NO13



ネオがホールに戻った時、すでに蜘蛛達は祝杯を挙げていた。
部屋の中央には途中で奪ってきた酒の箱が山積みになっている。
缶ビールを開ける者、ウィスキーをラッパ飲みする者など、好き勝手にやっている。





新 世 界  (蜘蛛編)

幻影旅団 2



居場所に困り、ネオは隅で小さくなっていた。

「こっちに来ていっしょに飲もうぜ。」

ウボォーギンがネオの細いウェストに右手を回し、自分の横に強引に座らせる。

「ウボォー、ずるいぞ!」

つかさずノブナガがネオの右側を陣取り、缶ビールを勧めた。
左右を密着するように幻影旅団の特攻チームに挟まれ、ネオは苦笑する。
浚われてきた者と盗賊が酒を酌み交わすなど、愚の骨頂以外何ものでもないとネオは思う。
もっとも彼らの行動には監視の意味もあるのだろうが。

ネオの能力はクロロしか知らない。
他の者にとって彼女は未知の存在である。
決して女の美しさだけに惑わされる男達ではなかった。





ネオは飲めぬ酒を渡され困っていた。
ノブナガはそんなことなど気にもせず、がんがん勧める。
そんなネオにクロロは気付き助け船を出す。

「ノブナガ、ネオにあまり無理強いするなよ。
後で俺が困るからな。」

その言葉を聞いて、シャルナーク、フィンクス、フェイタンが噴き出して笑った。
昨晩のネオを介抱するクロロの姿を思い出したのだ。
泣く子も黙る幻影旅団の団長ともあろう者が、年若い女のために慌てふためいた姿を見せたのだ。
クロロも苦笑いをする。

当の本人は気まずそうな顔をして首を竦め、後の連中は意味が判らずぽかんとしていた。





やっと笑いが納まったところでクロロが真剣な顔をした。

「それじゃあ今回のお宝を見せてもらおうか。」

腕を組み、襲撃結果の報告を待つ。

部屋中央のテーブルを、ぐるりと蜘蛛が取り囲む。
厚く覆われた埃を払い、大きな布袋をフランクリンが広げた。
中から夥しい宝石が出てくる。
あまりの量の多さと質に、さすがの蜘蛛達からも驚嘆の声が上がる。
マチなどは輝く指輪を取り、『でかいダイヤだね〜♪』と言うが早いが自分の指に嵌めている。
そして『どうだい!』とばかりに、フィンクスに見せびらかす。
指輪の名前を『天使の瞳』と云い、世界でも3本の指に数えられる巨大ダイヤモンドだった。
他にも『女王の心臓』『マダル砂漠の薔薇』『西海の涙』など、名だたる宝石がごろごろと有る。





彼らのやや興奮した姿を冷静に見ているネオは、横に立つシャルナークに質問をする。

「ねぇ、これだけの宝石をどう捌くの?
いくらブラックマーケットでも、これだけ有名な宝石では買い手がつかないでしょ。」

「そうだね・・・・・
ある程度はブラックマーケットでコレクターに売って、後は加工して正規ルートに流すのさ。
ホームに戻れば腕のいい加工職人はいくらでもいるからね。
後は元の持ち主に買い取って貰う手もあるけど。
でも問題なのはね・・・・・」

シャルナークは急に小さな声になり、ネオの耳元で言う。

「団長の趣味は綺麗な財宝を愛でることだから、今回はなかなか手放さないと思うよ。」

「ふ〜ん・・・」

ネオはちらりとクロロの顔を窺う。
宝石の輝きが男の顔に反射しているのか、僅かに上気しているよに見えた。





シャルナークがふと訊ねた。

「ネオは宝石に興味ないの?」

「そりゃあ綺麗なものは好きだけど・・・・・」

ネオはちょっと考え込んでから、にっこりと笑って小さな声で、

「シャル、私この髪飾りの方が好きよ。」

とだけ、男の顔も見ずに答えた。

身長180センチのシャルナークは、ネオの漆黒の髪に飾られたバレッタを見下ろした。
((俺、本気でネオに惚れるかも・・・))
思わず彼女を抱きしめたい衝動にかられる。





