》あなたが弓道を始めた理由を書きなさい。
こんな問題が出たらどうしようかと、初めての審査の時、本気で思った。実際、弓道教室の自己紹介の時、何と言えばいいのか上手い答えが見つからず、「色々あって」などと訳の分からないことを言っていたからだ。
今更ながら、つらつらと考えてみる。まず、弓というものを意識し始めたのはいつだったか。
これは簡単に思い付いた。小学生の時、世界中の神話や伝説、民話、昔話を読みあさった時のことだ。今となってはあまりに沢山読んだが為に、何がどの話に入っているのか分からなくなっているけれど、ギリシャ神話のアポロン・アルテミス兄妹がキャラクターとして好きになり、弓というものは、一種の憧れのようなものになっていた(らしい)。
それからしばらくは、弓のことも、弓道のことも、考えることはなかった。好みは変わらなかったが、自分が弓と関わることなどさらさらないと信じていたし、通っていた高校に弓道部があるらしかったものの、見に行ったこともない。未だに、弓道場がどこにあるのか知らないほどだ。今では母校の後輩達と、大会で弓を引いているというのに。
そんな私の心境が、いつ変化したのかというと、高校卒業後、印刷会社に勤めていた私が目にした、ある町の弓道会の記事だった。
その頃既に、『運動神経ちょん切れ』状態だった私は、せめて現状維持でも体力があって欲しかった。50mも走れないのでは(体力がない+もともと足が弱い+動悸・息切れ)、年をとった時のことを朧気にも想像すると、そら恐ろしかった。今だから笑って言えるが、その当時、二十歳の身空で「寝ている間に心臓が止まったらどうしよう」とまで考えていたりしたのだ。冗談でなく。
話を戻して、ある町の広報紙(1996.7.1.発行)で目にした記事には、こんなことが書かれていた。
『中学生から九十五歳の高齢者まで……』
『若い人の力強い弓・年輩の方の人柄を感じさせる枯淡の射・女性の優雅なうちにも端正な美しい姿……』
この記事を読みながら、何かいいなと心が動いた。そして、そうか弓道があるな、と思い始めた。走らないで、一人でできて、私よりも体力がないであろうお年寄りができるのだから、私にもできるに違いない、と。
何より私は、居場所が欲しかった。会社に馴染めなかった私は、ある程度の技術が身につくまでの間は、取り敢えず3年間は、と勤め続けていたものの、その来春には会社を辞めることを密かに心に決めていた。仕事自体は好きだったけれど、その会社に勤め続ける自信がなかった。このままでは精神的にも肉体的にも、立ち行かなくなることは目に見えていた。
そんな時にこの記事を見て、一人一人の個性を尊重してくれそうな弓道というものに、少なからぬ魅力を覚え──そう、高校時代の友達も、小説、詩や俳句から、自分でさえ知らなかった「私」を教えてくれていたように──きっと、そんなものが欲しかった。
私の求めるものと一致するかという保証はなかったけれど、それでも、何かを始めなければいけないと、切実に考えていた。今のままでいいはずがないことは、考えるまでもなく、分かっていた。(つづく)