■作品紹介
アマチュア映像作家にとっては日本最大の映像コンペティションであるPFFアワード。その'93と'96に入選後、映画作りから離れていた山本拓が、満を持して挑んだ初の長編劇映画、それが『イチモツ』だ。
デジタルビデオで撮影し、パソコンで編集をしたり効果を加えることが当たり前になったこの時代に、山本が選んだのはデジタルビデオカメラではその独特の風合いをいまだに完全再現することが出来ない、8oモノクロームフィルムだった。
しかし、山本はデジタルビデオを否定するためにフィルムを選んだのではない。一般的にはフィルムでの撮影はデジタルビデオカメラによる撮影よりも高価で手間がかかるとされるが、欲しい映像を手に入れるためにはフィルムを選ぶしかなかっただけだ。
撮影された8mmフィルムは、現像所が国内に存在しないためドイツに空輸された。そのリール数、実に190本。一本が約3分であるから、撮影された素材は約9時間半ということになる。
さらに山本はデジタルならではの利点を積極的に取り入れることも忘れなかった。8oフィルムをデジタル変換し、パソコンで編集や効果の追加などのポスプロ作業を行った。それらに『デンキネコ』シリーズで熱狂的なファンを持つCGアニメーション作家・中村犬蔵による、フィルムの風合いを生かしたきめ細やかな特殊合成が加わり、映像に奥行きをもたらした。中村はこの作業だけではなくデザインワーク全般に渡り参画し、公開に至るトータルイメージを決定していくこととなった。
また、この作品のために作られた、生楽器の演奏による音楽が加わり、映像作品としての幅を大きく広げる事になった。
いつの時代も表現は「温故知新」だ。最新のテクノロジーとアナログな手法が鍔(つば)迫り合いを繰り返しながら、それでもお互いを認め合って、表現の粋を広げて行く。『イチモツ』は、アマチュアによる映画制作が今後向かうであろう方向を指し示す、モデルケースのひとつにはしっかりなりえるのではないだろうか。
驚嘆すべきは、この作品が『ジョーズ』や『トレマーズ』といった怪物映画の系譜に連なる、人食い巨大亀退治の映画ということだ。この時代にあえて見せる、人智を越えた存在との格闘とはいかなるものか。そして登場人物が抱える運命とは。これこそがこの作品の最大の鍔迫り合いであると言えよう。
上映時間は98分。それを描くには十分な時間だろう。
なお、上映会終了後には本上映会を企画した映像温泉芸社のメンバーによる映像作品の発表会がドサクサ紛れに開催される。
(文責 映像温泉芸社)
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