久しぶりに先生に会えた

先生は俺が小さかった子供の頃と同じで

とても綺麗だった

俺はあの時言えなかった事を言った

「先生ありがとう・・・そして好きです!!」

「志貴・・・」

「遠野志貴は、蒼崎青子先生をあの時からずっと好きでした」

「嬉しいわ、私も君の事が好きよ。無様な姉貴の所から魔眼つぶしの眼鏡をぱくった甲斐があったわ」

「先生!!」

「お姉さんが、大人の女のカラダというものを教えてあげる」

夢みたいだ、先生が俺の事を・・・ああ、先生の指が俺の大事な所を・・・

「忘れさせてあげる。吸血鬼の事も、お尻の事も、無い乳の事も、タナトスの事も・・・うふふ」

あああ、わからない

何もわからない

俺はもう青子先生の虜になってしまうのか・・・

「あはっ・・・出しちゃえ!!」

え!?

 

 

 

 

 


夢から覚めて

チキチキ十番勝負って何?
作/柴レイ


 

 

 

 

 

目が覚めると、いつもの自分の部屋で、俺はあたりまえだが一人でベッドに寝ていた。レンは布団の中で丸くなっている。そういえば、昨晩久しぶりに夢魔をお願いしたんだっけ。お蔭でいい夢が見れたな。自分でも顔がにやけてるのがわかる。息子は朝から絶好調のようだ。ここはレンにご褒美をあげないと・・・

等と邪な考えに浸っていると、不意にどこか苛立ち気味の声が聞こえた。

「志貴さま、お目覚めでしたら、早く仕度をしてください」

翡翠だ。声にも視線にも刺がある。何拗ねてるんだろう。メイドとしては生意気ではないのか?でも、その拗ねた顔も可愛いから許してあげよう。うん、たまには翡翠にもかまってあげないとな。

「秋葉さまが食堂でお待ちです。今日はせっかくの連休初日、先ずは兄妹水入らずで朝食をとりましょうと決めたのではないのですか。志貴さまも、翡翠と姉さんも一緒に食べようと言ってくれたではないのですか。よもやお忘れなのですか。だから姉さんも張り切って普段より早起きして、腕によりをかけた朝食を作ったのです・・・まぁ、あんな姉さんなんてどおでもいいですが」

なんだろう・・・アルクェイドが性懲りもなく部屋に乱入してレンに返り討ちにあったあの時以来、どうも翡翠の機嫌が悪いなぁ。琥珀さんとも仲悪そうだし。

「秋葉さまがお待ちです。早くしてください」

はいはい、わかりましたよ。

俺は一つ大きな伸びをした後、だらだらとした仕草で布団から這い出した。もちろん息子が大人しくなる時間を的確に計算した上での事だけどな。

「それでは下でお待ちしています」

翡翠は着替えをベットの傍に置いて、ペコっとお辞儀をした後、くるっと背中を向けて退室しようとした。俺はそんな翡翠にむかって

「翡翠・・・」

努めてやんわりと名前を呼びかける。翡翠の背中がぴくっと動く、そしてなんでしょうかと振り返った。

「いつもありがとうな、翡翠にはホント感謝してるよ。俺は毎朝翡翠の顔を見るのが楽しみで、目覚めるんだ」

窓から射し込む朝陽を上手く白い歯に反射させて、俺はそう言って、ニコっと微笑んで見せた。翡翠の顔がぼっと赤く染まる。そして下を向いてしまった。そして声を裏返らせながら

「志貴さま付のメイドとして当然の事です。それにわたしも志貴さまのお顔を・・・」

可愛いなぁもう!!

