THE REFLEX

作:柴レイ


 

第拾六話Lost in your eyes

 

 

 

 

 

「初号機は出さないのですか?」

発令所で各機体のシンクロ数値を追いかける事に集中していた岸田カスミが、驚いて後を振りかえった。

「ええそうよ。最近のシンクロテストでも初号機の不安定さは目立っています。先の暴走についてのマギの回答が保留である限り出撃には慎重を期さないとね」

司令席で頬づえをつきながら、アスカはそう冷淡に答えた。

「パターンはオレンジから赤へと変動を繰り返してます。今だ動きなし」

南は、カスミとアスカの会話が一段落つく頃合を見計らって、言葉を発し

「戦自の空軍から入電。攻撃の許可を求めてまいりました」

更に上野が続いた。するとアスカは忌々しそうに言い放つ。

「ひっこんでなさい・・・そう伝えなさい」

その言に上野だけでなく、他のオペレーターも一瞬唖然としたが

「聞えなかったの?」

アスカが上野をにらみつけて、そう吐き捨てた。上野は困った表情を浮べたが、直ぐに正面の机のキーボードをやや戸惑いながら、叩き出した。キーボードの上にある15インチのモニターには“ひっこんでなさい・・・”と文字が踊り出す。

「おお怖ぁ・・・」

アスカの後方に立つトウジがおどけた仕草でそう呟いた。

 

 

 

 

 

アヅサが、髪を短く切り・・・マナと同じ髪型で数日前に発令所に現われて以来、アスカはずっと苛立っていた。そして事あるごとに、カスミを始めとしたオペレーター達に強い口調であたっていたのだが、先の第十一使徒を退治してからほぼ二週間ぶりに、第三新東京市の上空にゼブラ模様の球体が突如現われても、その態度は変わらなかった。

マナを監禁中なので、自らエヴァ三体の戦闘配置を指示するアスカ。ユウジの弐号機をフォワードに、サトミの参号機をバックアップの位置へ、そしてアヅサの初号機はケージで待機とさせていた。

そしてカスミの初号機は・・・との問いかけを即座に却下したのであった。

「ユウジ、聞えてる?」

アスカは弐号機のプラグ内が映し出されたモニターを見やりながら、下を向いていたユウジに語りかけた。

 『はい』

答えるユウジ。しかしその表情は幾分硬いものだった。各パイロット達は、発令所との回線をオンにしていたので、先のアスカの各オペレーター達とのやりとりを全て聞いていた。

参号機のサトミはそんなユウジの表情を心配そうに見つめる。アヅサは静かに目をつむっていた。

「もう一度だけ言うわ。あの球体はブラフよ。騙されてはだめ。本体は地上からあなたたちを狙っています。常に足元に注意を払いながら、ATフィールドを展開。球体にプレッシャーをかけ続けなさい」

 『わかりました』

アスカの指示に慎重な面持ちで答えるユウジ。球体をにらみながら、意識を集中させていった。

「それでいいのよ・・・」

アスカは満足そうに肯きながら呟く。そして不意に後を振り返り、トウジに語りかけた。

「今なら、ユウジの力であの“しまうま”を退治してくれるわ。人形娘如きなんて必要ないのよ。これからはユウジこそが、You are No.1!よ。やっぱり男の子こそがフォワードに相応しいわね」

アスカの口元に笑みが浮かんでいる。トウジはそれに複雑な表情を浮べて思わず

「なんや・・・惣流。すっかり親バカの顔やなぁ。今頃気づいたわ、お前も一人の母親やねんな」

「私は冷静に現状を述べただけよ。それにその物言いは無礼でないの」

アスカは思わず顔を赤くしてトウジにくってかかろうとしたが

 

 

 

 

 

