒に灼熱の溶岩内でトドメをさそうとしている、初号機のパイロット、アヅサの声であった。
「桐山ぁ・・・この私にむかってあなた・・・」
感情剥き出しでアヅサに向かって怒鳴るアスカ。しかしアヅサは的確に使徒に攻撃を加えながら
『15年前と同じ事をしてるだけじゃないのさ。司令だって結局使徒を惨殺したんでしょ。何偉そうに、マナにむかって口答えしてるのよ。あなたは大人しく復興の女神様として祭り上げられていればいいのよ。肝心の実務面は、マナとわたしでやるから。ぎゃぁぎゃぁ叫んで邪魔しないで欲しいわ』
アヅサの物言いに、流石に発令所内が静まり返る。
「マナ・・・どういう事なのよ・・・」
アスカは顔を歪めて、マナに向かって声を押し殺して呟いた。
「アヅサ、集中しなさぁ〜い・・・油断禁物よ」
マナは相変わらずアスカに背中を向けたままだ。そして腕を組みながら、アヅサを嗜める様に語りかけた。
『誰がやってると思ってるのぉ?この桐山アヅサがやってるのよ。心配無用だよぉ〜』
アヅサの今度は軽い返答が飛ぶ。マナの口元がゆるんだ。そしてその瞬間、コアにナイフを深く突き刺されていた使徒が断末魔の様な悲鳴をあげて、爆発することもなく、溶岩に静かに溶けていった。爪を初号機に数カ所突き刺していたが、その爪もまた灰になるように、消滅していった。アスカとユウジは呆然としてその様を見つめるだけであった。
『お疲れ様ぁ、アヅサ』
『まぁね・・・どおってことないわよ』
マナとアヅサの普段通りの軽快な声が発令所内と、弐号機のユウジに届いた。アスカは力が抜けたように、お尻から司令席に座りこんだ。その表情に精気はなかった。ユウジはエントリープラグ内で俯き、そしてブツブツと呟くだけであった。
「ごめんよ・・・俺・・・何も出来なかった・・・君との約束を・・・」
まだ終わってはいないわ・・・
「え!?・・・レイちゃん」
不意に、レイの声がユウジに届く。正面を見上げると、そこはプラグ内から見渡せる外の景色ではなく、真っ白いどこまでも続く果てが無いような空間となっていた。そしてそこにレイの姿が浮かび上がる。無垢な幼女のその赤い瞳がどこかしら満足気な光を浮べているようにユウジには感じられた。
「終わってないって、どういう事?」
おかれた状況に心を巡らすことをユウジはせず、ただ現われたレイに近づいてそう問いかけた。
レイはとことことユウジにむかって駆けより、最後にぴょんと飛んで、ユウジに抱きついた。小さな両手が、ユウジの背中に回る。それは短いので背中で結ばれる事はなかったが、それでもきゅっと可愛い力がユウジに伝わる。その感触に思わず気持ちを綻ばすユウジの表情をレイは下から見上げて
サンダルフォンの思いがサキエルに届いたわ・・・やっと伝わった・・・
レイ表情と口調はとても嬉しそうだった。まるで小さい女の子が欲しがっていた玩具を母親にやっと買ってもらったかのような純な喜びに満ち満ちていた。
「伝わったって?」
みんなの思いがようやく届いたの・・・
両目を細めて、ユウジのお腹辺りに、顔を埋めてそう呟くレイに、ユウジはちんぷんかんぷんな気持ちで首を捻るだけであった。しばらくそのままレイに抱きつかれるままにしていたが
『きゃあああああ!!』
アヅサの悲鳴が突然ユウジの耳に飛び込んだ。その声を聞いてユウジは、はっと意識を戻した。
「アヅサ・・・どうしたんだ!!」
白につつまれた世界ではなく、弐号機のエントリープラグ内に戻っていた。もちろんレイの姿はない。既に内部電源が切れていたので、正面のモニターが切れたままだったが、それでも音声だけは予備電源の効果なのか届いていた。しかしもはや弐号機が動かない事には変わりが無かったが。
「何が起こったんだ?アヅサに何か起こったのか?一体どうしちまったんだよぉ〜」
ユウジは暗いプラグ内で叫んでいた。しかし正面のレバーを引いてもなんの反応も起きなかった。
発令所内も騒然としていた。常に冷静さを失っていなかったマナが、大慌てで正面の南二尉からマイクをひったくり席に座ってアヅサに呼びかけていた。しかし正面の大スクリーンに映るのは・・・
ぐおおおおおおおお!!