俺はそんな翡翠をとりあえず抱きしめてあげようと思って、近づこうとしたが

痛てっ

黒猫姿のレンが右足を引っかいてきた。ったく・・・邪魔しやがって、こいつ

まあな、モテル男は辛いよ! あはははっ

俺はじゃれつくレンを右手に抱きかかえ、そして翡翠の肩を左手で抱きながら、歩き出した。

「あの・・・着替えは・・・」

「かまうもんか。考えてみれば屋敷内なんだし、このままでいいんだよ。だいたい秋葉が細かすぎるんだ」

俺は、でもとか言う翡翠を更に強く抱き寄せながら部屋を出て、余裕の笑みを浮かべながら、居間から食堂へと歩いていこうとしが・・・

「なんですか!!その格好は、兄さん!!」

「わぁ・・・ごめんなさい」

居間で待ち構えていた秋葉が瞬時に髪を赤く染めて怒鳴ってきた。俺はその勢いに縮みあがって、即座に翡翠とレンを離し、床に額をつけて謝った。そして着替えますと言ったのだが

「待ちなさい!!今日という今日は堪忍袋が完全に破裂しました。ええ、許せませんわ。兄さん、座ってください」

「いや・・・既に土下座してるんですが、秋葉さん」

「おだまり!!」

「ひいい・・・ごっご勘弁を」

それから延々と秋葉の説教が続いた。思えばもう朝の10時を回っていた、つまり相当に、朝食をいっしょに食べようと待っていた秋葉を待たした訳だ。これはもう嵐が過ぎ去るのをひたすら待つしかない。

「だいたい兄さんはですね、遠野家の長男としての自覚が!!」

「相変わらずの自堕落な生活態度、恥ずかしいとは思わないのですか!!」

「可愛い妹を毎日毎日待たせて、それでも兄ですか、酷い仕打ちだと思いませんか!!」

「いったいそんなに寝過ごしてどんな夢を見てたんですか?」

「ナニの夢とかさ・・・」

「何ですって!!」

「何でもありません・・・もう許して・・・」

助けてくれ!!俺は終わる事の無い嵐にもう震えてるだけで、消耗していった。このままでは、自我が崩壊してしまう。そんなかわいそうな俺にようやく救いの手が差し伸べられた。

「秋葉さま、もうそれくらいで」

翡翠だ。それでも秋葉は翡翠の方も睨みつけて何か言おうとしたが

「志貴さまは充分に反省しています。だからこれ以上お怒りになるのはおやめください。わたしは・・・わたしはもう志貴さまがこれ以上お苦しみになられるのを見ていられません」

目に涙を浮かべながら、翡翠は俺と秋葉の前に立ふさがってそう言った。流石の秋葉も少々怯んだようだ。そこにすかさず

「あはー、朝食を再び温め直しましたよ。早く食べに来てくださいな」

琥珀さんが、天使の笑顔で秋葉に語りかけてくれた。

「でっでも・・・兄さんが・・・」

秋葉はそれでも言い足りなさそうだったが、翡翠の涙ながらの訴えと琥珀さんの天真爛漫の笑顔で、渋々と矛を収めてくれた。ありがとう二人とも、君らは俺の命の恩人だよ。

食堂では、琥珀さんの素敵な食事のお蔭もあり、穏やかな団欒となった。秋葉もようやく怒りが静まったのか、時より笑顔を浮かべてみんなとの会話を楽しんでくれた。こうして遠野家の朝食はだいぶ遅れてしまったが、それでもとても充実した物になった。うん、こういうのもたまにはいいもんだよな。明日からは出来るだけ早起きを心がけてみようかと思う。

 

 

 

 

 

その日の午後、俺は部屋でのんびりと休日を満喫していた。仕事がありますのでと断った翡翠を、無理を言って部屋に呼び、レンへミルクを与えるのを頼んだ。ぴちゃぴちゃと美味しそうにミルクをなめるレンと、そんなレンの頭をなでて微笑む翡翠。

レンも、遠野家では翡翠にだけはよく懐いていた。秋葉には妙に怖がって近づこうともしなかったし、琥珀さんにいたっては、ふぅーと髪を逆立てて威嚇の態度を示したくらいなのに。

