「失礼します」
扉を閉めて部屋から出てきた少女の顔は心なしか寂し気に見えた。
なにか大切なものを失ってしまったかのような、そんな空ろな目をした少女の元に、二人の少年の声が近づく駆け足とともにかけられた。
「マナ」
「マナ」
「ムサシ・・・ケイタ・・・」
「パイロットを辞めるって、ほんとなの」
「うん。もうこれ以上身体がもたないみたい。ドクターストップていうやつ」
「でも、ロボットがここまで完成してきているのは、マナのおかげじゃないか。これからどうなるんだよ。一番大切な時にきているのに」
「大丈夫よ。プロトタイプのトライデントは、ムサシ!あなたが完成させるのよ。それに、続く2号機目は、ケイタの役目なんだからね」
「えっ、僕が・・・」
「そう、あなたももう私の所に逃げてばっかりじゃすまなくなってきたんだからね」
「・・・・・・」
「マナは、これからどうするんだよ・・・どうなるの・・・」
「心配無用よ。私の方は、明日より戦自の諜報部の配属が決まったわ。やっぱり、この私には肉体労働より頭脳労働ってことかしらね」
「・・・・・・」
「そういう訳だから、もうあなた達とも今迄みたいには会えなくなるわね。残念だけど、諜報部員というのは、必要な時は仲間でも欺かなければならないんだから」
「マナぁ・・・」
「もう、ケイタったらすぐ泣くんだから。男でしょ」
「マナ、本当に大丈夫なんだね」
「心配しないでムサシ・・・ありがとう。私もなんとか上手くやっていくから、あなた達もこれから頑張ってね」
そうよ、私はこんな所で死ぬわけにはいかない。
どんな事があっても生きのびてみせるんだから・・・
鋼鉄の少女戦士マナ (後編)
いつもと同じ平和な授業風景。
おだやかな日常。
しかしそれは、少女の一声から急変する。
「見て窓の外!」
「なんやあれ?」
「軍のトレーラーだ」
「うしろのあれ、人じゃない?」
「マナ!」
シンジはかけ声とともに教室を飛び出した。
トウジとケンスケも彼につづく。
「マナ!」
「シンジ!」
「どうして檻なんかに!」
「シンジ、気を付けて!」
必死にかけよるシンジと後の二人だったが、トレーラーが走りだしやがて少女の姿は見えなくなっていった。
気が動転して、少女の名前をわめくだけの状態になっていたシンジを、トウジとケンスケはやっと落着かせ、少女を乗せたトレーラーの行き先と推測される、芦ノ湖周辺が見渡せる高台へと三人でむかった。
どうしてトレーラーの行き先がわかるかというと、ケンスケの持つ戦自の情報網に対するハッキング力がここでおおいに役立ったという事だろう。
ケンスケの読み通り、マナを乗せたトレーラーは芦ノ湖湖畔の道路沿いに見つかった。
シンジは二人の協力もあって、なんとかマナの側に近づくことが出来た。
「マナ!」
「シンジ!来てくれたのね、うれしい」
「今、開けるから」
「鍵がなければだめよ。私は湖からロボットをおびき寄せるための囮だから」
「囮って・・・」
「ロボットのパイロットの名前はムサシ。私の親友。私がここでおびき寄せれば国連軍だって無理をしないはずよ」
「危険だよマナ」
「ムサシを助けたいの」
「・・・・・・」
「シンジ・・・あのね・・・私、あなたに隠していた事があるの」
「なんだいマナ」
「私は、エヴァ初号機パイロット碇シンジの身辺を調査し、戦自の軍用ロボットの技術に転用するための、軍のスパイなの・・・あなたに近づいたのは、その目的のため・・・」
「うっ・・嘘だろ!マナ」
「嘘じゃないわ」
「・・・・・・」
「シンジ・・・」
「マナも僕のことを裏切っていたんだね」
「シンジ・・・ごめんなさい」
「どうして・・どうして今更そんな事を僕にばらすんだよ。騙すつもりだったんなら、そのまま黙って騙しつづけてくれればいいのに」
「シンジの事が本当に好きになったから・・・シンジに嘘をつきたくなくなったから・・・」
「・・・・・・」
「本当よ。信じてもらえなくても当然だと思うけど・・・この気持ちは嘘じゃない・・・」
「勝手だよ・・・酷いよ・・・そんなのないよ」
「ごめんなさい・・・もう、あなたの側には現れないわ・・・さようなら」
「待ってよ!マナ!」
「シンジ・・・」
「行かないでよ、僕を一人にしないでよ・・・僕を捨てないでよ」
「シンジ」
「マナは僕の事が好きなんだろ。信じていいんだろ。だったら他のことは関係ないよ・・関係ない。だから、お願いだから僕の側にいてよ。さよならなんて・・・そんな寂しいこといわないでよ」
「シンジ」
湖よりロボットが出現した。迎え撃つ軍の戦車部隊。
シンジは、トレーラーの前に到着したミサトの車に乗ってネルフへ向かった。
そして、アスカ、レイとともにエヴァに乗り込み発進準備をする。
ケージにミサトの声が響いた。
「これは救出作戦よ。みんなで協力してロボットの暴走を押え込み、停止させるの。もし失敗したら、軍がロボットの頭上にN2爆雷を投下するわ。その時は中の少年も、捕らわれた少女も一緒に蒸発するでしょうね。つまり少年と少女の命が救えるかどうかは、あなた達次第よ」
