舞は、目の前に差し出された可愛らしい小袋をまじまじと見つめた。 このピンク色の小さなビニール袋の中にクッキーがいっぱいに詰められていることは、朝早くに速水から同じ物をもらっているので知っている。なんでも昨日、中村がどこからともなく「本物の砂糖」を入手してきたらしい。それで、速水と中村がクッキーを作り、今朝方小隊中に配り歩いていたのである。 今日は土曜日。 午前の授業はすでに終わり、速水と舞は二人で屋上で、食後の一休みをとっている。 「……なんだ?あまったのか、それは」 「違うよ」 小袋を差し出したまま、速水は笑う。 「朝見つからなかったから、今あげるんだ。ブータに」 「!?」 驚いて速水の視線を追うと、いつの間に近くに来ていたのか、ブータがにゃーんとのんきな声をあげた。 舞がぼんやりと速水の手から小袋を受け取ると、気になるのかフンフンと鼻を鳴らして寄って来る。 …か…可愛い。 頬を火照らせ硬直する舞の耳元で、速水が囁いた。 「ほら、ブータ、ほしがってるよ?袋から出してあげなきゃ」 「みっ…耳元で喋るなっ!!……ね、猫はクッキーを食べるのか?」 「さあ?でも、ブータだし」 その言葉にはなんとなく説得力がある。 「うぅ……」 舞はうめいて袋の口をあけ、星型のクッキーを一枚取り出してブータの鼻先に突き出した。 フンフンフンフン。 「にゃーーん」 ブータは嬉しそうに鳴いて、舞の指ごとクッキーを舐め取った。 「ひゃっ!」 びくりと身を引いた舞の背中を速水が受け止める。 「ふふっ。可愛いなぁ」 「…そっ…そうだな…フワフワの生き物は、よい」 「ブータだけじゃなくてね」 「!?……なっ……」 「ああ、舞、ほら、まだ欲しがってるよ、ブータ」 絶句して速水から離れようとする舞を、速水の甘い声が押しとどめた。 甘い。甘い。 先ほど二人で食べたクッキーと、どちらがいったい甘いだろうか。 ブータが急かすように、また鳴いた。 クッキー・デイ 〜くっきー・でい〜 12時32分/1組教室 12時50分/2組教室 13時10分/プレハブ校舎屋上 15時11分/小隊職員室 16時28分/ハンガー2階 18時06分/グラウンド 19時22分/小隊司令室 23時45分/ハンガー1階 |