士翼の頭部が、背後でじゃれつく二人を見た。
滝川の目の前では、速水の頬をつねっている舞と、手足をばたつかせながらも抵抗しない速水とが映し出されていた。
滝川は微笑み、モニターに映る二人に向けて手を伸ばした。
(……良かった……)
オレは世界の希望を守り抜いた――いや、世界の希望なんかじゃなくて、この二人の幸せを守り抜いたんだ。自分にとって本当に大事な二人を――。
きっと、世界を守る意志っていうのはこんな気持ちから――
(いや――今はそんなことどうでもいいや)
ぷんぷんしながら速水の頬を引っ張っている舞を、滝川は可愛いと思った。
(この女の子が――オレのこと、あんなに励ましてくれたんだよなあ)
言われた台詞は、一言一句覚えている。
――滝川! 大丈夫だ!
――ひとつひとつの攻撃を、ひとつひとつ避けていけば良いだけだ。
――そなたならやれる……いや、そなたにしかできぬ。
――無理はするな、死んではならぬ!
(舞……どんな顔で、オレに言ってくれたんだ?)
モニターに映る彼女の姿を撫でさすった。
(見たかったなあ、お前の顔……どんな顔して、どんな目をして言ってくれたのか、見たかったなあ)
滝川はモニターから手を離し、目を閉じてゴーグルを下ろした。
背後を見ていた士翼の頭部が、前を向く。
その傷だらけの顔から、亀裂の入ったパーツの破片がいくつか崩れ落ちた。
今町公園にいた三人はひとまず移動することにした。
「車を調達、なんてしないのか?」
「のんびり行こうぜ、狩谷。どうせみんな、後で学校に集まるに決まってるんだから」
「みんなげんきでかえってくるの。だからがっこうでまってるのよ」
降車姿勢を取らせた士翼から滝川が降り立つと、目の前には舞と速水が待っていた。舞はひとりでは歩けな
いらしい、速水に肩を支えてもらっている。
二人で微笑みながら、滝川の方を見ていた。
「ご苦労だったな」
舞が言った。
滝川は二人に歩み寄った。そして、背後に回るとしゃがみこんで、
「?」
訝る二人の腰を両肩に担ぎ上げた。
「わっ! うわわわっ!」
「な、何をする、この馬鹿者!」
舞の手が、滝川の頭をぽかぽかと叩く。無視して滝川は、天守台の方に向かって歩き出した。
「恥ずかしいだろ、下ろせよ!」
「そなたも疲れているであろう。危ない。下ろせ」
「やなこった」
べー、と滝川は舌を出した。
舞は叩くのを止めた。そして、呆れたようにため息をついてから訊ねた。
「……驚いたぞ、滝川。そなた、いつの間に精霊手など使えるようになった?」
「さっき、ぶっ倒れている時にな。わけわかんねーおっさんが使えるようにしてくれたんだよ……あ、速水」
「何だい?」
「田神ってオヤジに会うことあったらさ、そいつのこと思いっきりぶん殴ってやってくれ」
その名前を聞いた時、速水の顔が険しくなった。
「……滝川。一体どこまで知っているんだい?」
「……オレたちの世界が悪者に狙われてるってことと、いつかバカでかい戦争に巻き込まれるってこと」
「あまり口には出すなよ……消されるよ」
「あと、おまえがそいつらと戦うってこと、かな?」
滝川は、右肩のいる速水を見上げた。
「勝てよ、速水。負けるんじゃねえぞ」
すると速水は、険しかった顔をなごませた。そして、片手を滝川の頭の上に置いた。
「ひどいなあ、滝川って」
速水は微笑む。
「そんなとんでもない相手に、僕ひとりだけで戦えっていうの?」
「何言ってやがる……芝村がいるだろ?」
すると、頭の上に、もうひとつ手が置かれた。左肩の方を見ると、舞もいたずらっぽく微笑みながら滝川を見下ろしている。
「お前はひどい男だな……われらふたりだけで戦えというのか?」
ニヤリ、と舞は口元を歪めた。
「絢爛舞踏に挑戦し、ひとたび敗北するも甦り、絶技をもってこれを倒す……野放しには到底できぬ」
「しかも、知り過ぎているもんねぇ――滝川、君も芝村に来い」
「……イヤだ……って言ったらどうする?」
今度は滝川が不敵に笑う。舞はわざとらしくため息をつくと、速水の顔を見た。
「殺しても死なぬ――厄介な相手だ。どうする?」
「彼がその気になってくれるまで待てばいいさ……そういうわけだから、考えといてよ、滝川」
舞と速水は、二人で滝川の髪をかきまわした。
天守閣からは、5121の本隊が降りて来ていた。
仲間たちは並んで、三人を待っている。
「ありがとう……舞、滝川」
何が? と顔を向ける二人に、速水は答えた。
「今、分かったんだ……許すって、どういうことなのか。君たちが教えてくれた」
優しさ、強さ、凛々しさ――それらを宿した速水の顔が、まっすぐに前を見ていた。
天から降り注ぐ「青」が、彼を包む。
真の絢爛舞踏が誕生した――見守る二人は、その瞬間に立ち会えたことを誇りに思った。