肌寒いからと、マントを剥ぎ取られた。
 そして今、その子どもは戦利品にくるまって地べたに座り込み、木々の間から空を仰ぎ見ている。
 子ども。
 本当にまだ、ちんくしゃのガキ。

 ふと、子どもは口を開いた。

「ねぇ、また、たくさん人が死んだねぇ」

 瞳は真っ直ぐに空を見上げている。
「戦争だからな」
「うん。そうだね。……あの子が無事で、よかった」
「………」
「ジョウイ、は、…ジョウイは、無事かな。怪我とか、しなかったかな。でも、死んでないよね。…よかった」
「………」
「わたし、ひどいね。いっぱい人が死んだのに、戦争も、終わってないのに……よかった、って、思ってる」

 子どもはそっと目を伏せた。
 子どものくせに、目を伏せた。

「そんなものだろう。戦争など、そんなものだ」
「そうかな」
「わたしの言葉を疑うのか?生意気な」
「うーん。だって、ザムザだし」
「どういう意味だ」
「そのまんまの意味よ」
「…だいたいな、繊細さのかけらも無い野生の猿のごときお前の弟が、簡単にくたばる筈もないだろう。ジョウイだとて、いくら坊ちゃん育ちでも、お前たちの幼馴染なのだろう?安心しろ。きっととうに、猿やちぢれマイマイに侵されて、そうとうに図太くなっている筈だ」
「何それ。ひっどい」

 さわさわと風が吹く。
 黙りこんだ子どもは、ぎゅっとマントの前をかき集めた。
「ごめんね、マント無くて、寒くない?」
「今更聞くな」
「うん。ごめんね」
「………」
「今、軍主じゃなくて、弟って、言ったね」
「ああ、言った。耳まで悪くなったか?」
「あと、ハイランド皇王じゃなくて、幼馴染って、言った」
「………」
「ザムザってさ。変わらないね。会ってから、ずっと」

 子ども相手に。
 ちんくしゃの、泣き虫の、小生意気でうるさい子ども相手に。
 いったい、何を、変えるというのだ。
 少しばかり地位を得ようと。
 少しばかり立場を違えようと。
 世間知らずで、口が減らず、態度のでかくて考え無しな子ども相手に。

「弟なの。あの子は、わたしの、たったひとりの弟なの」

 持ち主の長身にさえ多少余るくらいのそのマントは、すっかり子どもを覆い隠している。

「そして、幼馴染がいるの。大切な、大切な、…ずっと、友達なの」

 空からも、風からも、すっかりと。

「何があっても、いつまでたっても、絶対、絶対、そうなの」
 絶対、絶対、と繰り返してから、風の音が聞こえたのだろう。子どもはそっと、マントから顔を出した。
「ごめんね、やっぱり、寒くない?」
「ふん」
 ザムザは鼻を鳴らして、乱暴に子どもをマントで包んだ。
「勝手に包まってろ」
「…うん」
 子どもは大人しくそれに従い、もぞもぞと丸くなった。




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