 『いやああああああ!!』

参号機パイロット、サトミの悲鳴が聞えてきた。それまでエヴァ二機は、球体状の使徒と等間隔で離れていたのだが、突如参号機の眼前に球体が迫ってきたのだった。

急をつかれたサトミは叫ぶしかなかった。そしてオロオロしてなんの行動も取れない。球体が参号機に覆い被さろうとする。

「サトミぃ!!」

ユウジが慌てて弐号機を参号機に向けて駆け出した。そして銃を構える。

「やめなさい!ユウジ!」

その様子が発令所内の大スクリーンに映し出されると、アスカが思わず叫んだ。しかしその停止の声は間に合わない。弐号機から発射された銃弾が球体に届こうとした瞬間・・・

「えっ!?」

球体は、ぱっとその場から消滅した。一瞬呆然としかけたユウジだが

 『ユウジ、下!』

ケージ内に留め置かれている初号機のアヅサが叫んだ。その声にユウジは直ぐに反応して機体の下を見たが、既に手遅れだった。

「わああああああ!!」

真っ黒な影が、弐号機の足元に広がる。そして弐号機の足から一気に影に吸いこまれだす。なんの抵抗する間もなく、あっというまに胸まで飲みこまれる弐号機。

「エントリープラグ強制射出!!急いでぇ!!」

アスカの悲鳴

「ダメです、間に合いません!!」

しかし、カスミの悲痛な叫びが答えるだけだった。

「うわああああ!!アヅサ!!・・・助け・・・・・・・・・

ユウジの叫びはそこまでだった。弐号機は完全に影に飲みこれてしまった。

「あああ・・・」

その一部始終を見ているだけだったサトミが声にならない呻き声をあげ、両手で顔を多い奮えながら泣き出してしまった。発令所内にも声はない。沈黙だけが流れた。

 『参号機プラグ射出。パイロットを回収』

アヅサの声が発令所に届いた。それでも発令所の誰も反応出来ない。

 『カスミ!聞えないの?使徒は次は参号機を狙ってるわよ』

アヅサの苛立った声が続いた。カスミはそれにようやく反応して

「参号機回収急いで!」

そう正面のマイクに向かって叫んだ。するとアスカもようやく我に帰って

「作戦行動を中止します。各自退避行動に移りなさい。それと戦自にも連絡・・・」

慌てて発令所全体に指示を出し始めた。トウジはまたもサトミの名前を叫んで発令所を飛び出して行った。

参号機とそのパイロットの回収班も迅速に動き出した。球体は姿を消していた。弐号機を飲みこんだ影を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が訪れていた。厚い雲の為か星一つとして見えない暗闇になっていた。時折戦自のヘリコプターが忙しなく爆音を轟かせて上空を舞う。一筋の照明が、大きなテーブルを写しだし、そこに発令所の面々が下を向いて立ち尽くしていた。

その場から少し離れた場所からすすり泣く声が聞える。パイプ椅子にプラグスーツ姿のまま腰掛け、うなだれながらずっと泣き続けてるサトミ。そしてその様を近くの壁に持たれ掛けながら見つめているアヅサ。彼女もプラグスーツ姿のままであった。口をぎゅっと真一文字に結んでいた。

「元気だせ・・・お前の・・・お前だけの所為や無い」

泣き止まないサトミに声をかけつつ近づいたのは、副司令のトウジだった。

「・・・・・・」

しかしサトミは下を向いたまま泣き続ける。

「運が悪かっただけや。そもそもエヴァっちゅうのはこういう危険と隣合わせの商売やしなぁ〜今回はユウジに運がなかっただけの事で、一歩間違えればお前の方が・・・

「違う!!」

急にサトミが大声を上げたので、トウジはびくっとした。

明かりが充分に届かない場所なので、表情は覗いにくいが、それでも泣きはらした感じのサトミがトウジを見上げて、口惜しそうに言葉を発した。

「使徒は最初からユウジを狙っていたのよ。だって・・・もしわたしだったとしたら、あんなに接近されてもおどおどするしかなかったのに、なんの変化もなかった。それなのにユウジが銃を撃って隙を見せた瞬間に・・・」

「・・・あっああ・・・そやったな・・・」

トウジはそう答えてうめくしかなかった。サトミはまた下を向いてしまった。

「わたし・・・なんの為にパイロットになったの?」

そう呟くだけのサトミ。もはやトウジはかける言葉も無く、側で立ち尽くすだけだった。

やがて靴音が近づいてくる、戦自と打ち合わせをしていた司令のアスカが帰って来た音だった。どうやらサトミとトウジの会話も少し聞えてたらしい。トウジの横を通り抜けた後、忌々しそうに吐き捨てた。

「作戦無視、勝手な行動、挙句に親父同様に無様に捕まると。・・・ったくいい恥さらしね」

場がざわめく。発令所の面々が薄暗い中で苛立つアスカを見上げた。トウジは言いかけた言葉を飲みこみ、サトミはうつむいたまま肩を奮わせる。アヅサは黙って目をつぶり、それでもアスカの方に身体を向けた。

「結局笑われるのは残された私じゃない。馬鹿馬鹿しい、なんでこんな目にあわないといけないのよ。少しは使えるようになったかと思えばあのザマ。やっぱりシンジのダメさ加減しか受け継いでないのね。だいたい男の子ってのは、母親に似るもんじゃないの。それがなんであんな劣性遺伝したのかしら。馬鹿!!」

