第二夜 2000年1月17日

(インターバル。
  拒絶反応は生きている証。そう考えてみると、臓腑の奥からわき起こるどうしようもないいらだちが嬉しくなる。日常生活の中、何かに対してここまで怒り、い らだち、わめきたくなることなんかがあるだろうか。死んでいない。おれの魂はまだ死んではいない。それが確認できただけでも、カノンのプレイというのは自 分にとっては充分有意義なものだ。
 いらだちながら、同時に自分は願っている。この、自分にとって異質過ぎるものが、最後にはこちらの足元をひっくり返し、心臓に感動という名の杭をぶち込 んでくれるのを。
 おれを変えて見せろ。カノン。おれをしてここまで高ぶらせる貴様を敵と認める。挑むに足る敵と判断する。よしんばこれが最後まで自分に受け入れがたいも のであっても、それもそれでいい。異質なものに対する反発は、自分という存在の境界線を明らかにすることだ。すなわち、そこで自分という器が少し見えてく る。得がたい体験。
 結果がどっちに転んだとしても、失うものは何もない。この勝負、すでにおれに敗北はない)

  ゲーム時間で1月9日、朝食から再開。さっさと飯を食え、名雪。すると名雪はイチゴジャムに未練を残しつつ、朝食を切りあげた。かくて今朝も太陽にほえろ が脳裏に鳴る。CD−DA音源ののんきなBGMには負けぬ。未練がましく玄関を振り返る名雪に、かすかに頭痛。が、昨日1日プレイしていることがクッショ ンになってか、「まあ。こいつはこういうヤツだから」とも感じられる。
  会話の中で、ふたたび「7年前の記憶」という言葉が出てくる。「いちいちこだわってたってしゃーねーだろ」と思う。
  第一7年もたてば、人間だって変わる。成長期のどまんなかであればなおさらだ。人はいつまでも幼くはいられないのだ。目覚まし時計の増設を検討する名雪 に、主人公は微笑ましいものを感じたが、プレイヤーのおれは「どーだっていいじゃねーか」と感じる。
  教室に到着。美坂が「名雪に感謝せよ。名雪により、汝はクラスに馴染んでいるなればなり(<脚色)」という台詞に対し、「こんなやつに恩義なんか感じたく ない」と、瞬間ムッとしたが、それはこちらの狭量というものだろう。最低限の礼儀は払ってしかるべきだ。
  会話シーンで、「なじめないんなら一人でいるから別にいいんだけど」「ひとりは寂しいよ」「うんうん」地の文で「余計なお世話だった」。まったくそう思う が、気を使ってくれている好意は好意として、ありがたく受け取っておこう。
  今日から授業がはじまる。教科書などはもらっていないという主人公に、顔と名前が一致しない、ヤローのクラスメイトが話しかけてくる。制服着ているのな ら、名札くらいつけていても良さそうなものだが、最近の学生服(ガクランに限らず)というのは、名札なんてつけないものなのかしらん。だとすれば、それも 時代の流れということか。
  授業風景、2時限目後半。名雪が寝ている。そこまで無理してキャラを立てんでも、と感じる。
  先程の北川という男子生徒がコンタクトを取ってくる。校舎の外、女の子がひとり。「フケやがったな」と瞬時に思う。
  本来ならいたいけな姿に、はっ、と胸をつかれてしかるべきなのだろうが、あいにくこっちはこのゲームでは、人であることを捨てている。どれだけ非道な感慨 を抱いたところで、自分への危機感など最早ない。
  外の女の子は、制服を着ていない様子。4時限目の授業がはじまっても、おんなじ所にいる。描写で「小さな女の子だと思う」だからみんなそうじゃねーか、と ツッコミ。会話で「誰かを待っている」「でもそれがどのクラスか分からないとか」というところでイヤな予感。ボケはもう嫌だ。
  4時限目終了後、駆け出す主人公、外の女の子との対決。当初、月宮がストーカーぶっこいたのかとも思ったが、違ったようだ。1月8日、月宮と一緒に出会っ たねーちゃん。「それは、可愛いという以上に儚げな笑顔だった」という描写に、意図的に引く自分。泣きの伏線、己が心臓に感動という名の杭の狙いが定まる のに、防壁を置く。