ちなみに秋葉はふんと怒って横を向いてしまい、それでも横目にレンを見やりながら、 「猫さん・・・」 と、どこぞの陸上部長さんみたいに寂しそうに呟いた。

一方琥珀さんはにこにこしながら、サーモンと玉葱のマリネをあげようとしたのに、レンはぷいっと横を向いて食べようとしなかった。猫は雑食性と聞いてたし、それにとても美味しそうに見えたのに不思議だ。琥珀さんが笑顔を保ちながらも、 「ちっ」 と舌打ちしたのも不思議だったが。それ以来レンは琥珀さんの用意してくれる食事を食べようとはせず、もっぱら俺か翡翠からのミルクとか既製品の缶詰しか食べようとしなかった。

そんな訳で、今朝のみんなとの朝食の際も、レンだけはやっぱり何も食べずにいたし。それを俺だけではなく翡翠も気の毒そうにながめていた。だからレンの為にミルクをと言えば、翡翠は承知してくれると思ったし、その通りに仕事をさっと切り上げて、今こうして俺の前でレンを可愛がってくれていた。

気品のある黒猫を優しく撫でる美少女。う〜ん、感動的な光景だ。そんな俺の視線に気づいた翡翠が幸せそうな表情を浮かべて微笑んでくる。俺はちょっとドキっとしてしまった。顔も赤らめてしまったように感じる。あわててそれを取り繕おうと喋りだした。

「しかしなぁ・・・どうしてレンは琥珀さんが用意する食事を食べないのかな」

翡翠は、俺とレンを交互に見ながらポツリと

「わたしにはわかる。あのマッド・アンバーには油断ならないもの」

よく意味がわからない。翡翠はそれ以上は言わずに、急に黙り込んだ。しばらく沈黙が流れる。俺はそんなのは嫌だったので、話題を変えてまた翡翠に話しかけた。

「今朝もごめんな。どうにもこうにも俺は朝に弱くってな」

自嘲気味にそう言うと、翡翠は笑顔を取り戻して、もう慣れましたと答えてくれた。そして

「失礼ですが、志貴さまの寝顔をながめるのも実は嫌いではありません。時にはとても楽しそうに、気持ちよさそうな表情を浮かべていらっしゃいます。今朝もそうでした。いったいどのような夢を見ておられたのでしょうか・・・志貴さまがあんな表情を浮かべる夢の内容というのを知りたいです」

そう頬を赤らめながら言った。俺は再びドギマギしてしまう。翡翠はそんな俺を見て、くすりと笑った。俺は思わず顔をそむけて、そしてボソっと翡翠に問いかけた。

「翡翠だって夢は見るんだろ・・・」

翡翠は、えっと戸惑ったような声を発したが、直ぐに

「志貴さまとレンちゃんとこうして三人で穏やかな時間を過ごせる。そんな平凡でも、わたしにとっては幸せなひととき。それがわたしがいつも見たいと思っている夢です。でも・・・なかなか見る事が出来ません」

俺の目をまっすぐな瞳で見つめながら呟いた。

「翡翠!!」

「志貴さま」

俺はもう翡翠が愛しくて、思わず抱きしめてあげようとしたが、その時部屋のドアがトントンと叩かれた。

「翡翠ちゃん、秋葉さまがお呼びですよ」

琥珀さんの声だ。妙にタイミングが悪すぎ。翡翠は悲しそうな顔をしながら俺から離れて、はいと返事し、それではとお辞儀をして部屋から出て行った。あはーと言う、琥珀さんの乾いた笑い声と共に。

部屋には俺とレンだけになった。レンはポンと軽快な音を立て、人型に変化した。そしてベッドに座っていた俺の膝にちょこんと乗って、ジーと俺を見上げてきた。俺はそんなレンのおでこに軽くキスをして、そして語りかけた。

