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ポピュラーミュージックに奇妙な潜在能力があると述べたのはノエル・カワードである。(注:ノエル・カワード作『夫婦戦線(Private Lives)』) 試しに人に聞いてみて欲しい。ほとんど誰もが自分が初めて『明日に架ける橋(Bridge over Troubled Water)』を耳にしたときどこにいたかを答えることができるだろう。これは有名になることや,お馴染みの名前になること以上のことだ。アーティストが我々の意識にとどまり,個人個人の記憶につながっている,ある種伝説的な地位についたということである。 筆者がタクシーに乗っていたとき,ラジオで『サウンド・オブ・サイレンス(The Sound of Silence)』がかかったことがあった。運転手は,何年も前に初めてこの曲を聞いた時,どれほど心に響いたかを筆者に語った。続けて『7時のニュース/きよしこの夜(7 o'Clock News/Silent Night)』がいかに好きかということを。「歌にとどまらないんだ。それよりも生活の断片そのままなんだ。生活がどういうものなのか教えてくれる。」もし彼の言うとおりなら,これほどすばらしい才能を持つアーティストは歴史の一部であると言えるだろう。 このことが感傷的な意見だとは思わない。純然たる事実だと思っている。サイモン&ガーファンクルは多くの面で重要である。彼らがユダヤ系であり,自分たちの出自を隠すために偽名を使ったりしなかったことも大きな意味がある。他の者たちが同じことをしやすくしてくれた。2人がアメリカ人であることも重要なことだ。ポール・サイモンが書いた曲は,ガーシュウィンとベルリンとの関係のように,その世代の資料となったのだから。2人が幼馴染であったことも大切だ。そのことが,楽観的な精神と誰もが愛する仲間意識を生み出したのだから。 筆者はこのデュオのキャリアを記録に留めたく思いこの本を書いた。彼ら2人は別のそれぞれの個性を持っているが,これは彼ら2人が一緒にいることについての本である。人々はどちらがより才能があるか,もしパートナーがいなくてもやっていけたのはどちらだろうか,ソロアーティストとしてより成功したのはどちらか,等ということを憶測しつづけるだろう。そのような疑問はこの本では取り扱わない。 筆者が踏み込んで明らかにしたかったのは,独特のサイモン&ガーファンクルのサウンドを作り出した驚異的な友情力学である。筆者への手紙において,アート・ガーファンクルはそのことを「この男性2人の絡み合った人生」と表現した。これこそが筆者が興味をひかれていることである。インタビューをしたときに気づいたのだが,アートは常にデュオを『サイモン&ガーファンクル』と呼び,決して『サイモンと僕(Simon&I)』としては言及しなかった。アーティはデュオの片割れである“ガーファンクル”とは常に距離をおいていた。サイモン&ガーファンクルがあり,同時にポール&アーティがいたのだ。面白いことに,最も疎遠な時期でも,ポールとアーティの人生は平行しているかのように,重大な出来事は2人のそれぞれに同時に起こるように見える。 この本を書くのには長い年月がかかった。題材の重圧が筆者をおびえさせ,2人の人生やキャリアを掘り下げていくにつれて現れた矛盾やパラドックスの中で道を見失った時期もあった。いらいらしたり疲れ果てた時もあった。しかしスリリングで心を捉えて離さないことも多かった。筆者はこのクイーンズ出身の中流階級の少年2人がどんなきっかけで伝説となり,名声と富を手にし,ロックの伝説の数々が途中で脱落していく世界において生き延びてきたか理解するに至った。しかしサイモン&ガーファンクルはロックの世界にのみ所属していたことはなかった。彼らは特殊な現象だった。 この本はデュオについてのものである。筆者はストーリーを最新のものとするために終章を加筆した。サイモン&ガーファンクルは1983年秋の『ハーツ・アンド・ボーンズ(Hearts and Bones)』リリース前に終わりを迎えた。デュオについての物語はそこで終了する。恒久的な再結成は二度と行われないであろうことが我々の知るところだからだ。サイモン&ガーファンクルは過去のものとなった。 この本を彼らに捧げたい。ポール・サイモンが書いたすばらしい曲や,サイモン&ガーファンクルが作り出した無比のサウンドに。そしてなにより,いかなる基準に照らしても彼らを伝説の存在となした,デュオの魔法に捧げる。 |
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