「泣いたりなんざしない、そんなおれを泣かせてみろ」その決意を新たにする。
  この少女は体があんまり丈夫じゃないようだ。なるほど、もしも話の山場で、この少女が命を落とすようなことがあれば、その時はその死を悼むこととしよう、 と思う。が、丈夫じゃなかったら、このクソ寒い天気に外で2時間も立っているのは問題じゃねーかと思い、かすかに生まれかけていたこのキャラへの同情度が 一気に引く。
  会話で、カゼひいて学校休んでいたのが人にあいたくて家をバックれてきたのが判明。これで「あなたに会いに来たんです」なんて言われた日にゃ引き度パワー アップすることは請け合い。
  話題の二択「汝は誰に会いに来しや」「汝は何時からここにありしや」(<脚色)。逡巡。
(不意に、このゲームが登場する女の子に「小さい」という印象を与えたがるのは、「小さい=弱い=守りたい」というイメージをプレイヤー側に持たせたいか らではないか、と思いついた。
  そうだとしたら、今まで気づかなかった自分はあまりに人を捨て過ぎていたか、それとも感受性というものが根本的に欠けていたかと思い、少し反省。
  が、そのような「戦略」が働いていたとしても、登場するねるーちゃんどもを庇護する役目はあまり負いたくはないとも思う。そうするに足るだけの魅力をおれ は感じない。)
  話題の二択は「いつから」を選ぶことにする。考えてみれば、この少女が誰に会いに来ようと(例えそれが主人公であったとしても)おれ自身には関係がない。 会話で、この女の子が朝から外に立っていたことが判明。しまった、ボケだ。こいつもボケキャラだ。しかも自分がカゼだということをあまり意識していない。 このズル休み野郎。いや、百歩譲ってズル休みのことを問題の外においたとしても、もっと自分の健康というのをいたわってほしい。「そうですね。気をつけま す」じゃないんだ。
  引いた。一気に引いた。カゼ引いて肺炎こじらせてくたばるようなことがあったにしても、その時には絶対に主人公の名前を呼んだりするんじゃないぞ。こちら に責任もないのに一生背負う十字架を押しつけられるのは真っ平だ。とりあえずさっさとカゼを治せ。そしたら話を聞いてやらあ、というプレイヤー側の意思を 無視して主人公は会話をすすめる。
  ようやく明らかになったこの女の名前は美坂栞。名雪の親友(「マブダチ」と読むこと)の妹さんなんだろう。先方は気さくに「私のことは栞でいいですよ」と 行ってきたが、ブレイヤーはこいつのことを余程のことがない限り「美坂妹」と呼ぶことを決意。防壁防壁。感情移入なんざしてやらねえぜ。「分かった、俺の こともお兄ちゃんと呼んでいいぞ」だと? ほざいてるんじゃねえ、主人公め。お前の脳味噌はくさってやがる。去り行く美坂妹。さっさとカゼを治すがいい。
  気がつけば主人公も帰りのHRをフケていたことが判明。HRという言葉に抱く遠い感慨。おれも年を取ったもんだぜ。美坂姉の話では、名雪が教室でむくれて いるらしい。成りゆきとはいえめんどくせーなー。どうせならガミガミと、ガツンと怒りを爆発させてほしいものであるが、どうせ甘えまくり媚びまくりで「何 やってるんだよぅ」なんて言うんだろうなぁ。
  昇降口で美坂姉と別れてから、教室に向かう主人公。プレイヤーは思わずボトムズのOPを脳裏で鳴らそうとしたが、イントロも終わらんうちに場面が変わっ た。成りゆきとはいえさすがに申し訳ないと思う。ワビを入れるために商店街でおごる事に。ジャムご飯は見たいような見たくないような、と思っていたらイチ ゴサンデーかっ食らう程度ですんだようだ。残念なような安心したような。
  帰宅早々秋子さんと会話して、買い物で商店街までお使いに行くことに。食い逃げがまた出るのだろうか。だったら勘弁してほしいなあ。「何買ってきます?」 「食べたいものを買ってくればいいのよ」こちらの動きが止まる。まあ、秋子さんというのはこういう人だから。
  家を出るとストーカーの気配。ピンチ、大ピンチ。ボケた会話が再び始まるのか。己が心に防壁準備。