「なぁ〜レン。翡翠は本当のところ、どんな夢を見てるんだろうな」

レンは俺の目を見つめ続けている。言葉は返してこない。

「俺の夢を見てくれてるのだと俺としては嬉しいんだけど、そうだな・・・翡翠自身が見たいという夢を、幸せな気持ちになれる夢を見れるといいなぁ。そう思うだろ、レンも」

レンはこくんと頷いた。ここで俺はある事がひらめいた。レンの両肩に手をやり、その俺だけを映し出してる瞳を見つめながら

「翡翠の為に、あいつが喜ぶような夢をみせてやってくれないか」

レンに頼んでみた。それは俺のなんの偽りも無い本心だった。午前中助けてくれただけでなく、いつもいつも俺の事を一途に想ってくれる翡翠が愛しくって、そう願わずにいられなかったからだ。

レンはしばらく俺を見つめていたが、やがてニコっと笑って、そして再びポンと黒猫に変化し、膝から飛び降りて部屋の外に出て行った。俺は暖かい気持ちになりつつ、レン頼むぞと一人呟いていた。

 

 

 

 

 

その晩は、俺はなんの夢もみなかった。そういえば、あれ以来アルクェイドのやつは現れないな。何をしているのだろうか?お蔭で平穏な夜を過ごせるようになったがな・・・

目覚めは爽快だった。夢をみないくらいに深い眠りについていたからだろうか、多分まだかなり普段より早起きの筈なのに、俺はパチリと目を開けて、すっと上半身を起こした。すると目の前には、潤んだ瞳で俺を見つめる翡翠が立っていた。

「あっ・・・おはよう、翡翠」

俺はそう翡翠に語りかけたが、翡翠は潤んだ瞳から涙を一滴零して

「志貴さま・・・」

俺の名前を涙声で呼び駆け寄って来た。流石に俺も、そんな翡翠がほっておけなくなって

「どうしたんだ、翡翠。そんなに泣いたりして。何か辛い事でもあったのか」

と、心配そうに問いかけた。すると翡翠はブンブンと顔を横にふって、そして俺の胸に顔を埋めてきて泣き出した。

「おいおい、どうしたって言うんだ、翡翠」

俺は驚いて翡翠の顔を起こして、その涙に濡れた表情を見つめると、翡翠は流れる涙そのままに叫んだ。

「お慕いしています、志貴さま。わたしは・・・わたしは・・・志貴さまが大好きです。志貴さまを想うと、涙がとまりません。愛しています、心から愛しています。志貴さまぁ・・・・・ずっとずっとこの翡翠を傍においてください」

そこまで言うと、わーと声にならないくらいに泣き崩れて俺に抱きついてきた。

 

 

俺は・・・遠野志貴は・・・完全に壊れた・・・

 

 

「翡翠!!」

「志貴さまぁ!!」

 

翡翠を固く抱きしめるとそのままベッドに倒れこんだ。気がふれたようにお互い唇を求め・・・

 

・・・俺は強引に指を舐め続ける翡翠を引き離し、四つんばいにさせると、再び猛り狂った・・・

18禁モードに入りますので、自粛します(__)

・・・頭が真っ白になった。そんな中翡翠の絶叫だけが聞える。我慢の限界だ。俺は・・・

 

・・・もう動けない。俺はそのまま気絶した翡翠を抱きながら深い眠りに落ちていった。

 

早起きした筈なのに、いつのまにか昼間になっていた。俺はいまだにベッドの中にいた。翡翠が俺の左腕を枕に、すやすや眠っている。幸せそうに満足しきった寝顔で。抱かれている間も零れ続けていた涙がようやく乾いていた。俺はそんな翡翠の閉じた目から頬にかけて残る涙の後を、そっと指でなぞってみた。ううん・・・と翡翠が、気持ちよさそうに反応する。俺は微笑みながら、そんな翡翠の唇にそっとキスをした。

ふと部屋の隅から、レンが黒猫の姿のまま、愛し合った若い二人を眺めているのに気がついた。俺はすぐに理解した。さっすがは、レンだな。みんなお前のお蔭か・・・ありがとうな。

