7.防人たち



 道の脇に寄せて停めてある輸送トレーラーの運転席で、滝川は吐き捨てた。
「……切りやがった……あのヤロー!」
 通信用マイクをグローブボックスに叩きつけた。突然緊急招集のコールが鳴ったと思ったら、なぜか舞が出て来て、「士魂複座型が幻獣に乗っ取られて、現在 暴走中。熊本城跡にて士翼を起動させつつ、待機せよ」と来た。
――同じパイロットのくせに、突然偉そうに命令する所がいらつくんだ!
 運転席に据えつけてある通信機を殴って気を落ち着けてから、舞が通信機から投げて来た台詞を思い返す。
(士魂複座型が幻獣に乗っ取られて、現在暴走中……)
 士魂が幻獣に乗っ取られた?
「何だそりゃ?」
 そう滝川が首を傾げた時、再び通信機が鳴った。マイクを手に取ると、
「俺だ」
という太い声が聞こえて来る。聞き覚えはあるのだが、誰かは思い出せない。
「……誰だよ」
「芝村準竜師だ。たわけ」
 滝川は青くなった。
「う……すみません、声わかんなかったんです」
「……まあいい。うちの従姉妹から話は聞いたか?」
「言ってること、さっぱり分かりませんでした」
 滝川は逆に質問した。
「士魂が幻獣に乗っ取られたって、どういうことですか?」
「その通りの意味だ。簡単に言えば、5121の切り札である士魂複座型が敵に回って大暴れしている、ということだ。ちなみにその中には、われらが絢爛舞 踏、速水厚志が乗っているらしいぞ」」
 さすがに絶句した。
「どうした?」
「……話が見えなくて」
「唐突過ぎるからな。いずれ嫌でも分かるようになる。今、AWACSを飛ばして、現場の上空に向かわせている。しばらくすれば現場の映像がお前にも届くよ うになるはずだ。見ておくといいだろう」
「……はい」
「ときに、滝川十翼長」
「はい?」
「絢爛舞踏と戦って、勝てる自信は?」
「全くありません」
 即答する滝川。
「……そうか」
「あの……どういう意味でしょうか?」
「何でもない。わが従姉妹がどう言ったかは知らんが、お前はお前の任務を遂行しろ」
 通信が切れた。
 すると、また呼び出しがかかった。
――今度は何だよ!
「はい、こちら5121滝川」
 舌打ちしながら回線を開くと、ものすごい数の声がいっせいにスピーカーからがなりたてて来た。
「こちら夜満都小隊! 5121、てめえら一体何やった?!」
「こちら7315小隊! 我々に援護が必要ないとはどういうことだ?!」
「11はつ巳小隊の者だ! 現状に関する情報の提供を求める!」
「チェルシーカノン小隊です! 5121へのバックアップの許可を!」
「バラクーダ小隊より5121へ! 幻獣は一体なんだ!? ゴブリンが士魂を動かしているとでも言うのか!?」
 滝川は首を竦めてから、怒鳴りかえす。
「うるせぇっ! こっちだって何が起こってるのか分かんねえんだ! こいつは芝村のヤローが仕切ってるんだよ!」
 倍以上のボリュームで、スピーカーがさらに怒鳴り返して来た。
「そんなの理由になるか! てめえだって5121だろうが、何とかしろ!」
「情報をよこせ、情報を!」
「芝村の都合で死体の山作る気か!」
「あそこは町のどまんなかだろうが! 何で幻獣なんか出て来るんだよ!」
「足止めなんざ食わせやがって、何考えてやがるんだ!」
「戦争を何だと思ってやがる! てめえらのおもちゃじゃねえんだぞ!」
「芝村のメンツなんざ、知ったことかっ!」
「おれたちも出撃させろ! 守り抜かせてくれよ! おれたち、ここまで守り抜いたんだ!」
(――!)
 滝川は、胸をつかれたような気がした。
 今さら気がついた。自分たちは――熊本のヤツラは戦争をしていたのだ。5121は幸い誰も死なずに済んだけど、多くの兵士が死んでいった。守りたいと思 うもののために、死体の山になっていった……
(……しばむらぁぁッ!)
 通信機が別な反応を鳴らした。AWACSが画像を流して来たのだ。
 カーナビ用の液晶モニタが切り替わり、尚敬学園上空からの映像が映った。
「今、AWACSからの映像が入った! 各員、AWACSからの電波を受信してくれ! バンドとチャネルは……!」
 受信帯とチャネルをマイクに告げると、滝川はシフトレバーを掴んだ。実情を確かめに、一路尚敬学園へ――向かおうとして、動きを止める。
 液晶モニタの映像。上空から拡大倍率限界ぎりぎりで撮影しているために、粒子がかなり粗くなっているものの――
 そこには、潰れてしまったハンガーの天幕と、左手に大太刀、肩にはバカでかいNEPを担いだ士魂複座型の姿があった。
 そして、小隊長室の屋根の上に、芝村舞の姿があった。
 彼女はレーザーライフルを構えて、複座型とにらみ合い……
 滝川はモニターに向かって目を凝らした。
――制服……姿?
 息を飲んだ。あの女……!
「ウォードレスも着ないで……何やってるんだ!」
 その後、舞はテレポートを使いながら複座型相手に戦闘を始めた。複座型の構えたバズーカを撃ち抜き、カトラス一丁で白兵戦をしかけて、蹴りつぶされそう になったのを危ういところで回避して……。
 モニターの表示を切り替える。カーナビ用のマップ画面が出て来た。
 現在地点。
 熊本城。
 そして、尚敬学園。そこは、速水を乗せた複座型と、生身の芝村舞とが戦う戦場だ
 滝川は三点を見比べた。
(戦争を何だと思ってやがる!)
(芝村のメンツなんざ、知ったことか!)
(おれたちも出撃させろ! 守り抜かせてくれよ! おれたち、ここまで守り抜いたんだ!)
 スピーカーからの怒鳴り声は、まだ滝川の耳に残っている。しかし――
(芝村……てめえは、何を守るつもりなんだ?)
 複座型の戦闘能力はよく知っている。中型級幻獣の群れさえも吹き飛ばす、破壊力の化け物だ。生身で敵に回すなんて、気違い沙汰だ。
「芝村……」
 人がむかつく口調で指示を出すやつだったけど、その内容はいつだって的確だった。
 滝川はモニターをにらんだ後、あらためてトレーラーを発車させた。
 目指すは熊本城跡。
 今やっていることがどんなに狂っていたとしても、あいつには必ず勝算があるはずだ。滝川はそれに賭けた。
「死ぬなよ、芝村!」
 

 
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