THE REFLEX

作:柴レイ


 

第拾九話Toy soldiers

 

 

 

 

 

「霧島三佐・・・起きていらっしゃいますか?」

薄暗い室内。マナが軟禁されているその狭い一室にカスミの弱々しい声が聞こえた。床に仰向けに寝転がって目を閉じていたマナが一拍置いて、 「ん・・・」 と呟きをもらす。目を閉じていても部屋が明るくなったのを感じる。扉が大きく開けられたままになっているのだろう。

マナは相手に聞こえたのかどうかはっきりしない程度の呟きしか返さなかったのにも関わらず、それ以上の反応を示さなかった。それでもカスミが数歩近づいたのを感じていた。

「昨日夕刻、アヅサの初号機が暴走しました。そしてそれはもう誰にも止められなかったんです。アヅサとも連絡を取れませんでした。そして暴走した初号機はユウジ君ごと弐号機を破壊しようとしました。司令は即座に、サトミちゃんの参号機にダミーシステムを稼動させ・・・参号機によって・・・初号機を・・・アヅサを・・・完全に破壊しました・・・」

カスミの声がだんだん震えてくる。特にアヅサを破壊のあたりは涙声に変わっていた。マナからの声は無い。なんの反応も示さない。まるでわかっていたかのような冷静さだ。カスミは暫し言葉を発するのを止めて、息を吐き、自らを落ち着かせようとしているかのようだった。

「暴走してからのアヅサの声は聞けません。あの子がどんな風になっていたのかも、何もモニター出来なかったんです。代わりに、ユウジ君とサトミちゃんの悲痛な叫びはいやという程聞かされました。ええ・・・泣き叫ぶ声が・・・あの叫びは一生忘れられないでしょう」

マナが目を開けた。その表情は乾いたものだった。なんの感情も読み取れない人とも思えないような無表情に見えた。カスミはそれに気がついて、声を荒げた。

「私達は・・・私はいったい何をやってるんですか?あの子達をあんな酷い目にあわせておいてそれが人のする事ですか?司令はこう云いました。『やっと次のステップに移行するんじゃない、何を今更』・・・何が今更なんですか?ええ?何が今更なんですか?私は父をネルフで殺されました。だからそんなネルフを変えたいと思いました。司令は旧ネルフを糾弾してました。新しいネルフを作るのだと云ってました。その結果がこれですか?こんな酷い事をするために私達はネルフに入ったんですか?」

そこまでまくしたてて、カスミは息を激しく弾ませる。やがてすすり泣く声が聞こえてきた。

「ユウジ君とサトミちゃんの絶叫が耳から離れません。昨日の晩から一睡も出来ません。みんなそうです。南さんも、上野さんも、みんなみんな真っ青な顔をして声もありません。司令だけは五月蝿く怒鳴っていましたが、誰もまともに動こうとはしません。誰も誰も誰も」

「パイロットの回収は?」

マナが上半身を起こした。そして興奮するカスミに対して、静かに問いかける。

「・・・え?」

泣きながら喚いていたカスミが、唖然としつつも疑問の声をもらした。

「三人のパイロットの回収状況を聞いてるの?司令がどうこうは関係なくても、それくらいの事はみんなでやったんでしょ。呆けていた訳じゃないでしょ」

「あああ・・・」

カスミは気持ちを自力で静められないのか呻き声を出すだけだった。するとマナは立ち上がって、カスミの頬を叩いた。そしてもう一度ゆっくりと尋ねる。

「アヅサは?・・・プラグが粉々になったの?回収出来なかったの?」

「アヅサは・・・アヅサは・・・」

カスミはなんとか声を絞り上げる。必死になって声を出そうとする。

「初号機のプラグは参号機に真っ二つにされましたが、原型は留めてました。だからせめて回収しようと・・・」

「それで?」

「いないんです。アヅサがいないんです。プラグスーツだけ残ってて、どこにも亡骸すら発見出来なかったんです。どこにもいないんですよ。そんな訳ないんです。でもいないんですよ。どうしてですか?どうしてなんですか?」

「落ち着きなさい!!」

マナがカスミを抱きかかえる。その胸の中で、カスミは喚き、そしてやがて気を失った。マナはカスミを床に寝かした後、正面の開いた扉を見つめた。扉の向こうにはなんの気配も感じられなかった。