俺は目でレンにお礼を言った。それが通じたのか、通じなかったのか、レンは黙って俺と翡翠を眺めていた。

しかし、そんなピロータイムはあっけなく終わりを告げる。

「兄さん、翡翠を知りませんか?琥珀が兄さんの部屋に向うのを見たとか言ってましたが・・・って!?」

秋葉が突然、ドアを勢いよく開けてきた。

「兄さん!!こっここ・・・これは!!」

「やっやぁ、おはよう・・・秋葉・・・」

「むにゃ、志貴さま・・・やっぱり、翡翠は志貴さまの指の方をなめたいです・・・」

「にゃあ〜」

「あはー」

 

 

 

秋葉覚醒・・・

 

 

 

俺はもはや翡翠とレンを守るだけで精一杯だった。

 

 

 

シキと弓塚がお花畑から楽しそうに俺を呼ぶ姿が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

意識が戻ると秋葉は、幼子のように大声で泣きじゃくっていた。翡翠は黙って立ちつくしていた。琥珀さんは、いつも通りの・・・いやそれ以上のキラキラとした笑顔で秋葉を慰めていた。

そのまま夜になり、秋葉はようやく泣き止んだが、それでもまだぐずるのを止めず、なんとか琥珀さんに支えられながら部屋を出て行った。翡翠は気まずそうな顔をしたまま、失礼しますと言って退出した。再び部屋には俺とレンだけになる。

人型のレンを膝に乗せて、俺は秋葉の事を心配そうに呟いていた。秋葉は、俺の名前を何度も何度も言いながら泣き崩れていた。そんな秋葉が、不憫に思えてきた。もはや口うるさい、遠野家の独裁者の面影はどこにもなかった。本当に不憫だ、ここまで俺を慕ってくれてるのに、俺はそれに答えてやれない。それが残念だった。

「せめて・・・秋葉にいい夢だけでもみせてやってくれないか・・・」

再び、俺の本心からの願いだった。レンは、こくんと頷いて黒猫の姿で部屋から出て行った。

「頼むぞ・・・」

俺は立ち去るレンの姿を見ながらそう呟いた。そして布団を被って寝る事にした。

頭では、何故か邪な妄想が浮かんできた。朝起きると、秋葉が一糸まとわぬ姿で、俺の名前を呼びながら抱きついてくるのを。そして翡翠も秋葉に負けてなるものかと、猫耳を装備して・・・・・・おお、鼻血で布団を汚してしまったい。

 

 

 

そして次の日の朝、その妄想はそれよりも数倍パワーアップした形で実現した。

 

 

 

ザ・タナトス・秋葉&翡翠バージョン!!

 

 

 

がははは!!秋葉、翡翠!!たっぷりと可愛がってやるけんのぉ!!

 

 

 

 

 

ベッドですやすやと眠る秋葉と翡翠の二人を残して、俺は部屋の外に出て屋敷の中庭へと歩いていった。腰がふらふらする。流石の絶倫大魔王遠野志貴を持っても、かなり消耗したな。まだ昼間なのに、太陽がやけに黄色く見えやがるぜ。

そんな俺の目に、鼻歌を歌いながら中庭を掃除する、和服姿の美少女が写った。月姫のラスボス、諸悪の根源、割烹着の悪魔、最凶のオートマータ、ザ・マジカル・アンバー琥珀さんではないか!!

