2002-03-17
【公開シンポジウム参加記録:「いま、学力を考える」】(九州大学教育学部主催)
【 公開シンポジウム参加メモ 文責 : 橋口成幸 】
学力に関する公開シンポジウムに参加しましたので、その概要を私の責任記録で報告するものです。
従って討論者の発言内容と異なる部分があるかと思いますが、過去の記録同様に十分注意しましたので、さほど大
きな違いはないと考えています。発表者ご本にか、当日参加された方で、ご指摘のある方はメールでご指導下さい。
≪私の感想≫
新教育が求めているの「何か」と問われるとき、「疑問を解決する意欲の養成」だと私は答えます。この実現の
場が『総合的な学習の時間』(以降『総合学習』)であることは言うまでもありません。パネラーからの表現が幾
つかありましたが、このことに触れた明解な発言は無かったようです。そして、その評価方法についての留意点や
問題点は述べられても、具体的な評価方法(技術及び記録)についての提案もありませんでした。いまや教育現場
である学校だけでなく、管理部門の教育委員会、さらには文部科学省においても、この評価方法は命題のひとつと
成ってしまった観があるとさえ言えます。
その原因は『総合的な学習の時間』で、どのような意義に基づいて、どのような授業を展開するのか、十分には
理解できていないからだといわざるを得ないでしょう。また、今回資料のPTAアンケートで準備された設問の中
に、「相手を理解する力」の項目がないことも問題だと思います。そして保護者自身が理解できていないこの問題
を解決する施策を、学校や地方行政自身が積極的に取り得ていないことも問題だと言えます。
最も重要なことは、『総合学習』という場で、教師及び地域有識者が何らかの形式を作って子どもたちを指導し
ようとする従来の方法による指導に対して、私の意見は根底から異なることであります。『総合学習』の意義は、
わかり易い表現をすれば「気兼ねなく学習意欲を発揮できるより自由な時間枠の創造」ということなのです。
本格実施に入った2002年4月からやがて一年を経過しようとしている今日でさえ、教育関係者に十分理解されて
いない原因の一つには、『総合的な学習の時間』を短く『総合時間』『総合学習』などと呼んだために誤解が生じ
たからだとも言えます。最近では、『総合的な学習』(第13回日本カリキュラム学会で頻繁に使用されていた)と
いう言葉も使用されていますが、「時間枠設けた」意義を理解させるためには、やはり不十分な表現だと言わざる
を得ないでしょう。
これらの点に注目して明瞭な提言をされたパネラーは、今回もなかったことを残念に思います。
なお、私の『総合的な学習の時間』に関する見解や提案は、下記のホームページに掲載していますので、ご一読
下さいますようご案内いたしておきます。
学校教育(総合学習)と国際語エスペラント
(「こどもとおとなの土曜日」主宰、「エスペラント伝習所須恵」代表 橋口成幸)
1.概要 テーマ:「いま、学力を考える」
主 催:九州大学教育学部
開催日:2003年03月15日
時 間:13:30〜16:30
司 会:望月研吾
パネリスト:
(1) 大槻達也(文部科学省初等中等課長)プレゼンテーション〔13:45〜〕
(2) 野上兵一(日本PTA全国協議会) プレゼンテーション〔14:10〜〕
(3) 石川史郎(竹中工務店顧問) プレゼンテーション〔14:25〜〕
(4) 中留武昭(九州大学教授教育学部) プレゼンテーション〔14:45〜15:10〕
2.発表要旨
大槻達也(文部科学省初等中等課長):新教育及び学力にいて
(1)これからの時代に求められる学力
単なる知識の量のみでなく学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力など含めた学力と考える必要がある。
(2)子どもたちの学力の現状
・知識、技能やそれを活用する力は国際的にも上位。
・学習内容を十分に理解できていない子どもが少なくない。
・勉強嫌い、学習習慣がない、自然体験や社会体験が不足、などの問題がある。
(3)新しい学習指導要領のねらい
基礎・基本を確実に身に付けさせ、「自ら学び考える力」や人間性となる「生きる力」の育成が基本。
@教育内容の厳選 A個別指導の充実(発展的な学習、補充的な学習)
B体験的、問題解決的な学習の重視 C「総合的な学習の時間」の創設 D選択学習の幅の拡大
(4)評価の充実
@子どもの学習評価 : 学習指導要領の目標に照らして、実現状況を見る絶対評価
A学校の教育評価 : 学校の自己評価と情報提供の推進、開かれた学校づくり
B国家の政策評価 : 全国的な学力調査の実施、教育課程の 恒常的な見直し
(5)確かな学力の向上を目指した取組み
@「学びのすすめ」(H14年1月)
A個に応じた指導の充実
・小人数授業や習熟度別指導によるきめ細かな指導、教職員定数の改善
・学力向上アクションプラン(H15年度予算案)