マナにはわかる。この部屋付近には、自分とカスミしかいないことを。そう誰も側にはいないのだという事を確かめるまでもなく理解した。

「おもちゃの兵隊さん達はバラバラに倒れちゃったのか・・・」

自嘲気味にそうマナは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウジは黙って、その部屋に入った。側にいた医者は首をさっきから横に振るだけだ。面会謝絶とか言っていたが、副司令権限で黙らせた。そして悲観的な事しか言わない医者を無視して、部屋の中央のベッドに眠る少女に近寄ろうとした。鼻から管を通され、空ろな目をした少女を黙って見つめる。その目は何も写さない。医者は当分意識は戻らないとクドクド言っていたが

「サトミ・・・わしがわかるか」

トウジはそう語りかけた。寝ているサトミの頬に自分の手をあてて、反応を求めた。

プラグから回収しようとした時、サードチルドレン倉田サトミは、狂ったように叫び続けていたという。介護班に抱きかかえられても暴れるのを止めない。気がふれた様に興奮し、完全に我を忘れていた。やむを得ず、精神安定剤を注射し薬が効きだすと、それまでの暴れ絶叫し続けた事で体力を消耗しきったのか、眠るように意識を失った。

そしてそれから呼吸すら不規則になるくらいに衰弱し、あわてて集中治療室に入れられたが、その結果、ここ暫くは植物人間状態になると、回復するかどうかは不明という結論が治療をした医師グループから出されていた。

「もう許してくれやなんて・・・そんなレベルと違うな・・・」

トウジは静かに呟く。サトミの頬を何度も何度もさする。そしてやがて顔をサトミの胸に倒した。

かろうじて生きてはいる。それを少女の胸がゆっくりと上下することで感じる事ができた。それだけがせめてもの救いなのだろうか。トウジは語りかけるように語り続ける。

「お詫びとして死ぬやなんて、そんな無責任なことは出来ないな。そやっ・・・ずっと側におる。お前が目覚めるまでずっと側におる。お前に謝る事が出来るまでずっとな。死ぬのはそれからや。いや違うな、お前を一生面倒みなあかんよな。逃げたらあかんよな」

彼が14歳の頃、使徒とエヴァの戦闘で負傷した妹にかけたのと同じ言葉を繰り返していた。

「・・・ちゃん」

不意に声が聞こえた。トウジの顔色が変わる。そして驚きとともに、顔を上げた。そして眠っている筈の少女を見つめた。

「サトミ!!」

震える声でそう語りかける。

「・・・ちゃん」

また呟きが聞こえた。

「サトミ!!」

なんや、医者のあほんだら。サトミは意識を取り戻すやないか。なにが植物人間や。たわけた事ぬかしよって。後でパチキかましたる。そう思いつつも、トウジは気持ちが弾むのを感じていた。喜びで涙が浮かぶのをこらえながら、サトミに語りかける。

「・・・ちゃん・・・・・・来とったんか・・・・・・」

「ああ、ここにおるで。ずっと側におる」

何かおかしい・・・そんな事が頭をかすめたが、それでもトウジは、ただただサトミが意識を取り戻した。その喜びが優先して、顔をくしゃくしゃにしながら、言葉をかけることだけを繰り返した。

「・・・・・・」

「サトミ!!」

「・・・・・・また泣いとるんか・・・男なんやから泣き虫はあかん言うたやろ」

「サトミ!?」

流石にトウジの顔に疑問形が浮かんだ。おかしい、どういう事だ。サトミは意識が混乱しとるんだろうけど、でもおかしい。サトミは関西弁なんて喋らない筈だ。

唖然としているトウジに向って、サトミが急に目を見開いてじっと見つめてきた。その瞳にはトウジが写っている。そしてサトミがゆっくりと微笑んだ。

「あんちゃん・・・もう泣かんでええよ・・・ナツミは大丈夫やから」

「あああああ・・・」

トウジはガタガタと身体を震わした。そしてショックでよろつき倒れそうになった。

「サトミやないのか?」

「・・・誰やのんそれ?」

少女は不信げに、困惑の表情を浮かべる。そしてクスリと笑った。

「なんや・・・新しい彼女か?・・・ヒカリさんに言いつけたろ」

「はっはははははは・・・・・・」

トウジは笑い出した。そして止まらなくなった。何故にサトミが、かつて失った妹ナツミの言葉を喋るのか?不思議そうに自分を見つめる少女の前で、トウジは大声で笑い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「倉田サトミは、副司令の妹さんのDNAから“作った”んでしょ?」