「あはー、なんかとても失礼な事を考えてませんか?」

「そんな事はないぞ」

そうだな、やっぱり最後は琥珀さんだよな。琥珀さんを落としてこそ、真の月姫マスターとなれるんだもんな。

「まっ・・・いいでしょう。ところで志貴さん、随分とおやつれですが、それでもたいそう充実したお顔をなさっているのですね。すっかり緩みきってますよ」

あのいつも変わらぬ笑顔を、俺への恋焦がれる想いでくしゃくしゃにしてやりたい。

「いえ、まだ満足しきれてません」

俺はあえて、自信ありげにかっこつけてみた。琥珀さんはくすくすと笑っている。

「翡翠ちゃんに、秋葉さままでが志貴さんにメロメロになったというのに、満足出来ないのですか。ふむぅ・・・随分と欲張りなヒトなんですね、志貴さんは。困ったおヒト」

余裕だな、琥珀さん。でも、その余裕の仮面が脆くも剥がれ落ちた時のあなたを見るのが楽しみだな。

「当然じゃないですか、あなたは意地悪な人だ。俺のこの気持ちを知っている癖に」

「ふえー」

「まったく、男の心を捕らえて離さない怪しくも危険な魅力を持ち続ける、処女に少女に娼婦に淑女・・・ハウメニーいい顔。琥珀さん、俺はあなたの心を虜にするまでは、決して満たされないのです」

「はえー、琥珀は少し頭の悪い普通の女の子ですよ」

「キャラクターが違います。確かに似てるけど」

琥珀さんは、ケタケタと笑う。やっぱり唯の色仕掛けでは、この小悪魔はびくともしないのか。益々ふつふつと闘志が湧いてくるぜ。何故お前は山を登るのか、それはそこに高く険しい山があるからだ。何故お前は難しい女を狙うのか、それはその女を落とすのが極上の醍醐味だからさ。

「お〜い、志貴さ〜ん帰ってきてくださ〜い・・・」

失礼にも、既に秋葉と翡翠を攻略した俺をまるで可哀相な物を見るような目で見やがって、ガッデム!!今に見てろ、俺には夢魔という絶対的な切り札があるんだからな。あははははは・・・・・・

「琥珀さん!!」

「きゃあ!!」

俺は、俺の顔の前を右手のひらで振っていた琥珀さんの両肩をがしっと抱いて、顔をずいっと近づけ、力強く自信満々に宣言した。

「明日の朝陽が昇る時、琥珀さん・・・あなたは、遠野志貴無しでは生きていけない、か弱い女の子になるでしょう。その時は、秋葉や翡翠に負けないくらいに可愛がってあげるから。ではさらばだ!!」

「はっはい、さらばです・・・」

きょとんとして答えた琥珀さんを中庭に残して、俺は笑いながら立ち去っていった。

 

 

 

 

 

「レン!!」

俺は人型の黒衣の美少女に向って、血走った目でうったえかけていた。

・・・・・・

レンはどこか不機嫌そうな目をして俺を見つめていたが、それでも俺が言う事を黙って聞いていた。

「そういう訳で、あのマジカル・アンバーを箒から俺の懐に墜落させてやりたいんだ。頼む、これが最大の頼みだ。聞いてくれるよな、レンは俺の願いはなんだってかなえてくれるんだもんな」

レンは、すっと部屋のある隅っこを見つめた。俺がそこに視線あわすと、レンがいつも愛用しているミルク皿があった。それは毎日翡翠がミルクを入れてくれるお皿だ。レンはその皿を見た俺をじっと見つめてきた。

そうか、翡翠の気持ちはどうするのかと言いたいのか。だがな、今となってはそれは後回しだ。俺の欲望の対象は、琥珀さん完全攻略それ一点のみ!!翡翠も秋葉も・・・もちろんレンも、琥珀さん陥落後にまた気が向いたら相手をしてやる。さぁ〜早く行ってくれ。早くあの琥珀さんが俺にメロメロになるような、淫靡な夢の世界へトリップさせてきてくれ。

「ゴー!!ビューティフル・ドリーマー・レン!!」

レンは俺の叫びを、ジト目で見ていたが、やがてこくんと頷いて、黒猫の姿で飛び出していった。

 

 

 

さて・・・明日朝、琥珀さんはどんな風にメロメロになって、俺に抱きついてくるのかな。

 

 

 

 

 

「あはっ・・・出しちゃえ!!」

 

 

 

え!?