B学習意欲の向上
・「授業がよく分かるとき」「授業が面白いとき」「やりたい職業に関心を持ったとき」等。
(6)〔資料1〕「平成13年度小中学校教育課程実施状況調査」
〔資料2〕確かな学力の向上のための2002アピール「学びのすすめ」(H14年1月)
〇五つの方策
@きめ細かな指導で、基礎・基本や自ら学び自ら考える力を身に付ける
A発展的な学習で、一人一人の個性等に応じて子どもの力をより伸ばす
B学ぶことの楽しさを体験させ、学習意欲を高める
C学びの機会を充実し、学ぶ習慣を身に付ける
D確かな学力のための特色ある学校づくりを推進する
〔資料3〕「学習意欲に関する調査研究」(国立教育政策研究所)(H14年)
野上兵一(日本PTA全国協議会):「学校教育改革についての保護者の意識調査報告書」(H14年9月)
(1)調査概要 @目的:学校教育における新たな取組みや進行中の教育改革について、PTA会員(保護者)
がどのように理解し、また何を期待しているかについてのアンケート調査。 A調査対象:小中学生の
保護者(PTA会員)6000人。地方協議会=61、回収数=4827人、回収率=80.5%
B調査内容:完全学校週五日制・新学習指導要領、総合的な学習の時間について/学力低下にいて/
学校評議員制度・学校評価について/学校選択・コミュニテイスクールについて/教育基本法について
C調査期間 H14年 5月22日 〜 H14年 7月19日 D調査実施機関:株式会社 「インテージ」
(2)〔抜粋〕
5.学力低下の問題について
(1)現代の子どもに低下している「力」
57.6 % 自ら学び自ら考える力
47.7 % 自分の考えを表現し伝える力
43.6 % 物事に進んで関わり解決する力
40.3 % 想像力やコミュニケーション力
(2)現在進められている教育改革によって低下が心配される「力」
39.5 % 読・書・算など基礎・基本の力
36.0 % 基礎的な教養や深く考える力
25.0 % 自ら学び自ら考える力
23.8 % 学ぶ意欲や関心
(3)新しい学習指導要領による学力低下への心配
49.3 % 多少心配している
25.3 % かなり心配している
17.8 % あまり心配していない
4.2 % わからない
1.7 % 不明
1.6 % 全く心配していない
(4)記述回答より抜粋
@学校の授業で充分という学力を。塾の指導に対抗できる授業技術を教師も研さんすべき。
Aゆとり教育は本当に必要か。地域活動への参加は親も忙しくて無理。
B読・書・計算の基本をもっと徹底して欲しい。家庭での協力方法について話し合う機会が必要。
C子どもは先生の人格によって、クラスも一人一人も変わる。
D競争を悪とみなしているのか無理やり横並びにさせていないか。体力や学力はその子の能力。
それぞれの能力を皆が認める機会を奪ってはいないか。小人数クラスで先生と関わり合いのあ
る学校生活を希望。
E「なぜ勉強するのか」 目的をしっかり教えてほしい。
F能力・学力には、子どもの個人差がある。そのことを先生はよく理解してほしい。
G授業についていけなかったら、どう対処するのか。
H子ども中心で教育改革を行なっているのか疑問。
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石川史郎(竹中工務店顧問):学力を考える −企業等の面から−
(1)教育は未来に対する投資である。
(2)学力を考える。
@企業では、各人の目標と業績評価、能力把握、自己申告、適正職務、評価など多目的に行なう。
(3)なぜ学ぶのか・・・内からのエネルギー。
(4)企業における人材確保・能力開発
@情熱(熱意)・意欲のある人を採用、重視 A興味・関心のある人 B経験する場を設定
(5)企業が抱える人材活用上の悩み(30歳前後から40歳代)
@若い社員:変化適応力がない、応用力が弱い、想像力が貧しい
A問われる管理職の力量
(6)あらためて子どもの学力を考える
@如何にして子どもの興味・関心を呼び起こすか
A如何にして智恵を得る場をつくるか
B「わかったつもり」ではない真の知識の習得を図る
(7)おわりに
@学力を「虫の目」と「鳥の目」で見る
特記〔統計表より〕「学校へのパソコン、インターネット普及状況比較」(調査年不明)
日 本 米 国 英 国
(1)概要 ハードウエア、 ハードの整備は進んで ハード整備を着々と
ソフトウエア、 いるが教員の育成が課題 進める一方
環境の整備など 低所得者層に対する教育 教員育成も強力に推進
全体的に不十分 の不平等に配慮 低所得者層に対する教育
の不平等に配慮
(2)パソコン整備 20名/台 6名/台 初等:18名/台 中等:9名/台
(3)インターネット 接続校 18% 接続校 89% 接続校 28%
整備 全学校接続目標 全教室接続目標 全学校接続目標
2001年 2000年 2002年
