フル・ムーン マイケル・ライト著 檜垣嗣子訳 新潮社

原題: FULL MOON

1999年 原著

ご存知の方も多いと思うが、実はこれは著書ではなく写真集だ。とはいえここにわざわざ出すからには、NASAが通常一般公開しているような、ただのありふれた月の写真集などではない。

アメリカは、記録や資料を残すことの歴史的な重要性に早くから気づいていた。資源的に恵まれていたこともあるが、例えば第二次大戦中にも、写真記録班が開発されたばかりの高価なカラーフィルムを惜しげもなく使い、大量の資料を残している。
そのアメリカでさえ、当初は宇宙開発を記録化することの意義には気づいていなかった。映画"ライトスタッフ"にも登場したが、1957年スプートニクに触発され始まった1958年のマーキュリー計画で、ソ連ガガーリンに遅れること1年、1962年にジョン・グレンがアメリカで初めて地球周回軌道の有人飛行に成功した時、彼は自分の飛行を記録するカメラをドラッグストアで自前で購入しなければならなかった。カメラが支給されていなかったのである。ちなみに、このジョン・グレンは1999年10月に向井千秋らとともにディスカバリー号に搭乗したジョン・グレンと同一人物である。
その後、映像記録の重要性を認識したNASAは、アポロ計画の最中にモノクロフィルム、カラーリバーサルフィルムによって32000枚余りの映像記録を残した。地球帰還後ただちにマスターフィルムから"マスターデュープ"と言われるコピーが作られ、マスターの方は低温保管庫に封印され未公開となった。実はわれわれが目にした多くの月面の写真は、マスターデュープから更に何度もアナログコピーを繰り返された画質がかなり劣化したものだったのだ。
今回発表されたこの写真集は、今まで門外不出だったこのマスターから初めてデジタルコピーされた写真ばかりが収められている。昨今のデジタライズ処理の進歩が、封印をとく引き金となった。(もちろん、アポロ11号月着陸30周年というコマーシャル的な要素も後押ししたのだが)その画質の鮮明さは驚くばかりだ。

実は私は、1999年にこの写真集を買おうと思ったのだが、気づいたのが少し遅く、すでに完売して入手できなくなってしまっていたのだ。今年(2000年)増刷されたようで、ようやくこの夏に購入を果たせた。
お値段も手ごろで、収集する価値は充分にある1冊だ。

 

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