「ええ、そう聞いてますが」

サトミが入れられた集中治療室からつまみ出された笑い続けるトウジの処置を指示した後、再びすやすやと眠るサトミを部屋の外の窓越しに見つめながら。マナが側にいた医者に問いかけた。

「アヅサが実験室から出されて約一年後、サトミも出されて鈴原兄妹の叔母方にあたる倉田家で育てられた。そして計画通りに、第三新東京市の中学校に入学した後、転校してきた碇ユウジと仲良くなり、そしてサードチルドレンに予定通りに選ばれた。それは副司令も、もちろん知っている筈よね」

「実験体B=倉田サトミは、碇シンジのDNAは混ぜてませんから、オリジナルの鈴原ナツミの性質をかなり受け継いだのでしょうけど」

「余計な記憶までは注入してはいない。それは邪魔にしかならないから。それじゃあ・・・・・・」

医者には言葉がなかった。彼には何も考えられないのだ。別にこの医者がチルドレン生成に直接携わっていたのではなく、前任者から内容を限定して引き継いだだけの事だからだ。

「アヅサが消えたのは・・・恐らく初号機と完全にシンクロしてコアに溶け込んだからなのだろうけど、サトミにはそういう痕跡は無い。むしろ低シンクロ率でしかなかったのだもんね。だとすると・・・・・・」

マナは腕を組み、やがて右手の親指を口に持っていき、爪を噛んだ。そして首を傾げる。

「エヴァって・・・一体どういう物なのよ・・・」

そう苛立ちを見せながら呟いた。医者は黙ってマナの後ろに佇んでいた。

「霧島三佐!」

やがてマナに後方から別の声が飛んだ。マナは不機嫌な顔のまま振り返ると。

「ユウジ君は見つかったの?」

そう厳しい顔で問いかける。問いかけられたカスミは黙って首を横に振り

「いえ・・・まだ発見できません。プラグから回収された時に突然暴れだして、介護班から脱走したユウジ君を、諜報部が全力で行方を探していますが未だに・・・霧島三佐、どうすれば見つかるのでしょうか?」

「カスミ!!」

マナが声を荒げる。それに対して、カスミは全身でびくついた。

「聞いてるのは私よ。質問に答えるだけでいいの。しっかりしなさい!!」

「すっ・・・すみません」

カスミが縮こまる。マナは溜息をつくと、わざとゆっくりとした穏やかな声で

「ユウジ君が見つからないのなら、いったい何しにここに来たの?私に用があったから来たんでしょ」

「あっ・・・そうでした・・・あっあの?」

おろおろするカスミに、マナは頭に右手を当てながら

「何?」

もう一度聞いた。マナの頭では、もう岸田カスミは使い物にならないなと考えざるを得なかった。いや、彼女だけではないだろう。今のネルフはもうどうしようもないくらいに機能を停止している。冷静な状態ではないだろうユウジ一人の消息もつかめない諜報部の低たらくを含めて、桐山アヅサという存在を失っただけでここまで崩れてしまう組織だったのかと思わざるを得なかった。

