THE REFLEX
作:柴レイ
第弐拾話 : Could've been
ここはどこなの?
わたしが最初に思った事はその事だった
意識ははっきりとしている
しかし手足その他の感覚が無い
わたしという存在があるという感触がないのだ
目にははっきりとある光景が写し出されている
それはとてもクリアであり、決して夢とは思えない
死んだということかしら?
それなら合点がいく、夢とは違うクリアな映像を認識出来るのに
それを肌で感じる事が出来そうも無いから
手を伸ばそうと思う、これが夢だとしたら可能な筈だ
夢というのは自分の都合のいいように変化していく世界なのだし
でも今は思うように出来ない、歯がゆい思いにとらわれる
それでも何も出来ないままなのだ
さてと・・・
死んだとなればもう腹をくくるしかないだろう
あれこれうろたえたりしてもしょうがないのだし
じっくりと腰を据えて出来る事だけをしよう
出来る唯一の事は・・・目に写る物を認識する事だ
お花畑ではない、川の向こうから自分を呼ぶ者もいない
予備知識にある臨死体験とはずいぶんと趣が違うようだ
日本ではないわね
見上げる空には、濃い灰色の雲が広がっている
深くとても濃い灰色だ、厚みはそうとうだろう
少々の風ぐらいではびくともしない感じで、でんと空に塗りこめられている
お陰で辺りはとても薄暗い、気が滅入ってしまいそうな暗さだ
恐らくこれがここの日常なのだろう
薄暗い大地には、あまり手入れをなされてないような寂れた畑が広がる
こんな土地で暮らすには、心を・・・
ん?
思考を巡らせていると、薄暗い大地に一人の女の子の姿が見えた
最初からそこにいたかのような自然さで
先程までは確かにいなかった筈だ、ただ荒涼とした畑しかなかったのに
でもまぁいい、趣味の悪い風景を思考して気分を悪くするよりは
可愛らしい人形のような女の子を観察する方がマシだ
歳の頃は4〜5才くらいのものか、薄暗い中でも上品な色調の服を着てるのがわかる
育ちのよさそうな顔立ち、その口はかたく閉じられていた
誰かに似てる
正面にいる女の子は手を伸ばせば届くくらいの場所にいるのに
女の子はわたしに気がついていない
そして伸ばす手も、かける言葉すらもわたしにないのだ
なんとか気がついてくれないものか
幼い子供は、常識という縛りに囚われた大人よりも幽体に気づきやすいものなのに
女の子の瞳に涙が浮かぶ、しかしそれをぐっと耐えているようだ
声が届かないのなら、強く想ってみよう
悲しいの?
女の子はブンブンと顔をふった
そしてまた止まる、その動きでこらえてる涙が両頬に零れた
それでも顔を拭こうともせずにただ前を向いて必死に感情を抑えようとしている
どうしてこんなに小さな女の子が泣く事を我慢しなければいけないのだろう
理由はわからない・・・わかってもわたしには何もしてあげられないのだし
だったら余計な干渉をして、女の子の頑張りに水をさすべきではない
そう思って、女の子を見るのをやめようとした
やっと探し物が見つかりそうなのに・・・
不意に女の子の声が聞こえる、それは誰に聞かすのでもない小さな呟きだった
わたしの意識が再び女の子に戻った
女の子の表情を伺う、涙はとめどもなく流れていた
それでも口はぎゅっと閉じられたまま、泣き声はしない
だからいっしょに見つけようと思ったのに・・・
女の子の瞳には何も写し出されてはいない
女の子は呟きを誰かに聞かせようと意図してる訳ではないようだ
涙を流しながら、それでもそれを泣き声にはすることもなく
ただ淡々と悲しそうに言葉を紡いでいるのだった
喜んでくれると思ってた、だから見つかりそうだから手伝ってって・・・
女の子の服のお腹のあたりが急に塗れてきた
赤い染みが広がりだし、そしてポタポタと地面に落ちた
その表情は痛みに耐えるものとは違って、悲しみに歪んでるように見えた
瞳から零れる涙と、お腹から流れ落ちる血
探しているのは私だけだったんだ・・・私一人だけ・・・
女の子は姿を消した、再び薄暗い大地だけになる
心は乱れた、どうしようもなくもどかしい
死んだのならもうジタバタしないって決めたのに
女の子の涙と血が、わたしの心を居心地の悪いものにしていたのだった
心を落ち着かせようとして、ゆっくり一呼吸をする
そうだ・・・いつのまにか自分の身体を感じる事が出来る
手足の感覚も、身体中を流れる血液も、神経がすみずみまで行き渡っているのを
もう視覚からの情報に頼らなくてもいいわね
わたしはそう呟いて、目を閉じた
そうすれば今まで見えなかったものが見えてくると思ったから
それは正解だった、それまで視覚からの情報に頼り過ぎていたために
感じる事が出来なかったものを、はっきりと感じられる
くっ・・・
酷く不快な気持ちになった、不愉快だ
その感じる事ができた存在は、わたしにとって嫌悪の対象であった
以前にも・・・生きていた時も感じた感情
その時は、思いっきりひっぱ叩いた
善悪を感じる暇も無く、冷静に打算を働かす事も出来なかった
そうせざるを得ない感情につき動かされての衝動
そして今、再び襲った激しい不快感に身体中を震わせていた
わたしはあなたの人形じゃない!!
