『陽の射すきざし』



  5121小隊が編成されてから2週間。
  みんな、疲れ始めていた。
  表面上は、みんなは明るい。休み時間には談笑し、仕事もそれなりにやっている。隊長、主任、二人して、時折あちこちで「仕事をがんばりましょう!」と活を 入れれば、それなりに活気も出る。
  しかし。
  それでも、たとえば教室やハンガーでひとりきりになった時、深い溜め息をつくことが、誰にもある。
  いつ出撃がかかるかわからない。
  かかったら、生き残れるかどうか分からない。
  誰かが死んだら。誰かに死なれたら。あるいは誰かを死なせてしまったら。
  −−というプレッシャーが、四六時中ついてまわる。
  このプレッシャーを「戦争だから」で済ませられるほど、小隊のメンバーはできた軍人ではなかった。

  2番機パイロットの滝川陽平もまた、疲れていた。連日の出撃では、突撃全力射撃−−先陣きって敵の中に飛び込み、両手に構えたアサルトを弾が空になるまで 撃ちまくる−−を繰り返している。
  この戦法を勇猛果敢だとか、無謀だとか、評価はいろいろある。
  その正体は、滝川自身が一番よく分かっていた。
  臆病と、敵愾心と、それとやけくそ。幻獣に向けられたものではない。
  最初の出撃の時、怖くて一歩も動けなかった。意を決して士魂号を走らせた時には、先陣切って突入していた3番機のミサイルで勝敗は決していた。掃討戦に参 加することすらできなかった。
  その後に、小隊のやつらから向けられた目を忘れることはできなかった。
  あんな思いはしたくなかった。もう一度あんな目を向けられるのなら死んだ方がマシだとまで思った。本田教官に文字通りに泣き付いて、〈全力射撃〉を教えて もらった。
  が、その後の出撃でも足が震え、顔がひきつった。頭が真っ白になって、気がついたら、消えていく幻獣たちの姿を見ながら、自分の士魂は両手に空のアサルト を構えて立っていた。着ていたウォードレスはひどいことになっていた。内も外も、垂れ流しとゲロとで汚れていた。
  また醜態をさらすことになったものの、必殺技を手に入れた。滝川はそう思った。
  その後の出撃では、ゲロも垂れ流しも抑えられるようになったものの、突入から全力射撃に至るまでの恐怖と緊張にはなかなか慣れなかった。キメラやナーガを 相手にして、万が一しくじれば、レーザーで蜂の巣にされてしまうだろう。「必殺」とは、相手だけではない、自分をも殺しかねないという意味だ。使えば、必 ずどちらかが死ぬ。
  度重なる緊張は、滝川の心を鍛えるのではなく、むしろ消耗させていた。学校で、いつも明るく振る舞うことにも疲れていた。