そんな中で、カスミが自分に用があるとしたら考えられるのは限られてくる。聞くまでもないだろう。

「ヒステリーを起こしてるんでしょ。そして私を呼べと今頃叫んでるのかしら」

マナのその言葉に、カスミは驚き、そして首をこくこく上下するだけだった。

「監禁解除とでも言ってくれたのかしら。それとも、政府から命令がでたとか」

「いえ・・・ただ呼べと。直ぐに側に連れてこいと。それだけです」

「わかったわ」

マナはカスミの肩をポンと軽く叩いて、歩き出した。カスミはそのまま、マナの後姿だけをぼーっとして見つめ、ただ立ち尽くしていた。

「さて・・・堕ちた女神様の顔をあがめに行きますか・・・」

マナはそう呟きながら歩いていた。途中ネルフ職員を数人捕まえて、司令の所在を尋ねる。カスミに聞くのを忘れていた訳ではない、ただ呆けている彼女にはもう何を聞いても無駄だと判断しただけの事だ。そして予想された事だが、どの職員達も要領を得ない答えしか返さない。それでも断片的な情報を集めるだけでマナは、目的地にゆっくりと近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて様なのよ・・・今こそ一番大切な時じゃない。鈴原といい、岸田といい、だれもかれもだらしなくなっちゃって。今一番辛いのは、厳しい立場なのはこの私よ。大きな責任をしょっているんだから。何さ、たかが小娘が二人壊れただけじゃない。また補充すればいいだけのこと。それにユウジが残ってるじゃない。

アスカはそう心の中で何度も何度も反芻し、忌々しく正面に写る惨状を見つめていた。

エヴァ初号機の残骸が辺り一面に放置されていた。飛び散った血のような物が、異臭をはなっている。壊れた道路、建物、その他の残骸の復旧作業がようやく政府の発令で、戦略自衛隊の手によって行われ始めていた。本来はネルフがまっさきに始めるべき事だったが。機能停止した組織はまともに動く事がなかった。

苦情があふれ、アスカはその処置に忙殺される事になる。そして戦自の助けを得るとの交換条件が、首相直々に出されたのを、アスカはしぶしぶ受けざるを得なかった。

 

 霧島マナを作戦部長に復帰させなさい

 それは・・・

 呑めないのでしたら、ネルフは解散するしかないですな

 ・・・・・・

 答えは?惣流アスカ司令

 わかりました・・・

 

「ったく、岸田は何やってるのよ」

そう忌々しく吐き捨てていたアスカの後方から、物音がした

「やっと来たのね、マナ」

アスカは嫌味っぽく、後ろを振り返ろうともせずに口を開く

「母さん・・・」

「ユウジ!?」

その声に、アスカはあわてて振り返った。その顔には喜びがあふれていた。隠しようも無い。アスカは不安な気持ち、不満、もどかしさを、現れた愛息子に会う事で解放しようとしていた。

ユウジが行方知れずだとは聞かされていた。心配でならなかった。アヅサの乗っていた筈のエントリープラグが参号機によって握りつぶされた時の、ユウジの絶叫をアスカも聞いていた。倉田サトミは、半狂乱でプラグから出されたらしい、ユウジは大丈夫なのか・・・アスカは心を酷く痛めていた。実はユウジの事が一番彼女のストレスになっていたのだ。

母親の嬉しそうな表情に対して、息子は乾いた表情をしていた。その目は曇りどこかすさんでいる。そしてプラグスーツ姿ではなく、家にでも帰っていたのか中学の学生服を着込んでいた。右手を不自然に後ろに隠していたが

「二つ聞きたい事があるんだ・・・母さん」

近寄ろうとしたアスカに向って、ユウジが言葉を投げかける。

「なっ何かしら?」

アスカは不意をつかれたようであったが、それでも心を落ち着かせ、ユウジの問いかけに答えようと言葉を返した。

「一つ目、どうしてダミーシステムを使ったの?」

ユウジの問い。アスカは暫し黙ったが、それでも表情を真剣な物にして淡々と答えを紡いだ。

「初号機はネルフの制御下から離れました。修正は不可能。しかも弐号機に攻撃をかけるにいたって、私達は初号機をネルフに敵対する物と認知せざるを得なかった」

「私達ではなくって母さんがだろ・・・」

ユウジの怒声が飛ぶ、アスカは顔を歪めかけたが、冷静さを保ち

「パイロットの救出は不可能。他に方法はなかったわ。あのまま放置してたら、弐号機も参号機もやられていたでしょう。それだけは防がなければならない。そこで参号機に処置を任せたのだけど、倉田が無能で・・・」

