その前夜――。
ついに誕生した絢爛舞踏は、未だに戦場で幻獣を屠り続けている。
日々の出撃の中、息をするように、ごくごく自然に、そして無駄な殺戮を続けていた。
(なぜだ?)
彼は訝った。
人としての器を超えし絢爛舞踏は、単なる殺戮者としてのみの存在ではないはずだ。
決戦存在。HERO。様々な呼び名はあれど、それは世界の歴史の在り方を変える使命を担っている。
それが遂行されなければ、長引いた分だけさらに多くの人間が死んで行く――分かっているはずなのに。
が――。
どういう事情があるのかは知らないが、向こうが動かない以上、こちらが先に手を打つだけのことだ。
絢爛舞踏――人類を救うはずの、ありがたい勇者様。この世でもっとも強きもの。
しかし、その「性能」がどれほど人の範疇を超えていようが、「人間」という素体の限界はある。寿命が来れば死ぬだろうし、ケガをすれば赤い血を流す。
そして脳は……
闇の中、彼は、ある仕掛けをした。
それは「小細工」としか言いようのないものだったが――だからこそ、成功すればものすごい効果を見せるはずだった。
絢爛舞踏が人類の敵に回るという、ドラマチックな効果が。
一九九九年五月九日・日曜現在――。
熊本防衛圏には、奇跡が起こっていた。
もともとは捨て石同然として配備された学兵たちは、見事に幻獣たちを食い止めていた。理由はいくつかあるものの、最大の理由のひとつは熊本城決戦での大
勝利だろう。犠牲は決して少なくなかったが、削がれた幻獣側の戦力はもっと大きかった。
もうひとつは、熊本最強を認められる5121小隊の転戦が、きわめて積極的なものになったことが上げられる。司令が善行忠孝から来須銀河に変わって以
来、5121小隊は熊本全土をかけずり回り、行く先々で幻獣たちをなぎ倒して行った。転戦先はいつも、人類と幻獣の戦力差がもっとも激しい所であり、戦場
では必ず二体以上のスキュラを見ることができた。しかし、必ず戦闘開始直後には、そのスキュラは士魂のバズーカで吹き飛ばされる。そうなると、あとはエー
スの駆る複座型の独壇場であり、突撃して周囲にミサイルをぶちまけると、彼我の戦力差は簡単に逆転――戦闘が終わる頃には、戦区の戦力差は大幅に縮まって
いた。逆転すら珍しい事ではなかった。
また、学兵らに配備される物資が改善された。5121専用だと思われていた人型戦車「士魂号」シリーズを配備した部隊もある。事情を知る者の話による
と、「5121小隊の司令だった善行忠孝が隊を離れ、本土に戻ったから」だそうだ。これは敵前逃亡などではなく、銃後にストックされてある物資を最前線に
流すための行動で、そのため善行という男はかなり危ない橋を渡っているらしい。
――ヤツらは、半端じゃない。
どこよりも過酷な戦場に飛び込んで、誰よりも果敢に闘い、本土のオトナ相手に体を張って、前線を支援している……
かつては陰口を叩かれて、敵視すらされた5121小隊の評判は、全く変わっていた。複座型を駆るエースが「絢爛舞踏」を受章したこともあり、熊本のカリ
スマとさえなっている。
ともあれ。
そういったことが重なって、現在では、日報で知らされる熊本内の人類対幻獣の戦力比のマップは、ほぼ真っ青になっていた。自然休戦はもう目の前だが、ま
だまだ何が起こるか分からない。しかし、
――おれたちは勝てる。
そんな余裕が、熊本の中には流れていた。