そこまで言う事もないだろう。側にいた誰もがそう思った。アスカの態度はもはやヒステリー状態だ。カスミが堪えきれずに声を出そうとしかけたが、その背に軽く手が添えられた。えっ・・・と振りかえるカスミ。そんな彼女の横を一人の少女が横切りアスカの方へ歩いていった。

「はんっ我が子とは思えない役立たず。みっともなく帰還でもしてきたら、思いっきり罵倒してやる・・・・・・ん?」

アスカの言葉がそこで止まった。一人の少女が不意に彼女の前に立ったからだった。

その時、上空のヘリの照明が少女の表情を浮かび上がらせた。その瞳は照明の所為か赤っぽく見え、ショートカット故に、アスカに15年前の嫌な記憶を蘇らせた。

「なっなによ・・・」

アスカの不機嫌さは頂点に達した。声を荒げて少女に食って掛かる。正に15年前と同様に。

「ユウジの悪口を聞くのがそんなに不愉快!」

しかしアヅサは動じない。その瞳は冷たくアスカをにらみつけ

「そこまで言うなら、何故ユウジにちゃんと訓練をさせなかったの?」

そう呟いた。確かにアヅサの問いは正鵠をついていた。

父親と同様に失敗したことをなじるアスカだったが、そこまでユウジのパイロット能力の稚拙さを問う程、アスカはネルフは、ユウジにきちんとした訓練時間も、戦闘シュミレーションの特訓も与えてるわけではない。それこそアヅサの十分の一程もだ。

シンジの時と同様に、使徒の再来襲が始まってから呼びつけ、そしていきなり弐号機に搭乗させ、しかも暫くはアヅサのバックアップ程度に留め置いたのだ。それは今自分の無能さを恥じて泣き崩れるサトミと同様に。実際搭乗後も、ユウジ達はシンクロ実験を繰り返すだけで、それ以外はなんの訓練もない。

「くっ・・・そんな事、一パイロット如きのあんたの・・・」

思わず詰まりながらもアヅサに言い返そうとするアスカだったが

「使徒の再来襲は予測されていた。わたしはマナからそう聞かされていたもの。そして使徒との戦闘はあくまでわたしの役目。サポート役はサードチルドレンだとも。初号機が先に暴走してなければ、現在もそのままだった筈。じゃあ弐号機は・・・ユウジは何の為にパイロットになったの?」

そこまでアヅサが喋った瞬間だった。

バチン!!

アスカが右手を振り上げて、アヅサの頬を平手で叩いた大きな音がした。その場にアヅサが崩れ落ちる。アスカの興奮した息遣いだけが聞えてきた。

「はあはあ・・・黙りなさい桐山。それ以上司令の私に生意気な口叩いたらそんなもんじゃすまないわよ」

カスミが思わずアヅサの元に駆け寄った。そして倒れてるアヅサを抱き起こす。

「司令!何もそんなに強く叩かなくても!」

しかしアヅサは、口を切ってるのか左手で口元を押さえながらも、カスミを制してよろよろと立ちあがった。

「ユウジが使徒に囚われて司令が恥をかいたのは、司令の自業自得だと言う事です」

「なっ・・・なっなんですって・・・」

「アヅサ!!」

アヅサの物言いに、アスカは言葉を奮わせ、カスミはたしなめる様に声を上げた。

「ユウジが現在プラグ内で生命維持モードに切り替えていたとして、もう後数時間しかありません。今は、残存するエヴァ二体で使途に再度ATフィールド全開でプレッシャーをかけ戦自の協力を仰ぎつつ、コンマ何秒の賭けにでるしか・・・」

「そんなこたぁ〜わかってるわよ!!」

とりあえずは15年前にリツコがシンジを救う為に考えた策を行うしか無い。確かにアスカは今までその打ち合わせを戦自の上層部としてきたところだった。

「警告はしたわよ。それでもまだあんたはこの私に生意気な口を叩くのを止めないのね」

カスミに支えられて立つアヅサに向かって、アスカはそう言葉を投げつけた。

「よくわかったわ。そうね・・・確かにあんたの言う通りだわ」

そしてアスカはアヅサに近づき、その小さな頬を右手の親指と人差し指で摘み上げ鼻と鼻がくっつかんばかりに顔を近づけ、低い声で呟いた。

「ユウジが好きなんでしょ、桐山。だからこの私に叩かれようとも逆らうのよね。マナみたいに、私に逆らうとどうなるのかも知っててそういう態度に出る勇気だけは認めてあげるわ」