大きな咆哮を上げて、火口から目をギラギラさせて這い出してくる初号機の姿だった。ドロドロと流れ落ちる溶岩を浴びたまま、火口から出ると、腹ばいから四足で立って、所構わず吼えまくる。
「アヅサ!!アヅサ!!応答なさい!!どうしたっていうの?」
マナが大声でマイクにがなりたてる。しかし初号機からは何の返答もなかった。
「緊急活動停止信号を送りなさい。エントリープラグ強制射出」
アスカがうろたえるマナに代わって、発令所内のオペレーターに向けて叫んだ。オペレーターの南が、直ぐにアスカの指示に反応して速やかに初号機へコンタクトを試みたが、
「カスミぃ・・・あなたはどこでなにやってるのよ!!」
マナはヒスを起こしたように声を荒げる。しかし現地にいる筈の彼女との連絡も途絶えていた。
「ダメです。初号機、停止信号及びプラグ排出コード認識されません」
代わりに南の悲痛な声が発令所内に響いた。マナの顔色が真っ青に変わる。吼えながら四足で辺りを徘徊する初号機。頭上には、もしもの事に備えて、マナが配備してた戦自の戦闘機が数機旋回していた。両翼のミサイル発射ランプが青く点滅していた。
「攻撃は無駄よ。ATフィールドを今だ展開しているエヴァには通常兵器なんてなんの役にもたたないわ」
アスカがそんな戦自に向けるように叫ぶ。マナは頭を振りながらゆっくり立ちあがり、そして
「アヅサ、もう一度だけ聞くわ・・・私の呼びかけに応えなさい・・・」
そう声を振り絞った。しかしそんなマナの悲痛な思いも届くこともなく、初号機からはなんの応答もなかった。
「マナ・・・どうするのよ・・・」
アスカがそんなマナに問いかける。すると今度はマナが振りかえった。
「マナ・・・あなた・・・」
アスカは驚いていた、マナの両目からは大粒の涙が溢れていた。そしてマナはそれを拭おうともせず、アスカの目を見つめて、やがて決心したかのように、右掌で口元を押さえてぶるぶる身体をふるわせながら
「司令・・・参号機を出します・・・」
アスカは黙って肯いた。そんなアスカを暫しマナは見上げた後、直ぐに正面を振り返って、南に向かって、
「エヴァ参号機発進準備!!」
続けて上野にも、
「戦自に連絡、初号機が参号機に抵抗した場合は、速やかに参号機の援護に回りなさいと」
そう指示を飛ばした。彼女の正面の大スクリーンでは顔の拘束具をやぶって口を大開にした初号機がそんな彼女を威嚇するかの様に吼えていた。それをマナは厳しい顔で振りかえり睨みつけた。
「いやだぁ!!」
参号機に乗っているサトミは一部始終を黙って見つめていたが、発進準備の声と供にケージが慌しくなると両目をぎゅっと閉じ、両耳を両手で押さえて俯き、叫んでいた。明確な拒否の態度だった。
「参号機、シンクロ値が上がりません。10パーセントを切ってます。これでは起動が・・・」
南の報告に、マナは叫ぶことすら忘れて、唖然となっていた。アスカにも、もはや言葉がなかった。
「アヅサぁ!!」
弐号機から突如エントリープラグが射出された。ユウジが予備電源を使って、緊急脱出装置を作動させたのだった。そしてハッチが開くと、ユウジは地上に降り立ち、そして正面で四つん這いになって吼える初号機を見上げていた。驚く間もなく、ユウジは駆け出した。その暴走している初号機に向かって。
「ユウジ君、何やっているの、止まりなさい」