  ごぅんごぅん、という機械の唸り声が、ハンガーの中に響いている。
  その日も滝川は、授業が終わってから、ぶっ続けで2番機の調整を進めていた。
「こら」
  突然背中から声をかけられて、振り向こうとして装甲の角に頭をぶつけた。ごつっ、という鈍い音。滝川は頭を手で押さえ、顔をしかめながら、振り向いた。
  すらりとした長身に、涼しげな目許、キュロットスカートからのぞく脚線美。
  原素子が微笑みながらこちらを見ていた。
「あらあら。大丈夫?」
「……どうも」
「コンソールパネルの中に頭突っ込んだまま寝てるからよ。少しは休憩取ったら?」
  滝川はコクピットから出てきて、床面にどっかりと腰を下ろした。そして、深々と溜め息をついて、頭を振った。
「……オレ寝ていたんですか」
「ええ。最初は機械が唸ってるのかと思ったんだけど、君のいびきだったの」
  くすくす、と原は笑った。滝川の頬に、配線やらネジやらの跡がついていた。その部分を滝川は指でこすった。
「……ンだよ。壬生屋や速水のヤロー、声くらいかけたっていいじゃねーか」
「1番機と3番機のパイロットは、今日は別な部署手伝ってるみたいね」
  ちくしょ、と滝川は小さく毒づいた。
  突然目の前に、原の顔がアップになって迫った。原が滝川の前にしゃがみこんだのだ。
「なにが、ちくしょ、なの?」
「……別に。関係ねえっしょ?」
  いまいち頭がはっきりしない。寝ていたというのは本当のようだった。
  機械油や血の匂いがした。自分に染みついたもの、と滝川は思ったがそれだけではない。それは目前の原からも漂ってきている。
(……あ)
  士魂号の上半身と下半身では使っている油やら溶剤やらの種類が違うのか、その匂いは滝川のものとは微妙に違った。
  いつも涼しげな彼女には、似つかわしくないものに思えた。
「……オイルの匂い」
  また原は笑った。
「そりゃあね。いつも、夕方はずっとこのハンガーテントにこもりっきりなんだもの。匂いだってつくわ」
 おかげで美人が台無しよ、と原は付け加えたが、滝川は、
「そうスか」
としか答えを返さなかった。まだ寝ぼけているのだ。
(原さんって、副委員長じゃなくてホントは整備主任っていったっけ)
  こんなきれいな人が、士魂号の装甲の中に手や首を突っ込んでいるなんて、想像できない。そもそも、そんな人が目の前にしゃがみこんで、こちらをまっすぐに 見て、自分に話しかけていることが嘘みたいだった。
  と、突然原は言った。
「煮詰まってるわね、君」
「え?」
「煮詰まってるでしょ、って言ったの。どうしたの?  話してごらんなさい?」
「何だよ、いきなり……じゃない、突然何ですか」
「なーんか腹に溜まってることあるでしょ。お姉さんに話してご覧なさい」
「ンなもの……」
  山ほどあるに決まっている。言い出したらキリがない。
「いいじゃないッスか、そんなの。関係ないでしょ」
「では、滝川十翼長。あなたの腹にためこんでいるもろもろをわたしに話しなさい」
「……うぐ」
  こういう時に階級を持ち出すのはずるい。原は上級万翼長。どちらが上かは言うまでもない。
  原は瞬間、真顔になる。語勢が強くなった。
「聞こえなかったの?  滝川十翼長。あなたの腹にためこんでいるもろもろを今すぐわたしに話しなさい!」
「は、はい、整備主任。溜まってることを吐き出します!」
  滝川は反射的に、背筋をのばして挙手敬礼をした。が、座りこんだ姿勢のままだったのでそのままバランスをくずし、そのまま口を開けている士魂号コクピット の中に転がり込んでしまった。再び、ごつっ、という鈍い音がした。
  むすっ、とした表情で、コクピットから這い出す滝川。上半身だけ乗り出して、原の方を見上げる。
「……楽しい?」
「……別に。ウケとりたくてやってるわけじゃないッス」
「そうじゃなくて。士魂のパイロットやってることが」
「そりゃあ楽しいっすよ。何つったって巨大ロボットのパイロットはロマンですからね……戦争じゃなけりゃ」
  滝川は嘆息した。
「ここに来る前は、パイロットになってロボットに乗れば、恐いのなんてどっかに飛んでっちまうって信じてたんスけどね……コクピットって狭いんですよ」
  彼はうつむき、体を震わせた。戦場に立った時の恐怖が呼び起こされて来る。
  −−搭乗ハッチを閉ざしてしまえば、士魂のコクピットは真っ暗闇だ。コンソールパネルについている各種の計器やモニターに灯が入っても、明るくなったりな どしない。この得体の知れない巨人の中にいる気味悪さを強めるだけだ。
  そして戦場では、眼前に敵が迫る。こちらに向けられる醜悪な容貌と、明確な悪意。ふたつの恐怖がわき起こり、恐慌寸前にまで追い詰められる。
 死にたくない。
 そして、笑われたくない。
 閉ざされたコクピットの中では逃げ場はない。戦場に立つ一秒ごとに、気力と体力がごっそりと奪い取られていく。
 それらは、自分が前と全然変わってないことを思い知らせる。何のことはない。やけくそになることを覚えただけで、自分はずっとチキン野郎だ。−−
 滝川は自分のゴーグルを目にかけた。目頭が熱くなり、顔がひきつった。鼻をすする。人前では泣きたくない。
「自分で選んだ道でしょう? 最後まで責任持ちなさい」
 微笑んだまま、原は言った。それは、とがめるような口調ではない。穏やかな、そして、何かを面白がるようなものだった。
「滝川くん。臆病なのはね、決して悪いことじゃないのよ」
「え?」
 ゴーグル越しに、滝川は原を見上げた。
「臆病ということは、それだけ生に執着するってことでしょ。あなたが死ななければ、パイロットも減らない。必然、新たに私たちが突然士魂に乗れ、なんて言 われることもなくなる」
「原さんが、パイロットに? まさか……」
「ない、とは言い切れないわ。あなた、知ってる? うちの小隊のメンバーは、ほとんどが士魂徽章を持ってるの。いいえ、取らされたのよ」
「命令か何か?」
「暗黙の雰囲気ってやつ。いつパイロットが死ぬか分からない。補充要員は多すぎて困る、なんてことはないから」
「でも、あの車椅子のヤツが、選ばれることはないでしょう?」
「狩谷くんのこと? あり得るわよ。士魂の操作は神経接続だもの。極端な話、結晶体と脳があれば動くわ」
 滝川は、がば、と上体を起こした。ゴーグルを外して原にくってかかる。
「ンなバカな! もしやられちまったら、脱出できないじゃないですか」
「本人はそれを望んでいる節があるわね」
「……冗談じゃねぇ!」
 滝川の表情が歪んだ。語勢に怒りがこもっていた。狩谷だから、というのではなく、気に入らないこと、理不尽だと思うことへの幼くて素朴な怒りだ。
(どうしてこんなことを、原さんは笑いながら話すことができるんだ?)
 そんな思いが、いっそう滝川を熱くさせた。
 原は微笑んだまま、何かを面白がるような口調のままで話し続ける。。
「そう、冗談じゃない。わたしも、ここの整備班も、命令されれば従うしかない。整備が少なくなれば、必然士魂は不安定になる。不安定になれば、パイロット の死ぬ確率は、高くなる。そうでなくても、整備のメンバーは戦闘経験が少ないから……」
「やめてくれよ! ンなの間違ってる!」
 頷く原。
「そうならないためにも、滝川くん、あなたには死んでもらっては困るの」
 原は瞬間、切なそうな表情になって、哀願口調で、
「『お願い、滝川くん。わたしを守って』」
と言った。
 息を飲む滝川。わざとらしいお芝居と分かっていても、心臓の鼓動が早くなる。
 言葉を失っていると、原は今までの微笑を浮かべた。
「やる気、出た?」
「ちょっとだけ」
 滝川は顔をそむけた。頬が紅潮し、バツのわるそうな表情をした。
「でも、わたしの話したことは分かるでしょう? 生き残り続けてくれるだけで、あなたはわたしたちを守ってくれることになるんだから。あとはある程度の戦 果をあげてくれれば、あなたがパイロットから降ろされる事もないわ」
「げ、そういうこともあるんだ……」
「そうよ。だから、勝ち続けて、生き残り続けてね、滝川くん……機体を壊さない程度で」
 滝川は原と顔を見合わせた。間近に、優しそうな笑顔を浮かべた原の顔があった。
 少し幸せな気分になった。滝川も微笑んだ。何日ぶりかで笑ったように思えた。
「はい、原整備主任。オレがんばります」
「合格。今日はもう帰って休みなさい。故障なんかがなければ、上がっていいわよ」
 時計は19時を指していた。規則では上がっていい時刻ではあった。
 滝川は立ち上がり、原に向かって敬礼し、ハンガーを出た。
 臆病なままでいい、というのは救いだった。
 その臆病さで、自分は守らなければならない。みんなを。いや……。
(これからは、もっと前に出てやるぜ)
 そして幻獣を片っ端からぶっ倒してやる。あの人には指一本触れさせない。
 何かを背負い込んだような気がした。その重さは、決して嫌なものではなかった。