アヅサは抵抗する事無く、そしてアスカの目をじっと見つめていた。アスカはそんなアヅサの態度にふっと笑みを浮べて

「ユウジの為なら死ねる?」

そう冷たい声で問いかけた。

「いつだって命を賭けて任務についてます」

アヅサは頬を摘むアスカの右手を払いのけて、そうきっぱりと言いきった。

「そぉ〜よくぞ言ったわ・・・ファーストチルドレン」

アスカは満足そうな声を漏らして、アヅサから離れた。そして側にいるカスミの襟をひっぱり

「これから作戦会議を始めます。鈴原も側に来なさい」

何か言おうとしたカスミを引きずり、トウジも呼びながら、発令所の面々がいる明かりの場所に向かって歩いて行った。アヅサは唇からまだ少し流れる血を拭いながらアスカの背中を見つめていた。

「作戦は早朝と供に開始します。初号機・参号機パイロットはそれまで待機してなさい」

アスカの声が闇夜に響いた。その声はどこか弾んでいる様にも皆に聞えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

碇ユウジ君・・・

自分の名前を呼ぶ声に、それまでまどろんでいたユウジが意識を取り戻した。

生命維持モードに変更してからユウジは大人しくプラグ内で眠っていた。もはや自力でなんとかしようと思う気力は彼にはなかった。

誰かの助けが必要だ。でもどうやって、誰が助けてくれるというのだろう。プラグ内から見える景色は真っ白のままだ。レーダーにはなんの反応も無い。

「また君なんだね」

青い髪の小さな女の子が、いつのまにかプラグ内のユウジの膝に乗っていて彼を見つめていた。

暇なんでしょ・・・遊ぼう・・・

表情を綻ばせ赤い瞳でそう語りかける女の子に対して、ユウジは冷静な口調で

「これも君の仕業なんだろ、レイちゃん・・・それで?」

それで?

可愛らしく小首を傾げるレイにユウジも笑いかけながら

「初号機ごと僕をこんな風にしたのは理由があるんだろ。だったらそれを教えてくれよ」

そう言って、レイの頭を優しく撫でた。その仕草さには、なんの焦りも感じられなく自然体だった。レイも気持ちよさそうに目をつむって撫でられていた後、再び目を見開いて

教えたら、いっぱい遊んでくれる?

そう甘えたような声で聞いた。

「うん、いくらでも遊んであげるよ」

ユウジはそう答えた。するとその瞬間、再び彼の目の前が真っ暗になる。

一瞬意識を失いかけたが、やがて彼はある狭い一室に一人で椅子に腰掛けている事に気がついた。状況を把握出来ず、回りをキョロキョロして見つめるユウジ。

そこはある教室の様に思えた。しかし自分が通う学校の物ではない。どこか古く寂れた感じの教室で、そこの並んだ机の真中あたりで彼は椅子に腰掛けており、正面の黒板の掲げてあるだろう場所には大きな白いシートがかけられていたのだった。そして教室の明かりが薄暗くなる。

「・・・・・・」

ユウジは言葉が出なかった。ただ呆然としていた。さっきまで膝に座っていた筈のレイの姿もどこにもいない。ただなんとなくこの状況はレイの仕業だろうと薄々考えていた。

碇くん・・・

不意に声がかかる。その声にユウジはビクっと反応した。

レイちゃん?・・・いや違う。声は似てるけど・・・もっとその声が大人っぽい・・

声は正面から聞えてきた。ユウジが声の主を覗おうとすると、さっきまではいなかった筈の少女が一人、正面の白いシートの横に立っているのが見えた。

「レイちゃん?・・・いや違う君は?・・・」

少女は自分と同じくらいの年恰好に見えた。そして自分の通う中学校の女子制服を着ている。でも青い色調のウルフカットの髪の毛。そして印象的な赤い瞳はあの女の子レイと同じものだった。

碇くん・・・準備はいいの・・・

最初、レイらしき少女は自分に話しかけているのだと、ユウジは思った。しかしそうではなかった。何故なら彼の後方から少年の声が聞えてきたからだ。

ああ・・・綾波・・・いつでも始められるよ。

その少年の声にユウジはどこか聞き覚えがあるように感じた。思わず後ろを振りかえると、そこには小さな映写機があって、機の後方に暗幕があり、そこに顔を隠しているがやはり自分の中学校の制服を着た同じくらいの年恰好の少年が、立ったまま映写機を操作しようとしていた。