(4)教員の育成 指導にパソコンを 指導にパソコンを 指導にパソコンを使える教員
使える教員 22% 使える教員 20% 初等:65% 中等:61%
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中留武昭(九州大学教授:教育学部):
学力を問い直したカリキュラムマネジメント −学力の定着をめざした学校づくり−
(1)「学び」からの逃避が起きている。
(2)カリキュラムを変えなければ「新しい学習力」はとり入れられない。
(3)これまでの知識を仮に「伝統的な知識」と考えれば、これからの「生きる力」を柱に据えた智恵
「新しい教育で育まれるもの」は、相反するものとしてではなく、これまでの者を活かす教育環境
が必要である。
(4)これまでの教育で行なわれてきた一方的に教えるという行為から、子どもたちの関心を引き出す
教育へと変換しなければならない時代になった。
(5)「総合の樹」の解説
(6) 「学力観と総合的な学習との関係」の解説=見える学力(枝と葉)と見えない学力(根)
見える学力=これまでの伝統的な知識 見えない学力=これからの新しい智恵(学習力)
※ 中留武昭教授の理論は、私のホームページの中の「第13回日本カリキュラム学会傍聴記録」で
少し紹介していますのでご参照下さい。
3.討論:(15:30〜16:30)
〇 「学びのすすめ」については、文科省の説明不足もあったようだ。
〇 中教審の答申でも、「ゆとり」について述べている。
〇 学力・表現力を含む広い学力観・新しい学力観(指導・支援の扱い、理解の違い)
〇 「ゆとり」についての認識・位置付け
【質問01】「実際のゆとりとは」
現状1.始業式の直後、終業式の直前にも授業が行なわれている。
現状2.行事が減った。取り組み時間も減った。
〇 「ゆとり」とは、小さくても達成感や感動を味わうこと。
〇 自動車のハンドルに【遊び】がある。これと同じものが「ゆとり」である。
【質問02】「完全学校週五日制」
現状1.授業で 7%減、 教科で10〜20%減もある。
現状2.「私立との差」が生じる。
現状3.大学入試の出題範囲が、以下の組織の授業に影響している。
〇 これまでの10年間の検討経緯があり実施に移ったものである。
〇 「私立との差」は、基礎概念をキチンとやることで、ある程度カバーできる。
【質問03】「40人学級の解消」
現状1.公立小学校の平均クラス生徒数は、26.5人、 中学校では、31.3人
〇 学級の数・・・ひとつの集団としての位置付けを考えるべきだ。
数学 = 小人数可能、 体育や音楽 = 大人数も可能
【質問04】「6・3・3制度の再考」
〇 幼稚園を含めて小中高校の連携を指向すべきだ。
【質問05】「学力低下と幼児期」
〇 子供に接する時間を長く取った方が良い。(絵本読みなど)
【質問06】「企業と学力との関係」
1.企業が求める能力と学校での学力との関係は・・・直接の関係はない。
2.人材確保と能力開発との関係は・・・企業では能力開発を重視している。
3.知識とパワーは、どちらが企業で必要か・・・パワーである。
〇 優等生は、他人のことに耳を傾けない人が多い。
〇 最近は、筋道を立てて説明する能力に欠けている。
〇 「感性」が「新しい教育観」に入っていない。
【質問07】「精神的な自立」
〇 企業でも「出勤拒否」現象が現れている・・・「登校拒否」の延長ではないか。
〇 自然体験・社会体験をすることが、「道徳的」にも成果が出ている。
【質問08】「総合的な学習」
〇 「学力低下」の矢面にたっている・・・教師の自主性が必要である。
〇 教師がカリキュラムを動かしているという実感がある。
〇 【責任】従来は行政に対して責任を感じたが、これからは生徒に対して、保護者や
住民に対して、責任をとるべきものとなってきた。
〇 ひとりの教師では取り組みが困難。
〇 主任層のリーダーシップが、大きく影響する。
〇 学校組織としては、学校長・教頭のリーダーシップが不可欠。
【質問09】「新しい学力観」はこれまでの伝統的学力観と対立しない。
〇 見方や切口を変えて、見直し生かしていくのが「新しい学力観」につながる。
〇 「総合的な学習」の中で、教科での学力不備も見つかる。
【質問10】「土壌の文化」
〇 地域・家庭の問題を「土壌」として考えるべきだろう。
【質問11】「数学の内容削減」
現状1.この40年間で、33%減、 今回で 30%減。 ついに半分以上が削減された。
〇 ハードルを下げ過ぎではないか。
〇 化学の元素記号数は、 以前に12個に減り、今度で5個となった。
【質問12】「支援と指導の割合」
現状1.公開授業は、教科が避けられている。発表者のみに負担が掛かり過ぎている。
〇 自主学習・支援:35分。 授業:10分。 内容によって異なる。
以上
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