オリジナルを目にした複製は、自らのレゾンデートルを賭けてそう叫ぶ
わたしにとって、激しい憎悪の対象になりえる唯一の存在
複製なんだとわかっていても、それでもどうしてもオリジナルを許せないのだ
それは桐山アヅサを含む多くの実験体B・C・D・E・F・G・・・・・・全ての想いなのか
私だって人形じゃないもの
綾波レイは、その多くの怨嗟の想いを逃げることなく受け止めて
そしてその代表者である、桐山アヅサに向ってそう寂しそうに答えた
酷く、か細く自信なげに
それが益々わたしの癇に障った
あなたがそんなんだからわたし達はいつまでも、いつまでも!!
「なんて顔をしてるのよ」
目は覚めていた。ただ起きるのが面倒臭くてまどろんでいた私を嗜める様な声がかけられた。そこまで言われては仕方が無い、不機嫌そうに目を開ける。ついでに無粋な声をかけた相手を睨みながら観察してみた。
前々から気に入らないと思ってた赤いジャケットを羽織って、両腕を組んで立っている。ベッドの横に椅子はあるのだが、座ろうともしない。その上から見下ろす態度を崩さないのは、とても不愉快だ。でもなんとなく今はわかるような気がする。彼女は実は無理して強気の態度を保っているのだと。
「おおきなお世話よ」
思っている事が顔に出たのか。タイミングの良い返答に少しびっくりする。すると彼女の口元が悪戯っぽく歪んだ。少し・・・いやかなり悔しい。思えば彼女とは以前からこうだった。でもいい、私は無理して感情を表に出さないのは好きではないから。思った事を相手に伝えられないのなんて無駄で歯がゆいだけだから。
「元気そうね、落ち込んでいると思ったんだけど」
「いい加減座ったら」
「それは命令ですか?」
「そうね」
「だとしたら、私はそれに従う必要は無いんだけどな」
「どうして?」
「聞いてなかったの?」
「聞いてるのは私なんだけど、霧島三佐」
「違うんだなぁ、今は・・・霧島司令代理なんだけど」
「あっ・・・そういう事か」
「そういう事」
「どおでもいいわそんなこと。座りなさい」
「聞いてないんじゃなくって、人の話を聞こうともしないのね」
そう言いつつも、どこか楽しそうな顔をして、私からネルフの代表の座を奪ったらしいマナは、椅子に腰掛け、そして私を見つめながらも右手でゴソゴソとジャケットのポケットを探り出した。
「禁煙!」
マナの右手がぴくっと止まる。
「それも命令?」
「命令以前の問題、ここをどこだと思っているのよ」
「弐号機のパイロットが補充されるですって?」
ゲージで黒光りする参号機を見つめながら、わたしはそう問い掛けた。
「はい。ユウジ君の行方は依然としてわかりません。霧島代理はそのままでいいとおっしゃってたんですが」
「政府がそれではダメだと」
「今の私達は、もう以前の様な超法規的な組織ではないですから」
「カスミさん達がだらしないからよ」
そうきつい口調で言うと、岸田カスミ二尉は俯くだけだった。ふん、本当に司令代理の言う通りに腑抜けになってしまったのね。以前は優しいお姉さんという感じをみせつつも、どこか鋭い雰囲気を醸し出していたのに。
まっ・・・カスミさんだけではない、ネルフの職員みんながどこが自信なさげで頼りない。これじゃあ、一人だけ自分を取り戻してしっかりしているわたしが損じゃない。
「でも、パイロットの補充が決まっただけで、その人選はまだだと聞いてます」
「誰でもいいわ、どうせユウジの代わりなんて務まらないもの」
「それじゃあ、あなたが一人で・・・」
「わたし一人で充分です。桐山さんみたいには立派に出来ないでしょうけど、でもやってみせます」
心配そうに言うカスミさんを、わたしはきっと睨みつけ、人差し指を差し出してそう宣言した。
