ここに1台のワンボードコンピュータがある。
まだ「パーソナルコンピュータ」と言う言葉が無い時代のマシンであるが、
何かオーラさえ感じる。
前年(1975年)にリリースされたAltair、IMSAIと言った、動作をLED
点滅によって表示するMicro Computer(マイコン)と一線を隔する能力を
秘めている。 それらのマイコンと異なり、たった1枚のシンプルで搭載パーツも
少ないマザーボードで構成されている。見た目は簡素にもかかわらず
家庭用TVに出力でき、カセットインターフェースボードを1枚挿せば、
カセットテープを外部ストレージとして用いることが出来、Basicさえも
簡単に走らせることが可能なマシンである。
この世界初の個人向けのコンピュータは天才Stephen Gary Wozniak が
創造した傑作Apple1(正確にはApple Computer 1)である。
1976年当時200台程度しか作成されていないと言われるこのマシンは
後世にパーソナルコンピュータの始祖と呼称されるようになる。





Apple1のコンセプトはその後にリリースされるAPPLE IIによって昇華される。
そのためにAPPLE IIのプロトタイプと考えることが出来る。
 
基本的な仕様のほとんどが同じで、主な違いはグラフィックスモードの無い
モノクロテキスト出力、音声出力が無いこと、拡張スロットが1つしかない
ことで、ケースやキーボードや電源部を自分で調達しなければならないことも
違いと言えば違いである。
(Video出力のアプローチの仕方が実は大きく違っている。)

逆に6502と言うMOS TechnologyのCPUを使い、RAMにD-RAMを用い 
ているところやデータ出力手段を廉価でどこの家庭にもあるTV受像機に
したこと等基本コンセプトは既に同じである。



クリアケース納められたAPPLE 1のサイドビュー


 
ご存知のようにMacintoshがリリースされても売れ続けた超ロングセラーの 
APPLE IIシリーズであるが、それはこのAPPLE IIの完成度が高かったから
であることは論をまたない。AppleIIシリーズは16bitマシンのAppleIIGS
(CPUは6502の上位互換の65816)がリリースされ最終的にはMacと
同様のGUIまで備えてしまうのである。
(実は8bitのAppleIIe,//cにもGUI環境は容易に構築出来た。)

そう見てみると、Wozは1976年時点で今のパーソナルコンピュータ
の何たるかの全貌を具現化してしまっていたわけである。
Wozは単なる天才ではなく、神にも等しい存在と言っても
過言ではないだろう。
それが言い過ぎであれば神に選ばれし人と呼ぶこととしたい。
大袈裟ではなくてWozがいなければ、未だに我々はパーソナルコンピ
ュータを今のように容易に手にして自由に扱うことができず、
インターネットサーフィンも夢のまた夢だったかもしれない。



1980年代半ば以降のパーソナルコンピュータしか知らない方たちには
APPLE IIやApple1の先進性を理解しにくいと推察するので、
当時を振り返ってみよう。
 
その頃はコンピュータと言えばIBMをはじめとした大型汎用コンピュータ
くらいしかなく、人間とは隔絶された完全な空調設備を備えたマシンルームに
巨大なマシンが備え付けられており、データの入力をするために、
まず机上で十分に推敲した後に紙のパンチカードなどにデータを穿孔していく。
そしてそのカードを持って行きオペレータに依頼する。しばらくして答えが
リストに打ち出されて来る。もし間違えがあれがまた最初に戻って
パンチカードを作成してオペレータに依頼する。
と言った繰り返しが発生するわけで非常に無駄な時間が多かった。
一人でマシンを占有していつでも好きな時にキーボードからデータを入力し
て即座にその結果を見ることが出来る環境は当時は有り得なかったのである。

Altair,IMSAIでは、本格的に使おうとするとターミナルやコンソールやら
物凄い金額をかけてトータルなシステムを構築しなければまともな実用機に
はならず、一般の個人にとってはLEDの動きを見るためだけのおもちゃに
過ぎなかった。Apple1の先進性と比較すること自体ナンセンスである。

そう言えば、かのビルゲーツ(ウィリアム・ヘンリーゲイツ3世:本当は4世)
がAltair用にBasicを移植したが(創造ではなく単なる既存言語の移植)、
この時使ったのも紙の穿孔テープであった。
(スミソニアンあたりに展示されているようだが。)
Apple1なら手軽なカセットテープで済むのだが…




さてApple1自身の詳細を見ていこう。
よく箱やキーボードは無いのですか?と
聞かれることがあるが、当時のApple社の純正品は
このApple1のマザーボードとカセットインターフェース
カード、それにBasicTapeとマニュアルだけで
(しかもカセットインターフェース+BasicTapeは別売り)
キーボードやケースは自前で汎用品を使用していた。

それでもマザーボードが完成していたのでわずかな
半田付けをするだけできちんと完成した
パーソナルコンピュータとなる。

尚、電源は現在のようにスイッチングレギュレータでは
なく トランスを2個使って基板上のレギュレータで
+/-5Vと+/-12Vを生成する。
そのトランスだが、8〜10Volts AC (RMS)@3Aの
トランスと26〜28Volts AC(RMS)
Center-Tapped 1Aのトランスの2個が必要になる。