マナはそれに気づいて、慌ててマイクを握り、ユウジに呼びかけた。
「ユウジ!!止まりなさい!!」
アスカもマナ以上の大声で叫んでいた。現場に有る大型スピーカーを通して、その静止の声は大音量でユウジに届いていた筈だ。しかしそれでもユウジの足は止まらなかった。
「アヅサぁ!!俺が解るかぁ!!」
必死になって初号機に向かって叫ぶユウジ。怖さなんて感じていなかった、ただただアヅサの事だけで頭がいっぱいでそれ以外には何も考えられなかった。そんなユウジの前方に再び女の子が現われた。
「・・・!?」
レイが立っていた。そしてにやりと笑っていた。それは白い世界で見た無垢な物ではなく、酷く歪んだ気持ちの悪い物だった。思わず立ち止まるユウジ。そしてレイに何か言おとした時
これは始まりに過ぎないの・・・
聞えてきたのは声ではなく、直接頭にその言葉が飛びこんで来た感じだった。そしてその瞬間、初号機が急にグラっと痙攣したあと、頭から地面にのめり込むように前方につんのめって、そのまま活動を停止した。ギラギラ輝いていた、両目から光がすっと消えた。
「助かったのか?・・・アヅサは助かったのか?・・・」
ユウジはそう繰り返し呟きながら、動かなくなった初号機にフラフラと近づいて行った。ふたたびレイの姿はいつのまにか消えていた。ユウジは初号機に辿りつく、するとそれを待っていた様に初号機からもプラグが自動的に排出された。ユウジはそのプラグに駆け寄った。発令所では、マナもアスカもそして全てのオペレーター達が無言でその光景を見つめていた。
「アヅサ・・・アヅサ・・・」
うわ言の様に呟きながら、ユウジはハッチを開ける。そして中を覗きこむと、アヅサが憔悴しきった表情で目を閉じていた。ユウジはもう泣き出していた。そのままアヅサを抱き寄せた。
「目を覚ましてくれよ、お願いだから・・・アヅサぁ・・・」
ボロボロ泣きながらそう言って、アヅサを抱き続けるユウジ。アヅサの右頬にユウジの涙の雫がこぼれおちた。するとアヅサがゆっくりと目を開けた。そしてユウジに気がついた。
「・・・・・・男の子がみっともなく泣かないでよ」
声は弱々しかったが、そうユウジにむかって呟いた。ユウジは顔をくしゃくしゃにして
「泣いて悪かったな・・・どうせ俺はお前と違って弱虫だよ」
そう言って、アヅサの胸に顔を埋めて更に泣き続けていた。アヅサはそんなユウジの頭を両手で抱え込んでいた。その目にも涙が光っていた。
マナはスクリーン越しに二人の姿を見守っていた。表情は冷静に戻っていた。参号機のプラグ内のサトミの表情も静かだった。ただその瞳は暗く濁っていた。アスカは腰から椅子に崩れ落ちてしばらく茫然としていたが、そんなアスカに声がかかる
「惣流・・・三笠のじいさんがな・・・」
アスカの表情が歪む。そして正面で立ち尽くしスクリーンに映る二人を見つめているマナの背中に視線を留めながら、トウジの言葉に反応して、そして厳しい口調で独り言の様に呟いた。
「・・・死んだのね」
「ああ・・・風呂場で一人で手首を切っておった。大量出血によるショック死だったらしい」
アスカはそこまで聞いて、一拍おいて一つ溜息をついた。
「それとな、岸田から報告が入っとる」
「わかったわ・・・」
すっとアスカが立ちあがった。そしてトウジの顔を見る。彼もまた力強く肯いた。
「これからが本当の始まりなのよ・・・」