ユウジはアスカがそこまで喋った時に

「もうわかったよ・・・」

そう言って、アスカの言葉を制する様に呟いた。その表情には生気が無い、力なく落ち込んでいる様にも見えた。アスカは思わず近づき、ユウジを抱きしめたいと思ったのだが

「二つ目」

そんなアスカを拒絶するかのようなユウジの言葉。アスカも表情を曇らせながら立ち止まった。

「やっと次のステップに移行するんじゃない、何を今更・・・って言ったね。どういう意味なの?」

そう言って下を向くユウジ。アスカはその言葉と態度に動揺して

「そっそれは・・・」

そう言うことしか出来なかった。

「好きだったんだ・・・初めて女の子を心から好きになったんだ・・・」

俯いたままのユウジの呟きが漏れる。アスカは手をかけようとしたが、その手はユウジの前で止まり、それ以上動けない。

「母さんは人を好きになった事はないの?父さんを好きではなかったの?」

「えっ?」

「好きじゃなかったんだろうね。人を好きになった事の無い可哀想な人なんだろうね、母さんは」

「ユウジ・・・」

アスカは泣きそうになった。息子にそんな風に言われて涙が出そうになる。しかし反論の言葉を出す事がままならない。

「人を好きになれない、それって人じゃないってことなんだろうな。だからあんな真似が出来るんだ。アヅサをあんなめに遭わせて、それで何を今更ですか・・・」

「・・・・・・」

「母さんが何を企んでいようがもう俺には関係ないよ。どうだっていい。今はもうエヴァには乗りたくない。今やりたい事は、アヅサの無念を晴らしてあげたいだけさ」

「ユウジ・・・」

アスカの目から涙が零れる。そして俯く息子にふらふらと近寄ったが。

「母さんは人じゃない、悪魔だ・・・そうだ、マナと同じ魔女なんだ・・・だったら」

ユウジが顔を上げた、その目はアスカを鋭く射抜いていた。そして背中にまわしていた右手をアスカに向ける。その手には、芦ノ湖でアヅサが持っていた短銃が握られていた。

「ユウジ!」

アスカが息を飲む、その瞬間声が飛んだ。

「ユウジ君、やめなさい!!」

「一匹目の魔女を退治するよ、アヅサ」

マナの制止の叫びを無視して、ユウジが引き金を引いた。

 

 

 

バン!!

 

 

 

アスカが前のめりに倒れる、ユウジに覆い被さるように。ユウジはそれを無造作にはね除けた。そして倒れるアスカを見ようともしない。

うつ伏せに地面に倒れたアスカは、物も言わず動かない。そして赤い血が広がりだした。

「何をやってるのよ、ユウジ君!!」

マナが叫びながらユウジに駆け寄る。ユウジはそれを見て、再び銃を上げて今度はマナにその銃口を向けた。

「二匹目の魔女を退治だ・・・見てて、アヅサ・・・」

そう言って引き金を引こうとしたが、マナは素早くユウジから銃を叩き落とした。そしてユウジの腹を蹴り上げる。ユウジはうめいてその場に崩れた。

「あああ・・・あんたは一体何をやってるのかわからないの?」

マナはそんなユウジを抱き起こし、身体を激しく揺さぶり問い詰める。ユウジは空ろな目をして

「アヅサ・・・アヅサ・・・」

と呟くだけだった。マナはそんなユウジの顔を叩こうとしかけたが、不意に足を誰かに掴まれる

「えっ?」

振り返ると、アスカが上半身を起こして、マナの右足を掴んでいた。

「やっ・・・やめなさい・・・ユウジに何をするの?・・・マナ」

アスカが、真っ赤に染まった腹を左手で押えながら、真っ青な顔でマナを右手で制止ようとしていた。そして再び崩れ落ちる。マナはあわててユウジを離し、アスカを抱きかかえた。そして大声で叫ぶ。

「誰か!誰か来て!!司令が!司令が!」

その声にどこからか人が集まりだす。ユウジは走って逃げていった。マナはそんなユウジを追おうとはしない。アスカを抱きかかえ、必死になって助けを呼ぶだけだった。

血の気が失せた表情のアスカの口から流れる血とともに呟きが漏れた。涙を流し、マナに抱きかかえながらうわ言のように。呟いていた。

 

 

 

「シンジ・・・もう直ぐだから・・・」

 

 

 

 

 

第弐拾話に続く

 


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