推奨されているメーカーとしては
(1)Triad F31-X とTriad F40-Xの組み合わせ
(2)Stancor #P-8380 とStancor #P-8667の
組み合わせの2種類である。

尚、私がApple1と一緒に手に入れたのは
Triad F31-XとTriad F40-Xの方である。
しかも新品の箱入りのものが送られてきた。
オーディオマニアが見ればTriad社のトランスは
UTCと並ぶ幻のトランスメーカーされていて今でも
マニアには垂涎の品だと言うことである。
(この他に当時のTVを改造したモニターも送られてきた。
これは米SANYO製である。)






これがカセットインターフェースカードである。
今のパーソナルコンピュータユーザーにとっては5inchフロッピーディスクでさえ
過去の遺物と思われているだろうが、マイコン黎明期はこのカセットテープが
個人レベルで使える一番身近なデータの外部入出力メディアであった。
当然AppleIIシリーズの大半の機種にも標準で装備されている。
このボードはApple1唯一の拡張用スロットに挿して使う。




 
次にマニュアルである。
マニュアルは「APPLE-1 OPERATION MANUAL 」と言うApple1本体に
付属するマニュアルと
「PRELIMINARY APPLE BASIC USERS MANUAL OCTOBER 1976」
と言うBasicTape+カセットインターフェースに付属するマニュアルの
2種類が来た。尚、前者は多少厚手の紙できちんと製本されている。
後者の表紙はブルーのものである。
(当然、読んで傷んでいる形跡は無く、新品のまま保管されていたようだ。)






Apple1のCPUはMOS Technology 6502である。
日本のマシンで使われているマシンはほとんど無く、逆に米国のホビーマシンに
良く使われていた。当然AppleIIや今は無きCommodore社の8bit機(PETやCBMシリーズ、Commodore64等)やAtariの8bit機(Atari800シリーズ)にも
使われていた。

コンピュータと呼称できるかどうか分からないが日本ではファミコンも
このCPUのカスタム版を使っていることは有名である。
(何故かスーパーファミコンの方はAppleIIGSと同等のCPUが使われている。)

尚、このApple1上のセラミックパッケージタイプの6502自身も最初期のもので
非常に珍しいものである。

メモリーはAltair、IMSAIのようにスタティックRAMではなくてダイナミックRAMを使用しており正に現代のパーソナルコンピュータそのものと言っても良いほど完成されている。
今では信じられないことだが、DynamicRAMのリフレッシュ時にCPUを止めると言う方法を用いて上手く動作させている。
リフレッシュWaitは0.960Mhzである。
(当時の自作マイコンはS-RAMが主流であった。何故かと言うとダイナミッ
クRAMのCAS、RAS信号のタイミング取りが難しかったからである。)

Video出力はシフトレジスターと言う回路を使っている。
このようなアナログ信号の合成目的にはあまり使われない方法だが、
パーツ代は非常に安くなる。
シフトレジスターは水平走査線の輝度信号の送出の為に使われている。
即ち、画面の左から掃引しながら順次キャラクタードットにあたる輝点信号
を送出しているが、シフトレジスタは水平掃引につき何ドット目を光らせる
かのタイミングを取っているのである。
実際の動きはあたかも300ボーのカプラーでパソコン通信をしているような
遅さで文字が現れていく。
CPUが1.023Mhzと言う中途半端なクロック周波数はクロック分周によって
NTSC規格の掃引周波数を作り出すためであり、パーツの数を一つでも減らそ
うとするWozの天才的な発想によるものである。
これは後のAppleIIにも活かされていく。
パーツが少ないと言うことは安く仕上がるだけでなく故障箇所が少なくなる
のでマシンの安定性向上に役に立つ。かのAltair IMSAIのパーツの多さと
性能の低さに比べてApple1のパーツの少なさと先進性の高さは際立ってい
ると言える。

正直なところ21世紀の今となってはAltair ,IMSAIを(飾りたいと思って
も)使いたいとは思わないが、Apple1は今でも、ちょっとしたプログラムを
組んで遊んでみたいマシンである。
 
モデムに繋いでインターネットの世界に飛び出すことも可能であろう。
(当然TELNETとかではあるが。)
本当に 神に選ばれし天才Wozの先見性には驚くべきものがある。

ちなみに1976年当時はApple Computer Companyであり、
その後にApple Computer,Inc.となり今に至る。
設立と言ってもJobsのガレージで始めた時は正規の法人として登記(?)は
していなかったと聞いている。

やはり正直なところ語り足りない。
自分でホームページを作成することにするのでそれまでお待ちあれ。
Apple1にはまだまだ面白いところがあるのでそれを解説していくこととしたい。                             (湯本大久記)

  上記画像及び解説は、湯本氏の好意により寄稿していただいた物です
         無断転載・流用はしないようお願いします

 





おまけ」

APPLE Demo Tape

湯本さんからは、殴り書きされたラベルでは、
解説の付けようがないということで、
画像のみを頂いたのだが「もしもこの手書き
文字がWoz自身のものだとしたら.............」
まさにガレージから始まったことを感じさせ
てくれるアップルの遺産ですね。
「考察」

 湯本さんが所有するテープのラベルと、
 あるAPPLE1購入者の質問に対する
 Wozの直筆回答(手紙)に書かれている
 APPLEの文字比較。
 さて、皆さんはどう思います?