「でもロボットが外輪山の外へ逃げ出したら、エヴァでは追えませんよ」
「その時はアンビリカル・ケーブルを切り離して全速力で追って。内部電源が切れてもかまわない」
「電源が切れたら終わりじゃないのよ」
「各機、発射口へ急いで!」
「ミサト、例のペンダントの結果がでたわよ」
「結果は?」
「あの子は黒よ。こんなちゃちな盗聴器付きペンダント、調べるまでもなかったわ」
「どういうこと」
「結局はあの子も、戦自に見捨てられていたってことかしらね」
「どういうつもりなのよ」
「戦自にしたら、私達にプレッシャーをかけるつもりだったのかしら」
「碇司令、後はどのように処置をしたら良いのでしょうか。シンジ君のこともありますし」
「赤木博士、ペンダントは元の様にしてシンジに返しておけ。あの小娘の事も、しばらく泳がせて好きに調べさせるがいい」
「よろしいのですか」
「かまわん。あの愚かな連中に、ネルフに刃向かっても無駄だという事を教えてやるが良いだろう」
「リツコ、ペンダントが直ったらそれをシンジ君に渡す役目、私にやらせてくれない」
「いいわよ。けどミサト、シンジ君にどう言って渡すつもりなの」
「もちろん、あの子は白よって言うつもりよ。そしてあの娘を信じて守ってあげてね・・と言うわ」
「そう・・・」
ロボットはマナが入っている檻をつかみながら暴れまわっていた。
初号機で近づこうとしたシンジは、その光景を見るとうろたえるだけで動けなくなっていた。
ミサトはその姿を見て決断する。
「アスカ、聴いてる?」
「お呼びがかかると思ったわよ」
「OK!合図したらロボットの横っ腹に突っ込んで」
「シンジの彼女が大怪我するけどいいわね」
「他に方法はないのよ、お願いね」
「任せてよ・・・」
「霧島さん、あのバカシンジに正体をばらしたんだって。あいつ落ち込んでたわよ」
「仕方がなかったの。これ以上シンジに嘘をつきたくなかった。それにアスカさんも含め何人かは、私の事もう知っていたんでしょ」
「まあね、ミエミエだったし。あんただって承知の上で動いてるんだと思っていたわ」
「私、シンジだけでなくアスカさん・・あなたに会えて良かったと思っているわ。なんかアスカさんの事、とても身近に感じられて。エヴァのエースパイロットであるあなたの事、個人的にもっと知りたかった。私はそっち方面では戦自の落伍者だったから」
「それって、どういうこと?」
「私は元々、戦自が新開発したロボットのプロトタイプのパイロットだったの。でも実験を重ねる中、振動で内臓をやられちゃって、その役目を外されちゃったわ。あれだけの軍の機密に触れていた人間なんだから、本来は生きて外には出られないところなんだけど、諜報部に配属、つまりスパイになる事でなんとか今迄生き長らえる事ができたという訳なの」
「そうだったの・・・でもあんたにもお父さん、お母さんがいるんでしょ。会いたいと思う事はなかったの」
「・・・・・・」
「そのことについては無言か・・・まあいいけどね。あまり考えたくもないってとこみたいね」
「ごめんなさい、アスカさん・・・あの、アスカさんの御両親はどうされているんですか」
「私の本当のお母さんは、この私を道連れにして死んでしまったわ」
「えっ」
「それにお父さんも・・・本当のお父さんの事は良くわからないの。精子バンクの中の特に優秀な天才科学者だったという事しか知らないしね」
「・・・・・・」
「つまり実際の所、この天才美少女アスカ様は天外孤独!・・というとこかしら、あはは」
「・・・なんだ、私と同じだったのね」
マナが入っている檻を抱えながら、外輪山を超えて逃走するロボット。
エヴァ3機ともアンビリカル・ケーブルを切り離しながら必死に追ったが、ロボットのスピードは速く、捕まえる事が出来ない。
やがて先頭になって追っていた初号機の内部電源が切れ活動を停止する。
するとなぜかロボットも逃げるのを止め、その場で停止。マナの入っている檻を地面に降ろした。
エントリープラグをエジェクトし、外にとびだすシンジ。
N2爆雷をつんだ爆撃機が頭上にせまり、発令所は騒然となってきた。
「初号機の上に爆撃機を確認」
「爆撃中止!急いで通達して!」
「いかん!まずいぞ!」
「レイ!初号機をかついでその場から逃げろ」
「了解」
「アスカ!聞いてる?アスカ!」
「だめです!弐号機エントリープラグもエジェクトされています」
「中止が間に合いません。N2爆雷が投下されます」
「なんてこった・・・」
「碇司令、戦自の目的が変わっています。彼等は霧島マナを囮につかって、エヴァ初号機をシンジ君もろとも、N2爆雷を使ってすべて消滅させてしまうつもりです」
「馬鹿な奴等だ、エヴァがN2爆雷ごときで消滅させられると思っているのか。好きなようにやらせろ」
「確かに、エヴァは、シンジ君は大丈夫でしょう。しかしロボットと囮の彼女は・・・」
「我々には関係のないことだ。ご苦労であった、もう下がってよい」
「はい」
確かに司令の言う通りだ。でも確かあのロボットにも脱出用の緊急カプセルがあったはずだ。だがそれは一人用だったはず・・・まさか!マナ、死ぬ気か・・・