髪を伸ばし始めていた。もう少し伸びれば、三つ編みに出来るだろう。わたしはそうするつもりだ。もちろんユウジの為にするつもりではない。そんな事をしても彼は喜びはしないだろう。そう、自分がしたいからそうするだけの事だ。どこか内面からそうせざるをえないような、衝動が浮かんできてるから。
「変わりましたね」
カスミさんはどこか、嬉しそうに呟いた。
「変わらずをえないじゃない。わたしは桐山さんから・・・」
「アヅサから?」
カスミさんの問いかけにわたしは口を閉じた。
「だからユウジには、サトミさんという存在が必要なの。全てが終わった時、ユウジはとても傷ついている。一人では立ち直れないくらいに心を痛めてる筈。その時に、サトミさんにユウジの側にいてあげて欲しい」
最後に聞いた言葉を思い出す。そう、この言葉を思い出したからこそ、植物人間状態から回復し、わたしと違う誰かに勝手にわたしの中に住まれていても、毅然とした態度で頑張らないといけないんだ。
ユウジの為に・・・桐山さんの為に・・・
わたしはそう自分に言い聞かせながら、カスミさんに対してもう関心をみせようともせず、ただ参号機だけを、顔に強い決意を滲ませながら見つめていた。
「ふ〜ん、倉田が回復したんだ」
「回復どころか、ずいぶんしゃんとして・・・まるでアヅサみたいに頼もしく見えるのよ」
「見かけだけしゃんとしても、中身が伴わなければ意味ないじゃない」
「シンクロ率60パーセント」
「嘘っ・・・一ダース少女の数字とは思えないわ」
「いくらなんでも、12パーセント前後ではなかったですよ。ちゃんと頑張ってた頃も」
「似たようなものだったじゃない、ユウジと同じで桐山におんぶ抱っこだったくせに」
「年頃の女の子は、三日見なければずいぶん成長するもんです」
「でっ鈴原は?小躍りでもしてるのかしら」
「私の代わりに独房に入ってもらってます」
「何それ?・・・あいつなんかやらかしたの?」
「何も・・・ただ意味無く笑ったり喚いたりで、まわりの邪魔をするだけですから」
「ったく・・・」
「“アスカ”の手駒は役に立たないのね」
「私の事をそう呼ぶのなら、私だって“マナ”と呼ぶわよ・・・霧島三佐」
「・・・・・・どうぞ」
一瞬間があいたが、それでもマナの表情には不満の色は無く、むしろ嬉しそうだった。どうやら私に司令代理と呼ばれるよりも、名前で呼ばれる方が嬉しいのかもしれない。前はお互いそう呼び合っていた・・・サードインパクト後に初めて会った時も・・・そう思考をめぐらせたので、つい懐かしくなって昔話をしてみたくなった。恐らくマナも喜んで参加してくれるだろうから。
「覚えてる?マナ。サードインパクト直後、あなたに会った時の事を」
「ええ、覚えてるわ」
やはりマナは懐かしそうな顔で綻んで言葉を返してきた。
「裸で砂浜に立ちつくしていた私をほったらかしにして、シンジの方へみんな走って行ったのよね」
「あの時も、アスカは回りを拒絶するような近寄りがたいオーラを醸し出していたから」
「でも14歳の少女が裸で風に吹かれて寒そうにしてたのよ」
「アスカの堂々とした態度を見てたらなんの心配もなさそうに見えたもの。それに・・・」
「それに?」
「シンジの捕獲がそもそも最優先事項だったから。アスカの事は既に私に任されていたし」
「だから、マナが一人だけ残って、私に上着を貸してくれたのね。その見せ掛けの優しさに不覚にも涙ぐんで、そしてあなたに心を許してしまった。思えばあの時点で勝負はついていたのかも」
不思議とそう呟くアスカに悔しそうな感じは微塵も見られなかった。こういう心を落ち着かせている時のアスカは、余分な気負いも無く堂々としていて、人を惹きつけてやまない魅力に溢れている。