テーブルの上の宝石に混じって、白いタオルで包まれた塊りがある。

「・・・これは何!?」

パクノダが指さしながら、怪訝な顔をする。

「あぁ、それあるか・・・」

フェイタンはにやにやしながらタオルを開いていく。





徐々に剥がされたタオルは血をたっぷりと含んでいた。
最後には切断された男の右手首が出てくる。
薬指にはステップカットされた大きなガーネットの指輪をしている。
見事に切断された傷口から、フェイタンによって切り落とされたことが判る。

「ちょとこの石いいね、まるて血のようね。
指輪たけ外れなかったから手首ごと持て来たね。」





眼の前の切断された手首に、ネオの顔が見る見る青ざめ身体をぐらつかせる。
シャルナークはバランスを失った身体を後ろから支え、

「見ない方がいいよ。」

と、優しく声をかけ視界を腕で遮ろうとする。
その腕を両手で押さえ、ネオは手首を凝視する。
正確には血の色にも似たガーネットの指輪に眼を奪われていた。





ネオが恐る恐る口を開く。

「もしかしてその手首の主は、栗色の髪をした童顔の23.、4歳の男性・・・?」

フェイタンがキッとネオを睨みながら、

「何!?お前の知り合いあるか!?」

「・・・この男性は死んだの?」

「ふん、逃げ足の速い男たったね。」

「・・・・・」

フェイタンの憎々しい声に、ネオは僅かに安堵の色を浮かべるが、指輪から眼が放せない。
そんな彼女をシャルナークはただ心配するのみだった。





「それにしてもフェイから逃げるなんて大した野郎だな。」

フィンクスが感心をする。

「そいつ、あの金庫から飛び出してきた男だろ。
『開かずの宝石箱』とかいう念を使う。
もっとも金庫に入れる前に宝石を奪われちゃ、念の発動もできね〜な。
御愁傷だ、ガハハハハ」

高いドームの天井に、ウボォーギンの高笑いが響く。





「もうこの場所はばれているは・・・」

ネオがぼそりと言った。
その言葉に緊張が走り、全員の視線が女を突き刺した。
重い口をゆっくりと開く。

「その手首の主は、アラン=フィリカと言うの。
具現化系の念能力者だけど、追跡型の能力も持っているの。
彼が触れた物は地上にある限り遠隔追尾できる・・・・・彼が生きている限り。」

彼女の言葉が終わらぬうちに、

「それなら迎え撃つだけだぜ!なぁ、団長!」

ウボォーギンが戦闘意欲満々で言った。
クロロは思案する。
ネオの言うとおり宝石の山を『凝』で探れば、全てから微量のオーラが漏れている。
アラン=フィリカという男がマーキングしたものだろう。
追手と戦うことは簡単だった。
幻影旅団全員が揃っていて負けるなど、万が一にも考えられない。
問題なのは、宝石全てに追跡型の念が掛けられていることだった。
ここで追跡グループを倒しても、旅団のアジトや宝石の売り先がばれるのは何としても避けたかった。
顧客に対する信用問題になりかねない。
盗むことよりも、売り捌く難しさをクロロは熟知していた。





そんなクロロの考えをネオは見透かすように、

「せっかくだけどこの宝石は売り捌けないは。
追跡されるの嫌であれば、ここに置いていくのね。
そうすれば追跡者達と無駄な戦いもしないで済むでしょ。」

クロロはネオを睨みつけ、毒のある笑みを浮かべた。

「いいや、宝石は全ていただく。
つまりアラン=フィリカという男を始末すればいいんだろ!?」

「えっ!!」

ネオは小さく声をあげた。





「俺とシャルでルナシティに戻る。
後の連中は2人一組でお宝をもって散らばれ。
敵を霍乱するんだ。
それでも追跡してくる奴は全て殺せ!
お宝の念が消えたらアラン=フィリカの暗殺成功だ。
それを合図にホームに集合しろ!」

クロロ=ルシルフルは盗賊の頭目として、的確に指示を出していく。





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2006.11.12






一言・反省・言い訳