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小高い丘の上から見たグレッグミンスターは、やけに小さかった。 赤月帝国の象徴であった城が、瓦礫のように立ち尽くす。 その威厳が、永遠のものであると信じて疑わなかった、少年時代。 あのころの僕にこの光景を見せたら、なんと言うだろうか。 信じられない?信じない? でも、これが現実だ。 永遠の帝国。 それは脆くも崩れ去り、人々は新たな歴史を創り始める。 永遠なんて、あるのかな? 厚いグローブに覆われた手の甲が、チクリと疼いた。 ……そうだったね。 お前に言われなくてもわかっているさ、ソウルイーター。 僕は、お前と、永遠を生きる。 気の遠くなるような、永遠を。 ……莫迦を言うなよ、ソウルイーター。 永遠の道連れなんて、これ以上いるもんか。 僕は寂しくなんかないのだから。 お前も、空腹くらいは我慢しておけ。 …なぁ、テッド。 永遠に縛られた僕たちの命以外に。 永遠なんて、あるのかな? 「坊ちゃん?」 背後からの心配そうな声に、驚いた。 いつの間にか、グレミオがそこに立っている。 「あ…ああ。買い物、終わったのか」 「ええ。…どうか、したんですか?」 「ん?」 「坊ちゃんが、私の気配に気付かないなんて」 テッドと二人、いつも悪戯に精を出し。 グレミオを出し抜いて。 そんな、はしっこい自分らしくないと言いたげな、グレミオの顔。 「僕だって考え事くらいするさ」 「今夜の夕飯について、とかですか?」 「何だよそれ、パーンじゃあるまいし」 無骨で、融通の利かない大喰らいの戦士。 彼が一緒にいるだけで力強くて、幼いころの、テオの不在も怖くはなかった。 「毎食のメニューを日記につけたりしてたな、そういえば。…日記って言えば、結局クレオってどんな日記つけてたんだろ?」 「さぁ…案外乙女チックな内容だったりして」 姉のように、母のように。 厳しいけれど優しかった。実は、ちょっと憧れてた時も、あったんだ。 「あ、グレミオ、女性をからかうとシーナが怒るぞ」 「シーナですか。まったく、あのレパントさんから、どうやったらあの息子ができるんでしょうかね」 「僕だって、父さんにはあんまり似てないしなあ」 「そんなことないですよ。凛々しい目元ですとか、テオ様そっくりです」 「レパントさん、昔はシーナみたいだったって、聞いたことあるけど…」 「えぇ!?そうなんですか?」 「ルックから聞いた。石版の管理してたからかな、噂とか、意外に詳しいんだ、あいつ」 「昔のことって分からないものですねぇ…ビクトールさんとかも、昔は案外大人しい子どもだったりしますかね」 「あの人はガキ大将じゃないかな。フリックも、昔から熱血っぽいけどね。……………」 「…坊ちゃん?」 「ん。いや。…殺しても、死ななそうだな、ってさ」 「…そうですね。きっと、ピンピンしてますよ」 「マリーさん、怒ってたしなぁ。食い逃げ代、払ってないらしいよ」 戦争の真っ最中に、それでも楽しく笑い合い。 理想を違い、それぞれの道を進んでも、それでも認め合い。 時に諭され、時に諭し、手を取り合って、戦い抜き。 「……………」 「坊ちゃん?本当に、どうかしたんですか?」 「………うん。大丈夫だよ」 ただ。 ただ…ね。 「なぁ、グレミオ」 「なんですか」 「本当の本当に、付いて来るのか?僕に付いて来たって、いいことなんか、無いぞ」 「…何言ってるんですか、今更。グレミオは、坊ちゃんをお守りするんです。そう、自分で決めたんですから」 ただ、こんなことを、思うだけだよ。 「…うん、決めた」 「え?」 「僕の永遠は、”これ”に決めたよ」 「?」 今までも、これからも。 国が滅びるように、城が崩れるように、消え去りはしないもの。 なぁ、テッド。 お前も、こんなことを思ったのかな。 この気持ちは、永遠となった僕の命の中で、永遠となる。 みんな、大好きだよ。 手の甲はもう、疼かない。 ソウルイーターの呆れた声が、聞こえたような気がした。 |