私には逆立ちしたって無いものだ。だから私は司令にはなれない、いいとこ代理までだろう。そもそも私は神輿に乗るタイプではないし。こういう時のアスカこそが、みんなに担がれるタイプなのだろう。
「勝負だなんて、そもそもシンジ争奪戦という事なら、アスカが身ごもってた時点で私の負けよ」
「それは境遇でそうなっただけの事。もう充分に身体だけは大人になっていた少年少女が数ヶ月も二人っきりでいたら、やることをやるだけだったわよ。その結果としてユウジを授かったのだけど」
「そのユウジ君を守る為にあなたは耐えた」
「無力だっただけ。シンジを守る事なんてどうやったって出来なかったわ。それにシンジも私とユウジの為ならと全てを受け入れる覚悟をしていた。父親になってみてやっと男らしくふるまう事が出来るようになったのよね。もうあの頭くるくらいにいじけた、しかも結局は自分の事しか考えられない、そんなダメシンジじゃなかった」
そんなアスカだって、母親になって、自分以外の対象に対しても心をくだけるようになっていたじゃない。シンジの為に毎晩泣く事が出来るようになっていたし、しかもそれをユウジ君の前では見せないように努力する母親らしい事もしようと務めていた。まぁ泣き上戸だけは治せなかったけどね。
それなのにアスカは、シンジだけでなく、生まれたばかりのユウジ君ですら奪われた。人類の復興の名目の元、シンジはスケープゴートにされ、彼女は祭り上げられていった。
「だからシンジを助けるために色々とやってみようとしたけど、結局は何も出来なかったわ。生き残った人全てがシンジを恨んでいた。いや死んでしまった人の怨念までも加わってたわね。あそこで逆らい続けたら、私だけならいいけどユウジまでが酷い目にあわされたかもしれない。それではシンジの犠牲が無駄になるから」
「それなのに、そこまで耐えていたのに、ユウジ君を奪われた」
「女神として祭り上げられるのは本意ではなかったわ。でもこう考えようとしてみた、私がシンジを見殺しにして、ユウジまでも奪われるのは、私に力が無かったから。なら力を持てばいい。人を動かせるようなそんな力を持てば、失った物を少しづつでも取り返せると。だから受け入れたの。利用されたようにみせてこの状況を利用するのだと。幸いな事に頼もしい相棒が身近にいたしね。女神の側には、策にたけた魔女がいたから」
相変わらずだが、随分な言い草だ。考えてみたら私はいつから魔女呼ばわりされていたのだろうか。ひょっとしたら、いや間違いないだろう、最初に言い出したのはアスカに違いない。だとしたら、アスカは最初から私の本性を見抜いていたのかも。でっその上で私に協力を求めてきたという事か。
「全てを失っていた。女神などという役をむりやり演じさせられるだけで、結局は私そのものまで失っていた。だからもう何も怖い物はなかったわ。マナがどんな女だろうと関係なかった。利用できればそれでいい」
「アスカはネルフの復興を言い始めた。みんな驚いたわ。あのネルフをまた蘇らせるだなんて」
「そこはそれ、魔女さんがいい方法を考えてくれたから。旧ネルフを糾弾することから始めて、そして新しい生まれ変わったネルフとアピールする。やはり復興の為には分かり易い形は必要だったし。そもそもネルフとはセカンドインパクト後の時も人類の救済が目的だった。それが人類補完計画というカルト宗教的な発想を主催者が持った為に誤ったと。だから私なら、正しいネルフを作れるってね」
「そう言いながら、実はアスカは、やはり先代と同じだったと」
アスカは、そう私が言うとにやりと笑みを浮かべた。どこか自嘲気味にも見えたが。
あの頃、私は終始アスカの監視を命ぜられていた。ただどこか私の中にもシンジの事とかで釈然としない物があったのだろう。進められていた、シンジのクローン開発にも疑問を持っていたし。