では始めます・・・

「えっ!?」

その瞬間教室内の明かりが消えた。そして映写機が動き出したのか、ジーという音がして正面の白いシートがあった部分に、何かが映し出され始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつまでも続くように思えた夜が明け、徐々に場が明るくなってきた。朝陽に照らされた初号機と参号機が並んでたたずんでいる。

ネルフスタッフの面々が忙しそうに歩き回っていた。戦自のヘリや戦闘機も数を増やし上空を大音量で轟かせていた。

弐号機が飲みこまれた地点には黒い影が不気味に広がったまま。そしてその上を、ゼブラ模様の球体が怪しく空中を漂っていた。球体は弐号機を飲みこんだ後、姿を消していた筈なのに、まるで人間達の思いが届いてるかのように、再び出現していて、何かを待ってるかのようにも見えた。

「そろそろ始まるわ・・・」

その球体を立ったまま見つめていたアヅサがそう呟く。

「桐山さん・・・」

アヅサの背後で座っていた、サトミが声をかける。

「何?」

アヅサは振りかえる事も無く問いかけに答えた。

「本当にユウジは助けられるの?」

サトミの質問は自信なげで弱々しいものだった。アヅサは背中を向けたまま、落ちついた口調で話始めた。

「あの使徒はユウジを飲みこんだ時点でその役目を終えてる。だから次の使徒の出番」

「えっ?」

サトミは予想だにしないアヅサの言葉に思わず疑問の声を発した。アヅサはそれにかまわず話続ける。

「多分・・・司令もそれに気がついてる。恐らくユウジが無事助かる事も。あの球体使徒は、参号機を狙う振りをして、実は弐号機を捕らえる事に成功した。そしてその弐号機を捕らえる事は、実は初号機を捕らえる為の目的を秘めていたのよ。つまり初号機が必ず次に現われる使徒と対峙する為に・・・」

 

 

 

 

 

「初号機は弐号機を救出するでしょうね。そしてその後に何かが起こる」

アスカの言葉に、側に控えてたカスミが驚いて

「司令、それってどういう意味ですか?」

するとアスカはカスミに、にやりと笑いかけた後、楽しそうに言葉を発した。

「だからあの桐山に、“ユウジの為なら死ねる?”って問いかけたのよ」

 

 

 

 

 

「倉田サトミさん・・・」

アヅサが振りかえってサトミの名を呼んだ。サトミは驚いた。その口調は優しく、そしてフルネームでさんづけされたのも初めての事だったから。

「桐山さん・・・」

サトミは思わず返答した。アヅサの表情はどこか晴れ晴れとしていた。アスカに叩かれて切れた口元は痛々しく、やや頬も腫れていたが、それでも笑顔すら浮かんだその表情はすっきりとして、見ている方もほっとするような素敵な物だった。

「わたしはこの日の為に生まれたの。そしてここまでパイロットとして育てられ精一杯生きてきた。ユウジは、司令への意地の為、そしてマナへのほのかな恋心の為パイロットになったと言ってたわ。そしてサトミさんは、そんなユウジの為にパイロットになってくれたのよね」

「わたしは・・・」

「だからユウジには、サトミさんという存在が必要なの。全てが終わった時、ユウジはとても傷ついている。一人では立ち直れないくらいに心を痛めてる筈。その時に、サトミさんにユウジの側にいてあげて欲しい」

サトミはアヅサに近づこうとしたが、その時彼女達を呼ぶカスミの声が聞えた。

「では行きますか!!」

アヅサはそう元気良く声を上げて、カスミの声がした方に向けて駆けだそうとした。

「あっ・・・桐山さん!!」

思わずサトミは大声を上げてアヅサを呼びとめようとすると、アヅサが声に反応して振り返った。

「・・・・・・」

アヅサの口元が動いていた。しかし丁度上空をヘリが横切り、その声が爆音でかき消されてしまった。サトミはそれでも言葉をかすかに読み取ったような気がしていた。

やがて二人のチルドレンはカスミからアスカが立てた作戦の指示を受け、その場で別れさせられ、それぞれ各機のエントリープラグへと乗りこんでいった。アヅサは元気一杯でやる気に満ちていた。その横顔をサトミは側にいる間中見つめていた。

 

 

 

 

 

サトミは参号機のプラグ内に入り、やがてLCLが注水され意識を集中させていく時に、不意にアヅサが自分に飛ばした声がはっきりと蘇った。

 

 

 

 

 

間違いなくアヅサは自分に、最後にこう言ったんだ。

 

 

 

 

 

聞き取りづらかったけど、その口の動きはこう動いていた。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんをよろしく・・・」

 

 

 

 

 

第拾七話に続く

 


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