 原が滝川を見送っていると、背後から足音がした。この足音は森精華のものだ、と予想する。
「勝手にパイロットを帰さないで下さい。やってもらいたい仕事、山のようにあるのに」
 振り向くと、思ったとおり、頭をバンダナで包んだ少女がこちらをにらんで立っていた。
 あいかわらずの、少し怒ったような口調だった。この子は、始終怒ってなければ気が済まないのだろう。
 森の怒気を原は軽くいなした。
「ごめんなさいね。でも、彼、煮詰まってたみたいだったから」
「煮詰まってるのはみんな同じです。パイロットを増長させるようなことはやめてください」
「あいかわらず杓子定規ね」
「だれかを特別扱いすると、全員の士気に響きます。それに、何ですか、今のは。へんな噂が立ったりでもしたら、どうするんですか?」
(立ち聞きとは悪趣味ね)
 原は思ったが、口には出さない。
「別に、どうもしないわ。楽しい話題が増えて、小隊のみんなは楽しくなるんじゃないかしら?」
「あなたの立場が悪くなるじゃないですか!」
「それで主任を降ろされるなら、それはそれで構わないけど」
 ああ言えば、こう言う。喧嘩腰の森に対して、原はさきほどからの面白がっているような微笑を崩さない。
 もっとも、主任を降ろされたところで構わない、というのも原の本心ではあった。今の立場は、作戦会議のたびにあの善行と肩を並べたり、爬虫類みたいな顔 をした芝村準竜師に気をつかって、クセも強ければアクも強い部下たちにも気を配らなければならないものだ。対人関係のストレスはたまる一方なのに、主任と してやらなければならない事務やら仕事やらも山のようにある。仕事を投げ出すつもりはないにしても、誰かに代わってもらえるのならば、それに越したことは ない。
 万が一、いきなりスカウトにされて、カトラス一丁で戦場に放り出されたとしたって、構わなかった。特にやりたいこともない。死んだところで、こんな人生 なら惜しくもないのだ。
 長い付き合いだ。そんな投げやりな原の心情が、森には何とはなしに分かっていた。
 みんな煮詰まってる。さっき自分で言った台詞だ。滝川くんも、自分も、そして原さんも。
「……もう少し、まじめになって下さい」
 森は、声を押し殺して言った。
「煮詰まってるパイロットを激励するのは構いません……でも、それで滝川くんがヘンな期待をしたら、彼もかわいそうです。ひとをあんな風にからかったり、 しないでください」
 見てて辛いです、という台詞を森は飲み込んだ。それを言ったら、原のプライドが傷つけられる。
 無遠慮にきついことをいってるようでも、森が自分なりの気遣いをしているのは、原にも分かった。
 苦笑。
「分かったわよ。気をつけるから、小言は勘弁してよ」
「……はい。じゃあ、わたしは持ち場に戻ります」
 森は背を向けて、歩いて行った。