 

 

 

俺はぼんやりと目覚めた。また早起きをしてしまったのか・・・まだ薄暗い。

「何時だ?・・・こんなに早いんじゃ、まだ琥珀さんは来ないよな・・・えっと、時計は時計は?」

部屋が薄暗いもんだから、どこにあるのか探し出せない。面倒臭いなと思って、俺はベッドの枕の側にあるランプを灯そうと思って手を伸ばしたが・・・あれっ無いぞ。ん!?

寝ぼけ眼から、ごそごそと探し物をしてそれがなかなか見つからないので、すっかりと目が覚めてしまった。そして不意に気がついた。俺は自分のベッドには寝ていないという事を。なんと敷布団すらないマットレスの上で寝そべっていたのだった。

「ここはどこだ!!」

暗い・・・とても暗い。そして空気がひんやりとして肌寒い。おかしいぞ!ここは俺の部屋では無い!

「あはー」

ぞくぅ・・・

悪魔の声が聞こえる。それは前方の上の方から怪しいエコーとともに聞こえてきた。

かつんかつん・・・これは靴で石の階段を降りる音だ。

なんなんだそれは!!

 

しゅっ

 

蝋燭に一筋の火が灯った。

そして、変わらぬ笑顔の割烹着の悪魔が、鉄格子越しに見えた。

「なっ・・・なっ・・・なんでだよぉ・・・」

声が震える。身体も恐怖でぶるぶると震えていた。

「今日から、ずっと永遠にわたしが志貴さんを飼ってさしあげます」

琥珀さんが、楽しそうに笑いながら呟いた。

「なんでいきなりそんな事をするんだよ。俺がいったい何をしたと言うんだよ」

喚き散らす俺

「別に・・・志貴さんは何もしてません。ただ・・・わたしがこうしたくなっただけです」

琥珀さんの両手には、真紅の液体の注射器と、濃紺の液体の注射器が

「翡翠は?・・・秋葉は?・・・俺を心配して探しにくる筈だぞ!!」

目の前の悪魔がとても嬉しそうに微笑を浮かべた。

「昨晩、突如アルクェイドさんが襲ってきて、志貴さんをさらっていきましたと言ったら、翡翠ちゃんは泣きながら、秋葉さまは髪の毛を真っ赤に染めながら飛び出して行きましたよ。尚、ちなみにそのアルクェイドさんは、わたしの特製の薬をあの時注射しましたから、普通の人なら半年間は悶え苦しんでいる筈ですよね。あはーそういえば、前にシキ様がロアった後に、彼をここから出そうとして進入してきた、二十数名の死徒さん達がいましたが、みなさんこの注射をおみまいしたら、その後しばらく悶え苦しんだ後に灰となって消滅しましたね。どうも人外さんには、普通の人以上に危険な効果のある薬みたいですね。志貴さんに会わせてと突然訪ねてきた、ツインテールの女の子も苦しみながら逃げていきましたし、ただ身体がボロボロと崩れ始めてましたけど。あはは・・・アルクェイドさん・・・今頃大丈夫かしら・・・」

 

 

 

チクッ・・・ちゅーー

 

 

 

コノヒトハ、ナニヲイッテイルノダロウ

 

 

 

「夢を見たんです、志貴さん。とっても素敵な夢を」

 

 

 

チクッ・・・ちゅーー

 

 

 

セメテモウイチド、キレイナツキヲミタイ

 

 

 

「その夢のお蔭で、琥珀はやっと本物の琥珀になるきっかけをつかめたんです」

 

 

 

カラン・・・

 

 

 

ユメノオカゲ・・・

 

 

 

「志貴さん、これからあなたは、この琥珀無しでは生きていけない、か弱い男の子になるのですよ。シキ様、槙久さまの時以上にたっぷりと可愛がってあげますからね・・・くすくす」

 

 

 

 

 

地下室のドアが静かに閉じられた。そしてドアの外に出ていた一匹の黒猫が閉じたドアを見つめて

にゃあー

と、物悲しい声で泣いた。

 

 

 

 

 


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