NO12
クロロの運転する車は、アルタの街から1時間ばかり南に高速道路を走り、ラパスの山岳地帯に入る。
助手席にはまだ眠そうなネオが深々と腰掛け欠伸を漏らす。
後部座席にはコルトピがポツリと座っていた。
迷うことなく車は脇道にそれ、目的の山頂を目指す。
しばらくすると頂上付近にドーム形のシルエットが星明りの中に見えてくる。
(蜘蛛編)
幻影旅団 1
「クロロ、あの建物は何なの?」
「あれは天文台だ。
ある金持ちが道楽で使った。
そいつも死んで、10年以上は放置された廃屋さ。」
車は建物の前で静かに停まる。
そこには2台の車がすでに停まっていた。
まずはクロロとコルトピが車から降りていく。
建物の中から車の音を聞きつけ、シャルナークとフィンクスが迎えに出てきた。
「団長、遅かったね。」
「全て順調にいったみたいだな、シャル。」
二言三言交わしたところで、後部座席が開く。
美しく揃えられた白い脚が現れ、ネオが車から降りてくる。
フィンクスが眼を細め、『ヒュー』と口笛を吹く。
朝ホテルを出る時にはロングドレスであった服が、今は膝丈のワンピースに変わり、スラリと伸びた生足が男の眼を惹きつける。
ピンヒールを履き、細く締まった足首は性的魅力があった。
そんな男の冷やかしを、ネオは聞こえないふりをした。
「ネオ、そんな格好じゃ寒いだろ?
早く建物の中に入って。」
シャルナークの笑顔に即され、建物に入る。
十月下旬の山頂近くは盛秋ではなく、初冬の寒さだ。
それでも建物の内部は外気を遮り、いくらかましだった。
5人は2階に上がり、かっては天体望遠鏡がセットされていたであろうドーム形をした広いホールに入っていく。
放置され埃をかぶった家具や、天文観測に使われたであろう機器が散乱している。
そこに蜘蛛達が各々の好きな場所を陣取り、リラックスしていた。
「団長!待ちくたびれたぜ!!」
ウボォーギンが雄たけびのような声を張り上げる。
「何言ってんの。
私達だって15分位前に着いたところじゃないか。」
マチはいつもの冷やかさで言う。
クロロはホールの中をぐるりと見廻し、団員が揃っていることを確認して労を労う。
その中に居るはずもない男を見つける。
「・・・・・」
「久しぶりだね、団長❤」
「ヒソカ、今回は参加しないつもりじゃなかったのか!?」
「う~ん、そう思っていたんだけど気が変わってさ。
現地参加させてもらったよ。」
「勝手な奴だな。」
クロロは不愉快さを隠さない。
ヒソカはクロロの後ろに立っている美しい女を見つけ、近寄って行く。
「キミがネオだろ❤」
「・・・・・
「ボク、ヒソカ。仲良くしよう・・・キミも美味しそうだ❤」
まるで舌舐めずりをするかのように口元が卑らしく動く。
思わずネオはヒソカを睨み付け警戒をする。
「今回は気が変わって正解だったみたいだ。」
一瞬妖気を漂わせながら、ネオに視線を送った。
「じゃ~また後でね・・・ネオ」
頬に星と涙のペイントをした不気味な男が、片手をひらひらさせながら戻っていった。
「あれ、誰なの?」
「奇術師ヒソカ・・・
気紛れな奴さ、係わらない方がいいぞ。」
と警告をし、クロロは蜘蛛達の輪に加わった。
ヒソカと入れ替わりにシャルナークが荷物を抱えてやって来る。
「ネオ、これ。」
両手に抱えていた紙袋をネオに押し付ける。
えつ!何?という顔をする彼女に、
「君に頼まれた品だよ。」
「ああ、着替えね。」
嬉しそうに顔を緩めた。
「どんな服がいいか判らなかったから、パクとマチが択んでくれた。
ちゃんと下着も入っているからさ。
早く着替えておいで、風邪ひくといけないから。」
「有難うシャルナーク。
パクノダさんとマチさんにもお礼を言っておいて。
後でちゃんとお礼するから。」
シャルナークは奥に洗面所があることを教え、事前にこの建物をアジトにするために手入れををして、水が使えることを教えてやった。
洗面所に向おうとするネオの背後から、
「シャルナークじゃなくてシャルでいいよ。」
と小さな声で言う。
ネオは振り向かずに小さく頷いた。
廊下のどんづまりに洗面所はあった。
壊れかけた扉を静かに開ける。
錆び付いた丁番が、軋み音をあげた。
中は薄暗い照明がぽつりと点いている。
古びた洗面化粧台には、新品の白いタオルが何枚かと、石鹸が用意してあった。
タオルの上には小さな櫛と可愛らしいバレッタがおいてある。
それらはシャルナークがネオのために用意してくれたことは、簡単に推測ができた。
ネオはそんな気遣いが嬉しかった。
シャワーを浴びるには水は冷た過ぎた。
蛇口を捻り化粧ボールに水を溜める。
長く使われていなかった井戸水は、若干汚れているものの勢いよく迸る。
タオルを濡らし全身を拭う。
ネオは気持ちの良さに安堵の溜息をつく。
大きな紙袋の中身をを化粧台の上に広げた。
派手な下着が何点かあったが、スポーツタイプのシンプルな物を択び身に付けた。
そして厚手のストレッチ素材で、黒い長袖のTシャツを着る。
冷えた肩が温もりを取り戻す。
スリムのGパンは腰のラインからウェストにかけ、しっくりと馴染む。
少しハードな太めの皮ベルトをし、黒のハーフブーツを履く。
髪を梳かし一つに束ね、ガラスのビーズ飾りの付いたバレッタで留める。
最後にGジャンを羽織る。
ひびの入った化粧鏡には、少しだけボーイッシュに変身した女が映っていた。
ネオは軽く肩を回してみたり、足を高く蹴り上げてみた。
デニム素材の割りには、かなり動き易い作りであることを確認する。
Gジャンの胸ポケットに小さな櫛を突っ込んだ。
大きく深呼吸をする。
((いざ行かん!蜘蛛の巣に))
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2006.11.10