  そいつが、主人公の前に姿を見せる。「全身を使い古した毛布のような布で被い、顔も判別できない」と来た。何だなんだ、ドンパチでも始まるんかい。
「やっと見つけた。あなただけは許さないから」
  払われる毛布の下から、お団子頭の少女が登場。
  突然向けられる悪意。思わず自分が嬉しくなるのが分かる。
  正直、ヒイロみたいなのが出てきて「お前を殺す」とかって言ってきたら苦笑していたところだったが、密かにそういうのを待っていた自分も確かだ。でも毛布 まとってストーカーっつーのはやっぱ問題だよな。あ、やべ、やっぱし引いちまった。
  しかし、ただならぬ緊張が漂う。高まる期待。そうだ、おれはこういうのを待っていたんだ。路上にてにらみ合い。
  くう、燃える、燃えるぜ。萌えてるんじゃねえぜ。
  悪意と敵意に満ちたまなざしが激突しあう、いけ、やれ、やっちまえ。もはやプレイヤーの心は対戦格闘ゲームの背景ギャラリーの心境。
  殴りかかられ、二択を迫られる。「かわす」「そのまま殴られる」。「カウンター」とか「殴り返す」という選択肢がないのが気に入らんが、ここはひとつ、向 こうの格を確かめるため、殴られてみる。弱い、弱過ぎ。すさまじいストリートファイトを望んでいたおれの期待はどこへ行けばいいんだ。
「許せねえ! こいつを殴らせてくれ、しかも力いっぱい!」
  主人公、このお団子頭ねーちゃんの額を押さえると、お団子頭ねーちゃんの短過ぎるリーチでは主人公にかすりもしない。判定弱過ぎ、突進系必殺技はないの か、それともキックの鬼になろうという気はないのか。
  「あぅー」ではないのだ。現在力が出ないというお団子頭少女に対し、「そりゃあ残念だな、今がチャンスだというのに」と言いながら余裕ぶっこく主人公。ビ ジュアルイメージは完全にグラップラー刃牙状態。もちろん主人公のビジュアルイメージは勇二郎だ。どうでもいいが、そろそろまともな人間を出してくれ。
  ひとまずこのお団子頭女の子を持ち帰ることに。
「オレの主義では、人様に迷惑かける奴は男女問わずお仕置きなんだよ」とのたまう主人公。えらい、だが、それでは今ごろこのゲーム中には屍が累々たる状況 になってるんではあるまいか。
  深夜、物音。巨大ゴキブリ大繁殖のイメージ。そんな時には化学兵器をスタンバイだ、とプレイヤーが思ったら、冷蔵庫前でおだんご頭がわめいている。コン ニャクによる奇襲の後、家族全員が起床、夜食を食う羽目に。なるほど、容疑者には食い物食わせて自白させるという尋問室モードか。
 
  明朝、昼、本気で尋問室モード発動、と思ったら、詰問した主人公が攻撃される。くそう、おれは無実だ。何が記憶喪失だ、人たることをやめてるオレには、下 手なウソをついてまでもこちらに恨みをはらそうとする人間の心情などを思いやっている余裕も寛容さもない。
  飯を食ったらさっさと出て行け。そしてあらためて挑戦しろ。こっちは逃げも隠れもせん。と思ったら飯食い残して2階に上がっていった。待てやこら、行く方 向が違うぞてめー。
  再び尋問モード、名雪を交えて。二択「自己紹介」「記憶喪失の真偽」。ここはからめ手狙いで自己紹介を選択。しかしねーちゃんは名前を言わない。くそ、記 憶喪失はマジなんかい。主人公、警察への連絡を提案。全く正しい判断。警察が現代を舞台にした物語の上で非常に邪魔くせー存在であったとしても、それが正 しいんだから仕方がない。
  が、記憶喪失がマジだとしたら、下手に刺激をするというのも無下というものだろう。人は捨てても思いやりを捨てたわけではない自分に甘さを感じるが、ま、 こういうのもありだろう。
  改めて思う。早く記憶を取り戻せ。その結果、こっちが本気で殺されそうなことになったとしても、それはそれで仕方ない。復讐は受けて立つ、と。
  秋子さんから買い物を申しつけられる。米だそうだ。名雪とだんご頭とが家に残る羽目に。主人公は不安がっているが、まあ大丈夫だろう。だんご頭は実害なさ そうだし。2日目のプレイはここで切り上げ。


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