 原がひとり残された。
 煮詰まりもする。だから、どこかでガス抜きをしなければやってられないのだ、誰も彼もが。
 今の森や、1号機パイロットの壬生屋なんかは、人のあらを探して注意していれば、それで満足なのだろう。さっき話に出てきた狩谷なんかは、皮肉を口にし たり、時々パイロットへの異動を陳情して厭世家のふりをしていればそれで幸せだろう。あの芝村のお姫様は、速水厚志を自分の側に侍らせていることで気を晴 らしているに違いない。
 そして自分は。
 滝川相手にしたことは、原なりのガス抜きだった。
 間違いなく必要なことではあった。ストレスばかりを積もらせていくパイロットは、いずれ必ず死ぬ。そうさせないためには、滝川にもガス抜きをさせてやら なければならなかった。
 臆病であることを認め、許し、その上で心を入れ替えてもらうこと。とりあえずの「守るべきもの」として、自分を印象づけること。
 この試みは成功したといっていいだろう。根は単純な熱血正義なおバカさんだ。多くの人がそうではあるが、とりわけこのタイプは「何かを守るために戦う」 というのに弱い。
 −−あの時の滝川は、自分の手のひらの上で踊っていた。自分の思い通りに、驚き、緊張して、そして最後にこちらを見て笑った。
(何て単純で健全な子なんだろう)
 本当に単純だった。予想以上に。狩谷の話で、ストレートにあんな反応を見せるとは思わなかった。
 そんな幼い男の子の心をもてあそんで、自分に向けさせるのはとても楽しいことだった。自分に甘えてくる子犬を時には怒らせたり、じゃれつかせたりするの に似ている−−。
 悪気はないにしても、不健全なのは自分でも承知している。だが、こんなことでもしないとやってられない。
(惨めね)
 自嘲した。
 誰も彼も惨めで哀れだ。5121小隊は、みんな、みんな。