「ネオ・ゼーレみたいな怪しげな組織が国連とか軍の年配者を中心に作られていて、しかもネルフという発想はなくても、E計画は進められていた。追放した筈のシンジのDNAを利用して」
「旧ゼーレが隠し持っていた古文書が発見されていてね。中身はいかれた文章がほとんどだったんだけど、中には復興の為に役立ちそうな事も書かれていたのよ。そいうのを採用しようと彼らは思ったのね」
「女神と言われる立場なんだから、私にも読ませてよ。そんな風にお願いしてみたら、あっさりと許可が出たわ。興味あったのは、もちろんE計画でも、シンジのDNAを利用するクローン計画でもなかった」
「碇ゲンドウと同じ所を、普通の人は見向きもしない、いかれた文章の方に傾倒していったわけね。境遇は同じだったし。愛する伴侶と息子を奪われていて、それを取り戻したいという願いを秘めた境遇が」
「だからネルフ復興を思い立ったのよ。そして表だっては、旧ネルフみたいにはしないと言いつつも、実は碇司令のやった事をなぞる事を目的にして。みんな私の本音には気づかずに、嬉々として私の呼びかけに応えて集まってきたわ。マヤも、鈴原も・・・他のみんなもね」
「みんながみんな騙されてた訳じゃないのよ。アスカの魂胆に気づいてた人は私を含めて何人かいたわ。でもなんとなく方向性は間違っていないと思っていた。だから、碇司令みたいに暴走させなければ、今度はちゃんとした鈴をつければ、惣流司令を逆に上手く利用出来るかもと・・・そう考えてただけよ」
アスカはちょっと不機嫌そうな顔を浮かべたけど、直ぐに表情を落ち着かせた。
「その鈴がマナだったのね。しかも加持さんと違って、そうとうに性質の悪い鈴だったわ。ユウジを取り戻す事は出来た。なのに、ユウジはやがて私を憎むようになって、私の元から逃げ出した。私はユウジを“よりしろ”にするつもりではなかったけど、側に置いておきたかったのに・・・それなのにあなたは、ファーストの分身みたいな女の子を連れてきて、ユウジが座るべきポストに、その女の子桐山アヅサを座らせた。自分のクローンを利用するだなんて悪趣味でね」
「アヅサは私のクローンではありません」
「あなたとシンジの娘だと言いたいの?、でもそんなの・・・」
何か言いかけたようだが、私が顔を険しくしてたのを見たからだろうか、アスカはいったん言葉を止めて
「桐山を愛していたのね・・・」
そう呟いた。私は無言だったが、アスカを見る視線で肯定の意味を伝えた。
「ごめんなさい、でも私にとってはユウジが全てだったのよ。マナが独房にこもったりするからいけないのよ。策士が策に溺れて失敗をする、その犠牲に桐山はなった事になるわね」
まったく、ユウジ君の事になったら、アスカは冷静さを無くしてとんでもない暴言を吐く。今の私にそういう事を言ったら、どういう目に遭うかなんて考えられないのだろうか?考えられないのだろう。しかし私にはアスカの言葉を否定する事も出来ない。何故なら、その通りだから、そうアヅサを失ったのは、全て私の責任なのだ。今まで全てに嘘をついて生きてきた。自分すらも騙してきた。その罰が下されたのだ。
「あなたに命を狙われるかもしれないとは覚悟してたわ。でもまさか・・・」
急にアスカが言葉を詰まらせた。思い出したのだろう、あの事を・・・
私はアヅサを失うという罰を受けた。しかしそれ以上の罰をアスカも受けたのだ。生死ではなく、完全に息子を失うという、これ以上無い厳しい罰を。
私は身体を震わせてベッドの上で泣き出した。後から後から涙が零れつづける。さっきまで見てた夢では桐山の前で泣いたけど、今度はマナの前で子供の様に泣き続けた。両手で目を覆って、しゃくりあげて泣き喚いていた。
