笑いかける瞳が優しい。

 言葉はちょっと、不器用だ。

 堅苦しいボキャブラリーの中から、どうにかして好意を伝えようとするその頑張りには、だけど、ちょっと、ときめいてしまう。


「素子さん」

 ガラスの猫を扱うかのように、そっと、繊細に。


「素子」

 女としての私を求めて、ちょっと、荒々しく。




「ねえ、これって、夢?」




 そんな時はとうに過ぎ去り、残ったものはあまりにも生き生きとした思い出と、行き場のない怒りと悔しさとバカにすんじゃないわよ、という心の絶叫と。
 知ってる、分かってる。
 じゃあやっぱり、今目の前にいるこの男は、私の夢の産物なのね。




「夢なら、消えてよ」




「消えなさい」










 寝汗の多さと、冷え切った身体。
 少女のように止まらない動悸は、自然に治まるにまかせた。
 カーテン越しの朝日は今日の晴天を告げている。

 整備の仕事もはかどるわ。



 都合のいい夢は消えなさい。
 優しい嘘はもういらないわ。

 …違うか。
 あのひと、嘘さえ、優しくはなかった。

 消えなさい。
 消えなさい。

 たとえたった一夜でも、甘い夢には浸れないの。



「私、そんなに強くないのよ」


 




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