 外から足音がした。階段をかけ上ってくる。
 出入り口に、滝川が姿を現した。これは予想していなかった。
「あら、帰ったんじゃなかったの?」
「味のれん行って、メシ食ってきました。もうちょっとやれます」
 滝川の口調は明るかった。
「大丈夫なの?」
「大丈夫っスよ、もう……。ありがとうございます」
 滝川の顔には、さっきの別れ際に見せた表情が浮かんでいた。いや、さっき以上に、その笑顔は輝いているように思える。
 何て単純で、素直な健全さ。うらやましかった。
 滝川は、原の横を通り過ぎて、口を開けたままの士魂コクピットの前で屈んだ。そして、
「あ、原さん」
「何、滝川くん?」
「オレ、あなたを守ります」
と言って、再びコクピットの中に潜り込んだ。
(……え?)
 その台詞に、微かな熱と、ときめき。
「オレ、敵に突っ込んで弾ぶちまけるっていうやり方しかまだ分かんないんで、整備には迷惑かけると思いますけど、その……」
 コンソールパネルに顔を突っ込んだまま、少しうわずった声で滝川は付け加える。
 原の口許が緩んだ。
 自然に笑みがこぼれるなんて、ほんとうに久し振りだった。
「わたしを守ってね、滝川くん」
 そう答えると、原の方も1階の自分の持ち場に向かって歩き始めた。
 高鳴る心臓が、心地よい熱を全身に巡らせる。
 どんな女の子でもそうだけど、男の子の「あなたを守ります」というまっすぐな台詞には、自分も弱かったみたいだ。
  原は背を向け、1階の自分の持ち場に戻るべく階段に向かって歩きだした。滝川はコクピットから顔だけを出して、原の背中を見送った。
  その姿が階段にさしかかったあたりで、滝川はまたコクピットの中にもぐりこんだ。

  原は階段を下りようとして、足を止めた。士魂号の2号機を振り返る。今まで身を乗り出していた滝川は、もうコクピットの中に隠れていた。
  彼女はいたずらっぽく微笑むと、足音を忍ばせて2号機の方に戻った。機体をまわって、コクピットとは反対側の、整備の持ち場のほうに行く。
  人の気配のないのを確かめてから、ちょうどコクピットの正面あたりの所に立った。士魂のフレーム越しに、滝川がコクピット周りを調整しているのが感じられ る。
  彼女は装甲に指でハートを描くと、そのまん中を指でつついた。
  最近その箇所の装甲は取り替えられたばかりらしく、傷一つなくきれいに磨き上げられていた。鏡のような表面には、楽しそうに笑っている原の顔が映ってい た。
(何だ……いい顔してるじゃない、素子)
  自分に向かってウィンクして、その顔を指で弾いた。
  今度こそ原は、1階の自分の持ち場に戻った。
「楽しそうですね。何かあったんですか?」
  森の質問に、原は舌を出して答えた。
「教えてやんない」

                                                                         (終)



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