マナは黙ってそんな私の側にいてくれた。だから我慢なんてしなかった。桐山を失ったマナの悲しみの分まで泣こうと思ったから。
しばらくしてようやく私は泣き止んだ。別にユウジを失ったわけではない。ユウジはまだ無事なんだから。少し前の状態に戻っただけ。いつかはわかってくれる筈。いつかは親子としてまた抱き合える時が来る筈だから。
そう、碇ゲンドウのやってきたことを繰り返していけば、しかも彼みたいに間違えなければ、シンジをも取り戻す事が出来て、親子三人で暮らすそんな夢が実現する筈。
だからいつまでもベッドに寝ているわけにいかない。そろそろ次の使徒が現れる頃だ。最強の使徒が。
「倉田に、あいつが倒せるかしら・・・」
そう呟くと、マナが不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「あいつって?」
「第十四使徒よ。かつてのあいつは、零号機も弐号機も瞬殺し、シンジの初号機ですらも覚醒するまではボコボコにしたのよ。倉田がいくらシンクロ率を上げたからって、そう簡単には」
「その心配は無いわ」
マナは意味は理解したのだろけど、はーっ溜息をついてそう答えた。今度は私が尋ねる番だ。
「どうして心配が無いのよ」
「ねえアスカ、かつて使徒がネルフに攻めてきたのは何故だかわかってる?」
どこか教師が出来の悪い生徒に噛み砕いて説明するかの様な口調に、私はむっとしながらも答える。
「ターミナルドグマに捕らえてあった、第一使徒アダムを狙ってきたんでしょ」
「じゃあ今回は?」
「だから、今回も・・・・・・あれ?」
「アスカはアダムを見たの?」
ふと考える。そうだ、私はアダムを見てはいない。だい一、パイロットの頃も見せてもらった事はないんだ。えっ!?それじゃあどうして私は計画が進んでいると、使徒が攻めてくると信じていたの?
「目的の為にしゃにむに行動を起こしているうちに、その行動が全てになって目的の本筋を見誤っていた」
「そんな筈ない。私は碇司令のやったように・・・えっ?ちょっと待って、そもそも、アダムのサンプルを加持さんが持ってくる前から、南極に行ってロンギヌスの槍を持ってくる前から使徒は攻めてきていた」
「そう、使徒がアダムを求めてきたのは事実。でもそのアダムはターミナルドグマにいた白い巨人ではないわ。あれはサンプルだもの。本体は・・・いえ、こう言うべきね。使徒が求めた対象、インパクトを起こす恐れのある、使徒が目標としたアダムの魂は他にあったのよ。不思議な偶然ね。計画を立案して進めていた筈の初代司令碇ゲンドウも、二代目司令惣流アスカもどこかで勘違いしていたのよ」
何を・・・何を、マナは言ってるの。なんかその先を聞きたくない。
「使徒が本当に寄ってきた対象は、あの白い巨人ではない。アダムの魂はあそこにはなかったから」
嫌だ、聞きたくない。
「アダムの魂は・・・」
「やめて!!」
思わず私は叫んでしまった。でもマナは非情にも淡々と結論を語った。
「かつては、綾波レイ・・・そして今回は、桐山アヅサ・・・」
頭が真っ白になる
「だから今回の使徒の来襲は、アヅサが連れて来たものだったのよ。アヅサがパイロットとして初号機を思うままに操れるようになって、そしてアルカに行って、アヅサが正八面体の使徒から最初に連れて来たの」
「それじゃあ・・・」
「勘違いして白い巨人に近づいたお間抜けな使徒は、第十七使徒の少年だけよ。もう使徒は現れない。何故なら、アヅサを無事彼らは取り込んだもの」
私の夢は・・・
「計画は終了したわ。アヅサは多分今頃他の使徒達と、綾波レイといっしょにいる。こことは違うどこかで。そう全て・・・GAME OVER。私も最近知ったわ、この事を。私のPCにアヅサが残したメッセージでね」
マナの最後通告は、私にとって死刑宣告にも等しい物だった。