6.舞vs複座形


 ――ハンガーからの轟音を背で聞きながら、小隊長室の中で舞がやったことは大体次のようにまとめられる。  まず、従兄弟の芝村準竜師に連絡を取り、周辺の地域へのスクランブルの発令と、住民の避難誘導。同時に、近隣の部隊への出撃命令の停止、及び熊本要塞の 本体からの迎撃部隊出撃の停止。
 次に、5121小隊全員へのスクランブル。ただし、集合場所は今町公園で。学校に招集をかけようものなら、一網打尽にされかねない。  そして、滝川陽平への連絡。
 従兄弟への連絡、及び説得は骨が折れた。たかだか士魂一機、沈黙させるには圧倒的な火力をかければいいだけの話だ。それに対して舞は、士魂の中には絢爛 舞踏――ひいては決戦存在であろう速水厚志が乗っていることと、士魂複座型のミサイルランチャーとNEPにより、大火力による集中攻撃は逆に損害を増や す、という点を強調した。
「つまり、手を出すな、ということだな?」
 芝村準竜師のトカゲ顔に舞は頷いた。
「この一件は、5121小隊の不始末。ひとまずわたしに任せてくれ。芝村の名にかけて、幻獣に乗っ取られた士魂は必ず止めて見せる……そういう形で根回し をお願いしたい」
「作戦は?」
「現在こちらに搬送中の士翼は、うちの小隊の隊員が運んでいる。彼が士翼を動かして、士魂を沈黙させる」
「……できるのか?」
「できる。5121の兵士は、絢爛舞踏だけではない」
 準竜師は頷いた。
 滝川に対しては、必要最小限のことだけを告げた。「士魂三番機が幻獣に乗っ取られて、現在暴走中。熊本城跡にて士翼を起動させつつ、待機せよ」。滝川が 文句を言う前に、舞は通信を切った。
 そして舞は、新市街にテレポートし、裏マーケットに飛び込むと、使えそうな歩兵用武器を物色し、金の延べ棒一本を店長に放り、小隊長室の屋根にまたテレ ポートをかけて――
 現在こうして、尚敬学園の中に飛び込み、廊下を一直線に走りぬけている。あれだけ派手な啖呵を切って、今はこうして尻尾を巻いているわけだが、真っ正面 からぶつかっても踏みつぶされるだけだろう。
 走りながら、校舎内の気配をうかがった。幸い、尚敬学園の方にも今日は誰も来ている様子はない。売店は開いているが、いつもの店員は姿が見えない。校舎 がどうなろうが、死人だけは出る心配はないわけだ。
(できれば損害はゼロにしたいところだが……そういうわけにもいくまいな)
 舞は、尚敬学園の玄関を飛び出し、壁に背中をつけた。そして、顔だけを出してハンガーの方をのぞいて見た。
 複座型は、潰れた天幕の中をまた物色している所だった。武器を選んでいるのだろう。
 めまいがした。短い間に立て続けにテレポートを連発し過ぎたせいだろう。
 ――損害は、最小限にしなければならない。既にハンガーが破壊されているが、それでも被害が出ることに対して無頓着になるわけにはいかなかった。
 被害が大きくなれば、その分だけ速水の立場が危険になる。速水を士魂と、そして彼自身に憑いている幻獣から救出しても、その後の追及は受けなければなら ない。ある程度までなら芝村の力で守ることもできるだろう。が、その「ある程度」を超えた場合は……
――最悪、竜との決戦を待たずに速水は処刑される。
 その連帯責任を問われて、5121全員が死ぬことになるかもしれない……。
 そのボーダーラインを、舞は死者が出るかどうかにかかっていると踏んだ。
 極端な話、モノが壊れるだけならば――それが家だろうが学校だろうが――それこそ芝村の財力を用いていくらでも弁済はできる。舞自身のコネや人脈、発言 力の全てを駆使して「戦災保障基金」なんていうものを無理やり作ることも可能だろう。
 しかし、死者が出てしまっては――戦争が一段落してから、反芝村の者たちが起こす動きに口実を与えることになる。遺族の叫びの尻馬に乗った反芝村の者た ちが、声を上げて「絢爛舞踏・速水を許すな」などと叫び出し、大衆がその尻馬に乗って大騒ぎし(日本の国民はこういう話しに弱かろう)、政府がこれ幸いと 速水を合法的に抹殺にかかるだろう。そうなれば、いくら芝村と言えども守りきることは難しい。
 だから――
 絶対に死人は出すわけには行かなかった。
 現在は、近隣の住民が避難を完了するまで、ここで複座型を足止めしなければならない。オペレーターによる誘導なし、ウォードレス未着用、という状態で あっても。
 舞は、複座型の動きを見守りながら、地面に寝そべって、狙撃体勢を取った。そしてレーザーライフルの銃口を複座型に向けながら、少し呼吸を落ち着けた。
 複座型は、肩のNEPを外して、かわりにバズーカを拾い上げ、それを肩に担ぎあげた。
 舞はライフルのチャージメーターを見た。たった今チャージが完了した。スコープをのぞきこみ、照準用可視ビームをバズーカに合わせる。バズーカの砲口 が、同時にこちらを向いた。
 ライフルの光条が空気を貫き、バズーカの砲身を撃ち抜いた。次の瞬間、士魂複座型の肩の上で、バズーカが爆発した。
 複座型と舞とがトリガーを引いたのは、同時だった。光学兵器である分だけ、レーザーライフルが早かったということだ。
 炎と煙に巻かれながら、体勢を崩す複座式。それを見ながら、舞はライフルを投げ捨ててテレポートし、再び小隊長室の屋根の上に降り立つと、武器の山から カトラスを引っ張り出した。
 体勢を崩した士魂は、膝を折り、半ば前傾姿勢を取っている。
 あの姿勢ならよく知っている。ただバランスを崩しているだけではない。
(ミサイルか!)
 周囲からは、まだ悲鳴が聞こえている。付近住民の避難は終わってはいない。
(――撃たせぬ!)
 さらにテレポート。目標地点は、複座型の背負う後部ユニットのミサイル発射口。シャッターの部分にカトラスを突き立ててひとつでも開かないようにしてし まえば、うかつにミサイルはばらまけなくなる。
 舞がテレポート・アウトして目にしたものは、複座型のミサイルランチャー部分ではなく、腕や脇腹だった。士魂の体側部分を見下ろしている形になってい る。
(……逆立ち?)
 ごうっ、とどこかで空気が鳴った。
 気配を感じ、間髪入れずに三度テレポートをかける。小隊長室の尾根の上に降り立つと、複座型が側転をしながら、一瞬前に舞のいた空間に向かって蹴りを 放っているのが見えた。士魂の足が空気を切り、微かに風が吹いた。
 テレポート回避が遅れていたらどうなっていたろう――わき上がる気持ちを舞は殺した。
 ひとつの攻撃が失敗したら、次の攻撃を考えるだけのことだ。
 
 
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